Part30 死闘・錯綜戦列/エルバとイサベルとマリアネラとプリシラの場合――
■スラム街のオープンテラスにて。エルバとイサベルとマリアネラとプリシラの場合――
時同じ頃、東京アバディーンのメインストリートの南側、メキシカンやブラジル系などの多いエリアにて集まっている人影があった。何れも中南米系の焼けた肌の美女ばかり。髪の色は黒、赤毛やブロンドが混じっている。その数4人。メインストリートから脇路地に入り、少し入ったところにある路上のオープンテラスにて佇んでいた。カウンターテーブルに並んで立ち雑談を決め込んでいる。
身長170程の美女たちばかりで、何れもがはちきれそうなほどの色香を放っている。
着ている服装はまちまちだが、何れもが露出ということに関しては一切遠慮がなかった。
その手にはアイスコーヒーやアルコールや炭酸飲料など各々に異なるグラスを手にしている。
一人目は、タイトでボディラインにピッタリと張り付いた蛇革のロングのレギンスを履き、上半身は黒いレザー地のビスチェで締め上げている。髪は黒でショートのウルフカットにして乱雑に左右に流している。両腰や腰の裏に6本程の多様な長さのナイフを下げているのが、視線の鋭さが目立つエルバだ。エルバは細めのタンブラーグラスに注がれている黒ビールを傾けながら皆に問い掛けた。
「それで何すればいいんだっけ?」
エルバが声を発すれば、それに答えたのは隣に立つたイサベルだ。赤と黒の変わり迷彩柄のビキニブラにローライズのデニムのホットパンツ。足にはローヒールのパンプスを履いた、ナチュラルなワンレンロングの赤毛の女だ。
「何? もう忘れたの? ダンナ様から言われたでしょ? あの〝キチガイピエロ〟を見つけてこいってさ」
「あぁ、そうだったわね」
「相変わらずね。人の話は一回で覚えようよエルバ」
「解ってんだけどねぇ」
気にせず明るく嗤うエルバを尻目に、イサベルはカウンターテーブルで腰に下げていたオートマチックのチェックをしていた。使用しているのはドイツHK社のP30、口径はS&W40.。ホルスターは太腿の両サイドに有り、左右に一挺づつ下げていて、予備弾倉は腰の後ろのヒップバッグに収めてあった。さらには今回の任務のためにもう一つ獲物を用意してあった。カウンターテーブルに立てかけてあるのを、もうひとりの女が気づいた。
「あら、イサベル。珍しいわね。サブマシンなんて。アンタならハンドガンで十分でしょ?」
イサベルのさらに隣、カウンターテーブルに背中でもたれかかっているのは金髪ドレッドスーパーロングヘアのマリアネラだ。バストが4人の中で最も大きくフェイクファーのチューブトップに無理矢理に押し込んでいる。腰のあたりはレザー地のタイトなマイクロミニでボディラインを隠すつもりは毛頭ないらしい。
マリアネラは指先の青いネイルを丁寧に手入れしている。その彼女にイザベルが答えた。
「あぁ、これ? 今日はあのピエロだけじゃなくてごちゃごちゃ集まってるって言うからさ。奮発したのよ」
そう語りながらイザベルが取り出したのは一般には見慣れない形状のサブマシンガンであった。
興味深げに覗き込むのは4人の中で一番小柄、長い赤毛のロングヘアをフィッシュボーンに丁寧に編み上げて、タイトなオフショルダーのミニドレスに体を包んでいるプリシラであった。
「なにこれ? 変な形ぃ」
先の3人と異なり、プリシラは少しテンションが変わっている。そんなプリシラのリアクションを気にもせず、イサベルはシンプルに答えた。
「これね。クリス・ベクターって言って、反動吸収がいいから強い弾を使っても命中させやすいのよ。力のないプリシラでも楽に撃てるわよ。使ってみる?」
イサベルが問いかければプリシラは興味なさげに顔を左右に振った。
「いい、いらない。多分撃っても当んない」
プリシラも、よほど銃器類に自身がないのかあっさり引き下がる。そんな彼女の態度にイサベルも少しばかり苦笑していた。
そんなやり取りをよそにエルバが再び皆に問い掛けた。
「そういやビアンカどこ行ったの?」
答えたのはマリアネラだ。
「あぁ、あの子、もう行っちゃったわよ。いい男探すって。まったく殺し合いの場所に何しに行く気なんだか。ほんと尻軽なんだから」
マリアネラの言葉にプリシラがクスクスと嗤う。
「しらないよぉ、あとでバレてご主人様にお仕置きされてもぉ」
「平気よ」
あっさりいい切るのはイサベルだ。
「あの子、お仕置きされるのをむしろ期待してるんだからさ、こっちが迷惑しない限りすきにやらせりゃいいのよ。ダンナ様だってあの子の実力高く買ってるんだからさ。さて、そろそろ行きましょ。始まってる頃よ」
「そうね。行こうか。〝ピエロ〟探し」
「うん」
「えぇ」
言葉を交わし終えてカウンターテーブルにグラスを戻す。そして歩き際にエルバが店の店員に声をかけた。
「ツケといて。あとでまた来るわ」
普段から店員も辺りの住民たちも慣れているのだろう。彼女たちの振る舞いに口を挟むものは誰も居なかった。いや、居るはずがない。なぜなら彼女たちは――
「さて、わたしたちのダンナ様――、ペガソ様を喜ばせなきゃね」
――あのペガソの忠実なる飼い犬たちだったからである。
ペガソ直属のエージェントチーム。チーム名は『ペラ』
メス犬を意味するスラングであった。
「さぁ、行くわよ!」
エルバがひときわ高く叫ぶ。
4人は一斉に、事件の核心と一人のとある道化師の姿を求めて、走り出したのである。
















