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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]《ショート更新Ver.》  作者: 美風慶伍
第2章エクスプレス サイドB① 魔窟の洋上楼閣都市/死闘編
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Part29 死闘・創造頭脳/どうしてこうなった

「これでいい。これならばあのウラジスノフとか言うじいさんをあいつらに任せれる」


 センチュリーがそう呟いた時だった。3人のシルエットがセンチュリーの視界の中で静かに崩れ落ちた。姿は見えないが、明らかに第3者による不可視の攻撃だった。ただ、センチュリーのその耳にかすかに聞こえた音がある。


「これは――、日本刀?」


 風切音――、日本刀を強く振る時に生まれる微細なノイズ。それはセンチュリー自身が師匠の大田原のもとで修行に明け暮れていた頃に何度も耳にしていた物だ。  

 

「ってぇことは――」


 センチュリーはひとりごちると過去の記憶に意識を飛ばしつつ、周囲を慎重に警戒する。

 

「情報戦特化小隊の中に一人いたな」


 センチュリーには心辺りがあった。盤古の隊員で凄腕の剣術使いで、刀剣戦闘の要とも言える男が確かに居た。

 

「名前はたしか――」


 命が惜しければ思い出したその名を口にしてはならない。事は慎重に進めなければならないからだ。ならば成すことは一つだ。敵のステルス戦闘を封じるか、その存在位置を確実に把握しなければならない。

 

「見てろ」


 一言つぶやきながら体内システムを操作する。起動させるのは6モードある視覚システムの一つだ。

 

【特攻装警身体機能統括管理システム     】

【>視覚系統複合光学センサーアレイ     】

【  〝マルチプルファンクションアイ〟   】

【 ≫超音波画像化モード作動        】

【>頸部発声ユニット、超音波視覚と連動   】

【      超音波シグナル拡散発信[開始]】

【>体内中枢系サブプロセッサー       】

【    エコーロケーション高速演算[開始]】

【                     】

【   ――超音波視覚作動スタート――   】


 そして頸部の声帯装置が超音波共振を開始し、人間の耳には聞こえない100キロヘルツ周辺の超音波を発信する。そしてそれが周囲の障害物に反射して帰ってきたシグナルを、本来の聴覚と視覚システム内の超小型ガンマイク型の音波受像装置により受け取り、それを映像化する事で視力とするものだ。

 無論、通常視覚と異なり、色は全くわからないが、純粋に物体の形状をハッキリと浮かび上がらせるため、ホログラフ迷彩などを突破して対象者の存在を視認するには最適のシステムなのである。

 無論、安易に多用できないのには理由があった。

 今、センチュリーの〝音の視覚〟の中、浮かび上がってきたのは一人の男性のシルエットだった。

  

「ビンゴ。見つけた――黒い盤古さんよ」


 それは盤古の標準武装タイプに似た全身保護仕様のプロテクタースーツのシルエットだった。細身で長身だが、銃火器の類ではなく、その手には日本刀のような物が握られていた。抜き身の日本刀が超音波の映像を経て浮かび上がっている。刀身の刃峰の部分が超音波視覚なかで白く光り輝いているのは刀剣自体が高周波振動をしている事の現れであった。

 

「俺の師匠の大田原のオヤジが嘆いてたぜ。盤古の中でも最高レベル、戦国武将に比肩する腕前のやつが〝闇落ち〟しちまったってなぁ」


 そしてセンチュリーは内なる怒りを叩きつけるようにこう告げたのだ。

 

「なぁ! 情報戦特化小隊隊員の柳生さんよぉ!」


 センチュリーの叫びの声に、柳生が握りしめていた刀剣がかすかに動いた。その両足が開かれていき踏みしめられている。確実なる攻撃態勢を取り始めている。柳生から返される声は無く無言である。その行動に対してセンチュリーは告げた。

 

「そうかい、返事は無しかい」


 相手が最低限の礼儀すら拒むなら、それに応じる理由はない。センチュリーもそれ以上の言葉のやり取りを拒絶する。デルタエリートを握りしめつつ、両足を開いて立ちスタンスをとった。

 

「そう言やぁ、刀握ったやつと殺りあうのはコレで二度目だな」


 センチュリーは一人つぶやく。その脳裏にかつて拳と刀を交えたコナンの姿がよぎる。

 片やハイテク仕掛けの白刃を握りしめた剣士――

 片や満身創痍ながら決して折れる事の無い闘志を秘めた拳士――

 沈黙と沈黙、今、避けられぬ戦いが、ここでも始まったのである。

 


 @     @     @



 そこはビルの頂きだった。

 メインストリートの南側、その中でも特に目立つ15階ほどの雑居ビルがある。その屋上に彼らは集っていた。

 先に屋上に佇んでいる影が一つだけある。そのシルエットに声をかけたのは、シルクハット姿の猫耳少女。イオタだ。

 

「あ、居た居た!」


 あの地下空間から〝扉〟を通り過ぎ、5匹の狼――シグマを引き連れて現れたのだ。そしてその先にて屋上ですでに待っていたのは一匹のバケガエルだ。あのクリスマスの夜。ハイヘイズの子供らに救いの手を差し伸べた者たちの一人、巨大な目玉がよく目立つユーモラスなシルエットのイプシロンである。

 イプシロンはビルの端に位置してそこから眼下を見下ろしている。そこにはベルトコーネをめぐる死闘の一端が見渡せていた。

 季節は初春。冬も終わり春の暖かさがわずかずつだが広がりを見せている。あのクリスマスの凍てつく夜とは違う。本当ならあの子供らも暖かさと温もりを皆で分かち合いながら笑いあっていたはずだ。ようやくに訪れた幸せを享受できていたはずだ。かつてイプシロンがお守役をしていたローラが、あの子供らの母親役を引き受けたことであの子らの幸せの道程は確かなものになったはずなのだ。

 イプシロンはバケガエルである。驚かれることと笑われることが存在意義だ。それだけに純粋に驚き、純粋に笑ってくれる子供という存在が何よりも好きだった。

 だが――、だからこそ心から思うことがある。

 背後からイオタが近づいてきたことにも気づかずにイプシロンはつぶやきの声を漏らした。

 

「どうしてこうなった」

「え?」


 イプシロンのつぶやきにイオタが驚くが、イプシロンは反応しない。

 

「俺たちあの子らを守った。あの街の連中、あの子らを助けようとしていた。少しづつだけど皆が幸せになっていた。あの子らの笑顔、本物になる――はずだった。どうして? どうしてこうなった?」

「イプシロン――」

 

 イオタはかける声を見つけられなかった。イプシロンの疑問の声にどう言う現実をもって納得させればいいか、皆目見当がつかなかったのである。イオタが迷いを見せている時だった。イプシロンがヒタヒタと足音を鳴らしながら数歩進み出る。その先にはビルの外の夜空である。

 

「俺、行く」

「行くって? どこに」


 イオタが問えばかすかに振り向いて目玉をくるくると回しながら視線で眼下の戦場を指し示した。

 

「あそこ、子供らを苦しめる元凶が居る。そして、その元凶をわざと暴れさせようとしている奴が居る。あのベルトなんとかが好き勝手に暴れたら――」


 イプシロンは再び屋上の縁へと向けて進みながら答えた。

 

「子どもたちみんな死ぬ」


 イプシロンは子供が好きだった。バケガエルと言う自分のシルエットを恐れもせず、純粋に楽しみ、純粋に驚き、そして笑ってくれる子供という存在が好きだった。そして守ってやりたいと思っていた。そして彼は覚悟を決めた。

 

「イオタ、おれ先行く」

「ええ? 先行くって、タウとパイと一緒に行けってクラウン様が!」


 イオタが慌てて静止しようとするが、イプシロンはそんなことは一向に気にかけなかった。その1m足らずのカエルの体を思い切り跳躍させる。そしてビルの屋上から飛び出すと東京アバディーンの夜空へとその身を躍らせていったのである。そのシルエットは瞬く間に消え失せたのである。


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