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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]《ショート更新Ver.》  作者: 美風慶伍
第2章エクスプレス サイドB① 魔窟の洋上楼閣都市/集結編
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Part28 幕が上がる時/猫耳のマジシャン

 そこは東京アバディーンとは別な場所だった。

 何処かの地下室のような空間。ソファーもありテーブルもある。広々としておもいのほか過ごしやすそうだ。そこに居たのは一人の少女。猫耳姿の少女だ。特徴的なタキシード姿だったが、ステッキとシルクハットをテーブルに置き、タキシードの上着を脱いでソファーにかけている。何もすることがないのか退屈そうに睡魔の中に自らを漂わせていた。

 だが、その彼女にかけられる声がある。


〔聞こえていますね? イオタ〕

〔クラウン様? はーい、聞こえてまーす♪〕


 ネット空間越しにクラウンが何者かに呼びかけていた。返ってくる声は甘ったるい少女声で、のんきそうな性格がにじみ出ている。その声の主の名はイオタ。かつてクラウンがハイヘイズの子らを救うために遣わしたあのタキシード姿の猫耳少女である。

 それまで退屈そうにソファーに寝そべりながら両足をパタパタと動かしていたが、自らの主人であるクラウンからの声に飛び起きると両耳をピクピクさせながら通信に応じていた。

 そのイオタにクラウンは命じた。


〔お仕事です。ひと暴れしてきなさい。そうですねぇ。シグマを何匹か連れていきなさい。夜間潜伏可能なようにウルフモードで。抑えとしてイプシロン。それとタウとパイのコンビにも向かわせます〕

〔あ、バケガエルとお爺ちゃんたち来るんだ。わかった。連携しとくね。でもいいの? シグマ出しちゃって?〕


 イオタは答えながらソファーから降りる。タキシードの上着を身に着け、そして頭にシルクハット、右手にステッキを持ちながら立ち上がる。


〔いいの? とはどう言う意味ですか?〕

〔え? だってあれ暴走しやすいし、戦闘力半端ないし。絶対だれか死んじゃうよ?〕

〔構いやしませんよ。とりあえずローラ嬢とそのお仲間の人々が助かれば良いんです。極悪非道な官憲たちも、マフィア崩れもあたしらにとっちゃどーでもいい事です〕

〔そっか――、それもそうだね〕


 人の命が失われる。その事実が指摘されても反応の薄さは主人たるクラウンと大差ない。可愛らしい少女のルックスをしていてもその感性や本性は、クラウンと同様に闇社会の住人であることには変わりないのだ。

 だがそんな彼女にさらに言葉がかけられる。

 

〔ただし――〕

〔ただし?〕


 イオタはかけられた声をリフレインする。イオタと会話しているクラウンは説明する。

 

〔今回は盟約を交わした神の雷が関わっています。基本、今回だけは彼の指示に従いなさい。それと独自判断が求められたら神の雷の庇護下にある者たちへの危害と攻撃は絶対に回避、および阻止してください。けっして見過ごす事のないように〕

〔えー? あのシェン・レイって人と一緒に仕事するのぉ?〕

〔えぇ、今回は色々と事情があって私達単独では行動できないのですよ。この後の行動はあくまでも神の雷の行動を補助するのが目的です。主は神の雷、私たちは従と心得なさい。いいですね? それとも何か不服でも?〕

〔う~~~、わかったー。言うこと聞くー〕


 イオタの不満げな声が返ってくる。その不満の理由をクラウンは解っていた。この少女が臣従し信奉しているのはあくまでもクラウンただ一人なのだ。それ以外の者はどうでもいいのだ。それは服従と言うよりも崇拝と言うに等しいものだった。それをクラウンもわかっている。イオタの不満を制するべく、甘やかしのご褒美をイオタの鼻先にぶら下げたのだ。

 

〔ホホホ、あとでたーーっぷり可愛がったげます。少しだけ私以外の者の指示をお聞きなさい。いいですね?〕

〔ほんと? ナデナデしてくれる?〕

〔えぇ、したげますよ。た~っぷりね〕

〔わーい、やったー!〕


 イオタのはしゃぐような声が聞こえる。よっぽどにイオタはクラウンに心酔しているようだ。

 

〔それじゃお行きなさい。急がねばなりません。それとくれぐれも〝黒い盤古〟と呼ばれる連中には気をつけるように――〕

〔はーい!〕


 通信が切られて、後の残されたのは閉ざされた空間の中に待機していたイオタである。そしてイオタはステッキを振り回して円を描きながら、周囲に声をかける。

 

「聞こえた? シグマ? アインスからヒュンフまでついてきて頂戴! お仕事だよ!」


 イオタが呼びかける声に従い姿を表したのは5匹のオスライオンだった。立派なたてがみを有した彼らにイオタは告げた。

 

「あ、ショー用の格好だったんだ。それじゃダメだよぉ!」


 そしてイオタは人差し指を立てながらまるで呪文のように唱えだした。

 

『――Bitte ändern Sie das Aussehen für den Wolf――』


 それはドイツ語だったが、まるで魔法の呪文のように効果を発揮する。その言葉を耳にしたシグマたちはその外見や大きさをオスライオンから黒毛の狼へと変じせたのである。

 

「よし、いい子だね!」


 ステッキの先で円を描けば、そこに魔法の扉を開いたかのように、空間に円状の異空間の扉を開いていく。それはまるで魔法のようであり、おとぎ話の如くである。そしてその〝扉〟を通じてイオタと〝狼〟たちは何処かへと姿を消していく。彼らが向かう先は東京アバディーン、そしてハイヘイズの子らとベルトコーネたちが鉢合わせたあの地である。


「それじゃ行くよ!」


 猫耳少女イオタと、5匹のオオカミたちは、戦いの地へと赴いていったのである。


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