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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]《ショート更新Ver.》  作者: 美風慶伍
第2章エクスプレス サイドB① 魔窟の洋上楼閣都市/集結編
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Part26 息子よ――/狡猾なる悪意ども

 その異変は誰もが目の当たりにしていた。


 まずはママノーラ、現場から数百メートルほど離れた位置から防弾ベンツの中から双眼鏡で眺めていた。だが腹心の部下の思いが遂げられなかった事を彼女は即座に悟った。

 

「狙撃? どこからだい!?」

「上空です! 二重反転ローターのステルスヘリからです!」

「くそっ! どこのどいつだ!」


 吐き捨てるママノーラにイワンが答えた。


「あれは――日本のアーマーポリスです。あの下品なステルスヘリ、見覚えがある!」

「情報戦特化小隊?」


 イワンとウラジミールのやり取りにママノーラはつぶやいた。

 

「свинья!」


 スビーニャ――、ロシア語で〝豚〟を意味し、スラングとしては無作法者と無法者、愚か者を意味する侮辱の言葉だ。だが上空からの攻撃には何の対処もできない。

 

「ヴォロージャ――」


 今は心から信頼してた男の名を呟くことしかできなかったのである。

 

 

 @     @     @

 

 

 そして、第2科警研のティルトローターヘリ――

 新谷が叫んでいた。

 

「なんだ? 狙撃?」

「アレだ!」


 涙路署の刑事の一人が叫んだ。闇夜の空間の中に溶け込むように微かに浮かび上がるステルスヘリ――、日本警察の者なら噂としては一度は耳にしたことのある物だ。

 

「二重反転ローターヘリ? 情報戦特化小隊?」

「公安の狂犬たちか! くそっ! どう言うつもりだ!」

「どうもこうもない」


 苛立ちを隠さずに新谷が吐き捨てる。


「ベルトコーネを暴走させてこの埋立地を〝平らげよう〟って魂胆なんだろう。あいつらなら――」


 新谷は大きく息を吸い込むと握りこぶしをヘリの機体の壁へと叩きつけた。


「あの〝黒い盤古〟ならやりかねん!」


 苛立ちと怒りと義憤が機内に吹き出し始める。だがそれをパイロットの室山の声が遮ったのだ。


「新谷さん、皆さん」


 その声に皆の視線が集まる。


「申し訳ないが一旦距離を取る。あの情報戦特化小隊が相手では危険すぎる! 奴らなら撃墜しておいて事実隠蔽のための偽装証拠すらばらまきかねません!」


 その言葉を否定する者は居なかった。まさに命有っての物種なのだ。忸怩たる思いが広がるなか彼らを載せたティルトローターヘリは向きを変える。そしてその空域から離脱していったのである。



 @     @     @



 機体全体を覆う巨大なホログラム立体映像迷彩。それに守られて姿を消していた二重反転ローターヘリ。流石に巨大な機体そのものを完全に消すことは困難だが、気配を消して接近することくらいは可能だ。

 そしてその機体の側面ドアが開いてそこから一つの狙撃用銃器が姿を覗かせていた。ヘリの機体側面部にアーム形状のフレームでつながれたそれは高圧レールガン仕様のセラミックス製フレシェット弾を放つ形式の物で、あの横浜でセンチュリーがベイサイド・マッドドッグを包囲したときに、武装警察部隊が繁華街上空にて用いたものだった。

 通常はつや消しの白色に塗られていたが、情報戦特化小隊に配備されているものはその姿を察知されにくくするためにつや消しの黒に仕上げられていた。

 形式コードは【AOT-XW021】

 装備名は【サジタリウス・ハンマー】


「隊長ぉ、獲物のロシア鴨、命中ですよ」

「はっ、あれじゃ歳とりすぎてて食うとこないだろう!」

「煮込めばガラくらいは取れるかもしれねえぞぉ?」


 狙撃手とパイロットが下品なジョークをかわしている。それに声をかけるのは隊長の字田だ。


「ソレは無理だロウ、あれハ骨までメタルとセラミックだからナ。煮込んでも機械油シカ浮いてコナイ」

「言いますねぇ。(あぎと)隊長!」


 隊長のジョークに狙撃手が笑っている。


「それより、地上展開しタ、部隊員のバックアップをしっかりと行エ。せっかくの機会ヲ無駄にするナ」

「へいへい」


 そして字田は地上部隊の6人へと通信を行う。サイボーグならではの体内回線にて無線を飛ばした。


〔こちらヨタカ、ネズミ聞こえルカ?〕

〔こちらネズミ1、受信良好、攻撃撹乱対象包囲完了。ネズミ1から6まで6方向から囲っています〕

〔よし、こちらから合図スル。それまで待機だ〕

〔ネズミ1了解〕


 ヨタカとは上空待機のヘリチームだ。ネズミは地上に降りた6人の部隊員の事だ。彼らはコードネームをネズミやゴキブリやヨタカやハゲタカなど、けっして良い印象の無い生物に置き換える。彼らは自らが決して周囲から快く思われていないことを始めからわかって行動しているのだ。それだけになおさらタチが悪かった。

 その時、パイロットが告げる。


「隊長、無線入感、スクランブルがかかっていますが復号可能です」

「やれ」

「了解」


 パイロットはヘリ操縦を行いながら周囲の無線状況の警戒を行っていた。ヘリ操縦と無線傍受を同時に行えるハイスキルの持ち主なのだ。


〔――グラウザー! 聞こえる?!――〕


 それはフィールの声だった。


「チッ、捜一のマスコット気取リノ蚊トンボが」

「撃ちますか? 隊長?」

「いやイイ、それより。香田」

「はい」


 香田と呼ばれたパイロットが返答する。字田はそれに命じた。


「スクランブルを解除シタ音声を再度流セ、この空域全体にナ」


 この違法ハッカーと電脳犯罪者が蠢く異界の街にて安全確保のための暗号化を解除する事がどのような結果を招くか、想像できない字田ではない。その声にパイロットの香田は答えた。


「了解、スクランブル解除して再度流します」


 返答の声は淡々としてたがその時の香田の口元には笑みが浮かんでいた。そしてその二人のやり取りを狙撃手の隊員がこう揶揄したのだ。


「相変わらず、えげつないですねぇ。(あぎと)隊長」

「フッ、褒め言葉ト聞いてオコウ」


 そして闇夜の中に見え隠れしている二重反転ヘリは、事態を最悪の方向へと導くべく最悪の行動を開始したのである。



 @     @     @



 そして、ここゴールデンセントラル200の円卓の間にても、その音声を傍受している者たちが居た。七審の1人であるサイレントデルタのファイブ――、彼の手にかかれば暗号化音声など、パズルを解くかのように筒抜けだった。


〔――グラウザー! 聞こえる?!――〕


 その音声を聞き逃すファイブではない。


「おやおや、面白い来賓が来たようだ」


 笑いつつのその声にペガソが問いかける。


「どうした。ファイブ」

「これをご覧ください」


 そう告げて東京アバディーン全域に張り巡らせた監視カメラとドローン映像から幾つかを選び出す。高度300mまで降りてきたフィールの姿だ。彼女はステルス装備の類を持たないため、こう言う剣呑な作戦空域での行動は不利なのである。


「これは? 警視庁のアンドロイド――たしかフィールとか言いましたか?」


 王老師がつぶやき、ペガソがそれに続いた。


「あぁ、居たっけな。結構人気があってマスコット扱いされてイベントとかに出てたっけ」


 そう告げるペガソの声は関心が薄そうだった。


「おや、食いつきませんね。ミスターペガソ」

「当然だろ? こんなオモチャみたいなプラスティックボディの人形。どんなに性能が良くったって抱いてて気持ちよくなけれは意味ねえぜ。女はやっぱりこうじゃねえとな」


 リアルヒューマノイドではないフィールの体を揶揄しつつ、ペガソはその膝に抱いていた女官の衣類をいやますっかりはだけさせて半裸にしていた。衆目があっても遠慮はない。その女官も生殺しの状態にせつなげにペガソの顔を見つめている。陥落するまであと少しだろう。

 そんなペガソのいたずらを横目で見つつファイブは言う。


「たしかに、このフィールと言う機体、予算制限がかかって頭部のみがリアル化されて首から下は簡略化されてるそうですね。いかにも警察らしい判断ですが――、ですが彼女の空戦能力と情報管制能力は侮れない。このままこの街の上空を飛ばれても都合が悪い」

「ファイブ先生、何か策でも?」

「えぇ、もちろん。対策済みですよ。王老師」


 そう告げてファイブはヴァーチャルコンソールを操作した。ある機体群を展開するためである。


「まぁ、見ててください。この私のサイレントデルタの力をご覧にいれて見せますよ」


【特攻装警身体機能統括管理システム     】

【 サイレントデルタ総体システム群     】

【         管制プログラムシステム 】

【       ――起動――        】

【                     】

【運用開始対象デヴァイス          】

【 >空戦機能ステルスドローン       】

【運用モード                】

【 >群体集団行動モード          】

【運用機体シリアルナンバー指定       】

【 >SD0124 より SD0223   】

【                     】

【    ――ドローン群・起動――     】


 それは東京アバディーン市街区の北側に主に隠匿されていた。街の片隅やビルの影、地下通路の秘匿倉庫――様々な場所にかくされていたそれは、一斉に目を覚まして音もなく動き始める。

 形状は黒い半円で、ダクテッドファン化されていて外部に露出したローターは無くいずれも同一シルエットである。ただ備えられた機能は多彩である。レーザーから実体弾狙撃装置、放電兵器機能――と多岐にわたる。

 それらが姿を表し東京アバディーン上空へと一つ、また一つと上昇していく。それを市街区の上空を移す監視カメラからの映像で円卓の間の空間へと映し出している。


「ほう? 空戦ドローンですか」

「すげえな、100体は居るな」

「えぇ、我がサイレントデルタの主戦力の一つです。監視から暗殺までなんでもやってくれますよ」


 誇らしげに語るファイブにペガソが告げた。


「おもしれぇ、こんどウチの極秘施設の監視用に使いてえな」

「良いですよ。必要要件を言っていただければご用意しましょう、さて――、それでは日本警察ご自慢の姫君をもてなすといたしましょう」


 そしてファイブは指示する。


【 群体ドローン攻撃対象指定        】

【 >日本警察特攻装警第6号機       】

【 個体名:フィール            】


 そのコマンドが指定されたとき、無意思のはずの黒いドローンたちがある種の悪意を発露させたような気がした。それはまるで一つの意志を持ったかのように一斉にフィールへと向けて動き出したのである。


「さて、楽しい楽しいダンスの始まりです。ショーが終わる頃には姫君はどんな姿になっているでしょうねぇ」


 ファイブはクスクスと耳座りな笑いを浮かべながらドローンの動きをじっと見つめていた。そしてそれは一つの悲劇の幕開けだったのである。

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