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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]《ショート更新Ver.》  作者: 美風慶伍
第2章エクスプレス サイドB① 魔窟の洋上楼閣都市/集結編
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Part25 鏡像/銃口と警告

 上空では新谷所長たちを乗せた第2科警研のティルトローターヘリが、困難な現場接近を試みていた。機体をヘリモード状態のままグラウザーたちが残留していると思われるエリアへと寄せていく。そして機体の各部から第2科警研の研究員や、涙路署の捜査員たちが、必死の思いでグラウザーとセンチュリーの姿を探しつづけていた。

 沖合からの監視映像で大体の位置は把握できている。銃撃戦の異音も確認している。だがその詳細な位置と上空待機可能なポイントはまだ確認できていなかった。

 

「どこだ?! どこで戦っているんだあいつらは!」


 苛立ちを口にしつつ周囲を眺める新谷だったが、夜間ということも有り判別は困難を極めた。だがそれでもこれだけの人員がそろっていると効率は飛躍的に高くなる。肉眼と双眼鏡、暗視装置付きのスコープを併用しながら彼らは探索する。

 

「居たぞ!」


 そう叫んだのは涙路署の捜査員の一人だ。目が非常に良いと定評があり、かつては街頭で行き交う全ての通行人を眺めて指名手配犯を探す『総当り』と言う捜査手法を行った事もある人物であった。

 

「どこだ?!」

「あそこです! ベルトコーネと思わしき機体の所に2人で固まっています。っとセンチュリーがベルトコーネを確保して、グラウザーが何かしようとしていますね」


 その言葉を耳にしながら新谷は折りたたみ式の小型双眼鏡でグラウザーたちの居る方を視認する。望遠カメラと立体視液晶モニターを組み合わせたもので、望遠から軽度の暗視機能を備えている。ただポケットサイズであるため視野角が狭い欠点がある。

 だがそれも具体的な場所が確認できたことで目標を捉えやすくなっていた。指摘された場所へと電子双眼鏡を向ければグラウザーたちの姿がはっきりと写っていた。そして、その電子双眼鏡の映像はティルトローターヘリのパイロットシートのサブモニターへも無線接続で流されている。

 

「室山さん! この映像でグラウザーたちの所へと近づけますか?!」


 新谷の問いに室山が返す。

 

「やってみます! 皆さん、しっかり捕まってください」


 そう告げると同時にヘリの機体をグラウザーたちの居る場所の上空へと向けようとする。機体がゆっくりと夜空をスライドする中、室山は長年に渡って培ってきた操縦スキルを駆使して夜間の洋上での繊細な機体操作を行う。無論、室山もこのエリアが非常に危険で安全の担保できないエリアだと言う事は十分に承知している。何が起きるかもわからないということも――

 だれもがその脳裏に漠然とした不安と焦りを抱いている中、その眼下にあるのは――

 未来の希望と、

 絶大なる恐怖と、

 正体の見えぬ不安要素。

 そして、その玉石混交の猥雑な状況に対して許された時間は殆どないのだ。

 新谷が機内の者たちに指示する。

 

「回収用のウィンチとロープを!」

「はい」


 第2科警研の者が機内装備を操作して、空中収容用のロープと準備する。これをグラウザーたちの上空から下ろして一気に回収するためだ。その間にもヘリは目的ポイントへと接近を続ける。

 あと50m、あと30m――

 着々と目的ポイントへと迫る中、それは発生する。

 

――キュドォォンッ――


 空間を裂く金切り音と同時に響く重低音の破裂音。そして周囲の大気を赤熱しつつ飛翔するのは硬化タングステン製のフレシェット弾体。口径は14.5mmでかつて対戦車ライフルの弾丸として用いられたものだ。それが第2科警研のティルトローターヘリの機体をかすめて飛び去っていく。それがもたらす音と光は機内の人間たちを驚かせるのには必要十分である。

 疑問の声を上げる新谷に室山が答える。


「なんだ?!」

「地上からの狙撃です! どこから飛んできたのか全く見えない!」

「ステルス化した狙撃手か」

「それも対戦車ライフル使ってますよ。ただの猟銃のライフル弾じゃない!」


 無論、これ以上の接近は極めて困難だ。

 

「一旦下がります! ローターをやられたら撃墜される!」

「くそっ! あと少し! あと少しだと言うのに!」


 時間は刻々と過ぎていく。そして痛恨の現場上空からの退避を余儀なくされるなか、新谷からは焦りを象徴する言葉が溢れたのである。



 @     @     @

 

 

〔メイヨール、近接するヘリへの威嚇成功しました〕


 其の声の主が構えていたのは第2次世界大戦でも使われたことのある単発式の対戦車ライフルで、デグチャレフPTRD1941と呼ばれるものだ。現役を退いてから半世紀以上が経つ骨董品だが、構造がシンプルであるがゆえにメンテナンスとオーバーホールを行えば今なお使用することが可能であった。

 狙撃手は全長2m近くあるそれを両手で軽々と支えて頭上へと砲口を向けている。そして立体映像を駆使してその身を人目から隠していた。その狙撃手にウラジスノフは伝える。


〔よし、また次に接近してきたら当てて構わん。誰であろうと近づけさせるな〕

да(ダー)


 地上ではウラジスノフが見上げていた。その視線の先には一旦距離を取る第2科警研のティルトローターヘリの姿がある。それを見つめながらウラジスノフはつぶやいた。

 

「アレは誰にも渡さん。ミハイルと祖国の同士たちの仇を打つのは俺達だ」


 その言葉を残してウラジスノフはビルの上空から飛び降りる。その彼の義肢の手首には単分子ワイヤーを射出する機構が組み込まれている。ビルの壁面へと単分子ワイヤーの一端を引っ掛けると、それを頼りに落下速度に減速をかけ何事もなかったかのようにウラジスノフの体を安全に地上へと降り立たせたのだ。

 今、ウラジスノフの前には道があった。

 決してに他人には見えることの無い果てしなく長い長い道程であった。

 あの寒風と風雪吹きさぶ中で真実を追い求めてからどれだけの距離を踏破したであろう。ともすれば挫折帽に沈みそうに成る自分を奮い立たせるのはたったひとつの思いだった。

 

――ミハイルの仇はこの俺の手で――


 それだけが、それこそがウラジスノフがマフィアと言う存在に手を染めてでも貫きたい唯一の望みだったのだ。


 そしてウラジスノフは歩みを進めた。それまでステルス装備のホログラフ迷彩の(とばり)にその身を隠していたウラジスノフだったが、そこで初めて姿を表した。姿を見せるレベルは朧げなまぼろし程度で素顔までは見せていない。だが自らの意志を伝えるには必要十分であった。

 今、ウラジスノフの前には一体のアンドロイドが立っている。ブルーメタリックと白磁のアーマーに身を包んだ彼こそは日本警察が誇る特攻装警の第7号機グラウザーだ。その姿はつま先から頭部に至るまで完璧に装甲体で守られている。当然、その素顔はウラジスノフには見える事は無かったのだ。

 グラウザーは周囲を警戒しつつ、突破口を開こうと敵索を開始していたが、その最中に突如として姿を表した亡霊のような人影に一瞬たじろいでいる。アトラスやエリオットならともかく、グラウザーはまだホログラム迷彩によるステルス戦闘を展開する相手との戦闘行為はまだまだ経験が浅い。ましてや半透明な状態で本体を隠しながら姿を表す敵など遭遇すること自体が珍しい。闇夜の亡霊にでも出くわしたが様に戸惑い恐れを抱いているのがよくわかった。


「誰だ?」


 グラウザーから努めて落ち着いた声がかけられる。その声はアーマーシステムのスピーカー機構を経由しての音声であるがゆえに若干の電子的な濁りがあった。ウラジスノフはそれを意に介さずに淡々と尋ね返す。


「日本警察だな」

「そうだ。日本警察警視庁所属、特攻装警だ。一体何者だ」

「答える必要はない。我々から言えることはたった一つ。ここから黙って立ち去れ。あの壊れかけの兄弟を担いでな。こちらの要求に従うなら、20秒だけ、あのお迎えのヘリの上空待機を認めてやる」


 ウラジスノフは日本語で語りかけていたが、そこには独特のイントネーションが垣間見えていた。グラウザーはウラジスノフからの要求を聞きながらじっと思案していた。そして言葉の裏に隠してある意図を察しながら静かに問い返した。


「それはつまり、ベルトコーネを諦めろと言う事か?」

「そうだ」


 タイムラグの無い素早い回答。それは一切の交渉の余地が無いことを示していた。グラウザーの背後にはベルトコーネを死守しようとしているセンチュリーが居る。兄たる彼が謎の包囲者から要求を素直に聞くとは到底考えられなかった。

 だがグラウザーは再度尋ねた。謎の包囲者の言葉に、隠されたもう一つの意図と事実がありそうだと直感したからである。


「もし〝引き渡し〟を拒否したら?」

「ベルトコーネもろとも破壊する」

「破壊? あんなふうになってしまっているのにか?」


 軽く背後を振り返り視線を一瞬、ベルトコーネの機体の方へと向ける。その仕草と問いかけにはベルトコーネにはこれ以上の破壊も処分も必要ないとの考えが見え隠れしていた。身体拘束して行動不能にして関連施設に運搬してそれで終了。そう言った安易な判断が透けて見えていた。ウラジスノフはグラウザーたちの認識と判断の甘さを察すると苛立ちを隠さずに吐き捨てるように告げた。

 

「貴様ら。そんな甘い認識で〝ヤツに仕込まれた悪意〟とやりあえると本気で思っているのか?」


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