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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]《ショート更新Ver.》  作者: 美風慶伍
第2章エクスプレス サイドB① 魔窟の洋上楼閣都市/集結編
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Part24 静かなる男・後編/ノーラの過去

 そしてここは再び、ゴールデンセントラル200の円卓の間――

  

 ママノーラは物思いにふけっていた。ファイブがもたらす中継映像に視線を走らせつつも、心の何処かに引っかかっていたモノ――、それがわかりそうな気がする。ママノーラの意識は過去へととんでいた――

 

「そういや、兄貴が死んだあとだったね。アイツがアタシの部下になったのは」


 そしてママノーラの意識はウラジスノフとの邂逅へと向かっていたのである。

 

 

 ∽――――――………‥‥‥



 ノーラの父イワノフは生粋のロシアンマフィアである。ウラジオストックとハバロフスクを拠点として代々活動しており、中央ロシアにもつながりを持つ歴史と伝統の深いファミリーである。その父の下でノーラは1人の兄と2人の弟と3人の妹に囲まれて育った。

 無論、父が有力なマフィアの首魁であることは十分承知していた。だが、組織は兄が継承する物だと分かっていたし、彼女自身は若い頃はマフィアと言う物に深い興味を持っていなかったと言っていい。

 だが、組織を継承するはずの兄が問題だった。

 性格的に難があり人望を集められなかった。またある意味粗暴で愚鈍であり、やる事と言えば暴力と殺人と強姦と麻薬と――、どちらかと言えば組織の末端の三下がやるような事しかできない男であった。

 そんな兄を跡目としては早々に見限っていた父は次男であるノーラの弟へと、組織の次期ボスとして期待をかけるようになる。ノーラは父の労苦を察して、まだ未熟な弟を補佐する意味でマフィアの組織運営に手を出すようになる。

 もともと兄弟が多く、父の仕事柄様々人間に触れて過ごすことが多かった事もあり、ノーラの決断力と人心掌握力は群を抜いていた。それでいて父と弟を前に出して、自分は黒子に徹する事を己に課していた。ノーラの人望は順調に、弟の人望として定着しつつあったのである。

 そんなおり事件が起きる。酔った上に、さらに麻薬を使用した兄が前後不覚になった状態でノーラに暴力を振るいながら彼女を強姦したのである。一命はとりとめたノーラだったが、心と体に深い痛手を負うことになる。ノーラの一人娘はこの時孕んだ子供である。身内にまで危害を加える男を容認するほど、父イワノフは寛容では無かった。ウラジオストックの沖合に顔の潰された惨殺死体が浮かんだのはその直後である。

 ノーラは以前にもまして弟のバックアップとその育成に力を注ぐことになる。そして彼女の尽力もあり、ノーラの弟アレクセイは有能でカリスマ性のある若いマフィア首魁として人々の耳目を集めることとなる。ノーラはアレクセイの跡目継承を機会として、ファミリーから完全に身を引き、一人娘とともに2人だけの生活をするものと決めていたのだ。

 その事を父イワノフは内々のうちに了承していた。兄にレイプされたという辛い過去を持つノーラの心中を察して、全ての喧騒から離れた生活を認める腹積もりだったのである。

 

 しかし、運命は過酷な歯車を回転させる。

 

 すなわち、ディンキー・アンカーソンのウラジオストック上陸事件が発生したのである。

 事態の推移はウラジスノフの時と同様である。貨物コンテナに潜入しての密入国。そして港湾施設内での発覚と小競り合い。そもそもディンキー・アンカーソンと思しき密入国者の存在を察知したのはイワノフのファミリーの手の者であり、アレクセイの直属の部下たちであったのだ。

 だが結果は無残だった。他組織と合わせて50人以上が犠牲となった。そしてその中には、乗っていた自動車ごと破壊され命を奪われたアレクセイの姿があった。車両は破片と化し、遺体収容すら困難を極める有様だった。重要な組織後継者候補を、突如沸き起こったテロ事件によりイワノフもノーラも奪われてしまったのである。

 父は苦悩した。いかなる対策があるのか思案に思案を重ねることとなる。アレクセイの下にも男児は一人居る。だがまだ幼く跡目がとれるようになるまでには相当な時間がかかる。かと言って外から養子をとるわけにも行かない。不用意に外の血を一族に入れることは後々の禍根を残すこととなるからだ。

 アレクセイの死から約一ヶ月、父イワノフは決断した。ある男の来訪をきっかけとして。

 その男こそがウラジスノフだったのである。

 イワノフはノーラに告げた。

 

「お前がファミリーを引き継げ」


 有無を言わさぬ如何もマフィアらしい言い回しであった。だがノーラも理解していた。それしか選択肢が無いということを。もとよりマフィアの娘として生を受けた段階で普通の生活はありえない。マフィアの中で生き続けるか、完全に縁を切りひっそりと隠れ住むか、そのどちらかしかありえないのだ。娘と引き離されなかっただけでもよしとするしか無い。

 だがそんな時に父イワノフはある男を紹介しながらノーラに告げた。

 

「お前に側近をつける。かつてロシア連邦軍にて特殊部隊に所属したこともある有能な男だ。コイツを隊長として精鋭部隊を組織する。それを使って思うがままにやってみろ。そして女であるお前でもファミリーをまとめ上げることが出来ると証明してみせろ。お前なら出来るはずだ。なにしろ、アレクセイの功績は実質お前の物なのだからな」


 若く未熟な面も目立っていたアレクセイを次期当主に仕立て上げるために、幾多もの功績をあげては、それを弟アレクセイの物として喧伝していた。その事は組織の中枢に近い者ならば、暗黙の了解として少なからず知られていたのである。

 そして、イワノフはその男を紹介した。彼が誰であるのか? ノーラはかねてからよく知っていたはずなのだ。

 

「ヴォロージャ?」


 それは父イワノフの古い友人であり、ノーラ自身も幼い頃から可愛がってもらっていた人物であった。ウラジスノフ・ポロフスキー――ヴォロージャとはウラジスノフの愛称である。

 

「息災でしたか。ノーラお嬢様――。いや組織の頭目となられるのだから尊称を付けるべきですな。ならばこう呼ぶべきだ――〝ママノーラ〟と」


 生粋のロシア軍人、ステルス戦闘のエキスパート。長年の戦闘と老いにより多少の衰えはあったはずだが、今目の前に居るその男には老いは微塵も感じられなかった。そればかりか長年の戦闘行為からくる身体機能の故障すらも残っていない。ウラジスノフはサイボーグ手術も受け入れていた。たとえ残りの寿命が半分に削られたとしても、彼はサイボーグ化処置を受け入れていただろう。

 

「ママノーラか――、良い呼び方だね。気に入ったよ。それより随分とひさしぶりだね。古傷がたたって現役から退いたって聞いてたけどねぇ」

「壊れた所を修理したんだ。いまは良い技術がそろっているからな。半分以上は作り物になっちまったが、まだまだやれるよ」

「生身であることにこだわってたアンタが、身体改造を受け入れたってことは、覚悟を決めたってことだね?」

「あぁ。もう、ひとり家の中で老いを数えながら暮らすのは飽きた。これからは俺がアンタの背中を守る。銃後の事は俺に任せろ。完璧にフォローする」

「そうかい期待してるよ。ヴォロージャ」


――なぜなら、全ては失われた息子の魂に報いるためである。

 ノーラはウラジスノフに問いかける。

 

「それでアンタの率いる事になる部隊の名前は決まってるのかい?」


 ウラジスノフはノーラの問いにハッキリと頷いていた。

 

Тихий(チーヒィ) человек(チラヴィエーク)


 それは〝静かなる男〟を意味していた。まさにステルス戦特化部隊にふさわしい名前であった。

 

「いかした名前だねぇ。いいだろう、早速人材集めと訓練からやろうじゃないか。今日から50日――50日以内に部隊を実働可能な段階までに仕上げる。責任はアタシが持つ。指揮はアンタが執りな」

да(ダー)


 ロシア語でイエスの意思を示したときから、すでにウラジスノフの行動は始まっていたと言っていい。そして2人が面会したその当日からウラジスノフは辣腕を振るい始める。20日たらずで必要な人材を十数人ほど集め、さらに30日で基本的な訓練を終える。50日目にはイワノフの前にてその有志を見せるまでに至ったのである。

 ママノーラはウラジスノフの有能さを思い知ることになる。そしてノーラの父であるイワノフは側近たちの前にてこう宣言したのである。

 

「俺は今日限りで引退する。たった今からノーラが頭目だ。ウラジスノフをノーラの直属側近とする」


 その決定に異を唱えるものは皆無だ。即座に父の側近の全てがノーラに忠誠を誓う。そして彼らに対してウラジスノフはこう告げたのである。

 

「これからはボスのことをママノーラと呼べ。この御方が我ら『ゼムリ・ブラトヤ』の新たなる首魁となる」

да(ダー)!」


 一斉に上がった声が部下たちの恭順の意思の証明であった。そして、ママノーラは部下たちに向けて号令を発したのである。

 

「当面の行動目標だ。日本を目指す。アジアの極東のあの島国に活動拠点を作り上げる。そしてアジア全域に向けて組織のネットワークを作り上げる。さぁ、波に乗ろうじゃないか。武闘派のマフィアの戦闘力なら、アタシらが天辺だって事を自由主義で浮かれた連中に教えてやるのさ! さぁ、やるよ! ついて来な!」


 そしてそこからママノーラはウラジスノフのバックアップを得ながら怒涛の組織拡大を繰り広げ、今日へとたどり着くこととなるのである。

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