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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]《ショート更新Ver.》  作者: 美風慶伍
第2章エクスプレス サイドB① 魔窟の洋上楼閣都市/集結編
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Part23 静かなる男・前編/新谷の覚悟

 その頃、新谷たちを乗せた第2科警研のティルトローターヘリは、東京湾中央防波堤外部埋立地市街区へと一路飛んでいた。品川の涙辞署のあるビルの最上階ヘリポートから離陸してまっすぐに南下していく。ローターを傾斜させて通常航空機モードにすれば速度は400キロを越える事ができるが、密集している市街区上空では安全性を考慮してヘリモードでの運用が厳命されている。そのため時速は150キロほど。目的地到達まで3~4分と言ったところである。

 そして新谷はヘリの側面窓から周囲を見回す。眼下には東京湾が見えている。

 

「もうすぐだな」


 そう呟けば闇夜に沈む東京湾の真っ只中に、悪趣味なまでに金色の光にライトアップされたビル群がそびえているのが見える。東京アバディーンの中央に存在する高層ビルゴールデンセントラル200である。

 だがいかな警察管轄の航空機とは言え、現状の東京アバディーンの真上を通過するのはあまりにも危険だ。千葉の方へと回り込むように大きく迂回をせざるを得ない。しかしその迂回ルートをとったが故に新谷たちは期待側面に設けられた半球状の窓から眼下の埋立地の様子を見れることになるのだ。

 新谷の脳裏にはイギリスのトム・リーから伝えられた〝条件〟の事が脳裏に色濃く想起されていた。条件が満たされれば即時撤退。回収を断念すべき。それがトムからのアドバイスだ。新谷はパイロットに尋ねた。

 

「あとどれくらいで着きますか?」

「あと10秒ほどです。安全確認が完了するまでは上空ホバリングはできませんが、何とか数百m以内に寄せてみせます!」


 第2科警研発足当時から新谷たちの〝脚〟となって首都圏一円はもとより遠く関西にも飛んでくれた事のあるベテラン技官だ。その操縦技術には一点の曇りもない。自ら眼下の回収予定ポイントを視認しつつ、新谷たちも確認しやすいように機体の側面をグラウザーたちが待機している場所へと向けた。

 さらに、機体に乗り込んでいた涙路署職員が持参したのだろう、涙路署のネームラベルが貼られた小型の双眼鏡が差し出される。礼を口にしながらそれを受取って眼下のグラうざーたちの様子をうかがう。それはまさに運命の瞬間だった。

 

「たのむ――無事であってくれ」


 それは新谷にとってまさに運命の瞬間だった。トムが告げた条件が満たされていない事を切に願っていた。だが――

 

「―――」


――新谷は黙して語らなかった。固まったかのように1分ほど眼下をじっと眺めているだけだ。その様子を不審に思った宝田が声をかける。


「新谷所長。一つお聞きします」


 その声を耳にして眼下を食い入るように眺める新谷が言葉を返す。

 

「なんだね?」

「〝条件〟とはなんですか?」

「――聞いていたのか」

「はい、通話が漏れ聞こえていたのもので」

「聞こえて居たのなら仕方ない。君たちにも教えよう」


 そこまで言葉を漏らして、ようやく新谷は双眼鏡から目を離した。そしてうっすらと涙の滲んだ目で語り始める。

 

「英国の科学アカデミーの方からの情報だが、ベルトコーネにはある条件を満たすと致命的な破局的暴走が始まる事がわかったそうだ」

「破局的暴走?」


 宝田が呟けば機内の人間たちにも動揺がさざなみのように広がっていく。その疑問の波をう受け止めるように新谷は意を決して答えた。


「やつが通常の暴走よりも始末に負えない破局的暴走の起きる条件――それは――」


 一瞬、息を呑む。それは新谷自身にとっても受け入れがたい現実だからだ。

 

「破局的暴走の条件とは――『ベルトコーネのハードウェアが致命的なまでに破壊された上で完全沈黙する事』だ――」


 その言葉と同時に新谷から双眼鏡が差し出される。そして眼下の光景を宝田たちも次々に確かめていく。そしてそこに映し出された光景が――あの壊れた操り人形のように吊るされたベルトコーネであり、それをグラウザーたちが地上に下ろして拘束している。そしてあまつさえ完全に行動不能にすべく四肢の関節に破壊が加えられた後だったのである。

 

「で、でも――それって単に暴れだすだけですよね?」


 その問いには顔を左右に振る。

 

「それも違う。やつには質量慣性制御能力がある。とてつもない質量を生み出し多大な破壊力を発揮する事が可能。この程度の市街区なら瞬く間に平らげられるそうだ。それらの事実はすでにロシアなどで発生しており、ロシア軍でも数千人規模で被害者が出ている。回避する方法は今のところ見つかって居ない!」


 突如として突きつけられた絶望的な事実。そして図らずの最後の引き金を引いたのは皮肉にもベルトコーネの処置を終えたと思っているグラウザーたち自身だったのだ。

 

「そ、そんな――」

「これは英国の科学アカデミーの世界的権威ある科学者がロシア諜報部と必死の交渉の末に引き出した情報だ。事実であると見て間違いない。破局的暴走が何時起こるかわからない現在、我々はこれ以上接近できない。彼らを助けだす術はない一刻も早く退避するより他は無いそうだ」


 愕然とした表情のまま語る新谷に、他の職員が問いかける。

 

「ですが――有明事件のときも完全沈黙していますよ?」

「あの時は意識が飛ぶほどの攻撃が加えられただけだ。体構造に致命的な破壊が加えられたわけではない。だから〝もう一人のアイツ〟が目を覚ました時も〝偽装沈黙〟と言う形で逃走する程度に留められたんだろう。だが今回は違う。間違いなく〝最後のトドメ〟が加えられている。そこから逃れるためになりふり構わぬ破壊的行動がノーリミッターで繰り広げられるだろう。条件の回避はもはや不可能だ。あの埋立地の住人たちには悪いが、被害が本土の陸地に及ばないようにするしか――」


 そう諦めを新谷が口にする。だがそこに一人の男が割り込んだ。

 

「それは違うでしょう! 新谷さん!」

 

 強い声で、いらだちを紛れさせながら。明確に突きつけてくる。その声の主は、このティルトローターヘリのパイロットである老技官であった。退官間近の58歳、ベテラン中のベテラン。名は室山と言う。その彼が新谷に告げた。

 

「私は第2科警研が発足してからずっとあなた達や特攻装警のアンドロイドたちの足となって飛び続けてきました。早朝から深夜まで、北は仙台から西は大阪まで、京都まで真夜中にすっ飛んでいったこともあります! 警備部の機動隊ヘリに混じって作戦行動に参加したことも有る。この間だって有明でフィールを救うために布平さんたちを運んだ! 俺は知っていますよ! あなた達が今日に至るまでに積み上げてきた努力と苦労を! 降り掛かってきた災難を! その成果として生み出した彼ら6人を! どれほどの時間が流れたのか知っていますよ私は! それを『この程度の事』で捨ててしまうんですか? あなたが積み重ねてきたものはその程度の物だったんですか?! 新谷所長!!」


 それは叫びだった。発足当時、海のものとも山のものともつかぬ得体の知れぬ組織だった第2科警研。そこの重要移動手段としてティルトローターヘリが配備されると決まった時に、警視庁の航空隊より転属してきたのがこの室山だった。口数は少なかったが、配慮の行き届いた信頼のおける男だった。彼が操縦桿を握る機体だからこそこれまでも命を預けてこれたのだ。その彼の言葉だった。海の向こうからのメッセージよりも、新谷の心には強く響いていたのだ。

 

「できますか? 室山さん?」


 新谷はそのパイロット技官の名を改めて呼んだ。

 

「愚問ですよ。やりますよ私は。私はこの第2科警研ヘリのパイロットとして、あいつらを置いたままここから去る事はできません!」


 室山のその言葉に新谷は頷くと覚悟を決める。そして新谷に同行してきた涙路署職員と第2科警研職員に告げた。

 

「わたしのわがままに付き合っていただけますか?」


 非難の言葉は来ない。無言のまま頷く姿が有るだけだ。そして新谷はスマホの画面を眺めたが、トム・リーへと返事をかけることはなかった。代わりに連絡をしたのは近衛である。スマホを操作し近衛を呼び出す。数秒と待たずに近衛が通話越しに問いかけてきた。

 

「新谷所長? 状況はどうですか?」

「こちら新谷、現在眼下にグラウザーたちがベルトコーネの主要箇所を破壊し終えて回収準備を完了済み。英国よりもたらされた〝条件〟は満たされています。破局的暴走が発生する可能性は極めて濃厚。ですが――」


 そこで新谷は一瞬大きく息を吸うと改めて声を発した。

 

「このままここに残り、グラウザーたちの回収のために尽力しようと思います」


 それは覚悟だ。自らが子供のように守り育ててきた彼らを見殺しにはできない。そしてそれは近衛も同じであった。

 

「了解です。我々も一刻も早く救援に向かいます! それと臨機な対応をお願いします!」

「わかりました」


 覚悟は決まった。ならば一刻も早く2人を釣り上げ回収するだけである。だが――

 

「なんだ? 銃声?」


 軽機関銃の軽い銃声が鳴り響く。そしてグラウザーたちが周囲を警戒しつつ身動きが取れなくなっているのが見える

 

「まずいぞ! 襲撃されている! しかも姿が見えない」

「ステルス部隊か! どこの馬鹿だ! こんな時に!」


 戸惑いの声が沸き起こる。運命の歯車は軋み音をあげながら最悪の方向へと回り続けていた。困難を乗り越え、平穏を求める者たちをあざ笑うかのようにだ。そしてさらなる事態の悪化を告げるように致命的な光景が展開されていた。


「センチュリー?!」


 窓越しに見えるその光景に新谷が叫んでいた。今まさにセンチュリーが特殊弾丸を全身に被弾しつつあった状況だったのである。

 歯車は動き続ける。さらなる悲劇と、時と国を超えた縁を結び合わせつつ――


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