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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]《ショート更新Ver.》  作者: 美風慶伍
第2章エクスプレス サイドB① 魔窟の洋上楼閣都市/グラウザー編
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Part17 オペレーション/脳圧

 脳皮質からの巨大血腫の除去、それは脳皮質という非常にデリケートで、かつ一切の〝傷〟を許されない極めて高度かつ困難な作業であるのは言うまでもない。ほんの僅かに操作をミスして脳皮質に傷をつければ取り返しのつかない後遺症を生むことになるのだ。

 それらの慎重を喫する操作をシェンが無言で続ける中、朝もその結果をじっと待ち続けた。その所要時間、40分程度。恐るべき集中力である。

 

【 >出血箇所視認             】

【 >バイポーラ電気鉗子適用        】

【       出血箇所を通電焼結にて止血 】 

【 出血箇所[2箇所]           】

【 >焼結処理完了、止血成功        】

【 [以後、出血箇所確認できず]      】

【 >血腫摘出処置完了           】


 そして、各種センサーをフル活用して脳内出血箇所が他に残っていないかを最終確認する。


【 [脳皮質挫傷無し]           】

【 [出血箇所確認できず]         】


 最終確認もクリア。これで必要な医療措置が一通り完了したことになる。残るは開窓した部位を閉鎖するのみである。

 

「血腫残置無し、脳内出血無し。成功条件をクリア。よってこれより閉鎖処置に入る」


 シェンがさらなる宣言をする。だがそこには深刻さはない。ひとまず生命の危機は一旦去ったことになるのだ。

 

「チャオ、もう一つコンテナを出してくれ。D43とA45だ」

「はい」

「もう少しで終了だがここからが肝心だ。慎重を喫してくれよ」

「了解です」


 シェンの言葉に朝が頷く。だが、それは朝に警告したというよりも己自身が緊張を切らないために発した言葉であるかのようだ。

 

【 プロセス6               】

【 頭部開窓部閉鎖処置           】

【 >硬膜閉鎖               】

【 >高分子特殊糸により頭蓋内硬膜を縫合  】

【 >縫合後、以下2液を塗布・投与     】

【 >>薬液1:フィビリン糊        】

【 >>薬液2:組織再生促進ナノマシン薬液 】


 まずは脳を覆う硬膜を閉じて抜いとってゆく。極力精密に、かつ脳脊髄液が漏出しないように密に処置する必要がある。そして2種類の薬液を用いて切開傷の生着が速やかに行われるようにする。そしてさらに取り外した頭蓋骨の代わりとなる物がすでに用意されていた。

 シェンが朝に指示した2つのコンテナを開けて中から手術用素材を取り出す。

 まず、硬膜と頭蓋骨の中に貼り付ける特殊なシート素材で、頭蓋内の不正な空間である〝死腔〟が発生することを防ぎ、硬膜を頭蓋骨内面に引き寄せる機能を有した多機能性高分子フィルムシート。

 

【 >頭蓋内死腔抑止            】

【    組織密着促進高分子シート貼り付け 】

【 >人工頭蓋パーツ、頭蓋骨本体に取り付け 】


 そしてさらにあらかじめ3Dプリンターにて頭蓋の欠損箇所と同一構造に作り上げられた人工頭蓋を正確に収めていく。それをチタン製のタッカーのような装具で頭蓋骨に人工頭蓋骨を〝取り付け〟ればOKである。


【 プロセス7               】

【 筋肉層、皮膚層、閉鎖処置        】

【 >筋肉層縫合              】

【 >皮膚層縫合              】

【                     】

【 >全バイタル各データ異常無し      】


 頭蓋骨が収まれば残るは筋肉層と皮膚層だ。精密動作マニピュレーターアームを用いて速やかかつ正確に縫い付ければすべての術式がこれで完了したことになる。そしてすべてのデータを最終確認すればシェン自身も確信をもってこう宣言したのだ。

 

「全術式完了、クランケ全バイタル異常無し」


 そして、シェンがコンソールから手を離し背もたれにぐったりとして寄りかかる。全身を貫いていた強い緊張から開放されつつも、心地よい疲労の中でシェンは力強くこう宣言したのだ。

 

「これでひとまず問題クリア! 当面の生命の危機は回避だ!」

「じゃぁ」

「あぁ、手術は成功だ」

「やった!」


 朝が歓喜の声を上げる。一度は誰もが絶望視した一つの命が、神がかりな医の御業により救われたのである。朝のその言葉にシェンも思わず笑顔がこぼれた。


「チャオもご苦労だったな。これで君も言い訳が立つことになる」

「いや、シェンさん」


 穏やかな口調で否定の言葉が出てくる。朝のその言葉にシェンが振り向く。

 

「今はその話は無しにしましょう。とりあえずは一つの命が助かったことを運命と神に感謝したいです」


 酸素マスクと人工呼吸器に管理されて正確に呼吸をしているカチュアが目の前にいる。この子の前では無粋な法的取引の話など卑しいものに思えてしまう。そう、今は素直にこの成功を喜ぶべきなのだ。

 

「あぁ、そうだな」


 そうつぶやきながらシェンがコンソール席から降りてくる。そして朝に歩み寄るとその右手を差し出してきた。

 

「ご苦労だったな。ありがとう」

「いえ、苦労をなさったのはアナタです。ぼくは少しだけお手伝いしただけですから」


 そして朝はシェンの目をじっと見つめながらこう告げたのだ。

 

「やはりアナタはこの街には必要な人です」


 それはシェンにとって最大の賛辞である。そう言った言葉を警察に身を置く物が言ってくれたという事実が何よりも大切であった。シェンもまた朝の目を見つめながらこう答えたのだ。

 

「謝々――」


 中華系の感謝の言葉を告げて。握手を交わす。

 

「では、後始末をしよう。明日いっぱいはこのままこの部屋でカチュアの経過を見守る。その後にこのビルの3階にて長期に入院させる。意識が回復するまでは気を抜けないがな」

「えぇ。そうですね」


 シェンの言葉に朝が頷く。

 そしてシェンが朝のところから離れて空間投影されている様々なバイタルデータのところへと歩み寄る。じっと見上げて眺めれば、とあるデータにシェンの目が止まる。そしてそれまで笑顔にあふれていたその顔が見る見る間に深刻さと緊張感を増して行く。その異変はシェンの後ろ姿からも朝にも伝わっていた。

 

「シェン? どうした?」


 朝が問いかけてもすぐには答えない。ややおいて彼の口からは緊張を伴う言葉が放たれたのである。

 

「チャオ、まだ終わりにはできないぞ」

「え?」

「むしろやり直しだ。いや、追加処置が必要だろう」


 緊張を持ってシェンが見ていた物、それは『脳圧』のバイタルデータであった。

 

「わかりました。とりあえず何をすれば?」

「いや、少し待ってくれ」


 そして、シェンが漏らしたその言葉に朝も驚かずには居られなかった。


「対処法を急いで考える」

 

 用意周到かつ、巧妙極まりないあのシェン・レイが対策手段をこれから考えると言うのだ。朝も内心肝が冷えるような錯覚を覚えずには居られない。そして、その言葉の意味の重さを感じずには居られなかったのである。


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