Part17 オペレーション/頚椎2
【 プロセス2 】
【 >自立可動型マイクロマシンワイヤー挿入 】
【 >同、ワイヤーによる脊髄圧迫部位の 】
【 除圧処置開始 】
マニピュレーターがC12のコンテナを開ける。そして、内部から直径1ミリにも満たない微細なワイヤーを取り出していく。その数10本ほど、それらが左右からのアプローチで頸部内へと並列して同時に挿入されていく。見慣れぬアイテムに朝は思わずつぶやいた。
「これは?」
「俺が開発したマイクロマシンによる特殊ワイヤーだ。こちらからの指定信号に従って形状が自在に折れ曲がり変形させられる。先端が鋭利な切刃形状になっているから体内患部へと侵入させられるんだ。これを使って鉄筋コンクリートの鉄筋鋼材のように破損骨折部位を再形成するんだ。まずは脊椎を圧迫している骨片を前方へとずらすためにナノマシンワイヤーでメッシュ形状を形成する」
10本が5本ずつに分けられ並列に並べられる。そしてそれが隊列を組んだかのように整然と並べられながら頸部内へと入っていく。模式図での表示を併用すればそれは着実に患部へと到達し、そして破裂骨折部位と頚部脊髄との間に割り込んでいく。
椎体と椎体の間の椎間板、その周辺の僅かな隙間を利用して、10本のワイヤーは互いにクロスしながら侵入していく。無論、脊髄に食い込んでいるサイズの大きい骨片の表面で念入りにクロスしながらメッシュ形状を形成しつつ、左右から侵入してくるワイヤーが互いに連結し合うことでより強度を増して行く。
「よし、これでバリケードは作れたな。これを――」
【 左右各列からの 】
【 マイクロマシンワイヤーの連結を確認 】
【 その後に骨折椎体を前方へと除圧 】
左右から頸部へ挿入されメッシュ形状を形成したワイヤーを左右でマニピュレーターがホールドしつつ慎重に骨片を前方へとずらしていく。3D模式図を様々な角度から視認しつつ、慎重に作業が行われる。そして脊髄へと食い込んでいた骨片は見事に脊髄部位から離れたのだ。
「やった!」
朝が思わず叫んでいる。そしてシェンは冷静にさらなる作業を加えた。
「そして除圧したまま、更にワイヤーを加えて破裂部位にワイヤーを貫入させる。そしてそのまま亀裂部位を引き寄せて密着させていく」
「貫入?」
「あぁ、先端が鋭利なドリル形状になったもう一つのワイヤーを用いる」
コンテナから更にワイヤーが取り出される。その先端はさらに鋭利な錐の様であり、それは骨組織にすらもすんなりと入っていくかのような鋭さを感じさせるものであった。
「これをつかって骨質内にワイヤーを貫通させる」
「貫通させる? そんなことができるんですか?」
「通常は無理だが、ワイヤー先端の切刃形状に改良を加えることで高速に処理をすることができるようにしたんだ。骨質細胞を速やかに分解してワイヤーが貫通する〝穴〟を形成する。俺にしか使え無い特殊アイテムだよ」
シェンは説明をしつつ作業を続けた。
【 プロセス3 】
【 >骨質貫通機能付加型 】
【 マイクロマシンワイヤー追加挿入 】
【 >破裂骨折部位を貫通しつつ 】
【 頚椎骨構造内部を周回させ 】
【 さらに骨構造を再生できるように 】
【 自立稼働ワイヤーにて頚椎を再構成 】
追加された貫通機能付加型のマイクロマシンワイヤーが破裂骨折した部位へと突入していく。片側5本で左右で合計10本のワイヤーは音もなく椎体骨に侵入していくが、それらのワイヤーの侵入貫通経路は、CTスキャナーによる骨構造解析により、最適なワイヤー経路が予め指定されていた。そして数分ほどの時間を経て自動制御で作業は行われ、破裂骨折により3つに別れてしまった椎体骨は引き寄せられて密着するばかりになったのである。
「ワイヤー敷設完了、牽引経路確認、問題無し。次の段階へ移る」
【 プロセス4 】
【 >マイクロマシンワイヤーによる 】
【 破裂部位収束形成開始 】
【 >同、破裂離断部位、収束密着確認 】
【 >破裂部位、再形成形状異常なし 】
【 >ワイヤー端部、突出形状等無し 】
【 自立稼働により頚椎椎体表面に密着 】
ワイヤーが自立駆動で縮む事で、離断散開している各骨片を引き寄せて、元の頚椎骨にふさわしい形状へと復帰させる。分かれていた骨片は元の形状へと戻り、しかる後に密着する事になるのだ。
【 >CTスキャナー作動 】
【 >再形成骨構造確認 】
CTスキャナーを作動させて、再生された骨構造を確認する。突起状の突出や接合された離断断面のズレ、脊髄や血管などの他の臓器への影響、さらには血流などへの影響なども考慮される。
「ズレ無し、密着形状異常なし、他の組織への影響も問題なしだな。髄内動脈の血流も問題なし、脊髄への圧迫も――クリアだ。よしこれで行こう」
ワイヤーの処置が完了した後に先程の2種類のナノマシン薬液がこちら側にも投与された。
【 プロセス5 】
【 骨折破裂部位、接着促進処置 】
【 動力シリンジニードル先端 】
【 [指定患部領域へと到達] 】
【 >薬液アンプル電磁バルブ開放 】
【 >薬液1 薬液2 同注入開始 】
【 [指定薬液全量注入完了] 】
そして一定処置が完了して、肉眼と模式図との併用で、再形成された頚椎部位に異常が無いことも確認された。椎体だけでなく椎間板も確認されたがこちら側は変形や突出は見られなかった。だが念には念である。
「頸部脊椎に傷がついている可能性もある。神経組織の回復促進処置をやっておこう」
そしてここでA03のコンテナの出番である。内部から取り出されたのは赤い色をしたさらなる薬液アンプルである。それを動力シリンジに取り付けて極めて微細な注射針ニードルにて頸部へと開窓部位からアプローチしていく。その先には頸部脊髄がある。その頚部脊髄を被覆する頑丈な硬膜へと針を慎重にゆっくりと打ち込んでいく。だがその針の動きは極めて繊細であり、非常に真剣かつ緊張した表情でシェンがニードルを操作しているのがよくわかった。
【 プロセス6 】
【 >神経損傷部位、自己回復誘発薬剤投与 】
【 >同薬液内ナノマシンによる神経再生 】
【 誘導処置開始 】
神経組織は損傷したら原則として自己再生は起こらない。特に脊髄や中枢頭脳部位はなおさらである。だが末梢神経部位は状況に応じて再生することが知られている。これと同じ機能を脊髄部位でも発生させるための特殊薬剤なのである。
【 >注入完了 】
【 >同じ、除圧処置ナノマシンワイヤーを 】
【 抜き取り開始 】
【 >更に、切開開窓部位を閉鎖開始 】
患部が確実に修復されたことを確認して除圧処置用のワイヤーを取り外していく。メッシュ形状に互いに折り重なっていたが、今度は逆のプロセスでワイヤーが自ら互いの絡み合いを解いていく。そしてその次に、患部処置のために開けられた切開開窓が元通りに閉じられていく。その際に自己吸収性の高分子糸にて正確に縫い付けていった。
【 >閉鎖処置完了 】
【 >切開患部受傷部位表面に 】
【 滅菌フィルムを貼り付け。同部位被覆 】
これで頸部骨折部位への処置は完了である。
「早え、あっと言う間だ――」
朝が驚きの声を上げている。それを尻目にシェンが淡々と作業を続けている。
「これで頚部骨折は処置が完了だ。あとは完全にくっつくまでハードカラーで固定だな。そしていよいよ――」
「頭部の脳挫傷部位ですね」
「あぁ、敵の本丸に殴り込みだ。チャオ、コンテナ追加だ。E列のコンテナ。1、5、24を準備してくれ」
「わかりました」
















