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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]《ショート更新Ver.》  作者: 美風慶伍
第2章エクスプレス サイドB① 魔窟の洋上楼閣都市/グラウザー編
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Part14 GUILTY―断罪―/神たる理由

 今、全ての準備は整った。シェンレイは自らの周囲に展開した仮想ディスプレイ群をそのままにして歩みを進めた。そして、ベルトコーネの背後10mほどの位置に立つと静かに語りかけたのだ。

 

――ザリッ!――


 シェン・レイが足元の砂利混じりの砂を踏みしめる。そして心持ち足を開いて静かに佇む。その眼前には拘束されているベルトコーネ。そして、その周囲には二人の特攻装警。今まさに彼らの邂逅は始まったのだ。

 先に口を開いたのはシェン・レイだ。

 

「初めてお目にかかるな。ベルトコーネ――貴殿の名は嫌というほど耳にしている」


 その声を聞きベルトコーネは身を捩り後方へと視線を向ける。そしてその先に居るものの姿を目の当たりにする。

 

「貴様――シェン・レイ? まさか神の雷か?」


 そこに立つ者の姿を目にしてベルトコーネは驚きに目をむいた。

 

「ほう? 貴殿ごときでも私の字名を知っているらしいな。だが光栄に感じるわけにはいかんな。狂える拳魔よ」


 ベルトコーネは己に課せられている別名を呼ばれて怒りの視線を投げかける。

 

「貴様にその名を呼ばれる言われる筋合いはない!」


 怒りを全身で発露させる。そして、グラウザーに仕掛けられた単分子ワイヤーの蜘蛛の巣の如きトラップを引きちぎるべく全ての力を解き放とうとする。その時、グラウザーが放った単分子ワイヤーの群れは不気味な軋み音を立てていた。


――キリッ、キリリッ――


 その音が事さらに不安を掻き立てる。最悪の事態を警戒してグラウザーは右手からパルサーブレードを展開させると、シェン・レイを背中の方に庇い護ろうとする。だがその動きをシェン・レイは諭した。

 

「グラウザーと言ったね。気遣いありがとう。だが私には不要だ。今はこのトラップを守る方を優先してくれたまえ」


 その言葉にグラウザーは素直に頷く。そしてそこから離れてベルトコーネに仕掛けられた〝戒め〟の成り行きをじっと見守る。そんな遣り取りをするシェン・レイをセンチュリーが横目で見ている。シェン・レイはセンチュリーにも声を駆けた。

 

「こうして直接に会うのは初めてかもしれんな。〝ハイウェイの狩人〟」


 それは闇社会の住人たちがセンチュリーに対して付けた別名であった。今のセンチュリーはそれなりに変装をしている。頭部だけに限っていうのならばセンチュリーもフィール同様にヒューマノイドタイプとしての外見には自身があった。ヘルメットを外しちょっと手を加えれば外見的印象がガラリと変わる。特にヘルメットをオフした姿はいざという時のために外部には一般には非公表となっているはずだった。にも関わらずあっさりと見抜かれたことに驚きを感じずにはいられない。

 

「おいおい、なんで解っちまうんだよ?」


 その焦りにもにた問いかけにシェン・レイは笑みを浮かべつつ答える。

 

「グリズリーとデルタエリートを同時に下げたやつなんて、そうそうは居ないからな」


 シェン・レイのもっとな指摘にセンチュリーも苦笑いせずにはいられない。シェン・レイに思わず憎まれ口を叩いてしまう。

 

「手なばせればいいんだが、コイツは俺のこだわりでね」

「警察らしくない言い草だな」

「そうかい? ここは褒め言葉として受け取っておくよ」


 手短に言葉を交わすと、シェン・レイは改めてベルトコーネへと告げる。

 

「さて余興は終わりだ。今度こそキサマのテロリストとしての存在証明を全て消し去るとしよう」

「なんだと? どう言う意味だ!」

「なにも――言ったとおりの言葉だ。お前がお前として存在できる〝力〟――それを無かったコトにしてやるって言っているのさ」


 シェン・レイはそう語りながら右手を掲げると自らの周囲で一旋させる。するとあのヴァーチャルキーボードも3Dホログラムで映し出されていた。それを右手だけで操作すると、とあるツールプログラムが画面上に映し出されていた。

 

【 アンドロイド深部システム        】

【      メンテナンスツールプログラム 】

【   ―― Ring of King Solomon ――   】

【      <START>        】


 そしてそのツールプログラムを操作しつつシェン・レイは語り始める。誰もがじっとその言葉に耳を傾けずには居られなかった。

 

「そもそもだ――、私がマリオネットの〝ローラ〟を手元に置いておいたのはなぜだと思う?」


 唐突な言葉に意表を突かれてセンチュリーは驚きを浮かべずには居られなかった。口をつぐんで沈黙したままのベルトコーネもシェン・レイの言葉の先をじっと聞いていた。

 

「私はね、あのローラをただ子どもたちのお守り兼警護役とするために招き入れたわけでは無いんだよ」


 そう語るシェン・レイの両手がヴァーチャルキーボードの腕で踊っている。そのツールプログラムが操作対象として指定しているのは同然ながら――

 

【 メンテナンス対象            】

【 個体名:ベルトコーネ          】

【 >メンテナンスアクセスルート確保済み  】

【 >回線安定度:良好           】

【 >優先度:最上級、緊急性有り      】


――眼前の彼の人物、ベルトコーネであった。

 

 センチュリーもグラウザーも、シェン・レイの言葉の先をじっと耳を傾けて聞き入っていた。


「そもそも――アンドロイドと言うのはクリエイターが同じ場合、どんなに構造や機能性を変えていったとしても、どんなに高機能な頭脳にヴァージョンアップして行ったとしても、根本的に変わらない――いや、変えようがない部分があるんだ」


 シェン・レイが語る意外な言葉にグラウザーも思わず言葉をもらさずには居られなかった。

 

「えっ?」


 その声に軽く視線を向けるがすぐに画面へと視線を戻して言葉を続ける。

 

「それはだね――〝体内システムの制御プロトコル〟だよ」


 明朗な声で発せられた言葉は埋立地の片隅のこの場所では薄暗がりの夜空の下でよく響いていた。

 

「パソコンがどんなにOSを高機能な物に変えても、基本的なロジック構造やデータ設計思想が変わらないように、アンドロイドもまた作り上げた際の技術的バックボーンやクリエイター個人が同一であるなら、その体内システムを駆け巡る〝制御情報〟は基本的な文法や構造や概念は殆ど変わらない。最も一番基本となり、根幹となる部分であるが故に、早々簡単には変えることができないんだ。例えるなら――」


 シェン・レイの視線は特攻装警の二人へと向かう。

 

「――彼ら特攻装警の技術的バックボーンが、英国のとあるアンドロイド技術者にたどり着くようにね」


 英国のとあるアンドロイド技術者――それがガドニック教授のことを意図しているのは明らかだ。その言葉にグラウザーもセンチュリーも戦慄を覚えずには居られなかった。

 

「ベルトコーネ、君のクリエイターはかのディンキー・アンカーソンだが、当然ながら彼が作ったものはディンキー自身が持つ技術や知識の枠内で創られている。それ故にどんなに機能性を変えても、どんなに構造を変えても、その限界は変わることがない。

 モデルノスフェラトスであったジュリアや、分散意識体が実態であったガルディノを除けば、他はディンキーのお手製による物だ。特に頭脳部分周辺はディンキー自身が使い慣れていた技術が投入されている公算は極めて高い。これはどんなアンドロイド技術者においても共通して見られる傾向だからだ。故にだ――」


 シェン・レイが展開していたツールプログラムが甲高い発信音をたてる。それと同時にあるメッセージがディスプレイに表示された。

 

【 対象アンドロイド深部システム      】

【            [ 接続完了 ] 】


 その表示を確認しつつシェン・レイは告げた。


「君とローラに用いられている内部制御プロトコルや技術的ロジック――特に〝セキュリティコード〟はほぼ同等であるだろう――私はそう推察したんだ」


 シェン・レイはさらに操作を続ける。

 

【 メンテナンスメニュー          】

【 > 追加機能制御ドライバー関連     】

【   > 制御ドライバー《削除コマンド》 】

【 ⇒ 削除対象機能指定          】

【 対象機能名               】

【 〔慣性質量制御システム統括ユニット〕  】


 ディスプレイにはいよいよ本命となる部分が表示されていた。シェン・レイの操作はいよいよ核心へと到達しようとしていた。その核心へと手を加えるのと同時に、彼はローラに対して秘していた狙いを口にしたのである。

 

「ベルトコーネ――、

 君が咎人であり逃走者であるなら、この無法の街である東京アバディーンに潜り込むことは容易に予想できていた。ならば君がこの地に辿り着く前に対策を打たねばならない。そしてその事に関して私が思いついたのが同型機であるローラの存在だった。

 彼女を私の手の内に保護し、日常メンテの際に深部体内システムのセキュリティについてハッキングしてセキュリティデータを解明しておく。そうすることで、ベルトコーネ――君がこの地にたどり着いた際に君を対する重要な切り札になる。――私はそう判断した」

 

 一気に語り終えるとシェン・レイはグラウザーやセンチュリーにも視線を投げつつ、ベルトコーネへとさらに語った。 

 

「さて、そろそろ君にもわかっただろう? 私は今、君の体内システムの最深部へと手を伸ばしている。君が君であり、君のテロアンドロイドとしてのアイデンティティの核を成す部分――、それが私の掌の中にある。それがどんな意味を持つのか? さすがの君にも分かるはずだ。そうだろう?」


 意味ありげに問いかけられるその言葉はベルトコーネにもしっかりと届いていた。シェン・レイが語ることの真意――そしてこれからもたらされるであろう結末。それを理解できぬようなベルトコーネではない。

 

「き――きさま?! まさか?!」


 驚きが襲う。恐怖が押し寄せる。それは今まで彼の戦闘力を支えてきた根源であり、彼が彼として、テロリストとして生きる上での精神的自我の根幹を成す部分であった。それが今、彼の中から消し去られようとしているのだ。

 ベルトコーネの視線の先にはシェン・レイが空間に投影している仮想ディスプレイがあった。そして彼はそこに映されているメッセージを睨みつけつつ叫んだのだ。

 それは世界最悪のテロアンドロイドが放つ〝断末魔〟である。

 

「やめろぉぉぉお!!」


 メッセージは告げる。シェン・レイがもたらした冷酷な結末を。

 

【 ⇒ 削除コマンド実行          】

【 > 当該機能、一時機能停止       】

【 > 制御ドライバープログラム[削除]   】

【 > 制御用データ群[削除]        】

【 > 辺縁系サブプログラム群[削除]    】

【 > 機能制御I/Oポート[封印]     】

【 当該機能制御ドライバープログラム    】

【                削除完了 】

【 当該機能 ――使用不可――       】


 それはあまりにもあっけない結末だった。

 どんなに強力な能力を持っていたとしても、

 どんなに破壊力のある装備を有していたとしても、

 それを統括制御するプログラムやドライバーやデーターが無いのなら、無用の長物以外の何物でもない。

 もはやベルトコーネを支えていた、最強最悪の〝力〟は完全に失われたのである。

 

 その瞬間――ベルトコーネの意識を襲ったのは、底知れぬほどの恐怖心であった。

 喪失――それがもたらす虚無感。彼の全身を襲う無力感。彼の中から永遠に失われた物――、その正体をベルトコーネ自身が即座に理解していた。

 

「う、うぉぉぉぉぉおおおおお!!! うがぁああああああっ!!!」


 吠えるような狂わんばかりの断末魔の叫びが轟いた。

 その叫びと同時に彼を戒めている単分子ワイヤーを引きちぎろうとするが、今まさに、ただのアンドロイドと化したベルトコーネには引きちぎることは絶対に不可能である。壊れた操り人形のごとく単分子ワイヤーで空間上に展翅されたベルトコーネは、彼に残された純粋な腕力でなおも逃れようともがいていた。

 だが、もはや脱出することは〝不可能である〟

 

【 メンテナンスツールプログラム      】

【 > 終了                】

【                     】

【 セキュリティシステム接続解除      】

【 全作業工程、及び術式完了        】

【                     】

【 ウェアラブルシステム          】

【 > スリープモードへ移行        】

【                     】

【 ・仮想ディスプレイ           】

【 ・ヴァーチャルキーボード        】

【 > 空間投影停止            】


 必要な作業を完了して、ウェアラブルシステムをスリープモードへと移行させる。同時に彼の周囲の空間に浮かんでいた仮想ディスプレイとヴァーチャルキーボードは掻き消えるように消えて行ったのだ。

 そして、シェン・レイはグラウザーとセンチュリーへと労いの言葉をかけたのだ。

 

「ご協力感謝する。後は煮るなり焼くなり好きにまえ」


 シェン・レイはその言葉への返答を効くこと無く。マントコートを翻しながら、踵を返してもと来た方へと歩いていく。

 その背中を見つめつつ。センチュリーはある事実に気づいていた。

 

「こいつ――」


 シェン・レイは彼ら特攻装警に最後の花を持たせてくれたのだ。

 深部システムまで手を伸ばせるのなら、ベルトコーネの全データー・全プログラム・全人格を一気に消し去ることも可能なはずなのだ。だが彼はそうしなかった。制圧の邪魔となる特殊機能のみを封印し、残る部分をそのまま特攻装警の側へと引き渡してくれたのだ。警察としてもこれならメンツが立つと言うものだ。釈然とはしないが、シェン・レイが特攻装警の警察としての事情に配慮してくれていたという事実を、認めざるを得ないのだ。 

 沈黙で見送っていた二人だったが、ようやくその背中に声をかけたのはグラウザーである。

 

「あの――」


 その声にシェン・レイの歩みが止まる。その背中にグラウザーは尋ねた。

 

「被害を受けた子供はどうなりますか?」


 しかしシェン・レイは振り向かない。背中を向けたまま淡々と告げる。

 

「それはこちらで対処する。介入は不要だ。君のパートナーである朝刑事は私の手にあることを忘れるな。何事も無ければ無事に返却する」


 それは拒絶の言葉だった。これ以上の協力も、これ以上の介入も拒否している。その意図は特攻装警の二人は十分に伝わってきている。

 それだけ告げるとシェン・レイは足早に立ち去っていった。それに対して、グラウザーもセンチュリーもかけられる声を持ち合わせては居ない。

 

「これが――〝神の雷〟」

 

 ただただ、あっけにとられたままで、断末魔の時を迎えたベルトコーネを静かに見守るしかできなかったのである。


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