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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]《ショート更新Ver.》  作者: 美風慶伍
第2章エクスプレス サイドB① 魔窟の洋上楼閣都市/グラウザー編
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Part14 GUILTY―断罪―/恐るべき力

「背後か!」


 ベルトコーネの身体が不意にしゃがみ込む。そして右足を軸にして左足を振り出すと、グラウザーの足元目がけて低空の回し蹴りを見舞う。地面すれすれの地を這うような見事な水月蹴りである。

 それを警戒したのか踏みとどまったのはグラウザーだ。それを追ってベルトコーネがさらなる攻撃を見舞う。蹴り技を得意とするグラウザーのお株を奪う見事なまでの低空から上方へと蹴り上がる回し蹴りである。

 水月蹴りを繰り出して後方へと完全に向き直ると、今度は左足を軸に重心を移動しつつ、強引な力技でしゃがんでいた体勢から立ち上がりつつ、恐るべき速度で右足の廻し蹴りを繰り出したのだ。それはまさに一撃必殺の威力を秘めた重爆蹴りであった。

 

「喰らえぃ!」

 

 ベルトコーネは確信していた。攻撃の成否についての結果を。

 センチュリーが放ったケーブル型兵器のシルエットは知覚しているが、それはヤツの手の中でいまだ放たれてはいない。攻撃が加えられたとしても、周囲360度への正確な知覚能力を持つ超音波視覚なら、回避のタイミングを正確に捕えることは容易いこと。

 ましてやこの位置関係でのグラウザーとの格闘戦なら、万に一つも遅れを取ることはあり得なかった。拳は劣化したが蹴り技には今なお威力に衰えはない。

 一撃でいい。攻撃がヒットしたのなら、この囲みを抜け出して逃走することは可能だ。そして自己修復能力で必ずや戦力を取り戻し、再びこの地に舞い戻ってこれるはずだ。

 戦いは終わらない。復讐は終わらない。

 かつての主人が残した理念を達成する戦いの旅路はこれからも続く。

 ベルトコーネはそう確信していたのだ。

 

「俺はまだ終わらんぞぉ!」


 グラウザーの頭部への痛烈な一撃を確信しつつベルトコーネは叫んでいた。確信が勝利の実感となるはずだった。だがそれに対して返された言葉は、誇りある拒絶である。

 

「そうは行くか!」


 グラウザーの叫びがこだまする。それと同時にベルトコーネを襲ったのは強烈な力で引き止められた蹴り足だった。ベルトコーネの右足を何かが捉えてその動きを否定している。それは見間違いでも錯誤でもない。ベルトコーネを捕縛していたの物――

 それはベルトコーネの周囲からくまなく張り巡らされた、超微細で視認の困難な単分子ワイヤーの群れである。

 単分子ワイヤーは周囲の建築物の構造を巧みに利用し、まるで獲物を捉える蜘蛛の巣のようにインビジブルな罠を張り巡らせていたのだ。そのワイヤーの元を辿っていけば、そこにあったのはグラウザーのアーマーギアの両指であった。センチュリーが自ら囮になりながら、この瞬間のためにベルトコーネの攻撃を引き込みつつ、単分子ワイヤーの群れに敵を捉えることを画策したのである。

 そしてその企みは今まさに成功したのだ。

 

「ベルトコーネ! お前はここで終わりだ!」


 グラウザーの怒りの叫びが轟く中で、漸くに晴れてきたベルトコーネの光学視界は、彼にもたらされた現実は残酷に伝えていた。縛り上げられていたのは右足だけではない。左足、左腕、右腕、頭部、胴体――その全身は余すところなく目に見えないほどの単分子ワイヤーによって固定されていたのだ。

 

「アーマーギア特殊装備、超高強度単分子ワイヤー『タランチュラⅡ』――トラップ展開成功、治安維持抵抗対象拘束完了!」


 そして、拘束の完了を確信して、ワイヤーを指先から切り離す。

 

「さぁ、裁きの時だ。ベルトコーネ!」


 そしてそれは断罪の権利を有した法的執行者だけが宣言することのできるキーワードである。

 だがそれに対してベルトコーネが抵抗を試みるのは当然の行動であった。

 

「こんなワイヤーなんぞ!」


 そうだ、この程度の単分子ワイヤーなどこれまでに何度も引きちぎってきた。慣性質量制御を駆使して何度も断ち切ってきた。今度もそうだ。少しづつ着実に千切ってしまえばいい。俺にはそれができる――

 ――ベルトコーネは内心でそう確信を抱いていた。ワイヤーを引きちぎろうと全身に力を込めて慣性質量制御を局所的に何度も発動させる。対象範囲を極小化して〝力〟を加えることで、慣性質量制御の威力を〝切断力〟にする事も可能なのだ。

 アラブ系住民の襲撃部隊の鋼材攻撃――

 ラフマニの単分子ワイヤー――

 それらから逃れたのは全てこの慣性質量制御を駆使しての事である。

 それらの再現とばかりに能力を講師する。だが、ベルトコーネはすぐに異変に気づくことになる。

 

「無駄だ」


 グラウザーの声が聞こえる。

 

「お前の能力で簡単に千切れるような単分子ワイヤーじゃない!」


 冷静に、冷酷に、グラウザーは告げていた。腰の裏に備えていた銃型ツール【MFバスター】を展開するとその銃口をベルトコーネに向けて突きつける。

 

【 特攻装警第7号機・武器管制システム   】

【 銃型多機能兵装 《MFバスター》    】

【 機能#3:カーボンフレシェット     】

【 >モード起動              】

【 >超高強度カーボンフレシェット弾体   】

【                高速生成 】

【 >同完了、電磁カタパルトスタンバイ   】

【 >射出トリガー信号〝待機〟       】


 MFバスターの銃口がベルトコーネの頭部を正確に狙い定めていた。

 

「それは僕達の体を作り上げた技術者たちが、治安の回復と平和への願いを込めて、丹精込めて作り上げた世界で最高強度の単分子ワイヤーだ。熱・電磁波・超音波・酸・アルカリ、あらゆる外的要因に耐えうるように何度も何度も失敗を重ねながら作り上げた物だ! 暴力の行使と蔓延を望むキサマの汚れた力で断ち切れる代物じゃないんだ! おとなしく観念してスクラップになれ! ベルトコーネ!」


 このテロアンドロイドがこの地に至るまでに何度も何度も繰り返された暴力とテロと殺戮、それは止まること無くさらなる犠牲者を望むのだ。ならば今度こそ断罪して全て葬り去るべきだ。そうグラウザーは確信していたのだ。

 

「おっ、おのれぇ! グラウザー! キサマぁ!!」


 ベルトコーネの口から怒りの言葉が解き放たれる。そして諦めること無く全身を駆使しての抵抗がなおも続けられていた。終わらない。戦いはなおも終わらない。まさに不毛としか言いようのない結末である。

 グラウザーはその状況に、内心忸怩たる思いを抱かずにはいられない。何時になったらこの世界は平和と安息に満ちるのだろう? と――

 だがその時、センチュリーから体内回線経由のメッセージが入感する。

 

〔グラウザー、気をつけろ!〕

〔兄さん?〕


 グラウザーが問い返せばセンチュリーが深刻そうな声で告げてくる。センチュリーは自らの視覚センサーで得られる情報の全てからその答えを導き出していた。

 

〔単分子ワイヤーにダメージが発生している。何本か切れそうになってる。時間の問題だ〕

〔まさか?〕

〔そのまさかだ、コイツ、ワイヤーが外部衝撃を分散する構造になっている可能性を考慮して、極小化された慣性質量制御を2つ――いや4つの異なる方向へと同時に発生させて確実な切断を行おうとしている。俺の高機能視覚センサーで得られたデータを分析した結果だ。間違いない。いずれは切断される! 同じことの繰り返しになる!〕

〔なんてやつだ!〕

〔あぁ、ここまで厄介な特殊能力にお目にかかったのは俺も初めてだぜ! こんなもんどうやってお終いにしたらいいのか――キリがねぇ!〕


 吐き捨てるような口調でセンチュリーが告げている。如何にして終結させればいいのか、如何にして終わらせればいいのか、まさに決定打を欠く状況だった。

 二人の特攻装警たちが途方にくれていた。

 まさにその時――、二人の会話に割り込んできた声がある。

 

〔心配ない。これで終わらせられる〕


 それはあの〝神の雷〟だった。それはまさに待ちに待った知らせだった。

 

〔ここからは私がやる〕


 そう告げる言葉は何よりも力強さと気高さに満ちていた。センチュリーはシェン・レイに思いを込めて告げる。

 

〔頼んだぜ――神の雷〕


 その言葉に込められた思いを耳にして、シェン・レイは無言のままセンチュリーやグラウザーに視線を送る。それと同じタイミングで振り向いた二人に、シェン・レイははっきりと頷いて答えたのである。

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