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第1話 ナイトチェイス/支援部隊

〔センチュリーは?〕

〔現在、重武装サイボーグと交戦中! 制圧はまだです!〕


 無線音声越しに、センチュリーの苦戦が何よりも伝わってくるのがわかる。

 こうしている間にも消耗は警察側のほうが増えて行くだろう。たとえどれだけ被害者を出しても逃げおおせればいい連中と、絶対に殺さず、可能な限り傷つけずに犯人逮捕を行わればならない者たちとでは行動に差が出るのは当然だった。

 どうすればいい? どう判断すればいい?

 県警への応援は求めた。だがそれには、まだ到達まで時間がある。

 一気にゴリ押しするか? だがそれには、なによりも威力不足だ。なにより今以上に負傷者の発生が避けられない。

 しかしこのままでは間違いなく逃走される。その手段はまだ判然としない。だが志賀には長年の経験から解ることがあった。

 

「連中、まだ手の内を隠しているような気がする」


 漠然とした――、それでいて確実な不安が襲い来る中、志賀へと届いてきたのはセンチュリーの声だった。

 

〔奴らの行動が読めたぞ!〕

〔なに?〕

〔連中、西公園地下の駐車場から逃走する気だ! はじめから逃走用車両を用意している! 地下駐車場通用口階段に向かおうとしている! 銃撃戦の対応は俺がやる!〕

〔分かった! 退路遮断はこちらでやる!〕

〔頼む!〕


 そして一旦通信を終えると、モニターの配置図面を視認しながら指示を出す。

 

〔伊勢佐木2号、加賀町4号! 地下駐車場出入り口を封鎖だ! 犯人が地下に逃走用車両を用意していた可能性が出てきた! なんとしても阻止しろ!〕

〔伊勢佐木2号了解!〕

〔加賀町4号了解です〕


 そして、モニターの中、センチュリーの位置は7人の犯人たちに追いすがるようにさらに歩み寄ろうとしていた。そのセンチュリーにガチで鉢合わせるのは、あのドレッドヘアの重武装サイボーグだ。

 そのセンチュリーを援護するように、のこる3チームの捜査員たちが拳銃の射線を確保している。もはや猶予はならない一気に畳み掛けるしか無い。志賀は県警本部の通信指令本部へと緊急連絡を送る。


〔こちら少年捜査課志賀! 県警本部へ緊急連絡! 重武装の違法サイボーグを確認! 武装警官部隊の緊急支援を要請する! 事件現場詳細はネット経由でそちらと情報共有する〕

〔こちら通信指令本部、緊急支援要請を受諾。武装警官部隊『盤古』神奈川大隊に出動要請を行います〕

〔了解!〕


 武装警官部隊『盤古』

 それは特攻装警配備以前に運用が開始された犯罪制圧目的の武装警察部隊である。

 最新鋭のハイテク装備と3つの異なる武装レベルの装甲スーツの使用を許された極めて攻撃的な思想に基づく犯罪制圧精鋭部隊だ。現状の日本警察に許された最大限の行動範囲と権限を駆使することを認められた〝プロフェッショナル集団〟である。

 それは東京都警視庁のみならず、この神奈川にも配備されている。県警本部からの要請に応じて24時間体制で常に出動可能であるのだ。


〔直ちに神奈川ヘリポートより1小隊を派遣します。情報共有を継続し派遣小隊との連絡を密にしてください〕

〔少年捜査課志賀了解! 盤古派遣小隊と連絡を確保します、以上〕


 志賀が県警本部との連絡を終えた直後だった。志賀が扱っているネットシステムのモニターにアラートが表示される。

 

【       ――報告――        】

【 盤古神奈川大隊第3小隊より       】

【 >現場到着まで3分           】


 そのアラートに続いて無線越しの声が通じてくる。

 

〔こちら盤古神奈川大隊第3小隊・小隊長網島〕

〔こちら県警少年捜査課志賀〕

〔現場西公園上空へヘリボーンにて到着後、簡易ジェットパック降下にて強襲制圧を行う。それまで何としても持ちこたえろ!〕

〔了解、速やかな応援に感謝する!〕


 通信を終えて志賀は思う。

 切り札は切った。その切り札の効果が発揮されるまで3分足らず。ならばそれまでなんとしても持ちこたえるしかない。自分自身に努めて冷静であることを言い聞かせながら現場の捜査員たちに向けてこう告げたのだ。

 

〔全捜査員に告ぐ! あと3分で支援部隊が到着する! 被害を最小限に抑えつつなんとしても逃走を阻止しろ! 全員の奮起を期待する!〕


 そして返事を待たずに通信を着ると志賀は運転手に命じた。

 

「車を出せ! 俺たちも応援に向かう!」

「了解です」


 志賀たちを載せた覆面パトカーは静かに走り出すと、制圧戦闘が行われている西公園に向けて一路走り出した。法治活動を担う警察官として悪意を持って法を犯す者を断じて認めるわけにはいかないのだ。

 

 

 @     @     @

 

 

 ドレッドヘアの黒人――。それは両腕全てを総金属義手化した戦闘サイボーグである。腕だけではない。おそらくは両足や胴体の背面部分もサイボーグ化している。本来の生身の脊椎以外にも背面部にサブフレームを設けて身体強度を強化しているのだ。両腕の金属義手に内蔵された高出力電磁レールガンをメインとした遠近両面をカバーする極めて応用範囲の広い戦闘能力を有した違法サイボーグだった。

 距離を取れば両腕のレールガンで射撃攻撃を、接近すれば絶妙な格闘スキルを交えて接近したゼロ距離射撃で攻撃してくる。離れてよし、近づいてよし、それはまさに変幻自在と呼ぶにふさわしい。

 

「くそっ! 無駄に場慣れしやがって!」


 そう叫びつつセンチュリーは眼前のドレッド男の外見を警察庁のデータベースにアクセスして検索をかける。

 

【 日本警察情報データベース        】

【 犯罪容疑者/逮捕者/重要参考人リスト  】

【 《高速画像検索》            】

【      ――スタート――       】


 センチュリー自らの目で見た映像を用いて画像検索をかける。該当する容疑者や参考人が居ないかチェックするためだ。だが――

 

【 検索結果>当該エリアにおける該当者無し 】


 その結果にセンチュリーは歯噛みしつつ男に問いかける。ドレッド男が左腕で下から上へと突き上げる掌底を、センチュリーは右腕を下から内側を経由して回転させて外へと弾き払う動きで回避しながら怒気混じりに告げた。

 

「てめぇ、いつこの国に入り込んだ!? 犯罪目当ての密入国か?!」


 可能性はある。最近、日本警察の甘さに目をつけて日本へと上陸をしようとする組織犯罪者や流れ者が後を絶たない。治安の芳しくない欧米や発展途上国から見れば、日本はまだまだマーケットとしては魅力的なエリアだ。ましてや警察が簡単に犯人殺害を行わないとなればなお魅力的だ。違法サイボーグ技術が簡易に手に入る現状では、違法武装をつけずとも安全基準を無視し強度を強化し、出力を上げれば、それだけで十分に危険な凶器の出来上がりだ。そうして生まれた犯罪の力を行使できれば犯罪利益のおこぼれに預かることは容易なことなのだ。

 ましてや世界には、安全な日本の環境では考えられないような剣呑な日常を強いられている場所はいくらでもある。たった5ドル10ドルを得るために人を殺すことなどなんとも思っていない連中は世界中どこにでも居るのだ。そう言う犯罪者気質と違法サイボーグが簡単に結びつく今日、このドレッドヘアの男のような存在は珍しくないのだ。

 センチュリーにより攻撃をかわされつつもドレッドヘア男は怯むこともない。そればかりか自信アリげに悪態すらついてくる。

 

「誰が言うかよ!」


 口汚い言葉と同時にドレッドヘア男の右足が跳ね上がる。ダブダブのジーンズの中に収まったその足は腕と同じように金属製の義足だった。ジーンズの布地越しに電磁火花が漏れているのが見える。

 

「てめえのケツでも舐めてろ! ジャップの人形野郎!」


 センチュリーは視界に入ったその右足を、自らの両の前腕を眼前で縦に構えて堪えた。

 そしてドレッドヘア男の右足がセンチュリーの両腕にヒットした瞬間。炸裂したのは周囲の誰もが目を覆うほどの凄まじいばかりの電磁火花である。

 

――ドォォオオン!!――


 鋼鉄製のハンマーのような衝撃に、おそらくは最大瞬間電圧2万ボルトはあろうかという瞬間的な高圧放電。それらが組み合わさって単なる蹴り技を超えた放電攻撃兵器と化している。電気火花のスパークが生み出す衝撃にセンチュリーも思わず弾き飛ばされそうになる。

 体勢が崩れたセンチュリーに向けて、ドレッドヘア男の右腕が繰り出される。手のひら根本に空いた電磁レールガンの発射口、そこから放たれたのは重金属が組み合わされた特性の重比重弾体だ。

 それも3連弾をセンチュリーの頸部と胸部、そして腹部へと流れる動きで撃ち放った。

 

「ちぃっ!」


 加えられた攻撃にあえて逆らわずに後方へと退くことで、ダメージを最小限に留める。行動不能に陥りそうな直接的な被害は少なかったが、それでも特製の決め弾の3発は致命的なすきを生み出すには十分だったのだ。

 

「ぐぅっ!」


 センチュリーはくぐもったうめき声を思わず漏らした。わずか数ミリの直径の弾丸とは言え、重比重金属による弾丸のゼロ距離射撃だ。体内へと浸潤するダメージは明らかだ。

 意識が飛びそうになる中、自らのメカニズムとシステムに意識を向ける。視覚的に見てもこれだけ派手な攻撃を至近距離で加えられれば多少の痛手は裂けられないはずだ。だが――

 センチュリーは意識して自らの体内システムからの報告を注視する。

 

【特攻装警身体機能統括管理システム     】

【          緊急プログラムアラート】

【>体外部高圧放電確認           】

【       [瞬間最大電圧21500V]】

【>電流値低少、絶縁状況 ―維持―     】

【>体表部被弾確認[頸部、胸部側面、腹部] 】

【>弾丸、射線傾斜角による反射       】

【             [装甲貫通無し]】  

 

 だが致命的なエラーを意味するメッセージはセンチュリーの視界の中には表示されてはこなかった。

 

「高圧放電に重比重弾丸の固め打ち――、違法サイボーグ相手にゃ想定内だ」


 ノーダメージとは行かないが、戦況を不利にするほどのダメージでは無かったのだ。


「生憎だな」


 こんど悪態をつくのはセンチュリーの番だった。

 

「そう言う派手なパフォーマンスだったら――」


 離された距離を一気に詰めようと、センチュリーは己の脚底部に備えられた金属製のダッシュホイールへと力を込める。左足を踏み出しつつ両足のダッシュホイールを駆使しして前方へと自らの身体をはじき出す。

 さらに左足を踏みしめ、同時に腰の後ろに収納してある彼専用の特殊ツールをとっさに引き出す。それは最大で数十mを超す長さの特殊ワイヤーでありセンチュリーにしか使いこなせない代物である。

 

――ダイヤモンドセラミックマイクロマシン能動連結ワイヤー『アクセルケーブル』――

 

 ダイヤモンドセラミック製の微細なマイクロマシンアクチュエーターをカーボンフラーレン製の超高強度ワイヤーを芯材として連結しケーブルを構成、アクチュエーターが作動することでケーブル自らが形状や形態や機能性を変化させる特殊攻撃ツールである。

 巻きつき、打突、障害物回避、はてはチェーンソーのように目標物の切断までマルチに使用可能なツールアイテム――

 それを右手で腰の裏側から取り出すと右腕を前方へと繰り出す動きそのままに巻き取られていたワイヤーケーブルを前方へと解き放つ。そしてケーブルが敵の体へと巻き付く様を想起しながら言い放ったのだ。

 

「――ディズニーランドかユニバーサルスタジオでやって来い!!」

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