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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]《ショート更新Ver.》  作者: 美風慶伍
第2章エクスプレス サイドB① 魔窟の洋上楼閣都市/グラウザー編
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Part13 神の雷/ドクター・ピーターソン

 グラウザーたちがベルトコーネに立ち向かっているその近くで行われていたラフマニの拒絶反応発作をめぐる戦いは、ひとまず終焉を迎えようとしていた。ラフマニに薬を射った元軍医のドクターは皆に告げる。


「よし、もういいだろう。坊主を開放してやれ」


 それまで屈強な男たちにラフマニは体を抑えられていた。抗拒絶反応薬の副作用で激しく暴れる事があるためだ。副作用は数分ほど続いたがそれも何とか治まっている。ラフマニの顔を伺い見ればそれまで青かったのが色味がさしている。回復に向かっている証拠だった。

 そしてドクターはローラにも声を駆けた。ラフマニの頭をしっかりと抱いていたが声をかけられて視線を向けてくる。

 

「嬢ちゃん、もう大丈夫だぜ。あとは安静にさせてりゃ明日には彼氏も元気に歩けるようになる」

「ほんとですか?」

「あぁ、この薬は効き目は早いんだ。たださっきも言ったとおり副作用がキツい。そこんところはしっかりと面倒見てやってくれ」

「はい!」


 嬉しさを隠さずにローラはラフマニに問いかける。

 

「ラフマニ? どう? 大丈夫?」

「う――あ、ローラ――か?」

「気分どう? どこか痛くない?」


 ラフマニも拒絶反応発作が治まったことに気づいてローラに笑顔で反応している。

 

「あぁ大丈夫、ちぃっと頭が痛えけど」


 そう応えるラフマニにドクターが近寄りラフマニの眼前に手を差し出した。そして二本指でVサインをつくる。

 

「坊主、これは何本だ?」

「二本」


 続いて人差し指だけを立てる。

 

「これは?」

「一本」


 続いて五指を広げると親指だけを畳む。

 

「最後だ。これは?」

「四本」

「オーケー、頭は正常だな。もう大丈夫だ」


 そう告げてラフマニの肩を叩く。視界の中に入ってきたドクターの顔を見てラフマニの口からは感謝の言葉が告げられる。

 

「ありがとうございます。助かりました」

「そう言うなって。それに礼を言われる柄じゃねえんだ。今までお前さんたちの事はずっと見ないふりしてきたからな」


 ドクターは機材を片付けながら言葉を続ける。

 

「縄張り争いに同胞意識、そんなくだらない物を山のように抱えて目の前で起きることに見ないふりをずっと決め込んできたんだ。お前さんがたハイヘイズの事もな。でもそこの嬢ちゃんが現れてからそうも言ってられなくなった。献身的に子どもたちの世話をする嬢ちゃんの姿をみて、みんな疑問を感じたんだ。このままで良いのかって。

 ガキたちに罪はないのに大の大人が知らんぷり決め込んでる。そこへ持ってきてあの〝化け物〟が来やがった。もうこれ以上は無視できなかった。街の勝手なルールなんてクソっ喰らえだ。そこで重い腰を上げて今になって駆けつけたってわけさ」


 一通り語り終えると右手を差し出し、ラフマニの身体を抱き起こしながら、こう答えたのだ。

 

「悪かったな。今まで」


 体を起こして座り込んだままでラフマニは苦笑いしつつもドクターや助けに駆けつけてくれた黒人たちに感謝の言葉を口にする。

 

「そんな事ないですよ。今日、ここに来てくれただけでも嬉しいです。見捨てられていなかったことが解っただけでも幸せっすよ」


 ラフマニの言葉を耳にしてドクターも黒人の若者たちもはっきりと頷いていた。

 

「これからは何かあったらいつでも来な。力になるぜ」


 柔和に笑う老ドクターにラフマニは頷き返していた。過去がどんなに悲惨でも、今が幸せであればそれで十分だった。救いの手がまだ残されている。それが判っただけでも十分なのだ。

 

「はい。よろしくおねがいします」


 ラフマニは信頼できる大人が確かに存在していたことを噛み締めながら、そう答えたのだ。

 そんなやり取りをする彼らのそばへと足早に歩み寄ってきた影がある。その足音に気づいたローラが振り返れば、影の主の名を口にしたのだ。

 

「シェン・レイ?」


 視界の中に映るその人物の名はこの街で知らぬ者は居なかった。

 

「なに?」


 老ドクターがローラの言葉に反応してシェン・レイの方へと視線を向ける。するとそこには確かに特徴的な姿のシェン・レイが佇んでいた。シェン・レイは片膝を突いてラフマニのそばにしゃがむとラフマニに声をかける。

 

「大丈夫か?」

「あ、兄貴?」

「遅れてすまなかった。どうやら沢山の人々に救いの手を差し伸べてもらえたようだな」

「はい――くっ――」


 ラフマニは必死に身体を起こそうとしている。それを慌ててローラが寄り添って支えていた。


「だめよ、無理しちゃ!」

「そういうわけにゃ行かねえ――礼ぐらい言わねえと」

 

 まだ回復しきっていない身体を鞭打ってラフマニは上体を起こすと周囲に目を配る。そして彼の口から出てきたのは感謝の言葉である。

 

「本当にありがとうございました」

「そう言うなって、この街では生きていくには結局助け合うしか無いんだ。お互い様だよ」


 ラフマニに若い黒人の一人が答える。

 

「その代わりと言っちゃ何だが、身体が治ったら仕事を頼まれてくれないか? まっとうな力仕事なんだが人手が足りてなくてな、使えるやつを探してる。お前なら弱音吐かずに最後までやってくれそうだしな。これも何かのきっかけってやつだ」


 柔和な笑みで屈強な身体の彼がラフマニに仕事の話を申し出ていた。これもまた人と人との繋がりが良い方へと互いを支え合いながら回っているのだ。人は互いに奪え合えば不幸になるしか無い。だが、持てる物を互いに与え合えば笑顔で生きることができるのだ。ラフマニはその申し出に笑顔で頷いていた。

 

「ぜひやらせてください」

「それじゃあとで連絡先おしえてやるよ。いつでも来てくれ」

「はい」


 二人がそんな会話のやり取りをしている脇で、シェンは老ドクターへと声をかける。老ドクターもシェンの人と成りを知っているようで真面目な面持ちで向かい合っていた。

 

「助かりました。今、拒絶反応発作を抑える薬の手持ちを切らしていましてあなたが来ていただけ無かったらどうなっていた事か。本当に心から感謝いたします。――謝謝」


 シェン・レイが告げる素直な感謝の言葉に耳を傾けていた老ドクターだったが、それに返された言葉は神妙だった。


「それなんだが――俺もあの〝化け物〟が暴れてるって聞かされた時に『あぁこれはけが人が避けられねぇな』って思ったんだ。物理的なケガもそうだが、無茶をするサイボーグ者が出て来るんじゃないかって〝勘〟が沸いたんだ。まぁ。体に染み付いた経験ってやつだ。偶然とも言うがな」


 謙遜気味に話す老ドクターにシェンはなおも語りかける。


「勘も才能のうちですよ。ドクター」


 問いかける言葉は柔和であり老ドクターを労うニュアンスに満ちていた。

 

「お噂はかねてからお聞きしておりました。東京アバディーンの黒人街に元軍医の凄腕の医師が居ると。サイボーグの救命治療においては右に出る者が居ないとか――。それはあなたですね? ドクター・ピーターソン」


 ドクター・ピーターソン――、それが老ドクターの名である。シェンの称賛の声にピーターソンが返したのは謙遜そのものである。


「何を言ってる。俺なんぞ使い古しの知識を使いまわしているだけのヤブ医者すぎんよ。俺から言わせりゃアンタの方が凄腕だ。なあ、ドクター・シェン」


 お互いにその存在は知ってはいたが鉢合わせするのはこれが初めてのようだ。老ドクターのピーターソンはシェンの身なりの異変に気づくと、それらに視線を走らせながらさらに尋ねた。見ればシェン・レイの体の数カ所に焼け焦げと同時に微細な穴が開いている。その穴の正体を戦場経験もあるピーターソンはすでに見抜いていた。


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