Part10 セイギノミカタ/序文
再び、例え話をしよう――
世界大戦のとある国、とある人種は国家の平穏を脅かす存在として捕らえられ集められ断絶される運命にあった。そして、欧州のそこかしこで命をつなぐため、死から逃れるために死に物狂いの抵抗が続けられていた。
ある者は、大陸を横断して旅をして遥か彼方へと逃れようとした、
ある者は、せめて子供だけでも救おうとかすかな望みを抱いていた。
ある者は、ドブネズミしか暮らさないような汚濁にまみれた地下下水道の中に潜んでいた
ある者は、運命を諦めとある事業主のところで働いていた。
運命の歯車は回り続ける。貪欲に犠牲者を血祭りにあげながら、運命は流転してゆく。
数え切れぬ犠牲者が世界に溢れ、誰もが絶望を抱いていた。
――もう絶対に助からない――
誰もが救いの手を差し伸べることすら諦めていた。手助けをすれば巻き添えを食うのが明らかだからだ。見て見ぬふりをした。あるいは降り注ぐ戦火の中で自分が生きることで精一杯だった。
世界の多くの人々が為す術なく運命の前にうつむくしかなかったのだ。
だがそれでも、世界には、こう叫ぶ者たちが居た。
――諦めるな――
絶望してはいけない。諦めてはいけないと、叫ぶ者たちが居た。
あらゆる艱難辛苦を乗り越え、
あらゆる距離を踏破し、
あらゆる傷害をことごとく排除して、
全身全霊、すべての力を振り絞って、
救いの手を差し伸べる者が世界には確かに存在したのである。
ある者は、母国政府からの命令を無視し、反逆罪で処罰される危険を犯しながらも、亡命に必要な入国ビザを発給し続けた。
ある者は、子どもたちを荷物の中に隠し、軍閥の目を掻い潜りながら、時には苛烈な拷問を受けながら決死の救出行を続けていた。
ある者は、軍警察の監視を掻い潜り、銃殺される危険を犯しながら、汚物の中で怯え耐える人々に命をつなぐ食料を届け続けた。
ある者は、全財産を使い果たしながらも、虐殺される運命にあった者たちを自らが営む軍需工場の工員として採用することで、死の運命から守り続けていた。
後の世の人々は彼らを指してこう呼ぶ事となる。
――正義の味方――
世界はまだ絶望しては居なかったのだ。