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第1話 ナイトチェイス/包囲網

 JR根岸線の関内駅。駅の北東側には繁華街とともに横浜スタジアムを含む公園地帯が広がっている。かたや駅の南西側一体は表通りに近い辺りには飲食店が広がり、さらに西に進むに従って風俗店が増えるようになる。

 その南西側エリアを北西に面した辺りに大岡川と呼ばれる2級河川がある。その川沿いの河口に近いあたりにあるのが周囲をビルに囲まれた立地の『西公園』である。

 その西公園を東側から西に望む位置に三角形の敷地に立つ雑居ビルがある。古ぼけた雑居ビルの屋上、そこに気配を隠しながら潜む人影がある。

 

 特攻装警第3号機――センチュリーである。

 

 濃い目の色のフード付きパーカーを目深に被り気配を押し殺す。そして眼下の公園の様子をじっと見守る。そこには3人の人影が誰かを待っているかのようだった。

 

 人影は3つ。

 

 一つは黒いレザー地の〝バイカージャケット〟に身を包んだ男で短く刈り込んだショートヘア、もうひとりが派手な赤い色の〝パーカー〟を身に着けた低い背のミドルヘア。残る一人が赤と青とイエローの派手な配色のフード付き〝ウィンドブレーカー〟を身に着けた男だ。ウィンドブレーカーの男は頭部全体をフードですっぽりと覆い、両手を指先まで黒いレザーのグローブで包んで隠している。

 その中でバイカージャケットの男が左耳に手を当てて何か会話している。イヤホンを使ってどこかと通話しているかのようだ。残る両サイドの二人が周囲を警戒している。アクティブに視線を走らせているのは赤いパーカーのドレッドヘアで、ウィンドブレーカーの男は静かに注意深くじっと遠くの方に視線を向けている。それぞれに異なる対象を警戒しているかのようであった。

 男たちのその様相を見ていたセンチュリーが呟く。

 

「バイカージャケットのヤツが指揮役か――、パーカーのやつの動きは納得できるとして、残った一人は何をしているんだ?」


 声を潜めてつぶやきながら現在状況を改めて確認する。体内回線を使ってアクセスする先は今回の作戦の指揮を執っている志賀が操作する端末のところだ。

 周辺街路のマップデータ――

 自分の現在位置――

 全捜査員の配置位置――

 捜査対象4名の現在位置――

 そしてそれに眼下に捉えた3人を加える。

 マッドドッグの4人と西公園の3人の距離は100mを切った。


 配置された捜査員は、西公園を囲むように四方に配置されている。少し離れた位置に覆面パトカーが待機し、私服捜査員が2名1組で5組、計10名が公園を取り囲んで待機している。さらに雑居ビル屋上からセンチュリーが見下ろしていて、捜査対象たちの退路を完全に断っている。

 風俗店が集中する街路を捜査対象4名が闊歩している。西公園まであと50m、脇路地を出て西公園の端へと4人が差し掛かる。それを後方から尾行しているのは伊勢佐木4号と2名の私服捜査員だ。

 志賀の指示が新たに飛ぶ。

 

〔加賀町3号、指定位置まであとどれくらいだ?〕

〔吉田町交差点側から回り込んであと20秒ほどです。停車次第、2名を突入に待機させます〕

〔よし、40秒以内に所定位置へ到達させろ。それから全員に告ぐ、捜査対象4名と追加の3名が接触次第突入する身柄を抑える。覆面パトカー乗務員は。非常事態のときには一方通行を無視して構わん。覆面ごと突入して退路を断て〕


 包囲網が敷かれ取り囲まれる中で、捜査対象となった者たちが一箇所に集まりつつあった。そして、包囲網完成を告げる連絡が続々と入ってくる。

 

〔加賀町3号、公園まで30mの位置です。覆面を待機させます〕

〔伊勢佐木4号、覆面を待機させました。私服捜査員待機完了です〕

〔伊勢佐木2号、待機完了です。突入いつでもいけます〕

〔加賀町4号も橋手前の指定位置にて準備完了です。私服捜査員も待機できました〕

〔神奈川2号から私服捜査員2名。裏路地から西公園南東側に回り込んで待機です〕


 すべての配置がこれで完了したことになる。モニター越しに全配置を把握しながら時を待ち、残る一人のセンチュリーにも志賀は声をかけた。


〔センチュリー、そちらはどうだ?〕


 志賀の声にセンチュリーは反応する。自らの視聴覚の範囲内に捜査対象を捉えたところだった。

 

【 マルチプルファンクションアイ      】

【    6モードセレクタブル視覚センサー 】

【                     】

【 モード4《X線ビジョンモード》     】

【 モード6《放射線モード拡張起動     】

【        電界電磁波分布スキャン》 】

【 スキャン対象指定:           】

【 捜査対象者7名、着衣下秘匿物探知    】

【 >スキャニングスタート         】


 センチュリーは自らの視覚センサーを切り替えると、物体透視を行うX線視覚、物体表面の電磁波の流れを視覚化する電位電磁波分布スキャンを行った。着衣の下に秘匿された不法所持物を形状と電磁波反応の両面から調べ上げる。そして速やかに逮捕の鍵となるものをセンチュリーは見つけ出した。

 

「ビンゴ! 見つけた!」


 センチュリーは捉えた映像を速やかに捜査員たちに向けて送信する。それと同時に志賀に向けて無線で問いかけた。

 

〔対象者7名、いずれも不審行動無しだ。俺達の包囲に気づいた形跡はない。それと今、映像をそちらに回したが、7名全員を俺の自然X線透視と電界電磁波分布でスキャンすることができた。そのうちマッドドッグの4名の詳細チェックにも成功した〕


 センチュリーの言葉に捜査員たちが色めき立つ。


〔それで? 結果は?〕

〔クロだ。着衣の中に拳銃型のシルエットが見える。おそらく密造の簡易型レールガンだろう。所持規制違反のナイフ形のシルエットも見える。推定長20センチクラスだからこっちもアウトだ〕


 そうセンチュリーたちが確認し合ったときだった。モニター映像の中で捜査対象の7人が一つに集まって向かい合ったのだ。

 

〔よし、全員突入準備! 反撃にも備えろ!〕


 志賀の声に全員が身構え、突入の時を待つ。着衣の中に所持していた官給拳銃のシグを両手でホールドする。そして志賀が全員に告げた。

 

〔確保!〕


 10人の捜査員と4台の覆面パトカーが一斉に進み出る。物理的な逃走路を完璧に断つ布陣だ。武器所持が確定している今、威嚇用に官給拳銃を突きつけることも怠らない。

 だれもが容疑者の確保の成功を信じて疑わなかった。ただし、一人だけを除いて――

 センチュリーは身を隠すのをやめて、屋上から身を乗り出していた。

 

「アイツ、なんだってあんなに落ち着いてんだ?」


 センチュリーが視線を向ける先には、あの極彩色配色のフード付きウィンドブレーカーを目深にかぶった男が居た。警戒すべき状況だというのにもかかわらず、相変わらず落ち着き払った様子で立ちすくんでいる。だが周囲に集まった私服警官たちが向けた銃口に気づいたのかゆっくりと両手を動かそうとしている。手のひらを広げて捜査員の方向へと向けようとしている。その仕草がセンチュリーの脳裏にとあるインスピレーションを与えたのだ。

 

「あいつまさか!」

 

 瞬間的にセンチュリーの中に不安と恐怖が沸き起こる。最悪の光景がその脳裏をよぎる。

 そもそも違法サイボーグが手袋で手先を隠すのには2つの意味がある。


 まず一つが――

 

『サイボーグであることを知られないため』


 自分がサイボーグであることを第3者に秘匿している者は少なくない。その際に正体が露見しやすいのが手や指の部分だ。人造皮膚はどんなに精密に作り上げても、生身の皮膚とは見た目や触感で大きな違いが残る。またちょっとした傷や損傷で生身でないことが分かってしまうこともある。なにより機能優先のメカニカルな義肢で合った場合、一発でサイボーグである事が分かってしまう。

 そのため医療用でも普段から手袋を嵌めている義肢使用者は少なくない。

 しかし、手袋を常用する事にはもう一つの意味があるのだ。それは――

 

 センチュリーは焦りを抑えながら作戦指揮役である志賀をコールした。

 

〔志賀さん!〕

〔どうしたセンチュリー?〕

〔私服捜査員を撤退させろ! 民間人も急いで追い払え!〕


 センチュリーの言葉に志賀は簡易コンソールを叩いて緊急コードを発する。

 

【 緊急コード:一時作戦中断        】

【 >距離を取り指示あるまで待機せよ    】


 緊急コードが合成音声で全捜査員のイヤホンに送られる。

 

〔なにがあった?!〕


 志賀からの問いかけにセンチュリーは焦りを隠さずに緊迫感を伴いながら叫んだのだ。

 

〔重武装タイプの違法サイボーグだ! 私服の下に着込んでるボディアーマーなんぞ蜂の巣にされる! 誰も前に出るな!〕


 もう一つの理由。それは――


『殺傷性の強い違法ハイテク兵器を内蔵しており、決して人目に晒せない場合』


――である。

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