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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]《ショート更新Ver.》  作者: 美風慶伍
第2章エクスプレス サイドB① 魔窟の洋上楼閣都市/洋上スラム編
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Part9 覚悟/ラフマニ

 立ちすくむと彼らの戦いをじっと見つめている。そして、その視線はベルトコーネの方を向いている。沈黙したままのラフマニの姿に不安を感じたローラはそっと問いかける。

 

「ラフマニ?」


 ラフマニのその姿から伝わってくるのは単なる傍観ではない。それはなにか深い思案のもとに決意を固めつつある男のシルエットだ。ローラは知っている。これまでの戦いの日々の中で使命を背負い、任務を背負い、困難へと立ち向かおうとする者が宿す〝力〟の様な物がにじみ出ている。

 ローラはその力の正体を知っていた。その力につけられた名前をこう呼ぶ。

 

――覚悟――と。


 つぶやくような、それでいてよく通る低い声だ。ラフマニはオジーに告げた。

 

「ローラとガキどもらを頼むぞ」


 その言葉の意図をオジーは気付いていた。

 

「お、おい! まさか〝アレ〟を使う気じゃねえだろうな?」


 ラフマニは両足のブーツを脱いでいく。素足だと思われた両足は常人とは異なるものだった。彼の両足に秘されていた物を目の当たりにしてローラが驚きを声にする。

 

「ラフマニ――それ、やっぱり?」


 ローラが見たもの、それは金属製の義足である。それも両足だ。そして上着のレザージャケットの右袖をまくり上げれば、そこから現れた右腕も作りものであることにようやく気付かされた。人工皮膚が張ってあり生身の腕と一見して大差ないが、よく確かめれば接合線のような物が表面に走っているのが確認できる。

 

「あぁ、昔の話だが、車に轢かれて両足をやられた。右腕はショットガンで撃たれて吹き飛ばされた。この街じゃそう珍しい話じゃねえ。そのたびに兄貴に助けてもらった。両足には加速用のブースター装置が、右腕には超高精度の単分子ワイヤー装置が仕込んであるんだ。コイツをフルに使えればなんとかなるかもしれねぇ」


 淡々と告げるラフマニだったがオジーはその背中に強く叫んだ。

 

「バカ言うんじゃねえよ! ローラやさっきのアラブの人たちが全力であたってもどうにもならなかった相手だぞ! ましてやお前の身体はむちゃすれば拒絶反応の発作が人より強く出るってシェンの兄貴も言ってただろう! 無理の利く身体じゃねえのはお前自身がわかってるはずだ!」

「でもこれしかねえだろうが!!」


 オジーの怒りが親友であるラフマニの身を案じるが故の事であることは誰の目にも明らかだ。だが、それで引き下がるラフマニではなかった。

 

「もうオレがやるしかねえんだよ。いいか? アイツがこのまま諦めるはずはねぇ。他の大人たちの手助けも期待できねぇ。あの戦場経験のあるあのアラブ系の人達でさえアレで精一杯だったんだ。兄貴もこのままじゃ間に合わねぇかもしれねぇ。今この場でアイツを足止めしておかねぇとガキどもを逃がすチャンスすら無くなる! 今しかねえんだよ!!」


 オジーに背中を向けたままラフマニは叫んだ。そしてそこには一命を賭して〝家族〟を守ろうとするリーダーとしての責任を自覚した者の姿が在ったのだ。その背中にローラが問いかける。

 

「ラフマニ――、ゴメン――」


 ローラの声は半ば涙声だ。だがそれに答える声は優しかった。

 

「ばか、なに謝ってんだよ」

「だって、アタシのせいでこんな酷いことに」

「ソレは違う。誰もお前を悪いとは思っていねぇ。それにお前は全力でやつと戦い、そして残った力をカチュアを救うことに注ぎ込むと選んだんだ。その選択は間違っちゃいねぇ」


 静かな声でラフマニは言い切った。そこには若いながらも家族を愛している者だけが表せる力強い優しさが在った。軽く振り向きローラに視線を向けながらラフマニは告げた。

 

「それに〝女〟のお前にばかり戦わせていたら〝男〟の俺のメンツが立たねえだろ? こう言う時くらいカッコつけさせてくれよ」


 その時のラフマニの顔は笑っていた。それはあのクリスマスの雪降る夜に、降りしきる雪から守ってくれた時のあの笑顔だった。そして、ラフマニは静かに歩み寄ってくる鋼の拳魔に視線を向けた。

 

「じゃぁ、オジー。あとは頼んだぜ」


 それを耳にしてオジーはぐっと唇を噛み締めた。そして己の非力さを悔やんだ。悔やみつつも今成さねばならないことは分かっているつもりだ。

 

「あぁ、ローラとチビ達は必ず逃がす。それとラフマニ――」

「―――」


 オジーが一呼吸置く。そして、ラフマニは沈黙して背中でその言葉を受け止めた。

 

「死ぬなよ」


 言葉はそれ以上は無用だった。かすかに頷いてラフマニが走り出す。ローラはその背中をただ見守るしかできなかったのである。

 

 

 @     @     @

 

 

 ラフマニが歩いた先に、ベルトコーネに投げすてられたアフマドが横たわっていた。敵との距離を推し量りながらラフマニはアフマドに話しかける。

 

「おじさん、大丈夫か?」


 かけられた声はたどたどしいながらもアラブ系の基本言語であるアラビア語だ。アフマドは瀕死に近いながらもなんとか一命をとりとめていた。だが、起き上がることすら無理だろう。顔だけをなんとか動かしてラフマニの方へと視線を向ける。

 

「お、お前――は?」

「ラフマニ、ハイヘイズのガキたちの〝頭〟だ」

「君が――? そうか君がか――、君の噂は聞いていた。パキスタン人の血を引く少年が孤児たちをまとめていると――そうだ、我々は君に謝らねばならん」


 アフマドは苦しみながらもラフマニに微笑みかける。

 

「俺達は逃げていた。現実から、運命から、戦士としての誇りから――、そしてそれを正当化するために似た者同士で固まり合い、少しでも毛色の違う者を拒み続けた。混じり者と蔑み、異教徒扱いして石持て追い払い続けてきた。それが間違いだと心のどこかで気づきながらも――」


 二人のもとへベルトコーネが近づいてくる。それを警戒しながらラフマニはアフマドの言葉に耳を傾け続けた。そして自分の義手・義足に備わった戦闘プログラムを中枢神経を通じて起動させる。右手と両足がかすかな電子音を立てはじめている。

 

「だが、君とともに暮らすあのローラを見守り続けるうちに、自分たちの醜さ愚かしさに気付かされた。成すべきことを成さずに俺達は逃げていると、そして人として持たねばならない〝慈悲〟の心を何処かに置き去りにしてしまったことに――、君たちハイヘイズの子らを疎んじ排斥し邪魔者扱いしてきたのは我々だ。あの街に住む全ての者たちだ。謝っても謝りきれるモノではない。俺達の事をさぞや恨んでいるだろう。俺達は卑怯者だ、本当にすまない――」


 アフマドの語る言葉に嘘偽りはなかった。苦しげな吐息の中に悔しさと後悔が入り混じっているのが手に取るように伝わってくる。目をつぶり唇を噛み締めているアフマドに、ラフマニは力強く答える。


「でも皆さんは、俺達のことを助けに来てくれました」


 そしてラフマニはアフマドの右手を握りしめながら語りかけた。

 

「それだけで十分です。ここからは俺がやります、ここで見ていてください」


 その言葉を残してラフマニは立ち上がる。そして、起動準備を済ませておいた戦闘プログラムを作動させる。

 

【 義肢内蔵型特殊装備・統合制御プログラム 】

【 両脚下腿部内⇒             】

【  高電磁イオン反応炉心ブースターユニット】

【 右腕部内⇒               】

【  超高純度単分子ワイヤー高速生成ユニット】

【 起動完了、同、作動開始         】

【 1:ブースターユニットイグニッション  】

【 2:単分子ワイヤーユニット       】

【            予備生成スタート 】


 ラフマニの両足に内蔵されたブースターユニットが作動を開始する、太ももの中ほど辺りから大気を吸い込み、それを両脚部の各部から青白い光とともに噴き出していく。濃厚なイオン化ガスのジェット流だ。

 そして、右手の表面に貼られていた人造皮膚が義手内部から発せられる熱でひび割れ、急速に剥がれていく。単分子ワイヤーの生成ユニットが作動を開始しためだ。


「奴は俺がやります。その間になんとか逃げてください」


 ラフマニはアフマドを背中に守りつつ構えを取ってベルトコーネに対して立ちはだかっていた。一歩も引けない、悲壮なまでの覚悟を宿している。その背中にアフマドは声をかけた。それは同情でも謝罪でもない。戦いに赴く者を祝福し称える言葉だった。

 

「ラフマニ――」


 その声にラフマニがかすかに振り向く。その視線を受けてアフマドが告げた。

 

「君にアッラーの祝福があらんことを願う」


 その言葉を胸に刻みつつラフマニは頷いた。無言のまま答えかえす視線には感謝の気持ちが現れていた。


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