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第1話 ナイトチェイス/予感

 神奈川県警の捜査員たちが散開する。各々に捜査対象を補足する。覆面パトカーや捜査員の襟元に設置された小型カメラの映像がネット経由で集められ、それが指揮をとる志賀やセンチュリーへと流されていく。そこにはあの4人の若者の姿が映し出されていた。

 

 サブリーダーの松浜を始めとして、平戸・大鳥・平片――

 いずれもが逮捕歴や補導歴を持ち、殺伐とした毎日の中で人を傷つける事になんのためらいも無い堂々たる触法青少年である。

 かたや志賀は、覆面パトカーの後部席にて助手席シートの後ろ側に設置された複数の液晶モニター経由で状況を把握している。デジタル映像によるリアルタイムの現状把握、そしてそれを元にした的確な指示。最新のネットメディア技術を背景とした最新鋭の捜査方法がここにはある。

 今回投入された捜査員は県警から志賀を含め4名、担当管轄として伊勢佐木署から8名、隣接する所轄の加賀町署から応援としてさらに8名が参加している。これにセンチュリーを加えて総勢で21名となる。

 捜査対象となる4人の姿を街頭カメラが捉えている。いずれも一塊となり何処かへと移動している。その姿を肉眼で視認している捜査員から報告が上がる。

 

〔こちら伊勢佐木4号。捜査対象4名確認。現在、福富町西通交差点から、西公園方面に向けて4名で移動中。今のところ異常無し〕

〔こちら加賀町3号、こちらでも視認しました。私服捜査員2名をこれより別動で尾行させます〕


 音声による報告を得て、志賀警視は液晶モニターの映像と照らし合わせた。襟元の小型カメラ映像とともに、精密GPSによる位置情報も得られている。それを元にさらに指示を下した。

 

〔こちらでも補足した。退路を断つように各自回り込め。伊勢佐木2号は福富町西通を川沿いから、加賀町4号は都橋交差点付近で待機し、私服捜査員2名を別動で回り込ませて公園付近にて待機だ〕

〔伊勢佐木2号了解〕

〔加賀町4号了解です。私服捜査員を別動させます〕


 志賀は報告を聞きながらモニターに移るマッピングデータと各種カメラ映像に見入っていた。

 

「奴ら――どこに行く気だ?」


 志賀が呟けば同じ映像をネット経由で視認していたセンチュリーが無線音声で口を挟んだ。

 

〔志賀さん、おそらく西公園だ。あそこはガラの悪いガキどものたまり場になってる。その付近で誰か他に待ち合わせ対象になりそうなやつが居ないか調べさせてくれ。俺も西公園の状況を把握できる場所に移動中だ〕

〔わかった。くれぐれも悟られるな! 伊勢佐木2号、私服捜査員を送って西公園の状況を調べろ〕

〔伊勢佐木2号了解です〕


 そしてさらに万全の対策を取る。県警の覆面2号車に同乗している捜査員にも指示を出す。

 

「よし、暗視カメラドローンを飛ばせ。そののちこちらからも2名、西公園へ向かえ」


 志賀の乗る覆面パトカーに同乗していた者の中から2名が降りる。そして夜間目立ちにくいこげ茶色に染められた小型の静音型ローターの空撮ドローンが放たれる。そして志賀はモニターに注視しつつさらに声をかけた。

 

〔特攻装警3号、現在位置は?〕


 問いかける対象はセンチュリーだ。

 

〔こちら特攻装警3号、現在西公園に隣接する雑居ビルに来ている。屋上に侵入して公園に隣接する側から現状を確認している〕


 夜間は、不良少年たちがたむろしていると言う西公園、そこを見下ろす位置にマンションと複合した雑居ビルがある。その公園側には開放型の廊下があり、そこから眼下を見下ろすことが可能だ。センチュリーらしい先を見越した立ち回りである。

 カメラ越しでは得られる情報には限りがある。直接に肉眼で確認するほうがより正確な情報が得られることもあるだろう。志賀はセンチュリーに問いかけた。

 

〔それで現状は?〕

〔民間人と思われる酔客が2名ほど居たが、フード付きパーカーやレザージャケットを着たいかにもって奴らが3名入ってきて手荒く追い払われた。その3名のうち1名が手袋までしっかり嵌めてて素肌を露出させていない。どう見てもカタギの人間じゃあねえな。顔は直接視認できないが違法サイボーグで間違いないだろう〕


 センチュリーはアンドロイドである。当然ながらその視聴覚能力は人間を遥かに超える。離れた地点の光景を望遠鏡並みに視認することも可能だ。


〔違法サイボーグ? スネイルか?〕 

〔いや、確定はできない。この界隈でも違法サイボーグが何名か検挙されているはずだ〕

〔確かに――、先月も違法サイボーグがらみの抗争事件が起きている。その件はまだ別動で捜査中だ〕

〔それは俺も知ってる。それにだ。ベイサイド・マッドドッグはメンバー増強を図っているとの情報もある。そのための新規メンバー勧誘の可能性もある。マッドドッグの4人と新規メンバーの接触とも考えられる。どうする志賀さん? 先回り身柄を抑えるか? やつらは今しがた酔客を追い払った時に相手を殴っている。映像情報は俺が記録したから傷害で拘束できるぞ?〕


 センチュリーはアンドロイドである。自らが視認した映像や音声は必要に応じて証拠として外部提供可能だ。アンドロイドならではの機能と言えるだろう。空撮ドローンが西公園上空に到達したのだろう。志賀のモニターにも西公園の様子が映し出された。

 

「こいつらか」


 映し出されたのはレザージャケットを着た男が1名、パーカーを着た者が1名、よく目立つ極彩色のフード付きウィンドブレーカーを着込んだ男が1名。そのうちウィンドブレーカーを着込んだ男が手袋をはめフードを目深にかぶっているのが見えた。

 そしてさらに通信が割り込んでくる。

 

〔こちら伊勢佐木2号別動、西公園状況ですが、新たに現れた3人以外に人影はありません。一般民間人、組織構成員、いずれも無しです〕

〔分かった。気づかれぬように一旦下がって突入に待機だ〕

〔了解、待機します〕

 

 志賀は報告を聞きながらドローンからの映像を眺めつつセンチュリーの言葉に対して判断を下した。

 

〔センチュリー、そのまま待機してくれ。マッドドッグの4名が逃げる可能性は少しでも減らしたい。あくまでもメインはマッドドッグの4人だ。ただし監視は続行してくれ。トラブル発生時の対応はそちらに任せる〕

〔了解、何かあったら連絡する〕


 センチュリーがそう告げて通信を切る。残された志賀はモニター越しに得られた情報と、地図情報にマッピングされた配置データーを元に状況をつぶさに見守っていた。

 予想外の人間が捜査現場に姿を現すことは別段珍しくはない。だが――

 

「嫌な予感がする」


 志賀は青少年犯罪の現状に向き合ってきたその経験から思わずつぶやいてた。理屈ではない。長年の経験から起因する〝虫の知らせ〟と言うやつだ。

 データと情報だけでは犯罪捜査が進まないのは今も昔も変わらない。刑事としての現場での直感が重要な鍵となるのは珍しくない。それ故に志賀は己の脳裏に湧いてきた不安を無視することはできなかったのである。

 その時、現場の捜査員から報告が上がった。

 

〔こちら伊勢佐木4号、捜査対象4名、西公園まで100mほどです。サブリーダーの松浜がスマートホンで会話しています〕

〔会話内容は聞き取れるか?〕

〔だめです。遠隔マイクを使いましたが音声が小さすぎて周囲のノイズに紛れてしまいます〕

〔くそっ、盗聴対策の特殊会話技法か、ガキのくせに無駄に場馴れしおって!〕


 誰かに聞かれることを防ぐため、小声で的確に通話相手に声を伝えるためのテクニックがある。〝秘匿話法〟と言うやつである。未成年とは言え犯罪キャリアを重ねていることがはっきりと分かる。


〔そのまま追尾を続行しろ〕

〔了解〕


 そして志賀は全員に告げた。

 

〔神奈川覆面1号から全捜査員に告げる。捜査対象が移動する先と思われる西公園に、違法サイボーグを含むと推察される3名が新たに現れた。マッドドッグの4名と接触する可能性がある。非常戦闘の可能性も出てきた。全員そのことを留意してくれ。くれぐれも民間人に被害が波及することだけは絶対に避けろ! いいな!〕


 志賀が告げれば、全員から了解の意思を告げる声が上がる。そしてそれを締めるようにセンチュリーが答えたのだ。

 

〔志賀さん。その時は俺が出ます〕


 それは危険な現場の矢面に立つことを義務付けられた警察用アンドロイドであるがゆえの言葉だった。志賀はそれにこう答えたのだ。

 

〔頼むぞ、センチュリー〕


 全員の認識の中に強い緊張がうまれていた。これから先、何が起きるのかわからないのだから。

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