X7:X-CHANNEL・エントランスエリア/旅立ちと始まり
そこはX-CHANNELの入り口である。
――メインエントランスフロア――
ペロとベルが待ち合わせていたあのフロアである。
多くのアクセス者が希望する会議室へと直接向かってしまうので、そこに訪れるのは〝二つの人間〟しかいない。
すなわち――
〝待ち合わせる者たち〟と、
〝見送る者たち〟である。
ベルは今、ペロに見送られたようとしていたのである。
ほの明るい光に包まれたフロアの中でふたりは対峙していた。
ベルはペロに、感謝の言葉を述べたのである。
「本当にありがとうございました」
それは素直な、そして率直な、心からの感謝の言葉である。
ベルは感謝の理由を口にする。
「今までずっと、心の中でもやもやと絡んでいたものが取れたような気がします」
彼女の言葉を耳にしつつ、ペロはベルに問い返した。
「学校を辞めてからのことだね?」
「はい」
ベルは元気よく返事を返した。
「〝理不尽〟に踏みつけにされて、苛立って、後先も考えずに突っ走って、どうしていいかわからなかったけど、今日ここに来てこれからの自分がどう進んで行けばいいのか少しわかった気がします」
今日彼女が、この巨大サイトで垣間見たものは世の中のほんの一部でしかない。でも――
ペロはベルの言葉を肯定するように頷いた。
「そうだね〝知らない〟ということと〝知っている〟ということではあまりにも大きく違う。たとえほんの少しでも自分自身の目の前を遮っているものの正体を知ることができたのなら、人はそのためにどう抗えばいいのか考え、そして行動することができるんだ」
ベルは、ペロの語るその言葉を神妙な面持ちでじっと聞き入っていた。その視線を受け止めながらペロはさらに語った。
「僕がここで君にしたことは単なるおせっかいかもしれない。でも、君がそこから〝新たな可能性〟を掴むことができたなら僕はそれだけで十分だよ。だから――」
そう語りながらペロは両手を差し出しながらベルに歩み寄る。そして彼女のその手をそっと握りしめる。
「また道に迷ったら、いつでもおいで」
猫貴族のペロはあいも変わらず穏やかに微笑みながらそう告げたのである。
そこはネット上の仮想空間であり、ふたりは仮想的に作られたアバターでしかない。
どんなにその手を握りあっても温もりは伝わらず、ヴァーチャルグローブを通じてわずかに再現された接触圧力しか知ることはできない。でもベルを演じている倫子の心の中には〝ペロの中の人〟の心が発した温もりが確かに伝わっていたのである。
その時ベル=倫子は、ある事実に気付いたのである。
「ペロさん、私気づいたことがあります」
「なんだい?」
彼女の唐突な言葉に驚きをにじませながらペロは相槌を打つ。そこにベルは言葉を続けた。
「〝テクノロジー〟を介していても〝温もり〟と〝思い〟は伝わるんですね。そう多分――、だから〝あの人たち〟は人間の社会の中でも警察と言う難しく重い仕事をやっていけるんだと思います」
彼女が語る言葉が何を意味しているのか、ペロはすでに理解していた。
「〝特攻装警〟だね?」
特攻装警――アンドロイドの警察官、
誰もが一度は否定した存在であった。だが彼らは着実に社会の中に根を下ろしているのを二人は知っていた。
ぺろの言葉に、ベルははっきりと頷いた。
「正解だ。正しく向き合うのなら〝テクノロジー〟にも心は宿るんだ」
「はい」
おそらくそれがペロがベルに伝えたかったことの一つなのだろう。ベルもペロの手をしっかりと握り返していた。
「さあ、夜も遅い。家に帰る時間だよ」
「はい、それじゃ失礼いたします」
丁寧に別れの言葉を口にしながら、ベルはペロの手を放して、そこから歩き去っていったのである。
猫貴族のペロはそのシルエットをじっと見守っていたのである。
















