プレストーリー 滅びの島のロンサムプリンセス/『俺と一緒に来いよ』
崩れ落ちるように地面に膝をつき両手で頭を抱えこむ。そして、地面に伏せると自らを取り囲む全ての現実から目を背けるように地面へと這いつくばる。
「いやぁあああっ!!」
悲鳴をあげ恐慌をきたしてしまったローラ、その姿をクラウンは困惑しつつ見つめる。だが、語りだした言葉はどこか覚悟していたかのようにも聞こえる。
「やはり、こうなりましたか……」
大きくため息をつくクラウンにラフマニが問いただす。
「どう言う意味だよ?」
「どうもこうもこれが現実ですよ」
クラウンは両手を広げて上に向けると肩をすくめる様な仕草をする。
「これが予想されたからわたしは彼女をどこにも出したくなかったんです」
「出したくなかった――って? 表に出したからこうなるのかよ?」
「そうです」
ラフマニはクラウンに尋ねながら怯えのまっただ中にあるローラを抱きおこす。すると抱きおこされたローラはすぐにラフマニに抱きついてくる。それは明らかに好意からではない、怯えと恐れから逃れたいがための救いを求めるが故だ。それをラフマニは拒めなかった。今、彼女を受け止められるのはラフマニにしかいないのだ。
かたやクラウンは、ラフマニの問いを肯定した。だが、それ以上の事は何も語ろうとしない。ラフマニの近くへと歩み寄ると、片膝をついて目線をおろして2人を見守るだけだ。
「なにがあったんだ? コイツ、何を背負ってるんだよ? 昔、殺しをしてたって言ってたけど、それ関係あんのか? なぁ、教えてくれ!」
ラフマニは必死に叫んだ。だが、クラウンは顔を左右に振るばかりだ。
「それはお教えできません――」
「え?」
「彼女には秘密があります。誰にも決して明かせぬ秘密です。そして、彼女自身も知らない過去もあります。今、彼女を苦しめているのはそれらの過去と秘密なのです。それを明かせば彼女はもとより、彼女の回りにいる人々も巻き添えとなり悲惨な出来事が起こるでしょう。大変不親切な説明になりますが、今はそうとしかお伝えすることが出来ないのですよ。少年――」
驚き戸惑うような表情のラフマニ。そして、怯えと恐れと体の中から湧いてくる嫌悪に翻弄されているローラ。その2人を見つめながらクラウンは立ち上がった。そして右手を再び差し出した。
「さ、今ならまだ間に合います。彼女をこちらに返してください」
その言葉に威圧は無かった。ただ事実を伝え、ローラと共に暮らすことがいかに困難であるかを説得しているだけだ。ラフマニは思案する。そして、ローラの顔を覗き込むようにして語りかける。
「ローラ。聞いてくれ」
優しい語り口、無理矢理に意思を伝えるような強引さはない。静かに訥々と打ち明けるように囁きかける。
「俺、出稼ぎで中近東あたりから出てきた不法外国人の息子でさ、親父の顔は一度もみたことねえんだ。母親は日本人なんだけど俺を適当に産み捨てるとこの街の入口に捨ててった。親切なブラジル系のストリートガールが拾ってくれて俺を育ててくれたんだけど、おれが10の時に風邪をこじらせて呆気無くイッちまった。それからは生きていくために考えられる悪いことはなんでもやった。正直言うと俺も人を二人殺している。一度目は理由なく殴られて殺されそうになった時、二度目はどうしても金が欲しくて強盗した時だ。どっちもこの街の中のことだから警察とかにはバレてねぇが、未だに夢を見る。そして後悔している」
そこまでラフマニが語った時、ローラの怯えと震えが少しづつ治まってきていた。そして黙したままラフマニの言葉に耳を傾けていた。
「一度自分の手を犯罪で汚すと決して消えない。たとえ手は血で汚れてなくとも、心のなかにはあの時のドス汚れた自分が居て、今の自分をいつまでも追いかけてくるんだ。おそらくいつか、俺はあの時の報いを受けるだろう。捕まるかもしれねぇ、殺されるかもしれねぇ。どっちにしろひどい目には合うだろうさ。でもな、たとえそうだったとしても俺は逃げない。詫びるつもりもない。その時はその時だ。あの時はあの時だ。あの時の俺はその時点では自分で出せる精一杯の答えを出して、それであの程度だったんだ。それなら――〝今〟を――、そして〝明日〟を――、満足なものに出来るように俺は出来る限りの力を絞り出して生きてやる。満足できたことなんて一度もないさ。でも、そうなるようになんでも必死に死に物狂いでやれば、少しづつでも笑って暮らせるようになる。だからな――」
ラフマニはローラを強く抱きしめた。両肩から背中へと手を伸ばして抱え込み、そして、精一杯の力でローラのその小さな体を抱きしめたのだ。
「明けない夜はねぇ。お前も諦めんな。毎日少しづつでも、笑って生きれるように積み重ねればいいんだ。今は泣きたいだけないていい。いくらでも付き合うからよ」
ローラはラフマニの言葉に頷いていた。そして、己の気持ちを素直に言葉に乗せてラフマニに送る。それはクラウンでも予想だにしなかった言葉であった。
「あたしにも出来る?」
「できるさ」
「作り物のからだのあたしでも?」
決して明かせぬ自分自身の素性の一旦。その言葉はそれを明らかに語っていた。ラフマニはその言葉を耳にしても決して問いただしはしなかった。
「大丈夫に決まってるだろう? 神様は不公平だけど、諦めなければ這い上がるチャンスは誰にだってくれるんだ。俺はそうだったからこそ今こうして生きていられるんだ。ローラ、もう一度聞くぜ――」
ラフマニはローラの体を少しだけ離すと、ローラの顔をしっかりと覗き込みながら語りかけた。
「俺と一緒に来いよ」
何も出来ないかもしれない。苦労と困難だけが続くかもしれない。だがそれでもローラはラフマニとともに居る事を選んだのだ。
「うん」
ローラはラフマニの唇に自分の唇を重ねた。そして少しだけくちづけをすると、再び彼の肩へとしっかりと抱きついてゆく。そんなローラをしっかりと受け止めながらラフマニはクラウンに詫びるように答えた。
「わりぃ、こう云うわけだ」
ラフマニの出した答えにクラウンは少しばかり溜息をつく。
「しかたありませんねぇ。あなたにすべてを委ねるとしましょう。それに今宵は聖夜、愛しあう者たちを引き離すのには相応しくありません。むしろ、祝福すべきでしょう。それになにより――」
そして、クラウンの視線はこの場の様子を見つめていたもう一つの存在へと向けられる。
「そちらのお方もおられることですし」
















