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プレストーリー 滅びの島のロンサムプリンセス/『さ、帰りましょう!』

 あとに残るは4人。突然に連絡が途絶えた外の男たちの様子を探るために、2人が下のフロアへと降りていく。だが、そこに仲間は誰も居なかった。

 

「為何誰都不在?!」


 不思議に思い周囲を見回すが、当然のごとく誰も居ない。

 

「請回答!」


 叫びがこだまするがそれに答える者は皆無だ。


「無駄ですよ」


 コツコツとヒールの音を鳴らしながらクラウンが姿を現した。その手にはあの大鎌が握られていた。

 

「他の者たちはすべてこの私のシックルの露と消えてしまいました。今では骨すら残っていませんよ」


 道化師が死神の大鎌を手にしながらたたずんでいる。その異様な光景にあらゆる言葉を失ったまま二人は呆然と立ち尽くすしかなかった。そして、二人の背後から新たに姿を現したのはビル内に残っていた二人である。仲間が遅れて現れたことで少なからず安堵しただろう。振り向いて仲間の顔を窺うが現れた二人の顔は無表情であり能面のようである。

 そして、無表情の2人は仲間の姿を見つけるのと同時に手にしていた拳銃の引き金を引いた。そこには感情は一切ない。ただ、ロボットのように機械的に反応しているだけである。

 仲間からの予期せぬ攻撃に2人は崩れ落ちる。頭部と心臓、共に急所を一撃で抜かれて即死である。

 

「はーい♪ ごくろうさまぁ♪」


 甘ったるく鼻に抜ける舌足らずな声が響く。猫耳少女のイオタだ。悠々とゆとりのある足取りでビルの中から姿を現す。そして、ステッキを無表情な2人に突きつけながら告げる。

 

「もう死んでもいいよ! あとはアンタたち用無しだからぁ」


 2人の頭をステッキで叩く。すると糸の切れた操り人形のようにいきなり地面へと崩れ落ちた。その様子を見てクラウンはイオタに尋ねた。

 

「イオタ、終わりましたか?」

「うん、全部しゅーりょー。中に残っているのは子どもたちだけ。全部無事だよ。でもちょーーーっと怪我してたから医療用のマイクロマシンで怪我は治しておいた」

「記憶は?」

「消したよ。今日のこと覚えておいていい事なんにも無いし。ただ、記憶の空白部は人格を不安定にするでしょ? だから眠っていたことにして『楽しい夢の記憶』を強制上書きしておいたよ♪」

「そうですか。上出来です。それでこいつらは?」


 クラウンが指し示したのは無表情のまま誘導されて同胞を撃ちぬいた2人だ。

 

「あ、見つけてすぐに高圧電磁パルスで脳味噌焼いちゃった。あとは残った神経に直接プログラムしたの」

「ほう、それはそれは」

「あとは〝残り物〟をイプシロンに始末してもらえばオッケーだね。それで、あの化けガエルは?」


 イオタが4つの遺体をステッキでつつきながら言う。その問いにクラウンは答える。

 

「居ますよ。あなたの後ろに」

「え?」


 慌てて振り向けば、すでにそこにはイプシロンのゆるキャラのようなユーモラスなシルエットが鎮座ましてひかえていた。肉薄するかのようにイオタの背後にピタリとついてきたのか、完全に不意を突かれた形となる。唐突に視界に飛び込んできたのその姿にイオタは思わず悲鳴をあげた。

 

「きゃっ!?」


 イオタは飛び上がりクラウンの肩にしがみつく。

 

「何やってんのよ! このバカぁ!」


 よほど驚いたのかイオタは涙目だった。

 

「あれれ、なんで怒るの?」

「うっさい! さっさとお掃除しちゃいなさいよ! もう!」

「わかった。ちょっとまて」


 イオタの求めにイプシロンはその場の路上に残された4つの遺体へと近づく。そして、先ほど5人まとめて始末した時のように瞬間的に猛火を吐いて骨も残さずに全てを灰塵に変えてしまう。これでもう子供たちを脅かす者は誰も残っていないはずだ。

   

「はい、上出来ですよイプシロン。イオタもご苦労です。これで無作法な侵略者は消え去りました。残ったのは――」

「お姫様のお迎えだね」


 イオタの言葉にクラウンが頷く。そして、大鎌を一旋させて虚空の中へと消し去ってしまう。クラウンは足音もなく数歩進み出ると、今から現れるであろうあの2人の姿をじっと視線で追い求めていた。クラウンは2人の配下に告げる。


「イプシロン、イオタ、ご苦労さまでした。あなたたちはここは一旦下がりなさい」

「え?」

「どして? クラウンたま?」


 主人たるクラウンの言葉を受けてイオタたちは不思議そうにつぶやく。

 

「姫君の説得は私だけで行います。数で囲んで押し包んでも彼女は反発しかしないでしょう」


 その可能性は十分にあった。もし、クラウンたちに保護されることに不満がないのなら、そもそも逃亡と言う事自体引き起こさないだろう。

 

「それに、今の段階ではまだあなた達の姿を衆目には晒したくありません。何事も段取りというものがあります」


 そして、二人の配下に目配せしながらクラウンは命じる。

 

「さ、お行きなさい」


 二人とってクラウンの言葉は絶対である。世界法則である。遺伝子である。

 

「かしこまりました。クラウンたま」

「じゃ、先に帰ってるね♪ じゃねー」


 イオタがそのステッキを振り回して円形のフィールドを作ると、イオタとイプシロンの2人はそのフィールドをくぐり抜ける。まるでCG仕掛けのイリュージョンのように二人の姿は虚空へと消え去った。

 

「さて――」


 クラウンはいずれ姿を現すであろう、あの二人を待つことにした。その身をひるがえし舞い上がる。そして、ビルのいただきにて二人の姿を待ったのである。

 


 @     @     @



 街路灯も少ない暗い舗装路を2人は一心に駆け出していた。仲間の事を案じ、その無事を願っている。両足に秘された力を開放してラフマニは一気に駆け抜ける。それを追いすがるようにローラが後を追っていた。


「こっちだ!」


 ラフマニが叫ぶ。最初の十字路を右に、次の十字路を左に曲がれば雑多な古い倉庫が並んでいるエリアになる。そしてその途中に目的となる場所はあった。

 

「あそこだ!」


 焦りを必死に抑えながらラフマニは駆け抜ける。その先にあるのは仲間たちと寝起きしている大切なアジトだ。誰も助けてくれない。誰も認めてくれない。そんな境遇の者たちが集まり、肩を寄せあい必死になって生きて行くための場所であった。

 本来の所有者が放棄して打ち捨てられたビルであったが、もはやそこしか行く場所が無い彼らにとってはそこを失うことは死を告げられるのと同じ意味を持っていた。

 だからこそだ。たとえ相手が誰であろうと。どんなに恐ろしい武器を備えた襲撃者であろうと、逃げ出すわけには行かない。それが現実に襲撃され、怪我人も出ているとなれば、たとえ返り討ちにあったとしても戦いに身を投じずには居られないのだ。

 

「みんな――!」


 目的の建物が視界に入ってくる。だが、そこに見えた光景にラフマニの中の不安は最大級にふくらんだのである。

 

「お前ら! 返事しろ!」


 倉庫ビルの正面入口前、そこからラフマニは大声を張り上げる。玄関前の周囲には誰もおらず、血痕一つ、硝煙一つしていない。襲撃者の影はもとより、襲われた子どもたちの姿もない。そこには動いている人の気配が全くしてこないのだ。

 

「――なんだぁ?」


 驚きと不審を声にするラフマニに追いついたローラが声をかける。

 

「ラフマニ!」


 だが、声をかけてもラフマニは返事をしない。

 

「ねぇ、どうしたの?」

「ん? あ、あぁ。いや――声が聴こえないんだ。誰もいないし、気配も感じない」

「そんな、まさか――」


 二人の脳裏に不安がよぎる。最悪の想像さえ頭をかすめる。絶望に押しつぶされそうになりながらもラフマニは己の心がへし折れないように、ありったけの気力を込めた。そして、ビルの中の惨状をその目で確かめるべく脚を踏み出そうとする。その時だった。

 

「え?」

「どうした?」


 ラフマニの背後でローラがつぶやく。振り向いて言葉の真意を問えばローラの視線は空を仰いでいた。

 

「あれ見て、誰か居る」

「なに?」


 ローラに促されるようにラフマニは頭上を仰いだ。するとそこに見た物に彼は言葉を失った。

 

 そこに居たのは道化師である。

 ピエロと呼ぶ。ジェスターとも呼ぶ。アルルカンとも呼ぶ。時代とともにそのあり方は移り変わっていったが一つだけ変わらないものがある。愚か者を装いおどけてみせることで、人の心を和ませる為に有るということである。

 それはビルの頂きに佇んでいたが、空中に身を躍らせると舞い落ちる花びらのように静かに舞い降りてくる。音もなく、ゆらぎもなく。ただ無音でそれは地上へと降り立った。

 赤い衣、黄色いブーツ、紫の手袋に、金色の角付き帽子、角の数は2つで角の先には柔らかい房状の球体がついていた。襟元には派手なオレンジ色のリボン――、派手な笑い顔の仮面をつけた道化者。その彼の名は――


「クラウン!」


 ローラが驚きつつ声を上げる。そして退路を探して後ずさった。

 

「はい、覚えておいででしたか。我が名を」

「忘れるわけないじゃない。一応、命の恩人だし」

「それはそれはけっこうなことで。では私がここに参上いたしました理由もお分かりでしょう?」

「分かるわ――、あまり嬉しくないけど」

「嬉しくなくとも――」


 クラウンは後ずさるローラに迫ろうと進み出る。

 

「――私はあなたを保護する義務があります」

「なぜ?!」

「それが〝あの方〟からの〝依頼〟だからです」

「依頼?」

「えぇ、あなたのよく知るあのお方から生前に懇願されていたことです。『自らに万一のことがあった時はローラを委ねる』と――」

 

 そう語るクラウンの言葉は澱み無かった。確信と自信をもって明確に語られる。そこに疑念や疑いを挟む余地は一切なかった。

 

「そう言う事です。私の所に居るのなら飢えも寒さも何の不足も無いはずです。一切の苦痛から開放され安寧の中で暮らすことが出来るのです。さ、私と一緒に参りましょう。姫君――」


 確かにクラウンの所に居れば何の危険もないだろう。寒さに震えることもなく、飢えやエネルギーの枯渇に怯えることも無い。話し相手の成り手もあるだろう。少なくとも苦痛にまみれた最悪の事態からは逃れられるはずだ。だがローラはそれを受け入れる気持ちにはどうしてもなれなかった。

 迷いがローラの胸中を締め付ける。迷いだけでない。それは不意にラフマニへの罪悪感として形を成す。自分にはそれなりに恵まれた帰る場所が有るのでは? と――

 

「わた、わたし――」


 胸が苦しくなるほどに様々な思いと不安とが交錯している。自分自身ではどう結論を出していいのか判らない。今は亡き主人の遺志。それを蔑ろにする事をローラの価値観の根底にあるものが拒否していた。

 あの方〝ディンキー・アンカーソン〟の命なら従わなければならない。だが、クラウンのもとに居続けることを自分の中の何かが強硬に拒否しているのだ。


「行かなきゃ――、でも、やっぱり――、あたしは――」


 命令にただ盲目的に従うのであれば行かねばならないだろう。だが、何かがそれを拒否しているしかし、ローラにはそれが何であるのかと言う事は皆目検討がつかなくなっていたのである。ローラは未だ、マリオネットとしての感性と自我から逃れられずに居る事を彼女自身自覚できていなかったのだ。

 

「姫君、結論が下せないなら、私が答えを出して――」


 クラウンが語りながらローラに肉薄しようとする。だが、その二人の間に割って入ってくる者が居る。

 

「ちょっと待てよ」


 ラフマニである。


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