プレストーリー 滅びの島のロンサムプリンセス/〝怒り〟芽生えはじめた心
メインストリートから離れ東京アバディーンの南東の外れのエリア、そこはメインストリート周辺の賑わいから完全に切り離され、最も人気のないエリアである。
本来はビジネス街区の物流地域として開発されるはずだったのだが、ご存知の事情により全てはご破算となり、今では半ばスラムと化した倉庫街や空き地が並んでいるような状況だった。更にそこから先には海に沿った端のエリアには簡易な岸壁が備えられた小さな貨物港となっており、更にそこから先には未開発地域となった開発計画中止エリアが広がっている。もはや、そこを本来の目的で使うものは存在しない。
ラフマニとその仲間たちが雑居している雑居ビル併設の空き倉庫は、海に望む旧貨物港区画の中にある。そのラフマニたちハイヘイズのたちのアジトから逃げてきたのだろうラフマニと同年代くらいのアフリカ系の風貌の少年が、貨物岸壁から続く裏路地の道をふらつくように歩いている。
額から血を出し、右腕にはナイフ傷がある。その彼の姿をローラと歩いていたラフマニはすぐに気づいた。
「わりぃ」
一言断ってローラから離れる。
「オジー! どうした!」
そして、叫びながら仲間の元へと一気に駆けつける。ラフマニの姿を目の当たりにして少し安堵したのかオジーと呼ばれたアフリカ系の少年はよろけるように地面に膝をついた。
「ラフマニ――」
「どうした! 何があった!」
「やられた――、ハイセイウーの連中だ。最近ここいらに入ってきた台湾幇くずれだよ」
「アイツら! 俺達のねぐらを狙ってたやつらか!」
オジーはラフマニの問いに額から血を滴らせながら何度も頷いた。
ラフマニが怒りの表情を隠さない。ただならぬ雰囲気にローラはラフマニに問いかける。
「どうしたの?」
ラフマニは言葉を選びながら答える。
「ねぐらのビルが襲われた。最近この街に入ってきた見慣れない連中だよ。時々外からやってきて自分たちのナワバリを作ろうと手荒なことをするクズが居るんだよ。くそっ! ここいらの地元の連中とは話し合いがやっとついて安心して暮らせると思ったのに!」
ローラが傷だらけのオジーのもとに駆け寄る。そして、身につけていた男物のコートのポケットからくしゃくしゃのティッシュを取り出すと彼の額の出血を止めようとしている。オジーはローラに感謝の言葉を告げながら、先を急ぐ様にさらに語った。
「急いでくれ、サイボーグ崩れは居ないがナイフや凶器で武装している。それに女や幼い子を連れて行こうとしている」
「〝商品〟にする気か!」
商品――、その言葉にローラは先程のチェインドの女性の事を脳裏に浮かべた。不安と嫌悪と怒りが心の中に湧いてくる。ラフマニはオジーにさらに問いかけた。
「オジー! アニキには連絡は!?」
オジーは顔を左右に振る。
「メールは打ったけど返事がない」
「またか! まさか日本に居ないんじゃないだろうな。オジー、お前はここに居ろ! ローラはオジーの事を頼む!」
ラフマニは言うが早いか瞬く間に駈け出した。そして窮地に立たされた仲間たちのところへ向かおうとする。だが、オジーはラフマニとローラに告げる。
「俺は大丈夫だ。ちょっと額を割っただけだ。それよりガキたちを助けてやってくれ! ちくしょう! クリスマスの夜だってのに!」
そうだ。今日は聖夜、この日だけはどんなに悲惨な境遇のものでも、一夜の安らぎを甘受してもいいはずなのだ。だが、現実はあまりにも残酷だった。
「ラフマニ! あたしも行く!」
オジーを道端に座らせながらローラはラフマニに向けて叫んだ。そして、オジーに目配せしながら両足に力を込めて一気に走りだす。それまでローラはディンキーの意思のままに殺戮と破壊のためにしか、その力を使ったことはなかった。だが、この瞬間、生まれて初めて誰かを守り救うために使おうとしていた。
ラフマニはローラの過去についての言葉を思い出していた。瞬間、複雑な思いが頭をよぎるが、今だけは手段を選んでいる余裕は無いのだ。手招きしながらラフマニは再び走りだした。
「来い!!」
ラフマニのその言葉を耳にしてローラも彼とともに走りだした。向かうは海沿いの貨物岸壁、そしてその傍らに立つ倉庫ビルだ。2つのシルエットが夜の闇の中で走りだそうとしていた。
















