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X6:世界情報ライブラリールーム〔天空のラウンジ〕/崩壊する世界

「兄貴――」

 

 ベルが声を漏らせばペロは語り続けた。

 

「彼らは人間じゃない。人間と似ているが人間そのものじゃない。人間ならざる存在に〝社会の守り手〟を任せるなんて正気の沙汰じゃないと誰もが思っていた。だからこそ最初の特攻装警であるアトラスの時は強い反対意見が浴びせられた」

「はい、知っています。センチュリーの兄貴も相当苦労させられたって言ってました」

「だろう? でも今はどうだい?」

「今は――心無い声を浴びせる人は未だに居るけど、それでも兄貴たち特攻装警を信じる人々はどんどん増えてます」

「そうだ。誰もが恐れる異形の〝バケモノ〟だったのが、今や誰もが注目する堂々たる〝正義の味方〟だ。そしてこれからも彼らは立ち止まること無く挑み続けるだろう。これからもさらなる可能性を信じて。そして――」


 ペロは右手を空中で翻す。すると新たに〝6人目〟が姿を表した。

 

「――彼が6人目の可能性だ」

「グラウザー――って言ってましたね。兄貴の新しい〝弟〟」

「あぁ、彼もまた〝可能性〟だ。人間とアンドロイドの垣根を取り払うであろうね――。そしてベル、君もそうさ」

「えっ?」


 突然の問いかけにベルは驚いてみせる。

 

「私が?」

「YES!」


 ペロはベルへと歩み寄り、その右手を握り手を引いていく。

 

「君は、理不尽や困難に対して立ち止まらない。真実をつかもうとし、突き落とされても必ず這い上がる。それは〝可能性〟を諦めない者たちだけが取りうる行動。腐らず、塞がらず、閉じこもらず、たとえ落ち込んでもまた立ち上がる。君、大学を目指すんだろ? 〝大研〟を受験して」

「えっ? なんで知ってるんですか?」


 思わぬ問いかけにベルは慌ててみせる。


「やだなー、忘れてるの? 『高卒認定試験について語ろう』ってルームに一時期通ってるじゃない。ほら」


 ペロがX-CHANNELのシステムサイドの存在だと言うのは本当らしい。ベルのコレまでの行動ログの中から、高卒認定試験にまつわる会議室や掲示板へのアクセスを抜き出してみせたのだ。驚き戸惑うベルにペロは告げた。


「ゴメンね。根掘り葉掘り調べるつもりは無いんだけどさ」


 大丈夫だ。ベルもペロが悪気がないのはわかってる。その表情に不快さは見えなかった。

 

「君は可能性を秘めている。困難に対して自ら立ち向かう強い意志もある。だからこそ、君に知っておいて欲しいんだ」

「――何をですか?」

「この国を襲うであろう〝敵〟についてさ」


 ペロがその言葉を口にした時、足元の地球に様々な存在が浮かび上がる。

 それらについてペロは語り始めた。

 

「今、世界は混乱を極めつつある。欧州世界と中東世界の対立から過激な勢力が力を伸ばし、発展途上国から端を発した犯罪勢力や闇組織は今や世界中にネットワークを張り巡らせつつある。さらにそこに軍事技術の地下流出やハイテクの非合法な氾濫が起きて世界情勢の悪化に拍車をかけている。だがそれでも――この国はまだ安全だった。周囲を海に囲まれた天然の要害の国だからね。でも――」


 そして〝それ〟は間違いなく〝日本〟に向けて集まりつつあった。

 

「その安全神話も崩壊しつつある。世界中から多彩な勢力が侵入しつつあるのさ」


 まずは『中国』――

 

「日本進出を果たした『白鳳グループ』と言う多国籍企業があるんだが、彼らの実態は様々な中華系闇社会の複合体だと言われている。今、着々と日本拠点を構築中さ」


 次が『極東ロシア』

 

「ロシアにはロシアン・マフィアがいる。ウラジオストクから進出してきたのが軍人崩れが多いので有名な『ゼムリ・ブラトヤ』だ」


 次いで『中南米』

 

「中南米の麻薬地帯からは違法サイボーグで構成された『ファミリア・デラ・サングレ』戦闘力の高い危険な存在だ」


 さらに『アメリカ』

 

「北米からは『ブラック・ブラッド』、その名の通り黒人で構成されている。麻薬密売を得意とし、やはり違法サイボーグで締められている。同族意識が強くチームワークは群を抜く」


 また日本国内からも沸き起こる新勢力もある。

 

「ステルスヤクザの緋色会やサイボーグカルトの武装暴走族は当然として、メンバー全員が遠隔操作のアバターボディで構成されたサイバーマフィアなんてのも現れつつある。これからどんな連中がでるのか検討もつかないと言っていい」


 それらの組織にまつわる映像が、二人の足元の地球の上で蠢いている。さすがのベルもその光景に総毛立つ思いだ。

 

「こんなに?」


 蒼白な表情で漏らせば、ペロが諭すように答え返す。


「これらはあくまでも日本に上陸を狙っている連中に過ぎない。それ以外の海外勢力を加えたらとてもじゃないが、ここには表示しきれないよ。だが――、それ以上に要注意な存在が2つある――」


 そしてペロはベルに言い含めるように語りかけた。

 

「いいかい? ここから先はみだりに口外してはいけないよ」


 それは言外に〝本当に聴く覚悟があるのか?〟と、問いただしているようにも思えた。拒否してもペロは責めないだろう。だが、あの最下層フロアのラウンジには二度と招かれない――そんな気もするのだ。ベルは意を決して同意した。

 

「解りました。お願いします」


 シンプルな言葉にベルの覚悟が現れている。ペロはそれを受け入れる。

 

「いい返事だ。今、世界中にて飛び交っている謎のキーワードがある。それが〝黄昏〟と言う言葉だ」

「黄昏?」

「あぁ――、だが、それが何を意味するのか? どんな存在なのか明確につかめる情報は皆無と言っていい。僕も最優先で調べている状態なんだ」

「そんなに危険な存在なんですか?」

「おそらくね」


 いつもは陽気におどけるペロだったが、今だけは神妙な面持ちだった。

 

「実態不明だけど、実に世界の隅々でキーワードとして浮かび上がるんだ。まるで潜伏期の病原体ウイルスのようにね――」


 その表現はベルに恐怖を呼び起こすには十分であった。だがペロの話は終わりではなかった。

 

「そしてもう一つ――」


 ペロが指先を振るうと空間上に新たな映像が浮かび上がった。CGによるシュミレーション画像として、それは奇異な物だった。

 

「なんですか? このピエロ?」


 それはピエロとも言う、ジェスターともいう、アルルカンと呼ばれることもある。赤い衣、黄色いブーツ、紫の手袋に、金色の角付き帽子、角の数は2つで角の先には柔らかい房状の球体がついていた。襟元には派手なオレンジ色のリボン――、派手な笑い顔の仮面をつけた道化者であった。

 だがペロは顔を左右に振った。

 

「ただのピエロじゃない。完全に正体不明の怪人物だ。通り名を〝クラウン〟と言う。神出鬼没で大胆不敵、それでいて実態は絶対に掴ませずあらゆる事において動機は不明。それでいてド派手にぶちかますためなら何でもやるんだよ。それこそ窃盗から大量殺戮にいたるまで――、世界中の治安組織が〝史上最悪の天性の愉快犯〟とまで呼んでいるんだ」


 正体不明の怪人物――、まるで三流の安物小説の様な表現だが、そう言う表現が通じるような得体のしれなさがそこにはあった。ペロはベルに言い聞かせるように告げた。

 

「君はおそらくこれから社会の様々な場所へ足を踏み入れるだろう。でもね? 今、話して聞かせた連中には絶対に関わらない方が身のためだ。無茶は絶対にしてはいけないからね。たとえ、君の大切な先輩の消息がかかっていたとしてもだ――、君はまだ〝可能性〟を育てる段階なのだから」

「はい――」


 それは警告だった。悔しさがあるが、今はそれを受け入れるしか無かった。ペロはベルに暴走せず自重するようにと諭すためにここへと招いたのだ。それはある種の厳しさであり優しさでもあった。 

 だがペロは言う。


「とは言え、突き放すのはあまりに可愛そうだからね。僕のところでも調べてみようと思う。君の例の件についてね」

「えっ? あ、ありがとうございます」

「でも、世の中がこんな状態だからあまり過度な期待はしないでおくれよ?」


 ペロがそう言うのはもっともだと思う。それほどまでに世の中が混沌としているのだ。

 

「分かってます。特攻装警なんて存在が求められる時代ですから」

「ごめんね」


 そうなのだ、この様な時代だからこそ、特攻装警のようなアンドロイド警察官などと言うものが求められ、そして認められるのである。

 

「でも、私の力の及ぶ範囲でも、少しづつ調べてみようと思います。それこそ、諦めずに可能性を信じて」


 その言葉にペロは頷いた。

 

「うん、マイペースでね。それでいいと思うよ」


 そんなときだ二人の足元の地球の上で、とある小さな光点が動いていた。それを見つけてベルが言った。

 

「あれ? なんだろ? これ」

「ん?」


 ベルが指し示す先には白い光を強く放つ光点がある。ふらふらと世界中を漂うように動いている。ペロはそれを視認しながら〝詳細情報〟を呼び出した。そこに断片的に映されていたのは3人の異国の少女たちだ。

 

「自動収集された情報だな――、でも不明データが多いな、プロセス? 何だ?」

「どうしました?」

「いや、自動集積された情報の中に見慣れないデータが――っと、あ? 消えた?」


 光点は不意に消える。それが意味するところをペロは説明した。

 

「不確定情報だったからデータベースから自動消去されたな」

「なんでしょうね」

「さぁ――でも、これも調べてみるか」

「はぁ――」


 ベルは、ペロの思案顔を眺めるしかできなかったのである。


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