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エピローグ 第2科警研にて/惜別の時

 そのセンチュリーも大田原の後を追ってホールに入れば、そこでは呉川の紹介で大田原が英国アカデミーの彼らと挨拶を交わしているところであった。


 大田原と呉川を囲んでいたのはガドニックを始めとしてホプキンスやタイム、それにカレルといった面々だった。そこにアトラスやエリオットの姿もある。そこに遅れてセンチュリーが駆けつけたところだ。

 その時、大田原はガドニックと向い合っていたところだった。

 

「お名前はかねてより聞き及んでおりました。こいつらの頭脳を作り上げた方だと」

「えぇ、本来は人工頭脳の開発研究が本分でして。彼らとの関り合いは私としても得るものが大きい。これからもご協力させて戴くつもりです」

「身体と言うのは優れた頭脳と心があってこそ、初めて成立するものです。ガドニック教授の様な素晴らしい方々のお力添えをいただけるのであれば我々も心強い」


 大田原がそう告げれば、ホプキンスも声をかける。その次にはカレルが控えている。

 

「私どもも微力ながら協力させていただきたい。どんなことが出来るかは未知数だが、国を超えて協力関係を結べるのならより大きな成果が生み出せるはずだ」

「それはワタシも同意見だ。今回の特攻装警の成果は欧米でも広く伝わるでしょう。そうなれば我が英国でも特攻装警の様な機械化警察のプランが出てくる事も十分ありえる。一方で我々欧州では日本以上にテロ案件の被害が多発している。それらの情報を提供することで両国の治安回復の一助になるでしょう」


 そこに歩み寄ったのは警備部の近衛だった。


「それはワタシからも協力させていただきたい。たとえ非公式な個人間のやり取りであったとしても、情報と技術の共有は不測不及の事態に備えるためにも、警察当局としては喉から手が出るほど欲しているはずです。率先してテロ案件や機械化犯罪への対処法を広げていく必要もある。いずれスコットランドヤードにも連携のための話し合いを提案しようと思います」


 近衛の言葉にうなづきながらカレルが言う。

 

「それであれば、私のコネクションからスコットランドヤードに影響力を持つ人物を紹介させていただこう。それと英国の軍部のテロ対策セクションも紹介できるでしょう。こう言うことは少しでも早いほうがいい」

「よろしくお願いいたします」


 近衛がそう答えれば、誰ともなく皆が頷き合っている。おそらくはこの日を始まりとして日英の叡智の協力関係が広がっていくのは間違いなかった。そして、会話の流れが変わった所でタイムが大田原に問いかけていた。


「しかし、アンドロイドの開発目標に格闘技を設定するとは思い切ったことを考えましたね。欧米ではスポーツをさせて性能の発達を促すという事はよく行われているが、流石に格闘技まで行わせるのはなかなか手がつけられていないのが現状だ。ミスター大田原、ミスター呉川、どうしてそのようなことをはじめられたのです?」

「あぁ、それですか」


 大田原は一呼吸置くとアトラスとセンチュリーを手招きした。

 

「実はこっちのアトラスの場合、着任先がヤクザマフィアなどを直接相手にすることの多い危険度の高いセクションでしてね。銃器類の使用だけでなく、近接戦闘も行わなければならない。そのため、アトラスは着任先の警察職員の方の協力を得て独自に格闘スキルを身につけていました。ですがコイツは見ての通り外骨格式であり、頑丈で耐久性があるが柔軟性と運動性においてどうしても不利なケースが出てくる。そのためこのアトラスは何度も現場にて苦汁をなめている。それを血の滲むようなフィードバックトレーニングで克服した過去がある」


 大田原の言葉にアトラスははっきりと頷いていた。そしてその頷きに疑問を抱いたホプキンスは思わず問いかけていた。

 

「フィードバックとは――何回程度かね?」


 だが、その問いに、アトラスは事も無げに言い放つ。

 

「先日の対ベルトコーネ戦を例にすれば――1万6千回はこなしたかと」


 あまりに非常識な数字が出たことでホプキンスもタイムもあっけにとられて言葉を失っていた。そのリアクションに応えるようにアトラスの言葉が続く。


「無論、電脳空間内での仮想シュミレーションを含めてですが、私はあらゆる可能性を実行完了してから実戦に望んでいます。あらゆる面で格闘戦闘に向いていない私ではそう言う手法しか取れないのです」


 それはアトラスにとって己のシステム面での劣勢を吐露する言葉だったが、それはそれでアトラスの任務に対する執念のようなものを印象づけるには十分だった。それほどの闘志と正義感があればこそ、あの地獄のような戦いの場で戦闘の矢面に立てたのだと周囲が理解するのはすぐである。


「このアトラスの苦労を目の当たりにして、私と呉川はアトラスの次となる特攻装警の開発を行うにあたって、特攻装警の任務において必要な白兵戦闘能力としての格闘技をこなせるアンドロイド機体とする事を目標としました。その結果、得られた答えが、このセンチュリーの様な内骨格式であり、優れた動体反射神経を持つ高度な中枢神経系を備えたアンドロイドと言う物だったんです」


 大田原が語り終えると、その脇から呉川が口を開いていた。


「それ以上に俺達のように日本の技術屋と言うのはみんなへそ曲がりだから、他とは同じ事をやっても満足できない生き物でしてね。各種スポーツをアンドロイドに行わせるのが世界で流行っていると分かれば、それ以上に難易度の高いことをさせたくなる。それならスポーツ以上に難易度の高い中国や日本の格闘技技術をマスターさせる事を思いつく。それならいっその事、開発メンバーに格闘技の達人を入れてしまったらどうだろう? と言うことを考えたんですよ」


 呉川の言葉に大田原は頭を掻きながら言葉を続ける。


「そこで私に白羽の矢が立ちましてね。この呉川が『整形外科医師免許を持ち、人体工学を学んでて、古今東西の格闘技について長年研究しているヤツが居る』って言って、この建物に私を強引に連れて来たんです。一度関わったら途中で投げ出すのも癪だし、ならば、徹底的にこだわってやろうと思い至って今にいたっている次第でして」


 2人の語る言葉に聞き入りつつも、タイムは思わず口を開いていた。


「人体工学? 格闘技のトレーナーかプロの方ではないのですか?」


 その問いに大田原は明るく笑い飛ばしながらこう答えた。


「これは失礼。これでも人体工学と人体生理学で大学で教鞭を採っています。教授職をしながら洋の古今東西の格闘技について研究をしております。そう言う風に見えないと言われるのはいつもの事です」

「師匠、そりゃ普段からどこへでもそんな格好で出歩いてるんだからしょうがないでしょうよ」


 大田原の言葉にセンチュリーは茶化しつつ明るく笑い飛ばした。それを耳にして大田原がセンチュリーを横目で鋭く睨んでいた。それに気づかぬセンチュリーに大田原は凄みを利かせた声で言い放った。


「センチュリー」

「はい?」

「あとで、道場に来いよ」


 それがどう言う意味をはらんでいるのか分からぬセンチュリーではなかった。顔が凍りつき一瞬にして黙りこむ。そのやり取りを眺めていたガドニックが笑いながら告げた。


「センチュリー〝虎の尾〟を踏んだな」


 その隣でカレルも微笑みながら言う。


「彼ほどの戦士でも、師と云うのは逆らい難いものらしいな」


 その場に静かな笑いがこだましている。

 こうして、組織と国の垣根を超えた宴はつづいたのである。



 @     @     @

 

 

 楽しい時間は過ぎ去る。そして、いつか終わりが来る。

 レセプションホールだけでなく第2科警研の様々な場所で見学を兼ねて対談がなおも行われ続けられたのだが、それでも時計が3時に差し掛かる頃には宴は終わりの時を向かえていた。

 カレルの補助をしていたエリザベスが、アカデミー使節団のリーダーであるウォルターに告げる。

 

「そろそろ、カレルを病院に帰さないと」

「そうだな。これ以上は身体に差し障る」


 そして、ガドニックを始めとして他のアカデミーメンバーに退散の時が来たことを伝える。

 

「わかった。私も頃合いだと思ってたんだ」


 頷き返すガドニックは新谷たちにもその旨を伝えた。

 

「名残惜しいがまたここに来ることを信じて退散するとしよう」

「はい、いつでもお待ちしております。皆さんも道中お気をつけて」


 そして、帰路への準備が始まり、そこかしこでいつかまた再開する時を約束する声が交わされていた。

 アカデミーの面々がSPの警護を受けながらリムジンバスへと向かえば、第2科警研の入り口にてアカデミーの彼らを見送るのは誰であろう特攻装警の6人である。

 

「帰路の道中、お気をつけて」


 とアトラスが告げれば、

 

「貴君にも武運がある事を祈っているよ」


 とホプキンスがエールを贈る。

 

「師匠にしごかれ過ぎないようにな」


 とタイムが冷やかせば、

 

「大丈夫っすよ、慣れてますから」


 とセンチュリーが茶化し返した。

 

「今度、ネットでもお会いしたいですね」


 とトムが求めれば、

 

「はい、いつでもお受けいたします」


 とディアリオがそれに応じていた。

 

「しかし、本物の武士道を見た思いだ」


 とウォルターが感想を漏らし、

 

「同感だ、頼もしい」


 とメイヤーが頷き賞賛すれば、

 

「恐縮です」


 とエリオットが敬礼で答えていた。

 

「戦いは続くだろうが君たちなら勝てる」


 とカレルが確信をもって告げれば

 

「ありがとうございます」


 とフィールが嬉しげに答える。

 

「それでも無理はしないでね」


 とエリザベスが気遣い、

 

「はい」


 とフィールは静かにうなづていた。

 

「また会おう」


 とガドニックが握手を求めて、

 

「はい!」


 とグラウザーがそれに力強く答えていた。

 そして、リムジンバスの扉は閉じられ、彼らはこの中河原の地から去っていったのである。


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