第30話 特攻装警第7号機/計略と姦計
期せずして現れたベルトコーネ、その歩みを止めるべくアトラスたち3人は歩き出す。
だが、彼らはベルトコーネの歩みが意味する物にすぐに気づいた。
苛立つようにセンチュリーが吐き捨てる。
「アイツ、俺達を見ていやがらねえ!」
センチュリーが発する言葉にアトラスが言う。
「どうやら怒りの矛先はアイツの方に行ってるみたいだな」
〝アイツ〟それがメリッサを指し示すのは明らかだ。
「だからと言ってこのまま放置するわけには行かねえだろ?」
「ならば全員で同時に叩くぞ」
「あぁ!」
二人の両手には口径の異なる4つの銃口が並んでいる。
アトラスの右手には50口径のデザートイーグル、左手には切り詰めたショートバレルのショットガンが並ぶ。かたやセンチュリーは右手に357マグナムのグリズリーを、左手には10ミリ口径のデルタエリートを構えていた。
【アトラスよりセンチュリー・エリオットへ 】
【攻撃シュミレーション、パターンファイル送信】
【センチュリーよりアトラスへ 】
【>ファイル受信OK 】
【エリオットよりアトラスへ 】
【>ファイル受信OK 】
【各機、シュミレーション内容に従い攻撃を行う】
【攻撃シークエンスはアトラスからのタイミング】
【シグナルに従うこと。 】
センチュリーとエリオットの視界の中でアトラスからのテキストメッセージが映し出される。それは決して失敗させられぬ必殺の陣形であった。一気呵成にぶち当たっていっても決して勝てるとは限らない。ましてやあのキチガイじみた怪力の持ち主である。ならば取れる戦法は搦め手の手段しか無い。3人とも戦闘シュミレーションデータを共有すると、素早く実行動へと移行する。
【第1プロセス:牽制攻撃開始 】
11番ゲージスラッグ弾、50口径、357マグ、10ミリ口径、
4つの異なる弾丸を並列させアトラスたちは一斉にトリガーを引いた。
その銃口から鳴り響く轟音にベルトコーネは視線を向けてくる。それが開戦の合図だった。
【第2プロセス:拳銃弾により牽制を行いつつ、】
【ダッシュホイールによる高速接近。 】
【攻撃目標周囲を周回 】
気勢を制したのはアトラスだった。それとほぼ同時にセンチュリーも駆け出し、ベルトコーネへと攻めかかる。4種の異なる弾丸をアトラスたちは止むこと無く撃ち続けながら両かかとの鋼輪製のダッシュホイールを高速回転させる。そして、ローラースケートの如くスピードに乗り走行しつつ一気に加速していくと、カーブを描くようにしてベルトコーネを取り巻いて、ベルトコーネを間に挟むようにして円を描きじめる。
2人の踵の高速ホイールはカーブの軌道に合わせて、床面の上で火花を散らしていた。
視線が追ってきている。ベルトコーネは自分の周りで奇妙な行動をとりはじめた特攻装警2体にかすかな警戒を発し始めていた。その場から逃げようとしているのは明らかだ。今を逃せばチャンスはない。
【第3プロセス:エリオットによる特殊煙幕攻撃】
アトラスとセンチュリーの動きをチェックしつつ、エリオットは両肩にオプション装備されている煙幕ユニットからベルトコーネの足元めがけて榴弾式の煙幕弾を放った。それも単なる煙幕弾ではない。南本牧の際に用いた電磁波妨害を伴った特殊煙幕弾である。視界の効かない黒い煙を吹き出しつつ、それは高出力の高周波電磁場を撒き散らし視聴覚センサーに誤作動を生じさせる。
無論、それがベルトコーネに対して有効でないのは以前の戦いで百も承知だった。せいぜいが視界を曇らせ、こちらの攻撃を避けにくくする程度だろう。だがそれでもほんの僅かな機会を物にするには必要なのだ。
アトラスとセンチュリーは第5ブロック階層の床面を滑るように走りながらも、エリオットの放った特殊煙幕がベルトコーネの足取りをわずかに止めたことを確認した。そしてそれが最後の攻撃タイミングのトリガーとなった。
【第4プロセス:ワイヤーにてベルトコーネ捕縛】
アトラスは両腕をベルトコーネへと向けると、両手首に備えられたマイクロワイヤーアンカーを撃ち放つ。同じくセンチュリーも腰の裏からワイヤー系装備のアクセルワイヤーを2機取り出すと両腕のスナップをフルに効かせてベルトコーネの方へと打ち込んでいく。
2×2のワイヤーが疾走り、煙幕の中に足止めされているベルトコーネへと絡み付こうとする。
マイクロワイヤーアンカーが先端のフックアンカーに内蔵された超小型ブースターでベルトコーネに巻く突く軌道を描き、アクセルケーブルが自らの意思を持つかのように螺旋を描いてベルトコーネの身体を絡めとっていく。
煙幕が晴れきらぬ中、暴走していたベルトコーネを捕縛拘束するのはそれほど困難な物では無かった。アトラスも、センチュリーも、両踵のダッシュホイールを停めて静止すると、それぞれに逆方向にワイヤーを牽引して、ベルトコーネの動きを動きを止ようとする。
――ギィィィィィン!――
アトラスたち2人は両腕に力を込めてフルパワー引っ張れば、高精度で高い強度を持つ四条のワイヤーは一切のたるみを見せずに張り詰めた。そして、そのワイヤーにはベルトコーネが両断されるのではないか? と思えるほどの力が込められていた。
アトラスは気勢を込めて叫ぶ。
「そこまでだ! ベルトコーネ!」
アトラスが総金属製の両足を足場へと踏ん張り踏みしめれば、無言のベルトコーネが抵抗してその身を捩って暴れようとしていた。
その頑強な抵抗はワイヤーを伝わってセンチュリーにも伝わっていく。そして、体内の動力装置から出力容量ギリギリの電力と駆動源が放たれて両腕の人工筋肉の力が全開放されていく。
――ギシッィ――
金属の骨格と金属高分子の人工筋肉とがせめぎ合い、不気味な軋み音を立てている。逃すことは許されない。逃せばコイツを倒すチャンスは二度と来ないだろう。そして、この機会を絶対に逃さず、必ず倒すという覚悟がセンチュリーの口から形を変えて飛び出した。
「観念しやがれ! 暴走野郎!!!」
ベルトコーネは、浴びせられた罵声に激高して足を踏み鳴らしつつその状態をなおも激しくよじろうとする。だが、それを気の触れた暴れ馬を捕らえるカウボーイの如く、アトラスとセンチュリーはギリギリの所でこらえきっていたのだ。
そして、最後のチャンスをアトラスたちはついに獲得したのだ。
【第5プロセス:エリオットによる砲撃 】
エリオットは警備本部の近衛へとネット越しにシグナルを送る。
【特攻装警エリオットより 】
【 警備部警備一課長近衛迅一警視へ】
【内蔵攻撃兵装『メタルブラスター』 】
【使用許可要請発信 】
その武装はあまりに危険であるため、仕様の際には上司である近衛の承認が必要になる。ネット越しの承認要請に近衛からのレスポンスはすみやかに帰ってくる。
【近衛よりエリオットへ 】
【メタルブラスターを〝使用許可〟する 】
これで必要な準備は完了する。
【特攻装警エリオット体内システム 】
【 コンフィグレーションチェック】
【>オールグリーン 】
【非常攻撃兵装 ―メタルブラスター― 】
【 射撃制御プログラム】
【>発射シークエンス ―スタート― 】
エリオットは自らの胸部に内蔵された非常攻撃用兵装の起動を完了していた。
それは重金属微粒子を体内の超小型核融合炉心からの超高温プラズマ流で超高圧加熱、重金属プラズマを精製した後に、エリオット自身の胸部の中央のMHD砲身により射出する熱プラズマ攻撃兵器だ。
対機械戦闘において、戦車の主砲クラスの銃砲撃が必要とされた際の攻撃手段として考えだされたものだ。重武装ロボットはもとより、戦場での対戦車戦闘でも十分に威力を発揮しうるものだ。
【プラズマ加熱チェンバー重金属微粒子投入 】
【マイクロ核融合炉心より超高温プラスマ導入 】
【加熱チェンバー内温度急速上昇 】
【プラズマ保持高圧磁場発生 】
【プラズマ臨界点到達 】
アトラスとセンチュリーの行動を冷静に監視しつつ攻撃のタイミングに備えれば、高熱の弾丸と化すべく重金属微粒子を順調にプラズマ精製していく。そして、プラズマ精製が完了したその時に、アトラスから攻撃の指示が下された。それを確認して射撃プロセスへと入る。
【MHD砲身、通電スタート 】
【姿勢制御――OK 】
【砲身角度微調整――OK 】
【体外螺旋磁場、射撃角度――調整完了 】
射撃に必要なプロセスをすべて終えると、照準を眼前のベルトコーネへと向ける。発射範囲にあらゆる要素を考慮して、敵アンドロイドベルトコーネのみを攻撃し、アトラスたちを攻撃せぬように微妙な射撃コントロールを加えていく。
【発射角度―― 】
【 上下:+2.6°左右:右3.2°】
【発射タイミング:オート 】
トリガーはエリオット自身の意志だ。敵を倒し、必ず攻撃すると言う敵意だ。この眼前の最強のテロアンドロイドを停止させるべく、この攻撃を何としても成功させねばならないだろう。
【砲口メインシャッター――解放 】
【メタルブラスター――……‥‥
そして、エリオットはついに、その何よりも強い意思でメタルブラスターの引き金を引いたのだ。
「発射!」
エリオットの声が響き渡る。それと同時に白赤色に光り輝く超高温プラズマの奔流が一直線に解き放たれた。射撃角度はぎりぎりベルトコーネだけを攻撃できる範囲に制限してある。今なら間違いなくベルトコーネだけを精密に攻撃できるだろう。
アトラスは語らなかった。結果が出るまでは何が起きるかわからない。
センチュリーは思わず叫んだ、こんどこそ攻撃が成功すると信じて。
「行けぇェェェっ!!」
だが、その時、アトラスもセンチュリーもエリオットも、気づいては居なかった。
ベルトコーネと言う〝怪物〟の口元が不気味に笑みを浮かべていたことに。
勝利をものにしたはずのアトラスたちにベルトコーネは地獄よりも深く響く声で、明確に一言、言葉を発したのだ。
「――かかったのはお前らだ――」
















