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第30話 特攻装警第7号機/警察官・朝研一

「くそっ!」


 朝研一は視界の中に光り輝くものを目の当たりにして焦りを覚えていた。

 退路はない。退いたとしても、その背後に守ったガドニック教授を放置して自分だけ逃げるわけには行かなかった。

 朝の脳裏に瞬間的に、今は亡き彼の父親の面影が思い出された。


――オヤジ――


 父ならどうしただろう? 逃げただろうか? 身を隠したろうか?

 違う。捜査一課の敏腕刑事だった父ならそんな情けない選択はしないはずだ。


「君!」


 背後からガドニックが驚きの声を上げる。だが、それを意に介する事無く朝は自らメリッサの攻撃に対して立ちはだかる。

 

――身を挺しても絶対に守る――


 それは朝が警察官を志した原点であるのだ。



 @     @     @


 

 その光景を遠くから見ていた者たちが居る。


「エリオット!」


 アトラスにその名を呼ばれるよりも早くエリオットはその右肩の装備を起動する。


【 指向性放電ユニット・起動        】


 右肩外側に装備された追加装備、そこから白銀の紫電がほとばしり、メリッサの放った球電体を打ち消した。すさまじい火花を散らしながらメリッサの球電体は掻き消える。ひとまず危険は去った。


「ギリギリセーフだな」


 センチュリーはそう告げて走りだす。あとを追うようにアトラスとエリオットも走りだす。そして、ガドニックを守ろうとした朝にアトラスが語りかけた。


「大丈夫か!」

「はい!」


 朝とガドニックを守るように立ちはだかると、腰からデザートイーグルを抜き放ちながら朝に問いかけた。


「特攻装警のアトラスだ。援護する」


 特攻装警の名を聞いて朝は緊張する。周囲に視線を走らせればアトラス以外にもアンドロイドが2体、それがアトラスと同じ特攻装警であることは明らかだった。朝も直接会うのは初めてだ。だがすべての特攻装警たちの名と姿と素性は知っていた。当然、特攻装警が警部補待遇であることもだ。


「品川管区広域管轄涙路署捜査課、朝研一巡査部長です」


 朝が自らの所属を名乗る。その時、センチュリーが朝に声をかけた。


「アイツは?」


 センチュリーが指差す先には、アトラスたちが見慣れぬ若者が一人立っていた。朝たちのところから走りだし、玉座の上のディンキーに向けて立ちはだかるその者はまだ逮捕すべき犯罪者に向けて視線を向けている。その背中を見つめながらセンチュリーは彼の名を問いただした。


「彼は、特攻装警第7号機グラウザー」


 朝はセンチュリーに視線を向けつつ答えた。


「皆さんの〝弟〟です」


 その言葉はアトラスやセンチュリーたちに驚きと歓喜とを沸き起こした。


「アイツが――」

「俺達の弟!」


 それは彼らが待ちわびた存在だった。全てで5体しか存在しない特攻装警――絶対数の不足する特攻装警を補いうる第6の存在はアトラスたちにとって何よりも待ち望んだものだった。

 いつの間に? とか――

 どうして? とか――

 そう言った無粋な言葉は無かった。


「ご苦労だった、後は俺達に任せてくれ」


 アトラスがねぎらいの声をかける。センチュリーもまた朝に声をかけた。


「俺達が来た方に向かえば螺旋モノレールの軌道がある。そこから降りれるはずだ」


 朝の顔を眺めるセンチュリーのその視線には、強い信頼の光が浮かんでいた。


「教授の事は任せたぜ」

「はい」


 朝は明確に答えると、ガドニック教授を庇うようにしてその場から後ずさり立ち去っていく。ガドニックもまた朝に導かれながら、その場から立ち去ろうとする。その視界に捕らえた特攻装警たちに視線でメッセージを送りつつも、危険な戦場に彼らを残したまま立ち去ることに一抹の罪悪感を覚えずにはいられなかった。


「教授、行きましょう」

「君――」

「ここは彼らに任せるべきです。生身の我々は介在すべきではありません」


 当然の判断だ。流れ弾も考えられるこの戦場に人間が居るべきではない。


「それに彼ら兄弟が揃ったんです。後は――大丈夫ですよ」


 朝のその言葉にガドニックは頷いた。多少の楽観的希望が混じってはいるが、信用するに足る希望だった。


「分かった、行こう」


 朝は最新の注意を払いながらガドニックを保護しつつ退避していく。


「武運を祈るぞ、グラウザー」


 教授のつぶやきがその空間に残された。そして、この第5ブロックから二人の姿は消えたのである。



 @     @     @



 グラウザーはまだ、気づいていなかった。その背後から3体の新たなる存在が近づいてきていることに。

 それは彼の肉親である。兄弟である。家族である。ただ、一般的な人間が考える家族の概念と大きく異なるのは、それは生まれてすぐに互いを認識することがないということだ。

 アトラスもセンチュリーもディアリオもエリオットも、弟が作られつつあることは知らされていはいなかった。ましてや、グラウザー自身は兄達の存在は名前とデータとしては知ってはいたが、その存在は遠くから眺めたことがあるだけにすぎない。まだ正式配備がされてない現状では対面すら許されては居なかった。

 だが――

 時の運命は、規則上の制約すら打ち砕いて、互いを結びつける。


「グラウザー!!」


 それはセンチュリーの声だった。

 グラウザーは己の名を呼ばれて思わず振り返る。その視線の先には3体のアンドロイド、その姿を目の当たりにするのはこれがはじめてだったが、その名と姿は識っていた。


「センチュリー――兄さん?」


 グラウザーがその名を呼ぶよりも前にセンチュリーは真新しい〝弟〟の元へと駆け寄る。不意に肩を組んで抱きついてきたその〝兄〟にまつわるデータをとっさに呼び出すが、データには性格と人柄は示されては居なかった。


「はじめましてだな」

「はい!」


 顔を左に向ければ、そこには人懐っこく陽気に笑う顔がある。生身の人間ではなくアンドロイドである互いのことを、とっさに強いシンパシーを感じて警戒をする事なく己を開放した。センチュリーも、グラウザーが気持ちを許したのを察したのだろう。砕けた口調はそのままに組んだ肩を外しながら今なすべきことをレクチャーする。


「とりあえず、詳しい挨拶は後回しだ。今は目の前のあいつらをぶっ壊すぞ」

「壊す? 逮捕ではないのですか?」

「逮捕って言うのは生きている奴にやるもんさ」

 

 センチュリーは両腰から2丁のオートマチック拳銃をとり出しながら答える。その言葉にグラウザーは思わずつぶやいた。


「え?」


 そして、センチュリーからディンキーへと思わず視線が向けば、グラウザーからさらに言葉が漏れ出た。


「生きていない?」


 驚きを持ってして放たれた言葉にメリッサは冷ややかに視線を向けてくる。


「どこまで知っているの?」

「まだ世間様の噂のレベルだよ」


 メリッサが再び両手に球電体を形成する。今度は掌ではなく広げた5指の先に片側5つ――左右で10の光り輝く光球を生み出していく。


「まずいわね、そう言うの忘れてくれない?」


 それに対してセンチュリーは、挑戦的に彼女を睨みつけながらその両手に握りしめたグリズリーとデルタエリートをメリッサに向ける。


「できるか馬鹿!」


 その銃口を前にしてメリッサは最大限の攻撃態勢を整えつつも、眼前の二人以外の敵に警戒を払う。


「忘れてくれないなら、あなた達ごと消すだけよ」


 視線の先にデザートイーグルと短ショットガンを構えたアトラスが居る。その隣にはフル武装のエリオット。いずれもが持てる遠距離攻撃手段を可能な限りスタンバイしている。並んだ銃口をメリッサとディンキーに集中させながらアトラスが言う。


「威勢がいいわりには――戦闘能力的にも劣勢じゃないか?」


 エリオットがそれに続く。


「あなたの電磁波系の装備では我々に対抗できません」


 すでに攻撃態勢を整えたセンチュリーたちと異なり、グラウザーは期せずしてもたらされたショッキングな情報に戸惑いを隠せなかった。その表情から察したのか、センチュリーはグラウザーに手短に説明を語り始める。


「ディンキーはすでに死亡していると国際機関に極秘裏に認知されている。アイツはディンキーの偽物、あるいはダミーだ」


 兄からもたらされた言葉に、グラウザーは驚くしかない。


「え? でも当たり前に会話をしました」


 その言葉に諭すようにセンチュリーは言う。


「アンドロイドでも会話はできるぜ? ま、どこまでオリジナルの記憶を残してるかはわかんねえけどな」


 そこまで聞かされてグラウザーは漸くにして、現在、自分の置かれている状況について理解することが出来た。しかし、感情については納得いかず引っかかりかけていた。それは純粋であるが故の優しさに他ならなかった。グラウザーは刑事であり警察である。社会ルールを護るものとして感情論とは背反する存在にほかならない。

 喉の奥からこみ上げてくるような異物感を胸の中に感じた時、それを遮る概念がグラウザーの中に突如沸き起こった。それは先程、朝刑事から聞かされた何よりも強い言葉だった。


――犯罪者の言い分なんて取調室で聞けばいいんだよ!――


 それは彼の指導者たる朝刑事の残した言葉だった。

 グラウザーはその脳裏に朝刑事が自分を叱咤してくれた時を思い出していた。


――何のために生まれて、何をするべきなのか――今ここで言ってみろ!――


 朝が残したその言葉と、自分自身の生まれる以前から与えられた存在意義とが、グラウザーの心のなかで結びついた時、彼自身の警察としての強い意志が今、目覚めようとしていた。そして、グラウザーは腰の裏のホルスターから一丁の拳銃を抜き放つ。


『STI 2011 パーフェクト10』


 コルトガバメントから発展した最新型の6インチ長オートマチック拳銃、米国のデルタフォースでも採用されたことのある実績ある銃である。それを抜き放ちメリッサに突き付けつつ、腰の脇から弾薬の収められたマガジンを取り出しパーフェクト10のグリップへと装填する。セレクトした弾種は対機械戦闘用の高速徹甲弾。牽制用ではない完全に敵を撃破するための弾種だ。

 そして、STIの銃口をメリッサに向けて言葉を放つ。


「すべての武装を解除して投降しろ。素直に従えば、ディンキー・アンカーソンを含めてその身柄は保護する」


 その言葉とグラウザーの強い視線にメリッサは悟った。

 弱さがない。迷いがない。幼さがない。

 未熟だったひな鳥が翼を広げ羽ばたき、一羽の荒鷲として飛び立とうとしている。その事に気づいた時、眼前に立つグラウザーが、言葉のアヤで簡単に籠絡されるような未熟者ではない事は誰の目にも明らかだった。


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