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X5:特攻装警関連情報集積ルーム〔バー・アルファベット〕/新情報

〝ベル〟は再びX-CHANNELの最下層フロア『コキュートス』に舞い降りていた。そしてナビの誘導するままにとある扉の前へと佇んでいた。


 扉には、特攻装警関連情報集積ルーム〔バー・アルファベット〕と記されている。午前中にペロと訪れた場所である。

 そしてその扉の両サイドには西洋甲冑姿の甲冑戦士がゲートガードよろしく大型の戦斧を手に警護している。セキュリティ識別システムの概念イメージである。その甲冑戦士が訪ねてくる。

 

『本エリアは限定資格フロアです。来床資格の無い者は強制排除されます。来床資格をご提示ください』


 ベルは自らの資格を提示した。

 

「〝ベル〟です。先程、ペロさんに登録承認していただきました」

『了解、これより識別IDをチェックします。動かないでください』


 その言葉の後に甲冑戦士のヘルメットのバイザーが上がり、内部から青白い光が照射される。

 セキュリティーによる固有IDの識別処理がされ、十数秒後にバイザーは閉じて光が消える。甲冑戦士はベルを正規登録者として承認した。

 

『フロアメンバー【ベル】様、ようこそいらっしゃいました。〝扉〟を開きます』


 その宣言の後にルーム入り口扉が開く。招かれるようにベルはその中へと足を踏み入れていった。

 そこはオールディーズ時代を想起させるような〝オーセンティックバー〟と呼ばれる正統派のクラシカルスタイルのバーだった。否、バーの様な意匠を施したカスタムルームであり恒久設置型の会議室にのみ許されている仕様だ。このルームのメンバーの場合、秘密の隠れ家としてのクラシカルなバースタイルを狙ったのだろう。

 ルームの中にはすでに人影があった。猫紳士のペロに、ファンタジーの旅人姿のダンテ、バーマスターのモノリス氏に、見慣れない影が2名ほど追加されている。


 英国のパブリックスクール風の燕尾服制服姿のアバターが一人に、シルバーのロングヘアで首から下は後ろが透けて見える半透明なロングドレス少女が一人、いずれも落ち着いた雰囲気の上達者と言う佇まいであった。

 

「失礼します」


 落ち着いて、それでいてはっきりとベルは挨拶をする。すると最初に反応したのは猫紳士のペロだ。

 

「お、迷子にならずに来たね?」

「迷子になんかなりませんよ。子供じゃないし」


 ペロに続いてダンテも声をかけてくる。

 

「ベル、彼らもこのルームの正規メンバーだ。紹介しよう〝アーサー〟と〝ミルドレッド〟だ」


 アーサーが燕尾服制服姿でダークブラウンヘアの白人風。ミルドレッドが頭部以外が半透明なミステリアスなアバターのドレススタイルだ。


「やぁ」


 シンプルに挨拶するのがアーサー、

 

「よろしくね」


 穏やかな語り口はミルドレッド、

 いずれもこの部屋の雰囲気にふさわしい口調と佇まいである。

 だが猫紳士のペロは先を急ぐように語り始める。

 

「すまないが早速だけど――」


 丸テーブル周囲にベルを含めた5人が座を囲む。ペロへ4人の視線が1手に集まった。

 

「――今、特攻装警たちを囲む状況について整理したい。かなり緊迫しているようだ」


 ペロがそう語ればアーサーが――

 

「そのようだね」


――そうつぶやきながら自らの手元の当たりにタブレット状の映像パネルを広げる。必要情報を空間に投影するための操作方法の一つだ。完全にVR空間上で両手でのハンドリング操作でデータを操作するスタイルなのだ。


「まさか、こんな連中を引っ張り込むやつらが居るとはね」


 そういらだちつつ必要情報を選択して空間投影する。するとそこには一人の老人の映像が複数表示される。日本人ではない白人系で白髪の長い髪の向こうに狂気ばしった視線が垣間見えている。動画・静止画が複数、輪を描きながら、丸テーブルの中央の空間上で漂っていた。

 

「こいつは――!」


 ダンテが息をのむ。ミルドレッドが深刻そうに眉を潜めていた。ペロもあまりいい表情とは言えなかった。皆の反応に疑問をいだいたのはベルである。

 

「あの――」


 ベルが声を発する。

 

「――このお爺さんって?」


 実態が17になったかならないかのティーンエージャーであるベルではこの手の情報に聡い(さとい)とは言えない。ペロもそれは分かっている。優しくかいつまむように最もふさわしい表現を選んで教えた。

 

「この人はね――、今現在、世界で一番危ないお爺さんさ」


 ペロの言葉にミルドレッドがうなずく。

 

「えぇ、世界中から嫌われている世界一の厄介者。何しろたった一人で世界中を巡ってテロ活動を続けているくらいだから」

「テロ? この方、一人でですか?」


 にわかには信じられない。だがその疑念を打ち消すように説明を始めたのはアーサーである。

 

「厳密に言うとひとりじゃない。配下となるアンドロイドの部下が何人かいる。だが彼と行動を共にする人間は居ない。意思決定者としては一人だが、それを実行するのは複数の存在だ。まるで〝人形〟を操る悪い魔法使いのようにね――」


 アーサーの説明にダンテが続けた。

 

「闇社会での通り名は『マリオネット・ディンキー』――インターポールを通じて世界中の警察や治安組織に危険情報が共有されているくらいだ。当然、日本でも警戒はされていたがある事情から上陸は無いだろうと見られていたはずだが――」


 そこまで語ってダンテは気付く。

 

「待てよ? こいつのターゲットは」

「こう言う人達ね」


 ミルドレッドもデータを操作し始める。所有するVR体験システムに大規模データベース装置がリンクされており、ヴァーチャルグローブでの操作を通じて仮想空間上に引き出せるのだ。無数に集積された光の塊をルービック・キューブでも操作するように器用にコントロールして必要なデータを取り出していく。

 そこには著名な〝英国国籍〟の有名人が多数呼び出されていた。それを丸テーブルの中央に円環表示させる。

 

「彼のターゲットは全て英国人、それも人種がどうとかということより、英国と言う国の国民であれば誰でもいいと言う状態ね。ビル、空港、飛行機、企業、船舶、軍事基地――手当たり次第に近いわ。だから当然、活動エリアは欧州が多く、次いで北米大陸――あとは旧英国植民地で今なおイギリスとの協力が盛んな国ね」

「つまり――」


 ペロが指(?)を組みながら話をまとめる。ベルに聞かせるためにだ。

 

「――この変なお爺さんは、執拗にイギリスの人間だけを狙っているのさ。神出鬼没で遠慮無用――ほんと厄介な人間さ。でも――あ? まてよ?」


 ペロもまたデータを操作し始める。彼の場合は空間に光のキーボードを映し出しキータイプするスタイルだ。

 

「たしかさぁ、今年の11月にコレあるよね?」


 ペロが表示させたのはとあるプレスリリース記事だ。そこにはこうあった。

 

【 世界未来世界構想・国際サミット     】

【 日時:2039年11月3日       】

【 会場:有明1000mビル第4ブロック  】

【            有明スカイメッセ 】


「これ、世界中から知識人とか著名人とか、学会の有力者とかてんこ盛りでしょ? 当然イギリスからも――」


 ペロが言えばアーサーが調べる。

 

「これだな」


【 世界未来世界構想・国際サミット     】

【 英国代表:               】

【 英国王立科学アカデミー内        】

【     自主研究ソサエティ『円卓の会』 】

【 代表:ウォルター・ワイズマン      】


「この集団って――」


 さらにダンテが懐から緑色の燐光を放つ球体のオーブを取り出す。ダンテはそれを介してデータ操作をしている。

 

「この人が居るだろう?」


【 人工頭脳学博士             】

【 チャールズ・ガドニック         】


 チロリアンハットの下、めったに見せない視線が光っている。


「――現在、世界中で普及しているアンドロイドに用いられている人工頭脳の主流・クレア頭脳を発明した人物だ」


 ミルドレッドが言う。

 

「当然、彼も来るでしょうね。印象に違わず良くも悪くも英国人気質そのものな人だから、たとえ日本政府が来るなと言っても――」


 そこにペロがため息をつきながら言った。

 

「――来るだろうねぇ。テロに屈するのはプライドが許さないだろうから」


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