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第24話 天空のコロッセオⅤ/―戦況把握―

 今この状況でエリオットが現れたことをフィールは感謝していた。タフなメンタルを持つ彼ならこの矛盾に満ちた状況に立ち向かえるだろう。そして、それと同時にエリオットを相手にして大仰な感情表現は不要であることも分かっていた。

 

〔フィールよりエリオットへ

 敵ハッキングにより武装警官部隊の重武装タイプと標準武装タイプが掌握され暴走――、特攻装警と軽武装タイプ、及び救助対象のサミット参加者を目標として攻撃中。行動目標は暴走プロテクタースーツによる被害拡大を阻止する事。同時に暴走体内部の盤古隊員の生命を〝可能な限り〟保護する事です〕

〔数は?〕

〔重武装タイプが6体、標準武装タイプは未確認、それとディアリオから最低5分、持ちこたえるように要請されてます〕

〔アトラスとセンチュリーは?〕

〔敵アンドロイド、ベルトコーネ及びコナンと交戦中〕

〔了解、重武装タイプは私が阻止する。フィールは重武装タイプを私の所に誘導しろ。そののち標準武装タイプの〝拘束〟を頼む〕

〔了解! 誘導を開始します〕


 エリオットに向けてそう宣言すると、一旦、高度を上げる。そして、位置関係を再確認すれば、重武装タイプの位置には偏りがあった。

 

〔エリオットに報告。

 南西のエリオットに対し、重武装タイプは南2体、南西2体、北西1体、北1体。

 北と北西をそちらに誘導します〕

〔了解、南2体、南西2体を攻撃する〕


 エリオットの返信を受けてフィールは第4ブロック階層内を旋回するように宙を舞う。そして、速やかに北から現れた重武装タイプに攻撃した。

 

「内部の人間への被害を最低限にしつつ暴走プログラムを牽制するには――これだ!」


【体内高周波モジュレーター作動       】

【両腕部チャンバー内、電磁衝撃波発信開始  】

【チャンバー蓄積――30%         】


 フィールは体内で生成した高圧高周電磁波を両腕の電磁波チャンバーへと蓄積していく。

 彼女は体内で生成した高周電磁波を様々な周波数や出力パターンで両掌から外部へ照射可能だ。電波回線への介入や、簡易的なレーダーとしてだ。

 

【チャンバー蓄積――60%         】

 

 さらには、発信信号を強化し出力を増大させることで、攻撃兵器として用いることも可能なのである。

 

【チャンバー蓄積――100%        】

 

 フィールはその両腕の手の平を2体の重武装タイプにそれぞれ向ける。

 

「ショック・オシレーション!」


 その言葉をトリガーにフィールの両掌から、高圧電磁波が解き放たれた。放射パターンは高圧縮・収束タイプ。目標物に電磁波が接触した際に爆発的な衝撃と加熱作用を及ぼすものだ。

 北と北西、そこから現れた2体の重武装タイプに向けられた電磁波の衝撃は、見えない刃となって襲い掛かる。そして、2体の重武装タイプの外装に決して軽いとはいえないダメージを与えた。


「当たった!」


 命中はした。だが――内部の人間にはどこまで影響するだろうか?

 

――でも、うまくこちらに反応してくれるかしら?――

――そして、誘導に引っかかるのだろうか?――


 不安と期待を抱きながら今や敵となった重武装タイプの挙動を注視する。すると若干ぎこちない動きながらも2体の重武装タイプは攻撃者であるフィールの方へとその視線を向けてきたのである。

 

――来た!――


 誘導は成功だった。そして次なる段階へと移行する番だ。


〔フィールよりエリオットへ〕

〔こちらエリオット〕

〔目標2体、北1・北西1、各誘引に成功、これより牽制を繰り返しつつそちらに誘導します〕

〔エリオット了解、目標2体を私の半径150m圏内に誘導しろ。その後、私の合図で急速上昇離脱〕

〔フィール了解、そちらに誘導を続行します〕


 フィールはエリオットとの通信を終えると地上に降り立ち重武装タイプ2体を招くように行動を開始した。

 重武装タイプの挙動を視認しつつ、エリオットの状況を認識なければならない。さらには考えられる攻撃を回避しつつ、重武装タイプを操る敵プログラムに攻撃が有効だと判断を誤認させなければならない。

 極めて困難極まる条件だったがやるしか無かった。

 

【 飛行装備アイドリングモードで作動継続  】

【 全電磁バーニヤ出力制限状態で作動継続  】


 高速移動に関わる装備を使用可能状態にしておき、あえて地上を歩行で移動する。

 そして、ショックオシレーションの出力を調整しつつ牽制攻撃をいくども繰り返す。

 その攻撃にさらに誘引されたのか、重武装タイプは手にしていた両手持ち式の可搬型重機関砲の銃口をフィールに向ける。

 その50口径の可搬型機関銃砲は生身の人間では取り扱いは困難だが、常人の力を遥かに増強可能な重武装タイプだからこそ使用可能な装備だった。

 フィールは知っていた。対、機械戦闘での威力の凄まじさを。装甲の比較的薄いフィールではたった一発で行動不能になるだろう。今回の有明の事件ではおそらくこれが最も危険な戦闘任務のはずだ。

 

――しかし一番危険な相手が身内だなんて――


 内心、自分が置かれている状況を嘆きつつも、フィールは全身のセンサーをフル稼働させる。

 

【 金属物探知センサー ―――――― オン 】

【 電界効果探知センサー ――――― オン 】

【 熱源探知センサー ――――――― オン 】

【 超音波エコーセンサー ――――― オン 】

【 音響識別センサー ――――――― オン 】


 敵の挙動と飛来する弾丸を識別するためのセンサーを全て稼働させて、体内プロセッサーで自分の周囲の状況を数秒先までシュミレーションする。

 

【 敵攻撃行動、シュミレーションスタート  】

【 自動回避ロジック稼働開始        】


 今、フィールは己に与えられた全機能全能力を余すところ無く使い尽くしている。

 フィールのその視界の中、2体の白磁のボディの重武装タイプは、両脚下部の装備を起動する。

 ローラーダッシュ装備だ。

 

――来る!――


 可搬型重機関砲の弾丸が雷雨の如く襲い来る中をフィールは回避行動をとる。

 いまや敵となった重武装タイプの視界の中で、フィールは高速の殘像を残しながら、右に左に、時には上へと高速移動を繰り返す。

 ローラーダッシュで移動速度を上げる敵を招きつつフィールはエリオットの下へと向かう。

 ギリギリの回避行動の中、フィールはエリオットからの合図をじっと待っていた。

 

 

 @     @     @


 

「思い出す――1年半前の成田を」


 エリオットは自らの視界の中に映る、その過酷なまでに皮肉な相手を前にして、記憶の中から消し去りたい出来事を嫌でも思い出させられていた。


 ― ― ― ―――――――――――――――――――――――――


 それは1年半前の成田空港だった。

 東京湾上の洋上国際空港の運用が間近に迫った5月のうら温かい春の日だった。

 かねてから、サイボーグ犯罪者や生身の人間に偽装したテロアンドロイドの存在は社会を大きく揺るがせていた。

 

 曰く――、サイボーグにも人権はある。

 曰く――、警察の重武装化は憲法違反である。

 曰く――、市民被害の保護を優先すべきだ。

 曰く――、治安維持のためなら自衛隊の出動も考慮すべきだ。

 曰く――

 

――おしなべて何時の時代でも無名の一般市民というのは無責任である。

 治安維持と市民生活の保護のために生命をかける役目を負うべき警察と言う存在に対して、曖昧模糊な〝平和〟と〝自由〟と言う言葉に慣れきった一般市民は、ロボットやアンドロイドの一般化に伴い複雑化・凶悪化する犯罪情勢に対して、無責任な意見しか持ち得ていなかった。

 そんな状況下で、凶悪化の抑止のために設立されたのが――

 

『武装警官部隊・盤古』


――であり、

 さらには――


『特攻装警』


――だったのである。


 その日は雨の降る5月であった。

 例年より早い梅雨入り、雨のベールにうっすらと包まれた成田空港はメイン国際空港としての役割を終えようとしていた。

 そして、アフリカからの東南アジア経由の国際便の到着の日、異変は起きたのだ。

 その日、日本の一般市民は、事態の深刻さをあらためて突きつけられることとなった。

 サイボーグ犯罪、アンドロイド犯罪のその根の深さと深刻さをである――

 

 そして、その日はエリオットという存在の有効性が国際社会にまで知らしめられた日であった。

 日本に『鋼鉄のサムライ』ありと。


 しかしそれは決して賞賛の言葉だけではなかった。


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