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第23話 天空のコロッセオⅣ/―囚われし聖鎧―

〔――君ら、想像以上に優秀なんだねぇ、ククク〕


 少年のあどけなさの残る声が割り込んできた。無邪気さの中に邪悪さを秘めた、冷たい声だった。ディアリオにはその声に覚えがある。そして、その声の主の名を叫んだ。


〔ガルディノ!〕

〔覚えていてくれたんだ、嬉しいねぇ――、ハハッ!〕


 ガルディノ――その声の主の名を知った時、フィールとアトラスの脳裏に戦慄が走った。

 思わずとっさに周囲を見回す。スレーブ端末体は破壊済みだと聞き及んでいるが、その本体がどこに居るのか、探しても無駄だとわかっているが、探さずには居られなかった。

 第4ブロックの空間の中、アトラスとフィールは互いを背中合わせに立つと、周囲に視線を走らせる。

 だが、二人のその行動をガルディノは嘲笑をもってあざ笑った。


〔面白いね君たち、なにそんなに怯えて見回してるのさ? 探しても無駄無駄! 君たちに僕は見つけられない! 姿のない僕を探している間に、君らは追い詰められる! そして、君たち特攻装警は僕にその機体を献上することになるのさ!

 どうだい素晴らしいだろう! それが君たちにふさわしい結末さ!〕


 そして、その声とともに第4ブロックの空間の中――、鳴り響いたのはオーケストラの荘厳な楽曲であった。

 あまりに不似合い――、この場にそぐわぬ楽曲がビルブロック内のあらゆる放送設備から突如として鳴り響き始めたのだ。


「これは――モーツァルト?」

 

 フィールが不安げにつぶやけば、アトラスがそれに言葉を続ける。


「レクイエム -怒りの日-」


 低い落ち着いた声でアトラスはつぶやいた。

 

 それは終末思想の一幕を示した歌である。

 キリストが再臨し生ける者死せる者全てが神の前で裁きを受けるその瞬間を詠った歌である。

 破滅を表すメロディが鳴り響き、流麗な英国英語でミサ隊により歌詞が朗読されていく。

 

――――――――――――――

怒りの日、その日は

ダビデとシビラの預言のとおり

世界が灰燼に帰す日です。


審判者があらわれて

すべてが厳しく裁かれるとき

その恐ろしさはどれほどでしょうか。

――――――――――――――


 その歌詞が流れる中、異変は引き起こされる。

 

 第4ブロックの空間の中――数多の盤古隊員たち。

 その彼らに異変は訪れていたのである。


 突如、散発的に機関銃が発射される。

 目標は決まっておらず、全くでたらめな発射であった。

 そして、すでに戦闘を終えたはずの彼ら――3種ある武装警官部隊のプロテクター装備。

 軽武装、標準武装、重武装――

 その中で軽武装を除く残る2種のほとんどすべてが装着者の意図を離れ、異常動作を引き起こし始めていた。


 標準武装と重武装のプロテクター装備は動力による筋力強化機能を持っている。通常ならば、装着者を守り、要警護者を護るための物だったが、今は装着者の意図を離れ、完全にかってに稼働している。

 内部の装着者の抵抗をあざ笑うようにプロテクターは動き出す。

 プロテクターの勝手な動きと、内部装着者の必死の抵抗、

 そのせめぎあいの結果、標準武装と重武装の盤古隊員たちはゆらゆらとふらふらと立ち上がり、そしてふらつきながらもその手にした銃火を強制された目標に向けて狙いを定めていく。

 

 彼らは歩き出す。

 在ってはならない攻撃対象、あってはならない攻撃意図、

 しかし決死の抵抗も虚しく、最新鋭のセキュリティをやすやとくぐり抜けて、その最新鋭の装備はすでに正義を護る盾ではなく、悪意を執行する魔剣と化したのだ。


 フィールが顔面蒼白で恐れをなしてつぶやく。


「そんな――」


 アトラスが地面を地底から振動させるような気迫で怒号をあげる。 

  

「オレたちを愚弄する気か!」

 

 それはまるで――

 ゾンビの群れにも似ていた。

 それはまるで――

 死を賜った終末の軍隊である。

 

 そして、その悪意に満ちた構図を作り上げた張本人の名をアトラスは絶叫する。

 

「ガルディノーーーーッ!!」


 今、まさに彼らの銃口は特攻装警の方へと向けられていたのである。



 @     @     @

 

 

 ガルディノの魔手から逃れた軽武装の盤古隊員たちが避難していく。避難する先はVIPたちが立てこもるコンベンションセンターである。

 

 ある小隊は全てが標準武装であったため成すすべなくガルディノの悪魔のハッキングに制圧されてしまっていた。

 また別な小隊は、3名の標準武装のプロテクターが暴走したことに気づき、緊急にプロテクタースーツのシャットダウン装置を作動させようとした。

 2名は間に合ったが1名は間に合わなかった。ガルディノからのハッキングに侵されてしまい、シャットダウン装置そのものが無効化されている。所持する小銃を乱射しつつ特攻装警たちを攻撃すべく逃走してしまっていた。

 かたや、ある小隊は小隊長だけが標準武装だった。シャットダウンが間に合わなかったその小隊長は隊員に命じた。対アンドロイド用の高圧スタンガンで撃てと。隊員がその通りに即座に動いたが、時すでに遅くプロテクターの停止はかなわず、装着者である小隊長が気絶しただけであった。

 

 それは鉄壁の守りをもたらしてくれる装備のはずであった。だが、テロリストの悪意は、そのプロテクター装備のセキュリティの隙をやすやすと突破する。

 

 今、外周ビルの中でもガルディノの魔手に支配されたプロテクタースーツが暴走しようとしていた。

 ジュリアと激戦を終えたはずの妻木とその部下たちである

 妻木が隊員たちに問えば、隊員たちが報告をしている。

 

「緊急停止装置は?!」

「2機が停止成功、2機が停止失敗です!」

「英国アカデミーは?!」

「無事です! けが人は居ません!」

「他の小隊からの報告はどうだ?!」

「生存した盤古隊員と連絡が取れました! しかし我が小隊のB分隊C分隊から報告はありません」

「緊急停止しても暴走されても、重武装タイプでは通信装置の行使は不可能。連絡手段が無いか――無事にスーツから脱出は出来なかったか――」


 最悪の状況だった。妻木の読みが当たっているのなら、妻木隊に配備されている重武装タイプが、最大で10体中8体が敵のハッキングにより制圧されたことになる。ハッキング初期なら緊急停止プログラムを作動させればいいが完全制圧されるとスーツのセキュリティが効かなくなるようだ。停止させるには完全破壊か、再ハッキングしか無いだろう。

 せめてもの救いは自分たちが対ジュリア戦で使用した重武装タイプがジュリアとの戦闘でほとんど大破していて這いずるようにしか移動できなことだった。

 現状、2体のスーツの移動速度は限りなく遅い。追いつかれることは無いだろう。


「よし! これより暴走したプロテクタースーツを敵と認める! ヤツラの攻撃を牽制しつつ退路を確保するぞ!」

「了解!」


 まだ光明は見えない。だが、希望は潰えていない。なぜなら特攻装警たちが次々に集結しているからだ。ならば彼らの力を信じて今はこの場を守りぬくだけである。


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