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第21話 天空のコロッセオⅡ/ー風、疾るー

 瞬時に広がりゆく火炎フィールドを目の当たりにしてフィールは彼女を破壊する決心をした。

 

 両脚を縦に開き、手にした2枚の放電フィンを眼前で交差させ構える。それは迷いを捨てた裁断者の目だ。

 彼女の後頭部では、飛行用の2対のマグネウィングが最大限に開いて作動する。それは周囲に電磁場の力場を造りながら微かな燐光でフィールを包みこむ。まるで女神が真円のオーラを背負うかの様に――

 次いで、彼女の全身のエアジェットグリッドが、そのジェット気流で彼女の体を冷却しながら、その場へと固定する。

 両手に握りしめたマグネウィングから蓄えた電磁波を己れの体内へと引き入れ、動力ユニットから2対の飛行用マグネウィングへ、そして、肩とふくらはぎの電磁バーニヤへと送り出す。

 やがてフィールのその全身は帯電する。その背後の電磁波の燐光はさらなる輝きを増し、強い力を溢れさせている。


【 システムコンフィグレーションチェック  】

【         ――オールグリーン―― 】


 フィールは己れの体のコンディションを確かめると、体内のトリガーを起動させる。

 その背後に、強力な電磁波干渉フィールドが生まれた。

 その両手のマグネウィングは、残るエネルギーで微細に振動を始める。万物を切断せしめる高周波振動である。


「これより被疑者を緊急避難により破壊します」


 全身がしなり、交差された両腕がボウガンの様に弾き出る。

 放たれたマグネウィングが虚空を飛び、フィールの背後の干渉力場フィールドがそれに絶大な力を与えた。

 弾け飛んだ。

 弾けたのはアンジェだった。

 火炎の中、最後の力を発露させて自らが盾となったアンジェ。だが、それももはや潰える。

 強烈な破裂音が響き、アンジェの身体は塵とかえる。

 マグネウィングが通り過ぎたその後には巨大な穴が残った。

 

 その全身と2対の放電フィンで電磁波の干渉力場フィールドを作りあげ、帯電するマグネウィングをそれぞれの斥力作用で打ち出す。高周波振動するマグネウィングは対象物に食い込んで多量のマイクロ波を放射し、強力な電磁波破砕を引き起こす。それは、フィールが有した攻撃能力の中で対機械戦闘で最強の破壊力を有している。

 その攻撃手段の正式呼称を『シン・サルヴェイション』と呼ぶ。


「対象破壊完了、機能停止確認」


 アンジェと呼ばれた機体の破壊を確認すると、その周囲に視線を巡らせる。

 残る一体――、ローラと呼ばれた機体はどうなっただろう?

 振り向けば、そこには仲間に逃走を促されつつも、逃げずに立ちすくむローラの姿があった。

 泣いていた。ローラはその顔に怒りを現しつつも涙を流し、じっとフィールを睨みつけている。

 咄嗟に両手にダイヤモンドブレードを一本づつ手にすると臨戦態勢にもどる。だが、ローラはフィールから距離を取ろうと後ずさりながらこう叫んだのだ。

 

「殺してやる」


 強く睨んだ視線の中に、なによりも深い〝恨み〟の心情が表れている。そして、ローラはフィールに向けて再び叫んだ。

 

「いつかアンタを粉々にしてやる! 覚えていろ!!」


 その叫びを残響として残しながら、ローラは両手を前方へとつき出す。そして、その両手の中に隠し持っていたあの〝光の塊〟の最後の欠片を全開放する。

 その光がローラとフィールの周囲の光景を瞬時にホワイトアウトさせ、フィールの視界を瞬間的にうばさいったのだ。

 

「しまった!」

 

 焦りを感じたがもう遅い。再びまぶたを開いて周囲を見回したが、すでにローラの姿はそこには残って居なかった。簡素にしてシンプルな技だが目くらましとしてはこれ以上のものはなかった。

 

「とりあえず、舞い戻って大暴れするようなことはないだろうし、コレでいいとするか」


 重かった。

 フィールは全身が鉛の様に重かった。多量の力を浪費したためだ。しかも、逃走者の存在を許してしまっている。

 フィールは少しうつむき加減に軽いため息をつく。

 だが彼女の周囲を心地好い風が吹き抜けている。その風にその身を少しあずけてみる。

 何もかもが洗い流されるような微かな安堵感が全身に染みわたってくる。

 そして、その耳に残ったローラの言葉を反芻していた。


 それは警察組織に身を置く者の宿命である。法を守り、刑罰を執行することで、犯罪者からの反感と恨みを買う。それはどうしても逃れ得ない宿命であり業であった。しかし、その宿命の先にこそ、平穏な社会とその未来があるのだと、かつて警察の恩師から聞かされた言葉をフィールは思い起こしていた。


――警察は恨まれ疎んじられて一人前だ――


 昔はその言葉の意味がわからなかったが、最近になりようやくわかったような気がする。そしてこうも思うのだ。

 

「あの子の言葉を無碍にしてはいけない」


 その顔を振り仰いで逃走したその先を慮りながらこう続けた。

 

「あの子を救ってあげなくちゃ」

 

 たとえ犯罪者でも救われるチャンスはあっていいのだから。


「さて――」


 小さくつぶやきフィールは再び歩き出した。フィールは戦いを終えるといつも、苦しい黒い塊の様なものを胸の中に感じていた。

 だが、今は違う。

 自分の胸の中から、それらをもって行ってくれた一迅の風にフィールは心から感謝する。

 そして、マグネウィングを見つけ、それを己れの身につけ直す。


 しばらくして、その「耳」にたくさんの足音が聞こえてきた。見れば、盤古の隊員たちが死傷者や生存者の回収/保護を始めていた。やがてその中から、フィールにふたりの標準武装の盤古が歩み寄ってくる。

 彼らは、フィールの前で敬礼をする。

 そしてその中の一人が、片手でそのヘルメットを取る。その中から覗いた顔は、大きな疲労の中に確かな喜びを覗かせていた。


「武装警官部隊『盤古』東京大隊小隊長、猿形であります」


 そこには、角ばった顔の若い中年男性がいた。安堵の笑みを浮かべながらも、その瞳は戦士のままである。フィールもまた敬礼で彼に答えた。


「特攻装警第6号機、フィールです」


 彼、猿形は軽くうなづき、敬礼を解いて言葉を続ける。


「伝達します。現在、妻木大隊長ひきいる第1小隊が今なお英国の来賓の方々を護衛しつつ交戦中です。あなたにはそちらへの応援を要請お願いいたします」

「了解です。ただちに向います」


 フィールもまた頷き彼の申し出を聞き入れる。すこし、堅苦しさをといて砕けて話し掛けてみる。


「それより、あなたがたは?」


 その言葉には、盤古の彼らを気遣うニュアンスが多分に混じっていた。猿形もそれを敏感に感じていた。


「ご心配には及びません。失われた人命もあるのは事実ですが、それもまた我々の天命と知るところです。それよりも、こちらに残された来賓の警護と救出は我々にお任せ下さい。それでは!」


 猿形はヒールを打ち付け甲高く敬礼をする。彼らに成し得なかった事を成した英雄に向けての敬礼である。

 そして、それを追う様にフィールに向けて他の盤古たちが各々に敬礼をしていた。

 儀礼ではなく、本心からの感謝だった。そして、ひとつの戦いを終えた事への最大級のねぎらいだった。

 フィールは彼らのそれに深い心の響きを感じ取る。そして彼女もまた敬礼で返礼をした。

 猿形はうなづいてその身を翻し元隊へと復帰する。

 見上げれば、かつて自分が落とされた外周ビルがある。


「行こう」


 明瞭な声でフィールは言った。

 そして、フィールは翼を広げると、妻木たちと英国VIPの元へと向って舞い上がった。


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