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X4:【リアル正義の味方? 】特攻装警ってなに?【予算の無駄?】再設置

ミドルフロアから、オープンルームエリアへと異動してきたのはベルとペロだった。フロアにそっと降り立ちルームの扉を確認する。するとそこにはこう記されていた。



[【リアル正義の味方? 】特攻装警ってなに?【予算の無駄?】]

[《ルームタイプ:会議室》《鍵:オープン》《再設置》]



 それを一瞥してペロはつぶやく。


「それにしても、まさかオープンルームエリアで特攻装警に関する部屋が設置されるとは――」


 そして扉へ向けて手を伸ばしそれを開けながら言う。


「――それだけ彼らも認められてきたということなのかもな」


 そのつぶやきを残しふたりは会議室へと入っていった。



 ルーム内はすでに人混みで溢れていた。

 朝方と同じ〝トーカー〟に、数多くの〝ギャラリー〟

 ペロは、その人の群れを縫うように先頭へと出ていく。今回もトーカーとして参加するらしい。

 かたやベルは、人目に触れるのを避けるためか、ペロの近くに位置しながらギャラリーサイドにその身を隠していた。

 会話はすでに始まっていた。


「なんだ遅刻か? 猫?」


 そう問いかけてくるのはミリタリー歩兵氏、ペロはそれに問い返す。


「ちょっと! 猫は縮めすぎでしょう? せめて猫紳士くらいは言ってくださいな」


 ペロは苦笑しながら答える。

 ルームマスターがペロに声をかける。


「大丈夫、まだ始まったばかりだよ。さあ続けよう」


 場を見れば揃っていたメンツは皆揃っている。バー・アルファベットにて会話を交わしたダンテ氏もトレードマークのチロリアンハットを被って佇んでいる。だが挨拶は交わさない。オープンルームではみだりに名前を呼び合わないのがセオリーだからだ。

 ルームマスターが仕切り始める。


「今朝情報提供があった事件で、特攻装警6号のフィールが支援に出動していたのは確認済みの者も多いと思う。だが今回、新たに7号機の存在が確認されている。俺の所で確認した映像情報を紹介する」


 その言葉と同時に、仮想会議室ルームの中央頭上に断片的な二次元映像が静止画・動画を織り交ぜて流され始めた。それはまさにあの有明・台場にてサイボーグ犯罪者を相手に逮捕劇を演じた一件の目撃映像である。

 その映像を流しながらルームマスターは忠告する。


「いいかい? くれぐれもこの映像をバックアップ保管したりコピーしたりダウンロードすることはないように。ましてや外部公開は一切禁止。情報機動隊や公安に追い回されたくはないだろう?」


 ルームマスターの忠告に異論を唱える者は皆無だった。沈黙こそが皆の答えであった。


「異論はないね? それじゃ始めよう。何か新しい情報を持ってる者は?」


 ルームマスターが求めれば最初に発言したのはミリタリー歩兵氏だった。


「まずこの第7号機の名前が分かったよ」

「おっ? 早速来たね?」


 冷やかすのは男の子氏である。


「まあね。それで名前が〝グラウザー〟と言う。アトラスがAだから、順番から言って7番目がGだからガ行で始まる名前だと推測していたけど当たりみたいだね」

「グラウザー――、なんだかドイツ人っぽいな」


 そう問うのはローブを纏った賢者氏、それに男の子氏が返す。

 

「そう? ぼくはヒーローっぽいと思うけど」


 猫貴族のペロが言う。

 

「日曜朝の?」

「そうそう」


 ミリタリー歩兵氏も笑って言う。

 

「案外、それを狙っているのかもな。市民の受けをよくするためにさ」

「だね」

 

 和やかに語り合う彼らにルーム設置者は告げた。

 

「オーケー、ご苦労。他に掴んだ情報はあるか?」


 次に動きを見せたのは〝青い霧〟氏であった。手足のない不定形アバターである彼は色の変化や動きによって意思を表示する。その時も赤い変化を見せて少し前へと進み出た。

 

「こっちは彼の所属部署と役目についてだ。確認映像や目撃情報から手繰ったんだけど、どうやら彼は警視庁本庁の所属では無いらしい、おそらくは新設の所轄署である〝涙路署〟に配属されているようだね」


 賢者氏がそれに付け加える。

 

「確か方面本部に準じて広範囲の捜査活動を行う事を認められた新型の所轄署だったはずだな」

「その通り、所轄間の壁を取り払い、広範囲の事件発生の相互協力を円滑にする――と言う趣旨のもと、凶悪事件の対処を主眼として設けられる『広域管轄所轄署』のテストベットとして設けられた警察署だよ。品川駅のインターシティ付近に拠点があって第1方面全域にて活動しているはずだ」

「つまり、グラウザーとやらは当面第1方面での案件をメインに担当する事になるわけか」

「おそらくそうだろう」


 そんなやり取りに猫貴族のペロが声をあげる。

 

「まぁ、今までの経緯から考えると、原則の建前はそうなるだろうけど、特攻装警の絶対数の不足から、応援名目であちこちに駆り出されるだろうね」

「あ、やっぱそうなる?」


 ミリタリー歩兵氏が笑いながら言う。

 

「――センチュリーもけっこうアトラスあたりにステルスヤクザの制圧に駆り出されてるらしいし」

「まぁ、仕方ないよね」


 ペロも笑いながら同意した。

 だがチロリアンハットの旅人の装いのダンテが告げる。

 

「でもね、少々、気になる点があってね。警視庁の公式発表情報では、今回の有明・台場の件も、朝の芝浦ふ頭の件も、特攻装警が関与したと言うプレスリリースは一切ないんだ。全てその新設署の涙路署の担当案件として処理されているんだよ」

「え? どうして?」


 そう拍子の抜けた声を出したのは男の子氏だ。その疑問にダンテが答えた。

 

「第7号機はまだ正式発表前だ。これは僕の推測だが、法規上まだ第7号機は『存在していない状態』なのだろう。法的行為には責任所在と行為の実行者の名義が重要になる」


 猫貴族のペロがおどけて肩をすくめながら口をはさむ。

 

「誰がやったのか、誰が責任を取るのか、わからない状態で〝調書〟は書けないからねぇ」

「そう言う事だ。ただ、正式登録前の未登録機体がなぜ現場捜査や犯人制圧に参加しているのか? そのへんがあまりにも謎だが〝未承認のままでも、現場活動をさせたいと言う何か〟があるのだろうね」


 ミリタリー歩兵氏が問う。その後に青い霧氏が続ける。

 

「ブートキャンプで訓練中の新兵を、前線に放り込んで鍛えるようなものかな?」

「それ案外正解かもな。正式登録をして現場での責任が取れる状態にはなってないとかな」


 さらに纏めるようにローブ姿の賢者氏が言った。

 

「だからこその別人名義での外部公表と言うわけか」

 

 彼らの言葉にチロリアンハットのダンテは大きくうなずいた。

 

「お三方の考えでほぼ正解だろう」


 そしてあらためてダンテはルームの全員に向けてこう告げたのだ。

 

「そう言う事だから、この件に関して警察に問い合わせたり、露骨に情報を集めたりするのはやめたほうがいいかもしれない。それこそ情機や公安に睨まれるだろうからね。あくまでも個人的にウォッチャーレベルで留めたほうがいいだろう」


 最後に纏めたのは猫貴族のペロである。

 

「まぁ、正式に警察に質問を出すのは、正式登録後の初ロールアウト以後って事だね」


 その言葉にミリタリー歩兵氏が肩を落とし気味にしみじみと悔しがった。

 

「あー! それじゃ、それまではこれだけの情報を知ってても〝生殺し〟って事かよ!」

「残念だけどそう言う事!」


 猫貴族が笑いながら諭した。だが彼は言葉を続けた。

 

「でもね――」


 猫貴族のペロは頭上で投影され続ける第7号機・グラウザーの姿を眺めながらこう語ったのだ。

 

「彼ははじめての〝所轄〟に配属される特攻装警だ。つまり、今まで以上に我々一般市民に近い場所で活躍することになる。アトラスからフィールまでは、それぞれが特定の決められた職域に特化していたのに対して、初めて街角であらゆる事に対応できる〝正義の味方のおまわりさん〟として我々の前に現れると思うんだ。言ってみればコレは――」


 ペロは右手の指(と言ってもどれが人差し指かはわからない、猫なので)を立てながらこう告げた。

 

「本放送前の〝正義のヒーロー〟が、夏休み映画でちらりと顔見世するような物さ。お顔が拝めただけでもラッキーだよ」

「まぁ、そう考えると納得いくか――」


 ミリタリー歩兵氏はしぶしぶ納得する。

 

「しかたない、それまでは〝第1話スタート〟まで待つ事にするかぁ」

「そう言うことだね」


 男の子氏も笑いながら同意した。

 そして、ルームマスターが宣言した。

 

「どうやら、結論が出たみたいだね。そろそろこの部屋を畳みたいと思う。これ以上はこの映像について嗅ぎつけられる恐れがある。そうなるとギャラリーにも迷惑がかかるからね」


 チロリアンハットのダンテもうなずく。

 

「そうだね、これ以上は情機の探査クローラーに引っかかるかもしれないしね」


〝探査クローラー〟――情報機動隊の様な情報犯罪捜査をする者たちが、違法な流出情報の存在を突き止めるためにネットに放っている自動探査プログラムの事である。

 

「よし、それじゃ今日はこれで終わりにする。また何か掴めたら〝ここだけで楽しむために〟みんなで集まろう。それじゃお疲れ様!」


 ルームマスターが閉鎖を宣言する。同時に自動シャットアウトまで5分のタイムカウントが空間に表示された。

 

「撤収します!」と、軍隊式に敬礼して消えるのはミリタリー歩兵氏

「おつかれ」と、シンプルに消えるのは青い霧氏

「またね~」と、子供っぽいのは男の子氏

「ではまたどこかで」と、丁寧に別れを告げるのはローブ姿の賢者氏だ


 ギャラリーも速やかにバラけていく。チロリアンハットのダンテは何も言わずに消えた。

 すると猫貴族のペロが、ベルに視線を向けて頷いていた。それが何を意味しているかベルにもわかった。

 VRゴーグルのシステムを通じてナビプログラムに命じる。

 

〔ナビ! バー・アルファベットにアクセスして!〕

〔ナビ了解、特別限定ルーム〝バー・アルファベット〟に移動します〕


 そして、ベルの姿も、そのオープンルームから消えていったのである。


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