第18話 天空の支配者/ーケルトの残照ー 序文
そこは「歓喜の野」
そこは「常若の国」
誰も見ることかなわぬ地で
全ての者を待っている。
ただ一つ、哀しむべきことは、
ある一人の哀しき王の
ひずんだ善意と悪意の楔で
封じられていると言う事だ。
そして、
それとは違う悪意と偽善の衣を
身にまとう為政者たちも、
永遠にそこへはたどり着けない。
ただ一つ喜ぶべきことがある。
たった一人の無垢な道化者だけは、
その土地にかけられた楔と封印を
すり抜けられるのである。
やがてその道化者は、
善意と悪意の境にある哀しき王の
ひと時のほほえみを感じ取る
そして哀しき王は聞く。
封印が解ける音を。
(ガリア地方古代遺跡の壁面にて発見、読み人知らず)
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かつて、ケルティック・アイランド〔ケルト〕と呼ばれる地に住まう民族がいた。
だが彼らはその住むべき土地はおろか民族としての全てを失う運命にあった。
やがて、彼らは追われた。
ローマとカソリックとヴァイキングたちと……そして、イングランドに。
前124年のアントルモン陥落に始まりガリア、アングルシー、ブリタニア、
そして1282年、最後のウェイルズ王、スラウェリンⅡ世が没する。
これをもってして彼らの王国はこの地上から姿を消したのである。
だが、彼らはそれでも自らの国を取り戻そうとする。
ウェイルズの武将オワイン=グリンドゥールの蜂起、
ボニー・プリンス・チャーリーの反乱、
そして、イースター蜂起、
たとえ幾度敗北を繰り返したとしても、彼らは果てる事なく立ち上がる。
傷つく事は、ためらう事の理由にはなりはしない。
ただ、その誇りだけが彼らを動かす源だったのだから。
しかしながら、彼らが再起を喫して争いをこころみるにはいささか不利な面があった。
彼らは美しく、そして悲しいほどに純粋だった。そして、絶望的なまでに堅くなだったのである。
しかしさりとて、その事を理由として、彼らを嘲笑う事も罵る事も誰も出来はしない。
彼らはまさに欧州民族の礎である事には違いない。
そう、彼らこそが、夢とロマンを携え伝説に生きた民なのである。
















