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4:午後6時:臨海副都心・台場/消される記憶

 護送車両へと金を押し込み現場保存と証拠がためをしてその場は終りとなる。飛島と朝、そしてグラウザーは一足先にその場から離れることとなった。この場の管轄は湾岸警察署であり、彼らの所属である広域管轄所轄・涙路署はあくまで応援だからだ。

 湾岸警察署の職員に対して挨拶し詫びを入れたのは飛島である。

 

「少し騒がせました。ウチの捜査員の行った行為については後ほど改めて、釈明と書類提出を行います。それではコレにて失礼致します」


 そして軽く敬礼をすると挨拶の後にその場から去っていく。

 朝とグラウザー、そして飛島はそれぞれ別の警察車両で彼らの本拠である涙路署へと帰参する。

 悠然と歩く飛島に対して、複雑な表情の朝、そしてうつむいたままグラウザーが居る。金が放った『バケモノ』と言う言葉にグラウザーは深く飲まれていたのである。

 路上に停車させていた覆面パトカー2台にそれぞれに別れて乗ろうとする。その時、飛島が声をかけた。

 

「なぁ、グラウザー」

「はい」


 グラウザーは飛島の呼びかけに力なく振り向いた。だが飛島は睨むような視線できつい口調で問いかけたのだ。


「お前は何者だ? 言ってみろ」


 抑揚を抑えているが情のこもった力強い問いかけだった。その問いに力なく弱々しくグラウザーは答える。

 

「ぼくは――、ボクはバケモ――」

「違う!!」


 飛島が強く否定する。グラウザーの〝怯え〟と〝甘え〟をなにより強く否定した言葉だった。飛島がさらにつづけた。

 

「お前はアンドロイド、そして社会の護り手だ! お前の後ろには急速に悪化する犯罪事情に怯えて暮らす町の人々が大勢いるんだ! そんな人々を金のような犯罪者から護るために戦えば、あんな罵声や悪言はいくらでも浴びせられる! それは一種の言葉の暴力だ。だがな、そんなものにいちいち負けてんじゃねぇ!!」


 それは叱咤だ。愛のムチだ。部下が自分の立ち位置と心のあり方に揺れている時に、上司として先輩として目上として、送ってやれる最高の指導である。そしてその言葉は朝へも向かった。

 

「朝! お前もお前だ! こいつはまだ未熟だ! 成長途中だ! これから沢山教えてやって一人前の刑事として鍛え上げてやらなきゃいけない! 物事に対する価値観もそうだ! 今回みたいにコイツが揺れ動いた時、自分が何者であるかを思い出させるのはパートナーであり相棒であるお前だ! ボケッとして突っ立ってんじゃねぇ!」


 その強い言葉は何よりも若い二人の心に響いていた。そして迷いの中にあった二人の認識にはあらたな力が戻っていたのである。二人はそろって返答する。

 

「はいっ!」


 その勢いのある声に飛島は満足に頷く。

 

「先に行け、俺は後始末していく」


 そう告げて覆面パトカーへ乗り込むと走り出す、朝たちとは別行動である。朝もグラウザーに目線をおくりながら告げた。

 

「帰ろうぜ。もどったら書類提出だ」

「調書ですね?」

「あぁ、あらためて書き方教えてやるよ」


 ミスは犯した。だが取り戻せない致命的な失敗ではない。まだ〝次〟がある。

 二人は覆面パトカーに乗り込むと次の仕事へ向けて走り出したのである。

 

 

 @     @     @

 

 

 飛島が向かったのは、誰であろう、特攻装警第6号機のフィールのもとである。

 緊急応援で本庁から派遣された彼女だったが、今回に限り、ある特別な事情があったのだ。

 フィールが上空から舞い降りてくる。

 場所は台場と有明の境ののぞみ橋、そこに覆面パトカーにて現れたのは、朝とグラウザーの上司である飛島であった。

 覆面から降りると空を見上げる。そして軽く敬礼をしながら降りてくるフィールを迎えた。

 

「ご苦労さまです」


 飛島は礼儀を持ってフィールを迎えた。

 正規に警察職員として登録された特攻装警は警部補待遇である。飛島もまた警部補だった。階級上は対等だが警察内部での立場的な重要度はフィールの方がはるかに上であった。飛島は、そう言う立場的な前提条件を理解できる男であった。

 だが、そう言う事に深くこだわるようなフィールではない。

 

「ご苦労さまです、飛島さん。無事、容疑者確保、おめでとうございます」


 フィールもまた軽く敬礼をする。ハーフブルーのゴーグルスクリーン越しにその優しい視線が飛島を見つめていた。

 

「いえ、皆さんの協力があってこそです。それに今回は正式ロールアウト前の〝あいつ〟との連携なので余計な手間をかけさせてしまいました。申し訳ない」

「いいえ、謝らないでください。職務として必要な事ですから」


 にこやかにはにかみながらフィールは答える。だが飛島はその笑顔の向こう側にある残酷な現実にすでに気づいていた。

 

「――やはり、今回の任務についての記憶は抹消されるのですか?」


 〝記憶の抹消〟――ショッキングすぎる事実だった。


「はい、正式ロールアウト前にグラウザーと会うと言う事自体が規定違反ですから。その特例処置の条件として当該記憶を部分消去する――、特攻装警の運営委員会が決めた事なのでしかたありません」

「難儀ですな。警察の主戦力としての立場と機密を守るためとは言え――」


 特攻装警にはある掟がある。たとえ兄弟機と言えど、正式ロールアウト前には会うことも語り合う事も禁止されている。事前に機密情報が漏れないようにするためである。どうしてもその様な状況が起こったときには、特攻装警への記憶情報の一時的な消去が行われるのである。この場合、フィールがグラウザーについて視認した、そして聞いた情報や事実は、一切消去されるのだ。

 たとえどんなに無意味な行為だとわかっていてもだ。

 それが警察内部における〝規約〟と〝規定〟と言う物なのである。

 

「でも、二度と会えないわけじゃないし、じきに会えると分かってますから。飛島さん、お気遣いありがとうございます。それと――」

「はい――?」


 神妙な面持ちでフィールが問いかけてくる。飛島はその言葉をじっと聞き入った。

 

「〝弟〟を、グラウザーを、よろしくおねがいします」


 それがフィールの本音だった。まだ、正式に会うことが許されないとは分かっていても、その存在を知れば、兄弟として家族として同族として情が湧くと言うものなのだ。それを無碍に軽々しく扱うような飛島ではない。

 

「お任せください。彼は我々が立派に育て上げて見せます」


 そう答えつつ再び敬礼をしたのだ。フィールもまた敬礼で返すと再び舞い上がる。一度、古巣の研究施設に戻り、記憶の操作処置を受け、然る後に本庁へと戻るのである。飛島は、過酷な運命を見守るかのようにフィールが飛び去るまでじっと見送っていたのである。


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