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第13話 フィール最悪の帰還/最悪の事態

「よし、3人ともヘリに向かえ、これから降下作戦を――」


 近衛が力強くそう告げている時だった。

 一人、センチュリーは空を仰いでいた。第1陣の突入部隊のヘリをはるか彼方に見ていた。

 だが、それと同時に頭上はるかに何かを見た。そして、彼は呟く。


「おい、なんだよあれ?」

「なに?」


 センチュリーの言葉にアトラスもつられる。追って、エリオットも鏡石も頭上を仰いだ。

 近衛も彼らの言葉に空を仰ぐ。


「え? なに?」


 鏡石の視界には白い物が見える。それは人の姿をしている。

 アトラスも驚きの色が濃くこもった声で呟く。


「まさか?」

「フィール?」

「ちょっとまてよおい!!」


 言うが速いかセンチュリーが駆出す。


「エリオット!」

「はいっ!」


 追う様にアトラス・エリオットが続く。鏡石にも状況の子細が飲み込めてきた。と、同時に、彼女の口からは絶叫とも悲鳴ともつかぬ声がほとばしる。

 彼ら3人の上空を翼の折れた1羽の鳥のごとくフィールが落下する。その下で、鏡石も狼狽するだけではない。すぐに冷静さを取り戻し携帯ターミナルを取り出す。彼女の指がキーパネルの上を疾走する。鏡石は幾つかの情報を引き出す。そこにはフィールの構造上のデータも含まれている。そして、目視による算出でフィールの落下機動を読んでキーパネルに打込む。即座に答えが出てきた。その答えは――


『破壊による機能停止』


 ディスプレイ上にはそう表示されていた。現状考えられる耐久数値に対して、地上落下時の衝撃による破壊力が上回るからである。 

 一方、先に行動を起こしたのはエリオットである。

 エリオットは己れの両太ももの脇にある収納部から小さな黒いキャラメル大のチップを数個取り出す。そして、それを自分の前方へと散布した。高出力の電子制御爆薬チップだ。

 次いでセンチュリーが、エリオットの巻く物を見て速やかに右腰のガンホルスターから己れの銃を抜いた。そしてエリオットの巻く爆薬の内の幾つかに狙いを定め撃つ。


 爆薬は炸烈し、他の爆薬チップを連鎖的に誘爆させる。

 爆薬は放射状に爆発のフレア炎を創り上げる。そして、赤い同心円の衝撃波を生み出す。

 それは鋭い上昇気流となり、落下するフィールを手荒く受け止める。

 アトラスは一人爆炎の中へと突っ込む。そして、瞬間の爆発を終えて弱まりゆく爆風の中でフィールを待った。


 アトラスの視線は逆光の下を落ちてくるフィールを捉らえる。そのまま微動だにせずに構え、フィールはあまりに長い数秒の時を経てアトラスの元へと舞い降りたのだ。

 そのアトラスの両腕に2次関数的な数値曲線を描いて強い衝撃が訪れた。やがて、完全に爆発は止み、あとには爆発の残響だけがこだましている。鏡石は思わず閉じたその目をゆっくりと開く。その目に写ったものそれは………


 衝撃を弱めるために屈めた脚をアトラスはゆっくりと伸ばし皆の方を向く。

 そこには確かに彼女がいた。

 ゆっくりと皆の方へと歩き出すアトラスの腕の中、引き千切られたアンティーク人形の様なフィールが、確かにそこに受け止められていた。かすかに反応を示しながら……


「う――うぅ……」

「フィール!」


 センチュリーが駆け寄る。エリオットも無言でアトラスを見る。

 いつの間にか鏡石の目に涙が滲み出していた。近衛は言葉を逸してじっと見つめるだけである。

 沈黙が襲った。だれも何も言葉を発せないのだ。発せないばかりか動こう事もしない。

 だが、一人の機動隊員が近衛の背後に近付くと、静かに耳打ちをする。


「ただ今、突入部隊・第1陣2小隊編成到着。さらに第2科警研派遣チーム急行中」


 近衛は頷き、そっと場を離れる。そして、その隊員に告げる。


「第2科警研派遣チームにフィールのこの一件を連絡しろ」


 隊員が走り去り、近衛はふと背後を振り返る。

 近衛は現場の総責任者として取らねばならぬ選択を考えた。その視界の中には鏡石やアトラスたちがいる。そして、アトラスやエリオット・センチュリーの様子を伺えば、その顔には、やり場のない怒りが充填された視線が宿されているのが解る。

 一方で近衛は、すぐそばの機動隊員を数名呼び寄せアトラスのもとへと向かわせる。隊員らが沈痛な面持ちでフィールを一瞥すると、その表情を抑えながらアトラスからフィールを受け取った。アトラスは彼に小さな声で告げる。


「たのむ」


 機動隊員は小さく頷き、フィールを別箇所へと運んで行く。

 アトラスが近衛を見つめる。センチュリーとエリオットはフィールの行方をその目で追っている。近衛は僅かに思案してその3人に告げる。


「お前たちは――」


 その声に3人が近衛を見つめる。


「今は何よりも任務に専念してくれ。フィールは我々が絶対に救う」


 そう告げるとセンチュリーが低い重い声で答える。


「頼みます」


 近衛は3人に背を向け鏡石を連れ警備本部へと向かう。

 そして、センチュリーたちは怒りを押し殺した堅い表情を浮かべると、言葉も無く歩き出した。



 @     @     @


 

 同じ頃、神奈川郊外の横須賀附近から一直線に有明を目指す2機の大型ヘリがあった。

 白い機体のそのヘリのボディにはこう記されている。


「日本警察・武装警官部隊盤古、神奈川大隊・支援ヘリ №3/№5」


 それは過去にロシアにあったカーモフの様な、二重反転ローター機の大型人員輸送ヘリだ。機体の尾部に備った推進補助用の小型ダクテッドローターが、それが戦闘用の高速ヘリである事を語っていた。


 そのヘリの中には2小隊分の盤古隊員が搭乗している。


 白磁の鎧にスリット型の目、プロテクター内に簡易型のアクチュエーターフレームを内蔵した標準タイプの盤古隊員は、その背部に降下用の圧縮炭酸ガスによるジェットパックを背負っている。

 そのヘリの内部はそれほど大きくない。各メンバーが小型の座席に座れば膝を揺らす隙間すらない。ヘリ内部の最前方にはコクピットが。盤古たちのメンバーが座しているのは機体の中央部である。輸送ヘリは11人乗り、コクピットのパイロットを除けばあとは皆、盤古隊員である。


 機内の盤古隊員は下の方向を俯いている。両の拳を組む者や腕を組む者、あるいは両手で顔を覆っている者。みな意識を自己の内部に集中させるためのコンセトレーションの最中である。唯一、最前方のシートの右側、そこに座していた一人の盤古隊員だけがヘリの両サイドの大型スライドドアからヘリの外側を眺めている。

 2機のヘリが東京上空を舞うこと約二十分ほど、横須賀から横浜沖の海上・首都高速湾岸線を経て大井から青海へとアプローチする。そして、その段階で先の一人の盤古隊員が予告も無しに立ち上がる。

 その彼の動作の気配を引き金にして、他の盤古隊員も顔を振り上げる。

 武器を装備する。これから始まるミッションは降下作戦のため、武器は全て銃身を短く詰めたショートモデル。しかも専用の小型マニピュレーターでプロテクターに直結してある。


 グレネードランチャーであるアーウェンのショートモデルを先頭に、H&KのPKや、特殊散弾銃メタルストーム、クリスベクターなど、その隊員の任務/役割に応じて、その所持武器は異なっていた。

 先頭に立つ盤古隊員が小隊長。その彼自身がグレネードランチャーのアーウェンを装備している。彼はヘリのドアから身を乗り出し、彼らの目標地点を確認している。


 そこは有明1000mビルから500m地点。

 №3ヘリがビルの手前で高度を上げ、№5ヘリがそれに習う。

 2機のヘリはビル附近の上空でホバリング体勢に移ろうとする。

 小隊長の盤古がハンドシグナルを送ると、盤古隊員が一斉に立ち上がる。

 2機のヘリは、有明ビルの第4ブロック脇に横付けする。

 ヘリのサイドの大型スライドドアから盤古隊員が姿を表わした。

 そして、そこから盤古隊員が身を踊り出した。


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