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第11話 護衛任務/決意と接触

 ディアリオの追跡は順調だった。他の足あとに紛れていたとはいえ、ディアリオのセンサー性能の高さと、情報分析能力の優秀さが極めて発見困難な痕跡の検出を可能にしていた。

 先ほどディアリオと妻木たちが遭遇した場所から数百メートルほど歩いた場所、そこにアカデミーのメンバーたちの潜伏していた場所が発見された。


 ディアリオたちが歩く先に人の気配がする。それも複数。万一のことに配慮してハンドシグナルと視線で合図を送る。そして、足音を潜めながら近づけば、ソファーで疲労を回復させようとしている英国アカデミーの面々の姿を確認したのだ。

 

 一方で、ディアリオと妻木たちの姿に真っ先に反応した者が居た。

 2人のSPの内の1人で、先程カレルに詰め寄っていた方のSPだ。彼はカレルにならい、周囲の警戒に当たっていた。その彼の視界に見慣れた姿が見えてきたのだ。彼は立ち上がりカレルに一言断りを入れ、足音を潜めながら駆け出した。

 

「ディアリオさん!」

「ここに居たのか、無事でよかった。皆さんは?」


 SPは右手で周囲のレストルームを指し示しながらディアリオに答える。


「こちらで休まれておいでです」

「そうか、ご苦労様」


 ディアリオはそのSPを伴いながらレストルームの中へと入って行く。SPはレストルームの入口に残り、周囲の警戒にあたる。また、盤古の面々はディアリオと共にレストルームの中へと入って行く。


「みなさん!」


 レストルームに入ってくるディアリオの姿を、英国のアカデミーの面々は安堵に満ちた顔で迎え入れた。真っ先に立ち上がり声を発したのはウォルターである。


「おぉ、君は!」

「ディアリオです。皆様方の保護のために参りました」

「おぉ、そうか。いや、助かるよ。いやいや何とも心もとなくてねぇ」


 ホッとしたのはウォルターだけではない。彼の穏やかな心理状態にディアリオも自分の心理状態も良いものへと変って行くのをしっかりと感じていた。


「他の方々も何も異常はございませんか?!」


 妻木もプロテクターのメットを開けながら尋ねていた。彼の問いに場のみんなが各々に頷くなり言葉を発するして肯定的な答えを返す。


「良くここがわかったね」


 冷静な低い声で問うたのはカレルである。その視線はディアリオへ向けて送られている。その視線にディアリオは答えた。


「痕跡が消えかかっていたので分析に苦労しましたが、足あとと靴底からの残存物のスペクトル分析で辿りつけました。それより適切な避難誘導をして頂きありがとうございます」


 カレルの視線はディアリオの外見に向いていた。先ほど自分の語った解説をもとにするならば、ディアリオの外見は理屈に合わないことになる。頭部のみであるが、そのリアルでより人間的な外見は、彼ら英国アカデミーをエスコートしていたフィールに比肩するものだ。その人間と変わらぬ瞳を有したディアリオにカレルは思わず尋ねずにはいられなかった。

 

「スペクトル分析かね?」

「はい、私は情報分析とネットワーク操作に特化しています。視聴覚をフルに駆使して工学分析や音響解析、電磁波分析などにも対応可能です」


 ディアリオの言葉を耳にして、ロボティックス工学を主分野にしているホプキンスも知的好奇心が押さえられなかった。

 

「その小さな視覚センサーでかね?」


 ホプキンスは小さいと評した。ディアリオは聡明に彼の言葉の意味をすぐに察する。

 

「私たち特攻装警に搭載されている各種センサーはその工作精度では世界トップのレベルだと聞いています。犯罪抑止の力になるなら技術的努力は惜しまない――そう言う技術者によって私達は生み出されましたから」


 ディアリオの言葉にカレルもホプキンスも黙して感嘆の表情を崩さなかった。そこに語りかけたのはがドニックである。

 

「日本の警察にはね、第2科学警察研究所と言って日本の刑事警察へのアンドロイドの導入を目的とした極めて高度な研究機関がある。彼ら特攻装警は、その研究機関において、現時点で日本が持てる科学技術の最先端を結集させて作られたものだ。

 現時点でナンバー1からナンバー6まで存在し、私達をエスコートしていたフィールがナンバー6、彼がナンバー4だ。

 フィールは一般捜査活動と対人ネゴシエーションを目的とした機体で、彼、ディアリオはネットワーク犯罪対策と現場鑑識能力の追求が目的なんだ」

「なるほど、我々の追跡など簡単なわけだな」

「あぁ、そういうことだ」

 

 ガドニックの語る事実に、カレルが感心しつつ納得する。

 2人以外のアカデミーメンバー面々も同様に得心した様子だった。

 しかし、そこにエリザベスが不意に湧いた疑問を口にする。

 

「ねぇ、フィールさんはどうしたんです?」


 それはもっともな質問だった。返答に窮する質問だったが、ほんの僅かな逡巡ののち、場の空気を澱ませないためにもディアリオは事実を告げることにした。

 

「フィールは撃破されました」


 場の空気が変わる。緊張が一瞬にしてその場に広がる。しかしディアリオは言葉を続ける。

 

「襲撃者を排除するため交戦となりましたが、敵の戦闘力が上回っていたため撃退するに至らず、皆様の避難のチャンスを確保する事を優先しました。その際、フィールは致命傷を負い機能停止に陥りました。彼女は職務を全うしました」

 

 破壊されたのみならずビル外に廃棄されたことはディアリオは伏せた。皆がディアリオの言葉に耳を傾ける中、カレルがディアリオとフィールをねぎらうように語りかける。

 

「一般捜査活動メインの彼女ではあのテロアンドロイドとの交戦は負担だったろう。それでも彼女は我々のために全力を尽くしたんだ。彼女は立派だよ。彼女のためにも我々もなんとしても生き残らねばならない」


 カレルの言葉を耳にしてエリザベスが頷く。

 

「えぇ、そうね」


 その言葉がきっかけとなり、皆、立ち上がって次の行動を取り始める。アカデミーメンバーの皆がカレルの言葉を待つ中、カレルはディアリオと妻木に視線を送りつつ、妻木に語りかけた。


「それで、これからどう行動する?」


 妻木はメットをかぶり直していたが、他の盤古隊員に指示を出しつつ、カレルの言葉に答えていく。

 

「少なくとも1階フロアに降りるのは危険です。この外周ビルの数カ所にビル火災時に使用される避難シェルターがあります。そこへ移動して皆様の安全を確保します。さらに私の部隊の別行動班とも連携して襲撃者の動向を把握します。先導は私が行いますので、皆様は指示に従ってください。それと生存している警護官2名は私の指揮下に服すること」

 

 妻木は冷静に理路整然と行動プランを解説した。そして、生存していた2名のSPにも指示を出す。妻木のその言葉に異論を唱える者は居なかった。

 

「ではよろしく頼みます」


 カレルの言葉に妻木は頷く。その妻木にディアリオも声をかけた。


「私は外部との連絡手段を確保してみます。絶対に何らかの方法があるはずです」

「分かった。収穫があったらこちらにも連絡してくれ」

「了解です。それでは妻木隊長。皆様方の事はお願い致します」


 妻木ははっきりと頷いた。そして、短めに――

 

「出発」


――とだけ答えたのだ。


 ディアリオは妻木たちがアカデミーメンバーを守りつつ立ち去るのを見送ると、その場から姿を消した。


 彼は一路、階下へと向かう。ビル内システムの管理センターに何らかの手段が残されているかもしれないからだ。ビルの構造体が破壊されたとはいえ、管理センターにたどり着く手段が何かしら残されている可能性が無い訳でもない。


「本当の勝負はこれからだ」


 その時、ディアリオの目に「決意」と言う名の光が宿り始めていた。



 @     @     @



 今、グラウザーはまさにモグラそのものであった。

 ひろきにサヨナラを言った後、グラウザーは彼の父親を助けだした所に着いていた。

 グラウザーは押し潰されたモノレール車両の中をくぐる。

 長い暗闇と異様な圧迫感の中、グラウザーは先へと進む。

 その穴の先に微かに見える薄明るい光がグラウザーの興味の全てである。


「あの光はなんだろう?」


 グラウザーはひたすら光をめざす。

 その暗闇との長い格闘の末にグラウザーはモノレール車輌を抜け出た。

 漆黒の闇の中から、光の場所へと脱出する。

 その目に振り注いでくる光に、グラウザーはほんの僅かに苦痛を覚える。そして、全身を使って精一杯の背伸びをする。

 グラウザーは、背伸びを終えて身体の力を抜いた時に、気分が楽になりどこかへ広がるのを感じていた。何か楽しい事が起きそうな、理由の無い興奮を覚え、すぐそばの高見を目指す。

 今グラウザーが出てきた場所の背後にモノレール車輌の切れ端がある。グラウザーはそこを登り静かに立ち上がった。跡切れた軌道の先に突き出たモノレール車輌に立てば、その視界の中に新たな映像が飛び込んでくる。その周囲には何も無く、あるのは爆破によって崩壊した外周ビルの巨大構造材の残骸だけで、それは折り重なるように崩れている。


 その崩れた構造材の大きな隙間からは、第4ブロックの様子が伺い見る事が出来た。ちょうど、箱庭を下から覗きこむ様な不思議な光景である。グラウザーがそこから見たのは、ビルの広場で動き回る白い鎧で、そして、それがグラウザーに新たな好奇心を引き起こした。


「ん?」


 グラウザーは見た事も無いその白い鎧を、さらに詳しく見てみたいと思った。そのためにはここから別な所へと移りたいとも思った。

 ふと見下ろせば、決して飛び降りれない高さでは無い。だが、飛び降りた後に進む場所を探しても、周囲は崩れた鋼材に阻まれてどこにも行けない。

 すぐにあきらめ上を仰げば、モノレールのレールが途中で跡切れてぶら下がっている。モノレールの軌道もふさがっておらず、軌道を辿れば先へと進む事も出来る。グラウザーはそこから行く事に決めた。

 そのモノレールの跡切れた部分は十mほどはあるだろう。グラウザーはその先の一点をじっとみつめている。


「よいっ……」


 グラウザーは両脚を屈めていく。そして、貯めた力をバネの様に弾き出す。


「しょっ」


 グラウザーはその声を発すると、序走なしでいとも簡単に飛び上がった。頭上のレール軌道へと飛びうつるその姿は嘘の様であり、大昔のSFX映画のワンシーンを思い出させる。

 たどり着いたグラウザーは一人満足そうに笑うと、ふたたび歩き始める。

 今、彼の心には「白い鎧」と言う一つの興味の対象があった。どこに行けば逢えるだろう? グラウザーはそんな風にも考える。そして、興味と好奇心と言うエネルギーを掴んで軽快に歩き始める。


 そう今の彼の示す行動の動機に加わった物――、それは、白い鎧への好奇心である。その頃、ディアリオが去ったのちのレストルームでは、これからの行動について妻木たち盤古が思案していた。その妻木のもとへ鋭い電子音が鳴り響く。

 電子音は彼らが装着しているメットの内部から聞こえてくる。


「何事だね?」


 カレルが問う。


「お待ちを」


 妻木は思考波操作でメット内の通信回線を起動させる。


「妻木だ」

「報告! 不審人物と接触!」

「詳細を話せ」

「人間と思わしき者と接触するも、不穏な行動をとるため引続き警戒中! 攻撃の可否の判断を斯う!」

「襲撃犯の一味か?」

「確定できません。敵対的行動は今のところ見られません」


 妻木はわずかに思案する。


「攻撃は今しばらく待て。但し、危害がおよぶ様であるならば攻撃を許可する」

「了解!」


 それっきり通信は切れた。妻木にカレルが問うた。


「何だね? 何と君の部下は接触したのかね?」

「わかりません。判断材料が不足しています」


 妻木の言葉にカレルは思案すると声を潜めて語りかけた。


「もしかして――」


 その言葉は穏やかだったが、確かな力強さがある。


「襲撃者の名前は〝マリオネット・ディンキー〟ではないかね?」


 カレルの言葉に妻木は周囲に悟られぬように無言でうなづく。

 瞬間的に険しくなるカレルの表情に、妻木も事態の深刻さをあらためて実感せざるを得なかった。


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