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第11話 護衛任務/マークカレル

 妻木たちとディアリオとが出くわした地点から少し歩いた場所。オフィス区画のまっただ中ににレストルームのエリアがあった。ちょうどカフェテラスタイプの部屋で、大小様々な丸テーブルが並んでいる。ドアはなく、ついたて型の仕切り板が通路とレストルームとを隔てている。レストルームの周辺には人造の観葉植物が並んでいる。

 レストルームの片隅には、観葉植物に囲まれるように英国VIPの面々が座り込んでいた。レストルーム備え付けのパイプ椅子を引き出してその上に突っ伏しっている。


「おい、トム」

「なんでしょうか?」


 完全なサンタクロース体形のウォルターが疲れ果てた顔で隣の人物に声を掛ける。そこにはトム・リーが居る。彼もまた疲れ果てている。


「生きてるか?」

「とりあえずは」


 トムは苦笑いで答える。トムはパイプ椅子に寝そべっていたが、身を起こすと場を取りしきっている人物に声を掛ける。


「ところで、カレルさん」

「ん?」


 立っていたカレルは振り向く。神経質そうに目を細めて思案していたらしく表情が非常にけわしい。


「これからどうするんですか?」

「どうもせんよ。このまま救助を待つ」


 カレルの言葉に警護のSPの一人が、驚いて飛び起きる。


「ミスターカレル、その様な判断には同意しかねます!」

「なぜだね?」


 カレルは鋭く切れ長な目で淡々と問う。カレルの向こう側には先程のSPが立っていた。


「この様な場所に留まっていたのでは追い付かれる可能性が――」

「それは無い。心配無用だ」


 SPの言葉をカレルは遮断した。そのカレルに場の中から声を掛けたのは、英国王立アカデミーの使節団の中で最長老のメイヤーである。


「カレル。彼のためにも詳しく説明してくれんかね」


 カレルは頷く。


「なに、簡単な理由だよ」


 カレルは対岸のSPを見つめながら告げる。


「こう言う場合、追い付かれる事を考慮するか、隠れてやり過ごす事を考慮するかによって、取るべき行動は変ってくる」


 カレルは歩き出す。


「我々を追う人物がどう言う種の者なのかをまず考えよう。先程のホプキンス氏は犯人をアンドロイドだと判断した」


 ホプキンスもうなずく。


「通常の人間なら、我々の脚力でも逃げきる事は可能だろう。だが、アンドロイドである先程の犯人の戦闘能力から考えるなら、我々の様な生身の人間の脚力では逃げきれないと考えるべきだ。それにだ――」


 皆がカレルを凝視する。カレルは警官の方へと歩み寄る。


「これ以上、逃走を続けていても、先に我々が疲弊するだろう。対して、相手は屈強な戦闘アンドロイドだ。脚力や持久力は我々とは比較にもならない。ならばだどこかに退避していてやり過ごすか、見つからぬようにカモフラージュするのがベストと言うものだ」


 カレルに詰め寄ったSPは言葉を発しない。カレルは彼の前に立ちその目を直視する。カレルは直立不動、瞬きも少なく相手を凝視するその姿はもはや一般の学者の姿ではない。


「それにだ、先程のビル内施設の爆破や、この大規模な停電などの事実を考えれば、先程のアンドロイド以外にも犯罪者が潜んでいると考えるべきだ。その様な時に、危険を犯してまで本隊に帰還するのは自殺行為以外の何物でもない」


 SPが息を飲み込むと再び問いを発した。


「それではどのようにすれば?」


 カレルは静かに微笑みながら言葉を続ける。


「別に、何もする必要はないのだよ」

「??」

「みなも見ていると思うが、先程のアンドロイドは完全なリアルヒューマノイドタイプで、生身の人間に似せる事を最大の特徴としている。故にだ。必然としてああ言うアンドイロドは視覚系のセンサーが弱くならざるをえない。人間に似せて作ったアンドロイドの場合、人間と同じ様に目の中の瞳孔の部分でしか映像を捕らえる事が出来ないからだ」


 SPはうなづく。カレルは言葉を続ける。


「しかし、アンドロイドに通常の映像以外の視覚系のセンサー……つまりX線感知やサーモグラフ、あるいは光学スペクトルなどのセンサーからくる映像情報をも見れるようにするためには、必然的に人間と同じだけの『目』のスペースの中にこれだけのセンサーメカニズムを組み込まなければならなくなる。一般に、センサーを強化したアンドロイドは〝目〟以外の部分に追加センサーを設けているか、瞳のない大型の〝目〟を有している」

「そう言うのって、サングラスかけてたり、目の辺りがゴーグルみたいになってるよね」


 脇からリーが口を挟む。カレルはリーに頷きながらも話を続ける。


「しかしだ、リアルヒューマノイドタイプのアンドロイドはそう言う手段を取る事が出来ない。故に、リアルタイプヒューマノイドは『目』が余り優れていないケースが殆んどだ。そして、目が人間とさほど変らないとなればカムフラージュは簡単になる。視覚系に優れたアンドロイドなら我々の足跡からサーモグラフで残熱を感知したり、靴底からこすれて剥がれた残存物をスペクトル光分析で見つけたりできる。だが、彼らリアルヒューマノイドはそうは行かない。仮に感知できたとしても、その性能から言ってこの場の状況から我々の足跡を見つける事は難しいはずだ」


 カレルが一息つく。


「現在の状況の場合、我々の存在の証拠となるのは大別して2つある。1つは足跡に残る残熱、もう1つは足跡の底からフロアに写る残存物のスペクトル光だ。その点を考えると、我々が退避するのはここしかないと言う事となるのだよ」


 2人のSPのうち、後方で様子を伺っている方は、理解できないと言う顔をしている。だが、カレルに詰め寄った方は、少なくともカレルのテロアンドロイドに対する実戦的な判断に感心と好意を抱いたようだ。彼のカレルに対する顔は、先程の懐疑的な物から感心の様なものへと変ってきているのがよく見える。

 そして、カレルのレクチャーを拝聴していて何かに気付いたのか周囲を見回しながら告げた、


「そうか、ここなら足あとがたくさん残っているか――」


 ここはオープンに開放されたレストルームだ。万全とは行かないが、足あとや痕跡を紛れさせるのにはもってこいの場所だ。

 カレルは黙して頷いた。2人のSPの内、後ろに下がっていた1人は、そのカレルの様子を伺いながら彼の前に座っているガドニックに声をかける。

 ガドニックの方はと言えば、彼も若干の疲労を感じたのかうたた寝をしながら一連の出来事を傍観視している。ガドニックは声をかけられて生返事で彼に答える。


「ガドニック教授」

「ん……ん?…」

「つかぬ事をお聞きしますが」

「なんだね?」

「あのカレル氏は一体どの様な方面の学者なのでしょう?」

「あ? あぁ、マークか……そうだな………」


 ガドニックは悪戯っぽく笑みを浮かべる。


「少なくとも私達の様な普通のタイプの学者でない事だけは確かだな」


 ガドニックはそれっきり答えない。そして、ガドニックに質問した彼は返ってきた答えに解せないでカレルを疑いの目で見つめる。やがて、獲物として狙われる小動物がなりを潜める様に、速やかにその場は静まり返って行く。ただ、神経を尖らせるカレルだけが、その視線を活発に活動させている。

 2人のSPはと言えば、カレルにならい警戒に当たる者と、カレルを疑いの目で見つめる者とに別れたのが、特徴的と言えるだろう。


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