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第11話 護衛任務/重武装タイプ

 重武装のプロテクターに動力が灯る。直動モーターが軽い擦過音のノイズを立てる。

 妻木たちはその行動を開始した。部隊は3方向に展開する。B班は最下層を巡回し、のちに上方向に上がって行くルートを、C班はエレベーターシャフトの空間を用いて一気に最上界へと向かいそこから下りてくるルートをそれぞれ取った。そして、妻木本人が率いるA班は、彼らとは別にVIPたちの行動を推測して追跡するルートを取った。

 外周ビル内のメイン通路の一角で妻木は立ち止まり、あらためて情報収集を行なう。

 今、ビル館内の情報通信網は彼らの手の届く範囲内においては、全く意味をなしていない。すべての情報システムが死んでいるのだ。それでも英国のアカデミーを始めとするVIPたちの足跡を追うとするならば、彼ら自身が持つ装備の情報収集能力に頼らざるをえない。

 妻木たちはまず、現時点で自分たちが持つ情報を整理してみた。そこから、VIPたちの行動が推測できるかもしれないからだ。


「事件が起こったのは、サミット開催の直前、ならば通常の判断基準から行けば、すぐにサミット会場へと向かえる様な体制と状況を取るはず――」


 妻木はその判断をもとに、引き連れた3人の部下とディスカッションする。それほど遠くへは離れてない。すぐに会場へと直行できるようにしていたはず、故に高速エレベーターや動く歩道などの移動装置のそばに居る可能性がある。

 現在の彼らにはビル内の第4ブロックにおいて特に関わり合いを持つ様な場所は存在しない。また、当時は正午に近く昼食を取っていた可能性がある。それならば、どの様な場所に彼らは向かったのだろうか?

 僅かな沈黙を置いて妻木が答えを出す。


「彼らは昼食を取りに向かったか、休憩を取るためにレストスペースを探しに向かった可能性がある。この第4ブロックはビジネス街区画を兼ねているためその様な用途に合致する施設はそれほど多くない。その中で、彼らが向かう可能性が最も大きいとすれば――」


 今、彼らの目の前には、ビル内の概略図を示した地図パネルが壁面に飾られている。

 妻木はそのパネルの上を指し示し、指を滑らせる。


【最上階展望フロア】


 妻木は振り返った。


「残りのVIPは間違い無くここにいたはずだ。このフロアから彼らの足跡を追う」


 妻木はA班の面々を引き連れると最寄りのブロック内エレベータの扉をこじ開ける。彼らは重装備プロテクターのつま先から何かを飛び出させる。コンクリートはもとより、ハイスチールにすら食い込める打ち込み式の高周波破砕ナイフだ。

 妻木たちはエレベーターシャフト内を跳躍し始めた。そして、シャフト内の途中につま先の高周波破砕ナイフで飛びついては、再びさらに上へと跳躍を繰り返す。妻木たちは一路、最上階へとひたはしる――



 @     @      @



 同じ頃、ジュリアから辛くも逃れたディアリオは一足先に逃走した英国のアカデミーの後を追っていた。そして最寄りの大階段へと向かった。

 ディアリオは、英国のアカデミーの人々の足跡を光学スペクトルアナライザで読み取ると、それをもとに追跡を始めた。足跡の残存は大階段を階下へと向かっていた。ディアリオの足音がプラスティックの床に鳴り響く。大階段のステップを確かな足取りで下りて行く。

 彼がたどるのは階段のステップの上に残された英国のアカデミーの人たちの足跡だ。それを忠実に辿り最上階の24階下から18階へディアリオは降り立った。


「このフロアだな」


 ステップ上の足跡は階段を離れ右折していた。その先へと進んでいる。

 青みのかかったグレーに染められたフロアがそこにはある。周囲は雑居のビジネス区画である。

 展望フロアの24階とは打って変わり、通路の両側は大小様々なビジネスオフィスが並んでいる。通路の壁の一部は、ガラス張りであり、そこからはオフィスの中がよく見える。そして、オフィスの大部分は空室であった。


「サミットによる特別休暇か」


 ディアリオが一人呟く。そして、その手に握ったクーナンをいつでも抜けるように腰溜めに構えている。


「もっとも、普段ならこんなにガラ開きな訳でもないだろうな」


 視線を効率的に通路の端々へと送る。その死角の影にいつ先程の様なテロアンドロイドが潜んでいるとも限らない。事実、ディアリオ自身には敵の実数や詳細な情報は何も入っていないのだ。


 通路の先を200mほどすすんだだろうか? そこで一つ目のエレベーター区画に出た。そこには3機のブロック内エレベーターがあった。エレベーターの動作表示のインジケーターは消えている。ディアリオはそのエレベーターの扉にも神経を配る。エレベーターがシャフト内で動作するような音は一切聞こえてこない。聞こえるのは、無音状態の中に生まれる耳鳴りの様な微かな金属音である。


「何も無いな」


 ディアリオは先を急ぐ。そして、脚を踏みだそうとしたその時だった。

 金属板を強打した時に生まれる間延びした低音が、エレベーターの扉から聞こえてくる。

 2、3度繰り返しエレベーターの扉が打たれると扉が僅かに開く。扉の向こうに何かがいる。扉が強引に抉じ開けられる中、ディアリオは反射的にその扉に向け銃を構えた。ディアリオは言葉を発しぬまま、扉を凝視する。そして、扉の向こうの「何か」に全神経を尖らせた。


 扉が5秒ほど、無理に抉じ開けられてゆっくりとその隙間を大きくさせて行くが、ある一定の大きさに開くとそこからは急に軽く開いた。開くと同時に扉の根元で電磁火花の散る音がする。扉をひらくモーターのショート音である。

 ディアリオの人差し指にかかる力が強くなる。


「なに?」


 だが、ディアリオの思考は一瞬停止した。扉の向こうから現れた人物に、意外と言う感情を持たずにはいられない。


「きみたちは――、盤古か?」


 扉の向こうでは、一人の盤古隊員が銃を構えていた。その片脚を右手の方の壁面に固定し、もう一人の盤古隊員が別な壁を足掛かりに、反対の脚を支えている。残る二人は、エレベーターの扉を抉じ開ける役目である。銃を構えていた盤古隊員が相手の正体をすぐに理解して銃を降ろす。彼は軽く飛ぶと、エレベーターから降りてきた。

 残る3人も順次降りてくる。その手には重武装タイプ専用のカスタム銃が携えられている。一人がエレベーターシャフトから降りるあいだ、残る者たちは自分たちの銃で周囲を警戒する事を忘れていない。4人全員が降りると、最初に降りた盤古隊員が言葉を発した。


「特攻装警だな?」


 ディアリオは銃を下げながら頷く。


「自分は、武装警官部隊盤古東京方面大隊第1小隊隊長・妻木だ。現在、サミット関連の未収容VIPを捜索している。もし、貴殿に行動上の余裕があるのならば、協力を要請したい」

「こちら警視庁情報機動隊所属、特攻装警第4号機ディアリオです。現在、サミットに参加予定の英国王立科学アカデミーのメンバーを追跡中です。皆さんの要請を受諾します」


 ディアリオは銃を懐に納め直立で相手を直視しながら答える。ディアリオが答え終わると妻木はヘルメットのフェイスをオープンさせる。小さいモーター音が重武装のプロテクターの頭部を開いて行く。そして、そのメットの下からは覗いた妻木の顔にディアリオが声を描けた。

 

「妻木隊長でしたか」

「ひさしぶりだね、ディアリオ」


 2人は互いに知った仲である。特殊な犯罪の最前線に身を置くものとして、互いに協力しあうことがしばしばある。妻木が引き連れている部下たちもディアリオの存在に少なからず安堵したようだ。

 

「おひさりぶりです、それと、先日のヨコハマの一件では盤古の皆さんには大変お世話になりました」

「あぁ、横浜大隊の件だね。礼を言われる程ではないさ。それに我々からも情報機動隊や君には度々助力を頂いているからね。それより本題だが――」

「英国の科学アカデミーの方々ですね?」


 うなづく妻木にディアリオは答える。


「最上階の展望フロアで敵テロリストアンドロイドと接触、交戦となりました。警護官の誘導で英国アカデミーのメンバーは全員退避、敵テロアンドロイドを私と特攻装警フィールとで撃退を試みましたが失敗、私は敗走、フィールは破壊され安否は未確認です」

 

 ディアリオが語るフィール破壊の言葉に妻木たちの表情に一様に緊張が走った。

 

「それで襲撃者の身元は?」

「ディンキー・アンカーソン――、マリオネット・ディンキーと呼ばれる国際テロリストです。実際の襲撃を実行しているのはディンキー配下でマリオネットと呼ばれるアンドロイドと思われます」

「前回の南本牧の一件で日本上陸を果たしたヤツだな。それで、その襲撃者は現在どこに?」

「最上階フロアで振りきりましたが、その後の行動は不明です。まだ英国アカデミーメンバーの殺害を諦めていないはずです」

「ならば、そいつより先に英国アカデミーの身柄を確保せねばならないな」

「えぇ、生存しているSPが護衛しているはずですが、なにしろ敵が敵です。生身の人間の犯罪者とはわけが違う。一刻を争います」

「そうだな、急いで追跡を再開しよう。それと、地上サイドとは連絡はできるかね?」


 ディアリオから得られた情報を適切に判断していく。それと同時に妻木たちが一番欲している情報はまさにそれだった。この孤立した第4ブロックと地上サイドとでなんとしても連絡を確保しなければならないのだ。だがディアリオは顔を軽く左右に振った。

 

「申し訳ありません。私の体内回線でも第4ブロック外部とは交信が遮断されています。このビルの電磁波障害防止のための特殊構造が原因だと思われます」

「そうか、君でも流石に無理か」

「このビルの無線通信回線の外部回線は、このビルの通信システムを中継することで成り立っていますし、肝心の通常ネット回線はすべて敵に掌握されています。おそらくディンキーの配下の者の仕業でしょう」

「君の力でもネット回線の奪回はむりなのかね?」

「できればそうしたいのですが、このビルの最寄りのビルシステムの制御センターにたどり着かないと無理ですね」

「第3ブロックと第4ブロックの間の大規模地盤の中だったな」

「はい、ですがそこに移動するための手段が――」

「分かった。説明ご苦労」 

 

 そこまで会話して選択できる手段が大きく限られていることにあらためて気付かされた。まさに万事休すである。思案顔の妻木にディアリオは声をかけた。

 

「ですが希望はなくなっては居ません」


 ディアリオの言葉に妻木は顔を上げる。

 

「地上サイドには近衛警備課長や、我が情報機動隊の鏡石隊長を始めとする精鋭部隊が居ます。地上サイドからも何らかの救援手段を試みているはずです。それに――」


 ディアリオは言葉を続ける。ディアリオの言葉に妻木の表情に安堵の色が挿す。

 

「私の兄のアトラスや弟のエリオットが待機しています。我々は孤立無援ではありません」

 

 妻木はディアリオの言葉をうなづきながら聞いていた。ディアリオが語る言葉が半ば虚勢を孕んだものであることは薄々気付いている。だが虚勢であってもディアリオが注げる事実は何より心強い。


「ならば我々は我々のできる事を成そう」


 妻木の言葉に隊員が頷きディアリオも頷き返した。まだ終わりではない。


「それでは一刻も早く英国アカデミーメンバーを保護しよう。追跡する手段はないか?」

「それでしたら、彼らの足跡は、私の持つ光学センサーで追跡可能です。現に、このフロアまで追跡してきましたので」

「分かった。ならば追跡は任せよう」

「了解です。ちなみにそちらの状況はどの様に?」

「現在、我々は隊を3班に分けて行動中だ。現在までに、未収容のVIPが保護されたと言う情報は一切入っていない」


 ディアリオも頷いて答える。


「先程、最上階において、テロアンドロイドの襲撃を受けたばかりですので最上階にそのまま残存しているとは考えられません」

「確かに」

「では追跡を再開しよう。先導を頼む」


 妻木はディアリオにそう依頼しながら背後の部下に左手で合図を送った。


「了解です」


 そうシンプルに答えると、ディアリオは再び追跡を再開した。

 今、妻木がディアリオと遭遇できたことは何より幸運だった。テロアンドロイドの存在を知ることが出来たのも大きかった。なにより、ビルの全管理システムがダウンしている現状では不確かな推測だけに頼るのは危険すぎる。

 かたやディアリオの方にも、彼らと行動を共にする事には大きなメリットがある。ディアリオにはあのジュリアに抗するだけの戦闘力は不足している。しかし今は妻木たちの戦闘力の助力を得つつ追跡に専念できるのだ。ならば一刻も早く目的を達成しなければならない。

 ディアリオを先頭に彼らは、回廊の先へと向かった。


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