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第11話 護衛任務/第1小隊

 ディアリオたちと同じ様に、第4ブロックの外周部の壁面ビルからブロック内のフロアの様子を望む人影がある。10階程度の高さから、その人影は視線を降ろす。その視線の先には一瞬にして乱戦の舞台と化したコンベンションホールが一瞥できた。


 人影は、遮光機土偶の様なルックスのプロテクターに身を包んでいる。武装警官部隊盤古の第1小隊の隊長にして東京大隊の大隊長・妻木哲郎である。妻木の背後に一人の部下が居る。その盤古の部隊員は眼前の妻木に問い掛ける。


「大隊長、早急に本隊に帰還される方が上策かと思われますが?」


 妻木の視線は第4ブロック内を走り回っている。妻木は答えない。返答の言葉が無いと言う事は、その事が妻木が思案中である事を示している。部隊員はそれ以上は追求しなかった。

 第4ブロックの6角形のフロアスペース内の3つの隅から黒い噴煙が上がっている。すでに一般人の人影はなく、彼らと同様に白磁のプロテクターで身を包んだ盤古たちが疾駆している。だが、ただ一つ妻木たちと異なるとすれば、周辺を走り回っているのは、妻木たちと同じ軽武装ではない、全身がプロテクターで包まれた標準武装タイプである。


 十秒ほど沈黙していただろうか? 妻木は他の小隊長にむけて無線通話を試みていた。彼ら装備するヘルメットには特殊な仕掛けがしてある。脳内神経の電位分布を読み取り、思考内容を指令文面にデジタル暗号変換して無線送信する事が出来るのだ。


【 盤古重武装タイプの起動を要請。     】

【 重武装タイプの収容地点に最も近い所定の 】

【 要員、及び、代替要員は速やかに集合―― 】


 そして、思考波通信を終えると、妻木は振り返り部下に向かって告げる。


「現場はこのまま、他の小隊長に委任する。我々は重武装タイプ要員として、別任務に移る」


 部隊員が敬礼をする。指示の受諾のサインである。


「行くぞ」


 妻木と部隊員は足早に整然と走り出すと、その先の小型の階段から外壁部のフロアを降り下っていった。ビル構造になっている外壁内の最下層部分は倉庫状の物流スペースとなっている。妻木他一名の二人はその物流スペースの倉庫エリアへと向かう。走る事数分、彼らが所定の場所に付いた時には他の盤古隊員たちもすでに到着していた。


 全員すでにヘルメットを外していた。妻木たちも彼らに倣い同じくヘルメットを外す。ヘルメットとボディ部は信号ケーブルで繋がれている。彼らはそれを先に外しメットを取るのだ。素顔をさらした妻木の顔を見たのか、隊員たちの方から声がかけられる。


「妻木隊長ぉーっ」


 すでに待機していた盤古隊員の中の一人が立ち上がって声をあげ妻木を迎える。妻木は彼らの顔ぶれに目くばせするとその状況に呆れながらも彼らに答えた。


「なんだ? お前ら全員第1小隊なのか? 他の小隊の者は居ないのか?」

「はいっ! 他の小隊の重武装タイプ要員から代替交代の要請が出されまして」


 今の妻木の視界の中には、なじみの顔の盤古隊員しか居ない。


「代替交代か、他の小隊はそんなに状況が悪いのか?」

「いいえ、負傷などによる交代は1名だけです」

「なら、なぜだ?」


 妻木はいぶかった。眉を釣り上げ苦い面持ちになる。それをして、隊員たちは妻木の心理を和らげるようと笑いながら答えた。


「さぁ?? でも俺たち盤古って」

「ケッコー、縄張り意識強いですからネェ」

「ていよくおんだされたんじゃナイすか?」

「そいでもって、よその小隊の隊員を預っているのはメンドーと」


 隊員の中から、それぞれに声が上がる。みなジョーク半分に笑い飛ばしている。


「わかった、わかった!」


 そうも言いながらも妻木も彼らと同じく苦笑いである。唯一の女性隊員が告げる。


「それよりも隊長、急ぎましょう」


 妻木はその言葉にうなづく。そして、一度大きく息を吸い調子を整える。他の小隊の人間を預る事を考えれば、気心のしれた同じ小隊の人間の方が神経を使わないで済む。彼としても、他の小隊長の気持ちがよく分かる。その砕けた雰囲気からも感じ取れるのは、警察の治安集団と言うよりは戦場で苦楽を共にした陸軍の小部隊と言った趣に近い。


「全員待機しているな?」

「はっ!」


 統一された凛とした声が鳴り響き空気の色が変った。


「これより、武装を重武装タイプへ換装する。現在、他の小隊がこの第4ブロック内の事態の収集と不穏分子の掃討に当たっているが、不穏分子の実体が把握できないため状況的には非常に不安定だと推測する。また、情報によると、英国のアカデミーほか僅かな人間が安全な場所に避難していないとの報告がある。そこでだ――」


 妻木は一言区切ると隊員たちを一瞥する。


「我々は現在より、これらの事態に対応するため、重武装タイプに乗り換え、未収容人物の保護と不穏分子の掃討に参加する。まず現時点で未収容の英国のVIPの保護を行ない、それが完了次第不穏分子の方へと廻る。何か質問はあるか?」


「途中、不穏分子とおぼしき者に遭遇した際には?」

「無論、速やかにそちらの方を優先し戦闘に突入する。その他には?」


 返事は無い。


「よし。それでは、A/B/Cの各班毎に別れて3方向に展開する。A班は私、B班は清片、C班は井頭、各自指揮を取れ。それでは行動開始!」

「了解!!」


 妻木の掛け声に、一斉につま先を揃え直立で敬礼をする。隊員たちは走り出す。

 妻木も走り出した。彼の向かう方に重武装タイプの強化外骨格プロテクターがある。

 重武装タイプは、その背部のハッチを開け彼らを待つ。


 彼らは、武装警官部隊盤古・東京方面部隊第1小隊……別名「妻木隊」

 武装警官部隊盤古・東京方面部隊きっての精鋭集団――対機械白兵戦闘のエキスパート集団。

 特攻装警登場以前は、対ロボット、対アンドロイド戦闘の精鋭としてその名を轟かせていた者たちである。



 @     @     @


 

 そこは環状のラビリンスである。幾十層にも重なりあい、多次元な空間がうみだされる。そこに彼らは居る。一人のミノタウロスに追われ、必死の逃走を続けていた。英国VIPの面々は1000mビルを最上階の展望フロアから、その下の方へと逃れて行った。エレベーターなどの施設は一切使えない。彼らは大階段を下層へすすむ。


 英国VIPを警護・引率しているのは2人の日本人SPである。彼らは、ジュリア急襲の時の生き残りである。その脳裏には、同僚たちが短時間の内に何の抵抗も出来ずに惨殺されたときのヴィジョンが鮮明に刻印されている。その刻印は彼らの心理に壮烈なる恐怖心を捏造する。

 蒼白となった顔は気力の減退を、震える両手は平常心の欠如を、それぞれ明示していた。なおもSPたちは階下へと向かう。状況分析のためか、しばし無言で周囲に神経を配っていたカレルが、痺れを切らして声を発した。


「時に尋ねるが」

「何でしょうか?」


 先頭のSPが振り向く。


「君らは何か明確な行動指針があって下層階へと進んでいるのだろうね?」


 カレルの問いに警官はわずかに短時間思案する。


「はい、先程のアンドロイドから退避するのが最優先かと思われまして」


 SPはカレルを見つめていた。それして、カレルは当惑したように眉間に皺を寄せて、言い放つ。


「それだけかね?」

「は?」


 意外そうに問い返したカレルにSPは思わずその言葉を言い放ってしまった。彼らとて人間である。立場をよそにして、取り乱す事も有るだろう。


「たったそれだけかね、と聞いたんだ」

「……」

「どうしたね? カレル」


 カレルのすぐ後を歩いていたウォルターが問いかける。だがカレルは答えない。だがSPもまた何も答えなかった。あるいは、答えようが無かったのだろう。


「襲撃者の危険度が常軌を逸しているので状況判断が難しいことは分かる。だが、経験不足だな」


 厳格に告げるカレルの言葉に相手は何も答える言葉を持たない。カレルは相手の返答を待たずして意を決する。そして、周囲に告げた。


「こんな状態では、この場の意志決定を君たちに任せる訳にはいかんな。君は後方に下がっていたまえ、わたしがこの場の指揮を取る」

「しかし、あなたは民間人で――」

「僭越だが、わたしは軍隊経験者でね特殊部隊に在籍していた事もある。少なくともこの様な事態における予備知識に関しては、きみたちよりはるかにプロだ」


 カレルはSPを睨み付ける。それはもはや学者のそれでは無い。

 SPはカレルの姿の向こうに職業軍人のような洗練された険しさを垣間見ていた。


「わかりました、指示に従います」


 カレルの強い語気を帯びた言葉と貫禄に、SPは気圧されて後方に下がり現場の指揮をカレルに明け渡した。そして、カレルは振り返り皆に問う。


「みんなもそれでかまわんね?」


「意義なし」と、ホプキンス

「わたしもだ」と、タイム


 それ以外のメンバーからは特に声は上がらなかった。だが、その表情が明らかになんらかの不快感を感じているであろうことは読み取れる。それをして、カレルは告げる。


「よし、方向を変えるぞ。先程の爆発音などの周囲の状況から言って、最下層には別の個体のアンドロイドが控えている可能性がある。小規模の戦闘が行なわれているかもしれない。手近な中層フロアに退避して先程出会った武装警官とのコンタクトを計ろう。彼らならこの様な事態に対するプランを有しているはずだ」


 カレルは冷静に淡々と告げる。その表情は相変わらず撫然とした仏長面だったが、そこに明確なリーダーシップが加わる。


「君、ここが現在、どの位置にあるのか把握しているかね?」


 カレルは念を押す様に最後方の警官に問う。警官は自信無さげに答える。


「外周ビルの北方向ではないかと」


 カレルはもともと細い目をさらに細めて、彼をにらみ付けた。そして冷たく言い放つ。


「第4ブロック階層、外周ビル、北北東方向第6メンテナンス階段、19階フロアだ」


 それっきり、カレルはそのSPたちには話しかけはしなかった。ただ、神経を尖らせ、周囲の状況を観察することに全神経を注いでいる。他の英国のアカデミーの面々は、そんなカレルの行動を好意的に見ていた。頑迷で気難しかったが危機的状況のときの判断に間違いが在ったことはこれまで一度も無かったのだ。

 彼らは階段を離れ18階フロアへと降り立つと、そこを東方面へと進み始めた。なにか行動のアテがあるらしい。

 彼らの行動は同行するSPたちをアテにはしていない。なぜなら――


「このSPたちは頼りにならない」


――そう認識していたからだ。この時点において経験の深いベテランSPは、ジュリアによって倒されていた。経験浅いSPしか生き残っていなかったのは不幸としか言いようがなかった。


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