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春風は恋心を隠す  作者: ウタゲゴ
3/3

2月18日:皐月

今回の皐月の回は一言だけ覚えていてください。


”友情にひびがはいるその瞬間をどうかお楽しみください”

数日前に私の高校受験が終わった。私は第一志望の私立高校を専願で受験した。まだ結果が出たわけではないが、一校しか受けないという背水の陣で挑んだ。この結果がどっちであれ、私の今年の受験は終わりだ。だが、結果への自信はある。それだけの努力と協力をしてもらった。


そして今日は、彼との水族館デートの日だ。前々からお互い受験に一区切りついたら行こうと計画をたてていた。


まさか...あんなことになるとは知らずに...



彼とは水族館の最寄り駅で待ち合わせをした。待ち合わせの時間は水族館が開く少し前だ。今日は受験のストレスを一気に発散するためにも一日中遊ぼうと思っている。


実際のところ、私は今その待ち合わせ時間の30分前に駅に到着してしまった。これでもちゃんとここに来るまでの時間を計算した上で家を出てきた。

その計算ではあと15分後につくはずだった。


(忘れ物を取りに行くこともなく、何かの拍子に服が汚れて着替えに戻ることもなく、飼い主さんと散歩中の犬も日向ぼっこ中の野良猫もいなかったし...)


見事に何事もなく順調に駅に到着してしまったのだ。結果、私はこうして30分前に到着することになった。


(笑いたければ笑うがいいさ...受験が終わって彼との久しぶりのデートが楽しみで楽しみで舞い上がっている私を...!)


そんなことを思ったりしながらも、今日のデートの想像をしていると、あっという間に時間は経った。待ち合わせの10分前程になると彼が現れた。


彼は小夏 純、今の私の彼氏だ。高い身長とほどよくしまった身体つき、顔も爽やか系イケメンと、控えめに言って超カッコイイと思う。


服装としてもなかなかにセンスがいい。長袖の白のTシャツにキャメル色のチェスターコート、薄い水色のジーパンと全体的に爽やかそうな印象を受ける。


電車を降りて駅のホームに入ってきた彼に私は手を振った。すると彼はこちらに気づいて駆け寄ってくる。


「ごめん、待たせたかな?」

「ううん、全然大丈夫。一本前の電車やつで来たから」


(まぁ、嘘です。電車使うほど自宅から離れてもないので歩いて来ました。それに、一本前とか5分くらい前に来た電車だし)


「そっか、それはちょっと残念。一本前のなら皐月に会えてたのに」


(こういうことを平気で、さらに素で言うから油断ならないんだよね)


「まぁまぁ、ほら行こ?」


私は彼の手をひいて水族館の方へ歩き出す。彼は隣で歩幅を合わせて歩いてくれる。そのまま手をつないだままで。



水族館、以外と行ってみると楽しいものだ。泳いでる魚を見て何が楽しいのかと思っていた時期もあった。

でも、実際に行ってみたら楽しかった。確かに魚は泳いだりじっとしているだけだ。それでもその魚の色や姿、その魚の解説を読んでいるだけで以外と楽しいものだ。それも好きな人と一緒に行くのだから尚更というもの。


水族館は何も魚類しかいないわけじゃない。

私たちが来た水族館には、カエルやカメレオン、ワニやカワウソもいる。



私は彼と今日を存分に楽しんだ。


見事な銀色の鱗が光を反射して体が虹色に見える魚もいた。

普段食べている魚が泳いでいる姿を見て「特に何も思わないな」と言った彼に共感して2人で笑った。

顔の向きを揃えて筒に仲良く入っているアナゴには若干の気持ち悪さを感じた。

ダイオウグソクムシの気持ち悪さに鳥肌がたったこともあった。

ワニを見てちょっとテンションが上がる純を見て可愛いと、愛おしいと思った。

ペンギンの可愛いさに何分も時間をかけて見ていた。

水族館を何周しても毎回カメレオンの珍しさに足を止めた。

純の「この時期に水を被るのはやばい(笑)」というアドバイスを聞いてイルカのショーを最前列は避けて見た。


どれも1つ1ついい思い出だ。



「皐月、ちょっと外に出ないか?」


もうそろそろ帰ろうかという話になったときだ。純に言われて水族館の外に出た。

この水族館は、お土産コーナーなら1度出た後でも入れるようになっている。


(まぁ、お土産なら後ででもいいし、何だろ?)


「結論から言うと、俺たち別れないか?」


純に何を言われたのか理解に数秒かかった。

私たちは夏休みなんかには他の友達を交えてカラオケに行ったり、その後彼の家に泊まったり、私の家にもよく遊びに来た。色んなことを一緒にした。同じ時間を共有した。


とても仲が良かった...


私は何も言えず、純の目を見て続きを促した。


「俺は皐月のことは本気で好きだ。家族みたいに好きだ。でも、合格発表のとき、見ちまった...」

「何、を...?」


純は推薦で皐月と同じ私立高校を受験した。結果はもう数日前に出ている。合格だった。純の合格発表の日、私は家から1歩も出ずに勉強していた。その日、私が見られて困るものなんて身の回りにはなかった。だから純が何を見たのか検討もつかなかった。


「いた、だろ...幼稚園も、小学校も一緒だった、皐月とも仲が良かった...椿、真東 椿...」


純と私は、幼稚園、小学校、中学校も一緒だ。椿は私たちとは中学校が別になった。

そして、椿は今でも仲のいい友達、いや親友だ。


私は椿の名前が出た時点で何となく理由を察した。


(椿は美人だ。それはそれは美人だ。小学校卒業と共に会わなくなって、3年経った今、そりゃそうだよ...椿、元々可愛いかったのに、3年で更に更に可愛いくなった...)


「俺は、その合格発表のときに見ただけなのに、椿の顔が忘れられなくなった...俺には皐月の隣にいる資格が、ない...ほんと、身勝手な理由で、ごめん...」


純は頭を下げてきた。拳は強く握られている。

私は彼の性格を良く知っている。ずっと追いかけてた。ずっと好きだった。彼は真面目で正直な男だ。

誤魔化しも、何もない。真っ直ぐに本心だ。


「わかった...いいよ...別れよう...それじゃ、私は帰るね。バイバイ」


これ以上は無理だった。今すぐその場で恥も何も気にせず大声で泣き叫びたかった。

私は歩いて家に向かった。最初の角を曲がった瞬間に走り出した。その頃には涙がとまらなくなっていた。家までの帰り道、何度も転んだような気がする。服に土がついていたり、破れてしまっている箇所があったからそんな気がする。


実際の記憶なんてない。帰ってすぐに自分の部屋のベッドで布団を被って泣いた。泣いて泣いて泣き続けた。布団が何で汚れても気にならなかった。


いつの間にか寝ていたらしく起きたら深夜で、部屋の机には皿にのせられラップをしてあるおにぎり二つがあった。メモ用紙も何もない、ただ、それだけがあった。


家に帰ったときに母に声をかけられた気もする。でも、やはり記憶なんてない。そんな母の何も聞かず何も言わない優しさを感じながらおにぎりを食べていると、また涙が出てきた。


多少塩っけのあるおにぎりがさらにしょっぱくなった気がする。でもそんなことも気にせず食べた。味はしょっぱい以外何も覚えてないし、わからない。


ただ、その後も泣いた。また泣いて泣いて泣き続けた。



次の日も学校は休みだ。私は昼前まで寝ていた。

起きて鏡で自分の姿を確認した。笑っちゃうほど酷いものだった。目の周りは赤くなって、服にはシワがついていたし土がついているところも、破れているところもあった。何より、目が死んでる。


そんな自分を見てそりゃもう笑った。散々に笑った。大爆笑だった。


心の中では。


鏡に映る私は一切表情が変わらない。目も死んだまま。


私は着替えるついでにシャワーを浴びた。冷やすと目の周りの赤みはひいた。別に頭から冷水を被ったわけじゃない。手を冷たくして目にあてた。タオルや、ハンカチだって近くにあった。でも、どうでも良かった。今この状況がどうにかなればそれでいいと思った。


(純だって言っていたじゃないか『この時期に水を被るのはやばい(笑)』って。もう、『純』って呼んでいい間でもない、かな...?)


リビングにいる両親に挨拶をしても、2人とも昨日のことは何も聞かないし、何も言わない。

ただ、母に「ご飯はどうする?」と聞かれたのと、「洗濯するもの全部出しなよ」と言われただけだった。

それに対して私はいつものように、普段通りに聞こえるようにして「食べる」と「わかった」と答えた。


改めて自室に戻ってみると圧倒的な脱力感に襲われた。正直、ベッドに座ったりするのは嫌だったので椅子に座った。また泣きだしそうな気がしたから。


私は座っているだけで何もしない。ただ、天井を見上げたり壁を見つめたり机を眺めただけだった。

そうしていると、考えたくもないことを考えてしまう。だが、やめられない。

結局人間はそういう生き物だ。


椿、何でもできる私の幼馴染み。親友って言える間柄だと思う。今回の高校受験のときだって何度も勉強を教えてもらった。


何をやっても叶わないと思ってた。

でも、こと恋愛に関しては私が上をいっていると、心のどこかで思っていたらしい。そんなこと今まで考えもしなかった。


なぜなら椿はその手の話を一切聞かない上に、椿には好きな人がいるからだ。中1の夏休みにそのことを聞かされた。



(椿にはどうやっても適わない。勉強だって、運動だって...顔も、スタイルだって...純にふられたのも納得はできる。)



(でも、これは私が勝てなくても...)



鳥肌がたった。自分のおぞましさに、醜さに。

そして、この考えの素晴らしさに鳥肌がたった。


◇◆◇


ひびがはいった。15年間、ほとんど産まれたときから積み上げてきた幼馴染みとの友情に、ひびがはいった。


◇◆◇


(椿と楓がくっつけば...それなら、ほぼ確実に純は私を...!!)


そう、椿の恋が叶えば、純はほぼ間違いなく皐月をみるようになる。


そのことで私はふっきれた。いや、むしろやる気が溢れていた。何事に対してもやる気が溢れてくる。

だから、どんな考え事に対しても次々とアイディアが出てくる。次に椿と楓に会える日が楽しみでならなかった。

こんなに楽しく作ったのは久しぶりでした!!作る中で何回も読み返して、その度に自分のクズっぷりに笑ってましたねww

今回のこのラストを知った上で改めて読むと、また違ったものが見えてくるのではないかと思いますよ?特にこの作者のゲスっぷりとかww

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