2月15日:楓
今回は前回の話「2月15日:椿」と同じ日です。宣言通り今回は楓視点です。
どうかお楽しみください!
(ぁー...落ち着かないー...)
楓は今椿の部屋のベッドで、椿の漫画を読んでいた。
ページをめくるスピードはほぼ一定で、一文一文、一言一言読んでいる。だが、
(うーん、全く内容が入って来ない...)
そんな風に時間を無駄にしていると、玄関のドアが開いて人が入って来た音がした。しかし、ドアが閉まってから僅かな間全く音がしなかった。
他の人ならば廊下を歩く音が、即座に聞こえ始めてもいいものだ。
(流石お姉ちゃん。靴、しっかり揃えてるや)
私の顔は思わず綻んだ。椿のとっている行動が、手にとるようにわかるというのがなんとも面白く思えた。
もう漫画のページをめくる手は止まっている。
そして次は、1階の部屋の扉を次から次へと開けては閉め、開けては閉めを繰り返している音が聞こえてきた。
(私のこと探してるな〜)
私は無意識に足をパタパタさせていた。
まさに犬のようだ。
若干急ぎ足で階段を登ってくる足音がする。そしてそれは真っ直ぐ隣の部屋を目指して、そこで止まった。その部屋の扉をノックする音がして、開けた音もした。だがすぐに閉められた。
いよいよ椿がこの部屋に来る。そのことに私は期待と、不安を抱えている。先ほどまで楽しみだったはずが、少し怖くなってきた自分がいることに気づいた。
(どうだったんだろ...)
とうとうこの部屋の扉が開かれる。
完全に扉が開けられたくらいのタイミングで私もそちらに顔を向ける。
手入れの行き届いた綺麗な黒い長い髪で、肩甲骨くらいまである。きめ細かい色白な肌で顔も整っていて、本当に美人だと思っている。白い肌に黒髪はよく映えていた。
私は一瞬躊躇ったが、聞いた。
「おかえり、お姉ちゃん。どー、だった?」
「うん、ただいま。合格、したよ!」
その椿の一言で私は一気に喜びと安心と、色んな感情が湧いてきた。
そして思わず私は椿に抱きついた。椿は突然のことながらも、しっかり受け止めてくれた。
(お姉ちゃんは昔から私のことを思ってくれる人だ。優しくて美人で、勉強も運動もできる自慢のお姉ちゃん。そんな姉が昔から大好きだ。
多少過保護に思ってしまうことも、、、あったりするが...やはり大好きなお姉ちゃんだ。姉妹がいる友達の話を聞いていても、ここまで妹のことを思ってくれる姉はそういないらしい)
私は椿の『合格』をもって覚悟を決め、話すことにした。
「ぁ、あのさ、お姉ちゃん。受験終わって早速で悪いんだけど...」
「どうしたの?」
私自身緊張しているところもあるが、雰囲気をそれっぽくするために演技をした。
私は床と椿を交互に見ながら、『何かを伝えようとしてます』という感じを出す。
「えーとね、実は、相談が、あってね...」
「う、うん...」
椿がほんの僅かだが、顎をひいた。これは椿が緊張したときに出す癖だ。
(多分、お姉ちゃんはこの癖に気づいてないんだよね)
「こ、恋の相談、というやつでね...」
私は若干顔を赤くした。これも練習の成果というもので、息を止めてみたり、大きく吸ってみたりと色々な思考錯誤の結果に得た成果だ。出来れば他の人には教えたくない。
(これのやり方は他の人には教えたくない秘密、って言うことなのかな?)
「お姉ちゃん、ちゃんと相談に乗れるか自信ないけど、頑張るよ...!」
椿は、ややぎこちないが笑顔を向けてくれている。
私はなんだか嬉しかった。
内心では相当動揺していることを所々の動きから私は見破っていた。
(そんな中でも私を思ってくれてるのが、嬉しいのかな...)
椿は私に気を遣って部屋の扉を閉めた。そして、私たちは向かい合って座った。部屋になんとも言えない空気を流す。
『流す』という表現は少々違うのかもしれないが、実際のところ私がこの空気になるように仕向けているので、そう違うとも言いきれない。
(こんな空気にまでしておいて、更に気を遣ってもらうのは流石に悪いからね)
まずは私が状況を説明することにした。
「えーとね、まずその人は、男の人でお姉ちゃんと同じ年だと思うの」
(私たちが通っている学校、女の子同士で付き合ってる子も多くてね...私も何度告白されたことか...)
1番最初に告白されたときは1年生の夏くらいのときだった。3年生の部活の先輩に呼び出され、何かしら嫌がらせのようなことをされると思って身構えて行ったら、告白されたものだから色んな意味で驚いたことを覚えている。そのときも、その後の子たちもみんな断った。
(お姉ちゃんはどのくらい告白されたんだろ...)
「う、うん」
「ぁ、あと、その人のこと気になるって言うより、好きって言える段階、かな...」
「ぁー」
(一気にわかりやすくなったな...)
先程のぎこちない笑顔は結構上手く動揺を隠していたが、今度はそんな余裕もなくなったように思われた。
「で、その人と初めて会ったのが、駅前で。私がハンカチ落としちゃって、それを拾って声をかけてくれた人なの。あの、お姉ちゃんが私の誕生日にくれたやつ」
「あー、うん、あったね」
(良かったー...ハンカチのこと忘れてたらどうしようと思った...)
「私にとっては大っ事なハンカチだからさ、落としたことにも気づかなくて、ほんとに危なかったよ」
「そっか、まだ大事にしてくれてるんだ...」
「うん、私にとっては宝物だよ!」
(大事にしてる物も、大事にしたい気持ちもいっぱいある。そんな中でも1番大事って言ってもいい位のハンカチ。今になって考えてもほんとに怖いな...)
「ふふ、ありがとう」
椿に余裕が戻ってきた。こういったこともできるからこその、エースというものだ。
「うん。で、それでね。そのハンカチ拾ってくれたときに思ったの、世の中こんないい人もいるんだなって...まぁ、私にとってあのハンカチが大事だったから、その人にはそういうところで補正かかって好きになったのかもしれないけど」
「おいおい」
椿の冗談のような口調に2人で少し笑いあった。
椿の顎をひいた状態も戻って、動揺も落ち着いてきたようだった。
「その人のこと、それからはよく見かけるようになって、その結果好きになった...だから初めて会ったのが駅前って言うのは違うのかもしれない。言い方悪いけど、その人のことが今までも視界には入ってたけど、その記憶が私にないだけかもしれない」
「なるほど、それは十分有り得るね...その人ってどんな見た目の人なの?」
「えーと、鷲中の制服着てる人で、ちょっとクールそうな感じの人」
「ふーん...」
「その人のことは、名前とかわかんないの?」
「うん、そうだね。今のところまだ全然」
「そっか...」
(そもそもどうやって情報を集めたらいいのかも曖昧なんだよね...そういうのは皐月ちゃんに相談すべきなんだろうけどな...)
「そもそも、こんな話したのお姉ちゃんが始めてだし」
「ぁ、そ、そうなの、ね...せ、責任重大だね...」
「そこまで重く感じなくても...!」
椿の顎がまた僅かにひかれた。
「で、あの結局その相談って言うのがその人のことを鷲中の友達に聞いてみたりするか、しないかって言うことなんだよ。聞くこと自体恥ずかしいし、私がその人のこと聞いちゃったせいで、その人とか友達とかに迷惑かからないかなって思ってさ...」
「それは、迷うね...うーん...」
(私自身でも色んなことを考えた。たくさんの時間を使って考えた)
「私じゃこういう話にはなんとも言えないな...私こういうことには疎いし...ごめんね、楓。お姉ちゃんじゃ、力になれないみたい」
「ううん、聞いてもらうだけでも十分だよ!」
「そう言ってくれると嬉しい。やっぱりこういうことは、皐月に相談してみない?」
「うん、それでもいいんだけど、皐月ちゃんも受験で忙しかったりもするだろうし...」
「まぁ、そうなんだよね...どーなのかなー?最近会ってないからな...」
(皐月ちゃんにはまだ話せない...もっと情報を集めてから...)
椿は後ろで両腕に身体を支えさせ、天井を仰いだ。
(こっちは懐かしいこと思い出すときの癖だね。こっちに関してはなんとなく自覚はあるみたいだけど。
今日はこのくらい、かな...)
「うん...とりあえず、もう1回自分で考えてみるよ。ありがとうお姉ちゃん」
「うん、悩みすぎないようにね〜」
「大丈夫、わかってるよ〜」
私は扉を開け、自分の部屋に戻って行く。
(これを忘れちゃいけない。戻ると見せかけるからこそ良いときもあるから)
私は途中で引き返し、椿に満面の笑みで言った。
「お姉ちゃん、合格おめでとう!」
「うん、ありがとう...!!」
椿はなんとも嬉しそうにした。
それから改めて私は部屋に戻った。
(私が思うに、演技するにあたって大事なのはどれだけ人間の『自然さ』を観察して、自分のものにするかだと思う。人が普段するような動作を少しばかり大袈裟にやると、雰囲気もそれっぽくなる。でも、大袈裟過ぎると演技だとわかっちゃう。
私、色んな人を観察したよね。もちろん、家族はまず真っ先に観察したし)
家族の癖を見抜くのが楽しそうだとは思った。だが、それ以上に、友達のように平日の昼間にだけ会うような人では情報が偏ってしまうと考えた。
家族ならば平日休日祝日問わずに会う上に、10年以上も一緒にいる相手ならばその間に見つけた癖もあったりと、初めての人間観察にはもってこいと考えたからだった。
まず、最初は椿だった。年が1番近いことと、今も昔も椿のことが家族の中では1番好きなことで自然と最初だった。その結果先程のように、行動が手にとるようにわかるようになった。
家族の次は身近な友達の観察を始めた。その友達の中でも最初は皐月だった。
皐月は感情が豊かな人で観察しがいのある人だと私は思ってる。
そこから先は、同じクラスの人や担任の先生だったりした。そして、私とは全く接点のないような運動している学校の生徒を観察するようにもなった。
(同じクラスの人を観察するような頃には、視線の向け方とか癖の見つけやすさとか色々上手くなってたよね...)
一方その頃、椿は...
ベッドの上で先程まで楓がしていたように、うつ伏せの状態になっていた。
(楓のにおいがする...!同じシャンプーのにおいのはずなのに、なんでこんなにいいにおいなんだろ...って、私は変態かよ...今思えば、楓に抱きつかれたときもいいにおいしたな...あの時はそれどころじゃなかったからな...)
今回はこういった感じです。正直、次はどういう話にしようか全く考えてないです!次はいきなり2ヶ月空白が開く可能性も充分ありますね...
この話を書いていて、1度2500文字ほど吹っ飛んだ(消えた)ことがありました...ただ、その後に戻ってきたので良かったのですが、あの時はほんとに萎えました...
ですが、自分はまだマシなほうでして、1話分まるまる消えた方もいらっしゃられるようで、それは相当辛いなと...
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