76 ボーンデッド、決勝に挑む
『さあっ……いよいよ……いよいよやってまいりました! 「女子校対抗メルカバトル」決勝戦……! 「母なる大地学園」と「ブラックサンター国立第三毒蜘蛛女子」との戦いです! 決勝はいつも超ロングレンジフィールドなのですが、今回はなんと、真逆の超ショートレンジフィールドが決戦の場に採用されました! 大会始まって以来の、異例の事態です!』
俺は、10メートルほど先にいる黒山の人だかり……いや、ゴーレムだかりと、その上にそびえる鉄の城を眺めていた。
『ブラ女はすでに、「ウェブ」と呼ばれる多数のゴーレムを展開しています! その数、えーっと……500体!? 準決勝でも50体だったゴーレムが、10倍に増えています!』
コクピットにある聖堂院モニターから『ずるいずるいずるい! あんなのアリなんですかっ!?』とララニーの抗議が聞こえる。
『この「女子校対抗メルカバトル」にはゴーレムの参加については規定を満たしていれば、数の制限はありませんが……いくらなんでもこれは……ヴァトヴァさん、これをどうごらんに……えっ!? もう始めるんですか!? なんでっ!? あ、あのっ! 今入った情報によりますと、間もなく決勝戦、スタートするようです! ああっ!?』
……ドドーンッ!!
間をおかず、合図の花火が空を焦がす。
城の頂上から眺めおろしていた、女城主が待ってましたとばかりに叫んだ。
『さあっ、お行きなさい! 勝敗がわかっているつまらない戦いなどさっさと終わらせて、残りの中継時間はあの、白いゴーレムの処刑に費やすのですわっ!』
フェイスごしに、ビシッ! と俺を指さしてくるブラ女のキャプテン、えーっとたしか……ヴィスコリアだったかな。
でも、呑気に名前なんて思い出してる場合じゃねえな。
この決勝は、明らかに作為的なものを感じる。
昨日、ブロック決勝を終えたばかりの俺たちは、中1日もおかずに次の試合となった。
決勝はいつも超ロングレンジフィールドだと聞いていたから、それで作戦を立てていたのに……フタを開けてみたら、目と鼻の先のものすごい接近戦。
俺の用意していた奇襲作戦は、完全に無駄になっちまった……!
『ぼー、ボーンデッドさん! もう始まっちゃったよ!? どうしよう!? どうしようっ!?』
『もうゴーレムどもが、こっちに押し寄せてきてるぞ!』
『万策尽きた』
土煙とともに迫ってくる黒い壁に、慌てふためくサイラ、ラビア、シター。
こんな時まっさきに泣き出すカリーフは、珍しくぐっと堪えていた。
しかし、どうしよって言われても、どうしようもねぇよ……!
俺は部員たちにこう伝えるだけで精一杯だった。
『アバレテ アバレロ』
もうそれしかねぇ。
こうなったら俺も完全に加わって、殴り合いをするしかねぇんだ……!
そうこうしているうちに、黒い波が押し寄せる。
もはやパニック映画なみの余裕のなさだ。
……ゴッ!!
俺のそばにいたサイラ、ラビア、シター……みっつの機体が車に轢かれたみたいに吹っ飛んでいった。
とっさに俺の背中に隠れたカリーフだけは、俺のふんばりによって事なきを得ている。
『ハナレル ナ』
俺はカリーフにそれだけ言って、鬼神と化した。
「ひさびさに……全力でいかせてもらうぜぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!!」
挨拶がわりに右の地獄突きを放ち、続けざまにワンツーで左の地獄。
……ゴシャッ! ゴシャアッ!!
それぞれ3体ずつ、あわせて6体のウェブを葬る。
残りあと、494体……!
おしつぶさんばかりにのしかかってくる、有象無象のモノたちを、俺はちぎっては投げちぎっては投げする。
こっちから出向かなくてもどんどんやってくるのは楽でいい。それに、カリーフには目もくれずに俺だけを狙ってくれるのは助かる。
『ブラ女のゴーレムの数が多すぎて、何が起きているのかわかりません! ただ、真ん中のあたりでゴーレムが吹っ飛ばされるたび、白いのがチラチラ見えています! あれがボーンデッドなのでしょうか!?』
空撮映像は、洪水被害の中継みたいになっている。
波みたいなゴーレムがうじゃうじゃと流れる中に、時折波が割れるように何体かが吹っ飛ぶ。
『もはやどちらが優勢かというよりも、一方的に蹂躙しているだけのように見えます! ああっ、ブラ女のパイロットたちは、優雅にティータイムのようです!』
折り重なる木々の梢のような、わずかな隙間の向こうにヤツらはたしかにいた。
唯一の有人機である『ネフィラ・クラヴァータ』のフェイスには……王式風デザインのカップを傾ける、お嬢様たちの姿が……!
まるで後進国どうしの戦争を眺めている、先進国の人間のように……!
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
俺は野良犬のように吠え、ヤツらが下したものに抗った。
激情にまかせてロケットパンチをくらわせてやろうかと一瞬思ったが、拳をなくしてはマズいと思い、こらえた。
「ウインドアァァァァァーーーーームッ!!」
……ドガァァァァァァァァァァァァッ!!
波動砲が放たれたように、軌跡上のゴーレムたちが吹き飛んでいく。
一瞬、目の前がガラ空きになったところで、
「サンダーーーーーアァァァァァァーーーームッ!!」
……バリバリバリバリッ……ドォォォォォォーーーーーーーーンッ!!
遠方のヤツらを雷撃で粉々にする。
本当はサンダーアームを連発したいところだったんだが、至近距離で使うと背中にいるカリーフまで巻き込んじまうからな。
『おおっ!? すごいすごい! ボーンデッド、風を、雷撃を起こしながら戦っています! やはり魔法が使えるゴーレムのようです! それにしても連発できるだなんて、あんなこと、メルカヴァでも無理だと思うのですが……! いかがでしょう、ヴェトヴァさんっ!?』
『ぬぎぎぎぎ……! ぬぐぅぅぅぅ~っ!? こしゃくな……! 500体を相手に、しぶとく粘るとは……! どうせ力尽きるに決っているのに……!』
しかし話を振られた貴婦人は、ハンカチを噛んで試合に釘付けになっていた。
もはや解説というよりも、ただの視聴者だ。
正直なところ、こんな数ばっかりのゴーレムは、いくら集まっても俺の敵じゃねぇ。
ただちょっと……疲れるけどな。
小一時間ほど無双して、だいぶ隙間が目立つようになってきた。
死屍累々となった、積み上がったゴーレムの上。
夢の島にいるかのような光景で、俺はスクラップの山をさらに高く築き上げる。
サイラ、ラビア、シターは開始当初からゴーレムに押さえつけられ、もうあきらめたようにぐったりしていた。
そろそろ助けに行けるだけの余裕が出てきた。
でもいい加減、お嬢様たちも動き出すだろう……と思っていたが、まだまだ静観のポーズを崩さない。
キャプテンのヴィスコリアは、どうせ切れる蜘蛛の糸にすがる亡者を見るかのようだった。
いくらあがいても、無駄……そう言いたげだ。
そして俺は、その余裕の意味を知る。
『やっておしまいなさい、カリーフさん……!』
ヴィスコリアの口元が、どこかで見た風に歪んだかと思うと、
……ガシイイイィィィィッ!!
俺の身体が、突如強い力で拘束された。
『あああっ!? 同じ母大であるカリーフ機が、いきなりボーンデッドを後ろから押さえつけましたっ!? これは、どういうことなのでしょうかっ!?』
その実況を聞いても、動かぬ証拠である空撮映像を見ても、俺には何がおこっているのか理解できずにいた。




