表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーマーおっさん、ゴーレムに引きこもる  作者: 佐藤謙羊
女子高対抗メルカバトル編
67/78

67 ボーンデッド、チャンプと対峙する

 巻き起こる『ボーンデッド』コールに、「ぐぬぬ……!」と歯ぎしりをするハゲデブ。

 脂でテカったフェイスにギラリと光沢が走ったとたん、ゆでダコの形相に豹変した。



『きっ……貴様らぁ! このワシを裏切るというのかぁ! 拾ってやった恩を忘れおって……! 貴様ら全員クビだっ! クビクビ! とっととワシの工場から出ていけっ!』



 このハゲデブはただでさえ地声がでけぇから、それでがなり立てるなんてもう公害レベルだ。

 しかも俺のそばにいるから、ヤツの脂ぎったツラが耳元にあるかのようで、不愉快極まりない。


 応戦するかのように、従業員たちがわめき始めた。

 なんでもいいけど、俺を挟んで喧嘩するんじゃねぇよ。



「ああ、出ていってやるよ! こっちから願い下げだっ!」



「そうよそうよ! なにが拾ってやった、よ! 人を犬猫みたいに!」



「そうだ! アンタは俺たちのこと、犬か猫くらいにしか思ってないんだ!」



「休みも返上で、ずっとずっと働かされて……そのうえ給料も安いし……!」



「アタシ、しょっちゅう身体触られて嫌だったの! 気持ち悪いったらありゃしない!」



「お前なんて、ボーンデッドにクチャクチャにされちゃえばいいんだ!」



 ワーワーと不満をぶつける民衆に、暴君のような邪悪な笑みを返すハゲデブ。



『いまワシが乗っとるのは……対ボーンデッド用メルカヴァ……「ゼゲロ・ザ・チャンプ」……! 貴様ら、この強さを知らんわけではないだろう……! それなのに、ワシに楯突く気になるとは……!』



 『ゼゲロ・ザ・チャンプ』と名乗ったソイツは、高さでいうならボーンデッドの1.5倍、全長にいたっては2倍はありそうな、長大なる4足歩行タイプの機体だった。


 象のような顔からは鞭のような鼻が伸び、耳のあたりから腕が出ている。

 コクピットは背中の上にあるようだ。


 たぶん、象に輿を担がせ、その輿に乗っている王様のようなイメージなんだろう。

 全身が銀歯みたいな色なので、悪趣味ここに極まれりといったカンジだ。


 しかも極めつけなのが、ボディの横にデカデカと自分の顔写真と『ゼゲロ・プチャジル』と名前がペイントされているところ。


 成金の自己顕示欲の煮こごりのような、欲と金にまみれたメルカヴァだった。


 ハゲデブの言う『強さ』とやらを思い出したのか、従業員たちは「ううっ……!」と後ずさりする。



「そ、そうだ……! あの『ゼゲロ・ザ・チャンプ』はボーンデッドを倒すために研究され、作られたメルカヴァ……!」



「そ、それは、そうだけど……あのボーンデッドが、そう簡単にやられるとは……」



「いや、俺も設計に参加してたからわかる……! 女子校対抗メルカバトルの試合映像を分析して、ボーンデッドの攻撃にすべて対応できるようにしたんだ……!」



「ああ、チャンプには、ボーンデッドの攻撃はすべて通じない……! 一方的にやられるのは、間違いない……!」



「そ、そんな……!? ボーンデッドって、プロのメルカヴァ乗りの警備長さんを一撃でやっつけたんだよ!?」



「その警備長を、あのチャンプは一切動かずに、長い鼻だけを使って倒したんだよ! しかも軽くパンって払うだけで、あっさりと……!」



「でも、なんで社長はボーンデッドを倒そうとしてるの!? うちの会社はボーンデッドのグッズが大ヒットしてるのに……!」



「ボーンデッドに会いに行ったら反抗的だった、って社長は言ってたけど……それでボーンデッドを倒して、かわりに自分が有名になることを思いついたみたい」



「まさか、近々生産ラインを変えるって言ってたけど……!」



「そうさ、工場のラインをボーンデッドから切り替えて、社長と『ゼゲロ・ザ・チャンプ』のグッズを作ろうとしてたんだ!」



 うえええっ!? と吐きそうな声が、主に女子従業員からおこる。



「チャンプのグッズはともかく、社長のグッズだなんて……!」



「そんな気持ち悪いもの作るなんて、絶対イヤよっ!」



「社長が工場に来たときだって、ただでさえ目を合わせないようにしてたのに……!」



「グッズになったら、四六時中あの顔を見ることになっちゃうじゃない!」



「クビになるのは嫌だけど……そんなの作るくらいだったら、麻薬でも作ってたほうがマシよっ!」



「そうよそうよ! ボーンデッド! もう覚悟はできたわ! 最後に社長に一撃でもくらわせてぇーっ!」



「あなたが勝てないのはわかった! だけど、お願い……! あのハゲデブに、一矢でも報いて……!」



「お願い……! お願いっ! そうすれば私たち、何の悔いもなく、この工場を辞められる……!」



「ボーンデッド、がんばってぇ! ボーンデッド、がんばれぇ!」



 そして再び起こる、『ボーンデッド』コール。


 ……俺は工場をブッ壊しに来たのに……いつのまにか、社長と従業員の争いに巻き込まれちまってねぇか?


 まあ、どのみちこのハゲデブにはお仕置きするつもりだったから、いいけどよ……。

 ひとつだけ気に入らないのは、もう俺が負けのムードが漂っていることだ。


 一撃でもくらわせてほしいだなんて、冗談じゃねぇ……!

 コイツだけはギタギタにしてやらなきゃ、気がすまねぇんだ……!


 俺はやる気マンマンだったのだが、何を勘違いしたのか、いきなり警備長のメルカヴァが割って入ってきやがった。

 這いつくばったまま、ヘレン・ケラーみたいに手触りを確認したあと……ぎゅっと脚を抱きしめる。


 そして、こう叫んだんだ。



『……に、逃げろ! 私が押さえているうちに逃げるんだ! ボーンデッド! チャンプの強さは尋常ではない……! お前の弱点を知り尽くした設計のうえに、しかも乗り手は元プロである社長……! 今のお前では、絶対に勝てない……! さあっ、行くんだボーンデッド! これで、助けてもらった借りは返したぞ……!』



 ……それだけ聞くと、実にカッコイイ。


 「押さえているうちに逃げるんだ」と「借りは返したぞ」なんていう、人生で一度は言ってみたい台詞がふたつも入ってるじゃねぇか。


 でも……行動が伴っていなかった。

 だって警備長がしっかりと押さえていたのは、チャンプじゃなくて(ボーンデッド)だったから。


 そんなミニコントのような光景に、ハゲデブは太鼓腹をバンバン叩いて爆笑していた。



『がっはっはっはっ! しっかりしているように見えて、ドジなのは相変わらずだな警備長! でも、今回ばかりはでかしたぞ! ボーナスとして、ボーンデッドとともにあの世に送ってやろうっ!!』



 コイツはしゃべる度に、顔と同じくらいテカテカの唇がペチャペチャと音をたてる。

 しかも口からは唾が飛沫のように飛び散り、フェイスに水滴となって付着していた。


 俺にとっては間違いなく、こっちの世界で見たくないモノ第1位。

 逆に、見たいモノ1位は嫁たちの笑顔。


 ちなみにその嫁たちはというと……グッズを使ったボーンデッドごっこで盛り上がっている。

 登場人物が全員ボーンデッドだから、やけにシュールだ。



『警備長を振り払って逃げぬとは、恐怖で身体がすくんで動けなくなったかぁ!』



 でも、子猫の動画みたいに、いつまでも観ていたくなるような魅力がある。

 外野がなんかゴチャゴチャ言ってるが、気にならないくらいに。



『だが、いまさら命乞いをしたところで、遅いぞぉ! 貴様はいまから、スクラップにされるのだ! このチャンプ……いや、このワシの手によってな!』



 不満なのは、使ってるグッズが海賊版だってことだ。

 なんとかできねぇモンなのかなぁ、コレ……。



『なにもできない己の無力さを呪い、このワシにたてついたことを後悔するがいいっ!!』



 歌舞伎の連獅子のように顔をグルグルと回転させ、長い鼻をブン回しはじめるチャンプ。

 ひたすらムカつく動きだった。


 人が考え事してるってのに、いい所で挟まるバラエティのCMみてぇな邪魔すんじゃねぇよ。


 そんなことよりも、問題は俺のグッズだ。

 あんな粗悪品じゃなくて、ちゃんとしたのが作れねぇかなぁ……。



 グオンッ!! グオン!! グオンっ!!



 プロペラのような突風と、轟音がなおも思考の邪魔をする。



『一撃で……終わりだっ! 地獄へ直行しろっ!! ボーンデッドぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!』



 ただでさえウンザリな怒鳴り声だってのに、ボリュームMAXにしやがって……。

 まったく……こっちはそれどころじゃねぇってのに……。



 ゴォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!



 船の(いかり)を繋ぐ、巨大な鉄鎖じみた物体が唸りをあげて向かってくる。



 ……バシィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!



 俺は考えるのをやめ、それを片手で受け止めていた。

面白い! と思ったら評価やブックマークしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★新作小説
『駄犬』と呼ばれパーティも職場も追放されたオッサン、『金狼』となって勇者一族に牙を剥く!!
追放されたオッサンが、冒険者として、商売人として、勇者一族を見返す話です!


★新作小説
歩くハーレム…キモいと陰口をたたかれるオッサンでしたが、ちょっと本気を出したらそう呼ばれるようになりました!
Q:オッサンが本気を出したらどうなる? A:歩くハーレムになる!


★クリックして、この小説を応援していただけると助かります!
小説家になろう 勝手にランキング
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=531170298&s script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ