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ゲーマーおっさん、ゴーレムに引きこもる  作者: 佐藤謙羊
女子高対抗メルカバトル編
62/78

62 ボーンデッド、闇落ちする

 出掛けの途中、部員やブソン、そしてルルロットが追いかけてきてなにか叫んでいたが、俺は『スキニ シロ』とだけ答えて、チャリオンを走らせる。


 ルルロットの愛用する馬型ゴーレム、パンチョパンチョは俺が御者席に乗っても抵抗する様子もなく、すんなり足がわりになってくれた。


 もしかしたら俺が湖で助けてやったことを覚えていて、恩返しをしてくれてるのかもしれない。


 普通、この手のオプション系のパーツって、鹵獲(ろかく)されるのを防ぐために、オーナー機か、同じ識別コードを持つ機体しか使えないようになってるんだよな。


 でもそういった類のセキュリティはこの世界にはないようだ。


 それに、初めてチャリオンを見た時から気になってたんだが……連動もしないんだな。


 ボーンデッドは人間に近い形をしているので、扱う武器やオプションパーツもヒトが使うものと酷似している。

 ただそれは『形状が似ている』というだけであって、実際の運用は異なるんだ。


 たとえば人間が銃を使う場合には、構えて狙いを定めたあとに、銃にあるトリガーに指をかけ、引かなくちゃ弾は発射されない。


 しかしボーンデッドの使う銃には、銃自体にはトリガーはない。

 コクピットにあるファイヤトリガーのほうを引くんだ。


 ボーンデッドから通信で『発射しろ』という命令が出され、それを受けた銃が弾を発射する仕組みになっている。


 また、ボーンデッドの銃にはアイアンサイトは存在しない。


 コクピットにある照準(クロスヘア)モニターでFPSのゲームみたいに狙いを定めてから発射する。

 だから、フロントサイトとリアサイトの微妙なズレみたいなのは起こらず、ちゃんと狙った所に飛んでいくんだ。


 しかし、いま俺が乗っている戦闘馬車(チャリオン)はそうじゃない。

 人間が馬を操るように、手綱を使ってアナログ的に操作するんだ。


 でも本来、メルカヴァとゴーレムはお互いがメカなんだから、機体どうしが通信をして、操縦桿でデジタル的に操れるようにしたほうが楽で正確だと思うのだが……。


 そう考えると疑問はまだある。呪文だ。

 この世界では魔法の概念があるが、発動には術者の詠唱を必要とする。


 使うたびにいちいちバカ正直に唱えているようだが、録音したヤツじゃダメなのか? なんて思っちまう。


 まあ、それは肉声じゃなきゃダメとか制約があるのかもしれねぇが……。

 ともかくこの世界のメルカヴァは、ただ人間が大きくなっただけのようなヤツなので、不便そうに見えるんだよなぁ……。


 なんてことを考えているうちに、目的地に着いちまった。


 厳密には目的地から少し離れた森の中なんだが、あとは馬車を降りて徒歩で向かうことにしたんだ。

 なぜならば現場でチャリオンに乗り降りしてるところを目撃されちまうと、あとあとルルロットに迷惑がかかるかもしれねぇからな。


 というわけで、俺はマラソンで工場を目指した。

 50キロも移動したというのにあたりの風景は変わらず、ゴルフ場みたいな大草原と森がどこまでも続く。


 そして『女子校対抗メルカバトル』の大会フィールドの延長線にあるような場所に、件の工場はあった。


 俺は敷地全体を見渡せる小高い丘の上で伏せ、様子を伺う。


 ノコギリ屋根で、オーバースライダーの扉に数字がペイントされている無骨な建物たち。

 いかにも『工場』といったカンジの風情だ。


 それ以外の種類の建物はほとんどなく、敷地の出入り口にある守衛小屋がひとつと、従業員の憩いのスペースらしきログハウスがひとつあるだけ。


 いまはクソカレーの生産が追いつかないってハゲデブがぬかしていたから、工場はフル稼働状態。

 作業服のヤツらが働きアリのように、建物の中と外をせわしなく行き交っている。


 ちょっと邪魔なのがチョロチョロしてるが、悪くはねぇな……!

 街のど真ん中とかにあったらどうしようかと思ったが、これなら心おきなく暴れられそうだ……!


 といっても、このカッコのままじゃまずい。

 ボーンデッドは全国中継されちまってるうえに、グッズ展開までされてるんだからな。


 こんな時こそスキルの出番だ。

 俺はコクピットのモニターをタッチして、スキル一覧を開いた。


 『外装』カテゴリにある『テクスチャー』スキルをレベル3まであげる。


 これは白一色のボーンデッドの外装を、イジることができるスキル。


 ちなみにレベル1で、単色の色替え。

 そしてレベル2で、柄も描けるようになる。

 さらにレベル3になると、周囲の背景と同じ模様になれるんだ。


 スキルポイントをいきなり3ポイントかけるのはちょっと大盤振る舞いのような気もするが、その出費に見合った働きをしてくれるはず……!


 俺は取得したばかりのスキルをさっそく発動し、モニターに並んだタイルの中から、カラーコード#000000……すなわち『BLACK』を選んだ。


 ボーンデッドの機体がまとう、光を放つほどのエナメルホワイトが瞬転し、逆に光を吸い込むほどの漆黒へと変わる。


 よし、できた……! 闇落ちボーンデッド……!

 ハゲデブよ……! テメーのネタに乗っかってやるよ……!


 俺は伏せていた身体を起こし、改めて高みから睥睨する。


 機体と同時に心も暗黒に染め上げていたので、はたらく工場も壊しがいのあるオモチャにしか見えなかった。

 サディスティックな感情が腹の底から湧いてきて、自然と口元が緩む。


 そういえば……破壊任務なんて久しぶりだなぁ……!

 いつもは破壊率100%までしかやらねぇが……今日は特別サービスだ……!


 120%まで、やってやるぜぇぇぇぇっ……!



「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」



 俺は蛮族のような雄叫びをあげながら、丘を駆け下りた。

 もちろん俺の声は外には聞こえてねぇんだが、ボーンデッドの足音にびっくりして逃げ惑いはじめる作業員たち。



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?!?」



「な、なんだ、なんだあれぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!?!?」



「メルカヴァだ! メルカヴァが襲ってきたぞぉーーーっ!?!?」



「きっと、工場で生産してるボーンデッドグッズを盗みにきたのよ!」



「くそっ! 品薄のせいで盗みに来るヤツはいたが、まさかメルカヴァで来るだなんて……!」



「いや、違う……! アレはメルカヴァじゃない……! ゴーレムだ!」



「ゴーレム!? なんでゴーレムが強盗を!?」



「きっと、誰かに操られてるんだ!」



「そういうことか! しかしあのゴーレム、どっかで見たような……?」



「ああーっ!? ボーンデッド! あれ、ボーンデッドよっ!?」



「いや、違うだろ! ボーンデッドは全身真っ白だろ!? アレは真っ黒じゃないか!」



「ううん、そうじゃないの! 我が社で考えた『黒ボン』よ……!」



「ああっ、ホントだ! 黒ボンだ! 黒ボンだぁーっ!」



「でも、本物の黒ボンなんていたんだ……! それに、どうしてここに!?」



「きっと社長よ! 社長がプロモーションのために作ったんだわ!」



「すげぇーっ! イメージしてた通りだ! 黒ボン! 黒ボーン!」



「わぁーっ! こっち向いて、黒ボーンっ!」



 俺が黒いボーンデッドだと気づくと、まるで「鳥だ! 飛行機だ!」みたいに指さして、口々に叫ぶ作業員ども。


 っていうか……『黒ボン』ってなんだよ!?

 ボンバーマンかよ!?


 誰もが逃げるのをやめ、まるで正義の味方が来たみたいに歓迎ムードを醸し出している。


 完全に俺のことを、グッズ宣伝のゴーレムと勘違いしてやがる……!

 なら、こうしてやりゃ……目が覚めるだろ……!


 俺は手近にあった工場めがけて、サッカーボールキックを放った。



――――――――――――――――――――

●レベルアップしたスキル


 外装

  Lv.00 ⇒ Lv.03 テクスチャー

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