61 ボーンデッド、カードになる
……くそ、なんだか腹が立ってきたぞ……!
いったいどこのどいつなんだ、俺のグッズを勝手に作って売りさばいているヤツぁ……!?
しかも俺の嫁たちも買っているとなると、ほっとくわけにはいかねぇ……!
売上のうちの1%でも俺のフトコロに入れば、嫁たちの望むように『お布施』になるんだが、これじゃただの搾取じゃねぇか……!
俺はクグって真相を突き止めてやろうかと息巻いていたんだが、その必要はなかった。
『ボーンデッドは今や、多くのメルカバトルファンを魅了しています! プロのメルカバトル選手ともなると沢山のグッズが作られるのですが、女子校の、しかもゴーレムのグッズが作られるのは前代未聞といえます! ここでボーンデッドのグッズ販売を一手に担っている会社の社長さんにお話を伺ってきました!』
魔送モニターで垂れ流していた特番で、ノコノコ出てきた詐欺師野郎が映っていたんだ……!
『いやあ、最初は社員どもに反対されたんですよ! ゴーレムなんかのグッズを作ったって、絶対売れるワケがない、って!』
工場の近くにあるドブ川のような、油で光るヘドロみてぇなテカテカのハゲ頭。
腐って発酵した産業廃棄物みてぇな、公害レベルの胴間声……!
ケツみてぇに割れたアゴの下には、テロップで『ゼゲロ・プチャジル社長』と……!
それは俺の頭の隅にこびりついていた、忘れたいのに忘れられない、犬に噛まれたようなツマラン記憶を呼び覚ますのにじゅうぶんだった。
あんのハゲデブ……!
俺のグッズを勝手に作ってたのは、テメーだったのか……!
『でもね、ワシは言ったんです。ゴーレムなら無人だから、使用料が……! じゃなかった、ゴーレムが無人だからといって、差別しちゃいかん! ってね!』
……どの口が抜かしやがる。と俺は思った。
ペチャペチャ唾を飛ばしながらしゃべるヤツの後ろに並んでいる従業員も、俺と同じような表情をしている。
たぶんあのハゲデブの言ってることは真逆なんだろう。
従業員たちが俺をグッズ化したらどうかと提案したら、あのハゲデブが一蹴したんだ。
でもゴーレムなら中の人に払う使用料がかからないと思って、試しに作ってみたら思ったより売れたに違いない。
それで手のひらを返して、俺で本格的に商売を始めやがったんだ……!
『調べてみたらボーンデッドは「かれー」という料理が得意らしいんですよ! でね、ワシらも試しに作ってみたら、これがまたマズ……じゃなかった、うまいのなんの! これはグッズ化せにゃならんと思いまして……はいっ! これが次なる新グッズ、「ボーンデッドのかれー」! 来週発売ですぞ!』
えびす顔で掲げるパッケージには、鍋をかき回している俺のイラストと、俺の作るカレーとは似ても似つかないような汚水の写真が載っていた。
……この野郎……!
どーせ大会期間中だけの人気だろうと思って、売り逃げするつもりだ……!
『中には500種類のランダムで、ボーンデッドのトレーディングカードが1枚入っておりますぞ! どんどん食べて、コンプリートを目指そう!』
扇のようにバッと広げられる、俺のトレカ。
500種類は多すぎだろ……!
しかも、ひとつの素材をかなり水増しして作っているのか、カードはどれも同じようにしか見えなかった。
背景の色が違うだけとか、間違い探しみてぇな差しかねぇじゃねーか……!
『封入率の低いシークレットカードもあるのですが、今日はこの番組をご覧の皆さんだけに特別にお見せします! 激レアカードは、CMのあとで!』
ひとをネタにして、CMまたぎすんじゃねぇよ……!
俺はこういう引っ張り方が大嫌いなんだ。
いつもだったら即チャンネルを変えてやるところなんだが……今回ばかりはそうもいかなかった。
別にレアカードが気になったわけじゃねぇ、あのハゲデブの悪行を、しっかりと脳に叩き込むためだ……!
永遠とも思えるCMが明けたところで、ついにレアな俺がお披露目となった。
『これはイメージとしては、闇落ちしたボーンデッドです! 黒い機体、カッコイイでしょう!?』
まさかのオリジナルっ……!
しかも既存の素材を黒く塗っただけ……!
レアカードと謳われているわりに、キラとかラメとか一切なし……!
ただの黒いだけのノーマルカード……!
『なんと0.00001%の確率でしかゲットできない、激レアカードですぞ!』
そのうえソシャゲ並の封入率……!
そんなにカレーモドキが食えると思ってんのかよ……!
『これらのカード500種類をぜんぶ集めて送ると、抽選で特製カードケースがもらえるキャンペーンを行います! 応募いただいたカードは返却されませんが、この激レアケースを手に入れるチャンスですぞ!』
そして、回収もぬかりはない……!
カードを全部送って貰えるカードケースに、なにを入れろってんだ……!?
『すでに予約が殺到しておりまして、生産が追いつかない状態です! さあ、この番組を見ているあなたも、このビッグウェーブに乗るしかないですぞっ!!』
集団訴訟の未来が見える……!
そして絶対に、矛先がコッチに向くのも……!
それにこのハゲデブ、ですぞですぞうるせぇ……!
赤モップかよ……!
許さねぇ……!
許さねぇぞ、この野郎っ……!!
俺はひさしぶりに、心の中に修羅が降臨するのを感じていた。
頭に血が昇りすぎると、俺はかえって冷静になる。
冷たくなった手で検索ウインドウを開き、『ゼゲロ・プチャジル』でクグってみた。
ヤツの名前が検索履歴に残るのもイヤだったが、今はしょうがねぇ。
すると、『セゲロ・カンパニー』という会社が引っかかった。
会社概要には、代表にヤツの名前と、業務内容には『メルカバトルグッズの製造販売』とある。
間違いねぇ……! ここだ……!
俺は住所をマップに送って、ナビゲーションルートを割り出す。
いちばん近くにある生産工場まで、ここから50キロか……!
歩いてはムリだが、ローラーダッシュを使えば行けなくはねぇ距離だ……!
しかし大会中の今は、ローラーダッシュを意図的に封印してるんだ。
いつか虎の子として使う時がやってくるかもしれねぇからな。
しかしあのハゲデブを、これ以上ほっとくわけには……!
くそっ……! どうすりゃいいんだっ……!?
『ぱぱぱぱーん!』
……不意に、聞き覚えのない女の歌声が飛び込んでくる。
メインモニターで確認すると、地平線の向こうから聖ローの戦闘馬車軍団が砂煙をあげてこちらに向かってきていた。
『ぱぱぱぱーん! ぱぱぱぱーん! ぱぱぱぱん、ぱぱぱぱん、ぱぱぱぱん、ぱぱぱぱんっ!』
ヤツらが揃って口ずさんでいる曲……『結婚行進曲』か?
5台並走しているチャリオンの真ん中には、白いヴェールを被っているグラッドディエイターが。
浮かんでいるフェイスには、お揃いの純白に身をまとう少女が、はにかみながら映っていた。
……アイツ、誰だっけ……?
えーっと、たしか……そうだ! 聖ローのキャプテンのお嬢様じゃねぇか!
名前は……ララロット?
いや違うな……そうだ、ルルロットだ!
でも今はそんなことを気にしてる場合じぇねぇ!
俺は迎え撃つようにチャリオン軍団に全力疾走をかます。
近づくと、お嬢様はモジモジしながら降りてきて、
『ボーンデッド様……お待たせしたのです。ルルロットは今日から、ボーンデッド様の……ああっ、どへいくのですっ!?』
なにかゴチャゴチャ言っていたが、もうそれどころじゃなかった。
『カリル ゾ』
俺はいちおう断ってから馬車に乗り込み、花嫁の愛馬であるパンチョパンチョに鞭を打った。
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