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ゲーマーおっさん、ゴーレムに引きこもる  作者: 佐藤謙羊
女子高対抗メルカバトル編
45/78

45 ボーンデッド、三回戦に挑む

 雷鳴のような音が薄曇りの空にばら撒かれ、戦いの幕が切って落とされた事をこれでもかと知らしめてくれる。

 見えもしねぇ花火をこんな朝早くに打ち上げるなんざ……近所迷惑なこった。


 同時に、低血圧の俺とは別世界にいそうなハイテンションの声が飛び込んでくる。



『さあっ! 第3回戦、母大と聖ローの試合が、今はじまりましたっ! 今試合の注目は、やはり母大の白いゴーレム! えーっと、情報によりますと、「ボーンデッド」という機体名だそうです! 視聴者の方々からも多くの問い合わせを頂いておりますので、この試合は謎のゴーレム、「ボーンデッド」を中心に解説してまいりたいと思います!』



 コクピットの魔送モニターには、森に囲まれた小さな草原に立つ(ボーンデッド)の空撮映像が映し出されている。


 今までも何度かこんな扱いを受けたことはあったが、今回はマークするみたいにピッタリカメラが張りついてやがる。


 言いようのないやりにくさを感じていると……俺の目前にいたカリーフとラビアが大慌てで叫んだ。



『わわっ!? 始まっちゃったよ!? どうしよう! どうしようっ!? 作戦、なにも考えてないよっ!?』



『おい、どーすんだよ、ボーンデッド!?』



 俺の中にはもう、新たな作戦ができあがっている。

 俺にとって悩むべきことは、彼女らの力を引き出して勝たせるにはどうしたらいいか、という一点のみだった。


 だが今回はそれをやめ、全力モードに切り替えた。

 勝つことだけを考えるのであれば、俺にとっては息を吸うのも同然……状況を取り込んだ頭の中では、自然とすべきことが浮かんでいる。


 あとはそれを、息を吐くようにこなしていけばいいだけだ。


 俺は部員たちに指示を出す。

 サイラ、ラビア、シターは俺に帯同、カリーフはここに残って木登りの練習。



『ええっ、またあたしだけ、練習なんですかぁ……!?』



 カリーフは泣きそうになっていたが、今は言い聞かせる時間も惜しい。

 『イイカラ ヤレ』とだけ命令して、俺たちはヤツをひとり残してスタート地点から出発する。


 今回のフィールドは、今までとうってかわって長距離(ロングレンジ)

 ゴルフ場のような広い敷地内で、敵がいかに作戦展開をするかを予測し、優位な状態で交戦に持ち込むかが鍵となる。


 この『女子高対抗メルカバトル』のメルカヴァは、俺が見たかぎりでは大半が近距離戦闘に特化した兵装となっている。

 一部、魔法やクロスボウなどによる中距離攻撃の手段を持つものがいるが、それでもあくまで有視界戦闘を行うためのもの。


 その点において、ボーンデッドは大きく異なる。

 コイツは全距離(オールレンジ)に対応したロボット兵器。


 格闘戦や銃撃戦だけでなく、不可視の戦闘……長距離のミサイル戦や、索敵戦においても圧倒的な力を持っているんだ……!


 今も、コクピット内に表示されているレーダーモニターが、聖ローのヤツらの動きを逐一正確に教えてくれている。


 さらに魔送モニターでは、



『ボーンデッドはカリーフ機を残し、4機で固まっての行動! かたや聖ローは、1機ずつ距離をとっての展開をしています!』



 視聴者に戦況を伝えるためか、バトルフィールドの地図に全メルカヴァをリアルタイムで配置したものを映し出している。

 しかも、わかりやすい実況つき。


 当然ではあるが、参加選手にはこれらの情報は与えられていない。

 メルカヴァには魔送受信機能もレーダーもないようだからな。


 だから、必死になって目視で相手を探さなきゃならねぇ……。

 しかし、俺はソイツらの位置が、手にとるようにわかる……。


 これはもはや、戦いでもなんでもねぇ……!

 足元に這いずるアリンコを、神のように翻弄する、一方的な行為……!


 ……といっても、いま俺が考えている作戦だと、ある程度は予測しなきゃいけないんだけどな。

 それについちゃ、世界チャンピオンの腕の見せ所なんだが……よし、ここらあたりでいいだろう。


 しばらく森を進軍し、草の濃いあぜ道に出たところで俺はシターに命令した。



『アナヲ ホレ』



『穴ぁ? 何だってこんな所に穴を掘るんだよ?』



『ボーンデッドは落とし穴を作ろうとしている』



 ラビアが口を挟んできたが、シターは察してくれたようだ。

 粛々と魔法を唱え、道の真ん中に大きな穴を開けてくれた。



『アナヲ カクセ』



 そして手分けして森の中から木の枝を引っ張ってきて、穴の上に張り巡らせる。

 さらに草を上からかぶせ、一見して落とし穴とわからないようにカモフラージュした。



『うわぁ、すごい! これ落とし穴ってぜんぜんわかんないよ! 知ってても落ちちゃうかも!?』



『そりゃサイラだけだろ! でも、さすがはシターだな! ダテにしょっちゅう落とし穴作ってるわけじゃねぇんだな!』



 落とし穴作りに関してはシターのセンスに助けられた。

 どうすれば自然に草が生えているように見えるか、こだわって配置してくれたんだ。


 ……そういえば、シター(コイツ)は生身でもメルカヴァでも、練習場に落とし穴を作ってイタズラしてたよな……。

 ウチの部員どころか、岩石乙女のヤツらも落ちているのを見かけたような気がする。


 しかし、穴を掘るのが好きだなんて……まるで犬だな。


 当のシターはなんとなく満足そうであったが、少し不満そうでもあった。



『落とし穴は、誰かが落ちて初めて意味をなす。誰も落ちなければ、ただの地面と変わらない』



 暗に、こんな所に落とし穴を作って聖ローのヤツらが落ちるのか、と批判しているようだ。


 俺がゲームで培ってきた行動パターン分析によると、必ず落ちる。

 しかしこれは言葉を尽くして説明できるものではないし、もとよりするつもりもない。



『オレヲ シンジロ』



 とだけ言うと、シターは『わかった』と頷いたあと、



『もし試合終了までに誰も落ちない穴が残ったら、ボーンデッドが責任を持って落ちて。それが、この作戦に協力する条件』



 よくわからん交換条件を出してきやがった。

 そしてなぜか、仲間たちもこぞって賛成してきやがった。



『あっ、それいいー! ボーンデッド監督が穴に落ちるとこ、見てみたーい!』



『俺も乗った! そういやシターのヤツ、ボーンデッドだけは落とし穴に引っかかったことがないって悔しがってたよな!』



 ……なんだ、シターのヤツ、俺を落とし穴に落とそうとしてたのか……。



『落ちた瞬間を撮影してコレクションしているが、まだボーンデッドのだけが撮れていない』



 いけしゃあしゃあと言ってのけるイタズラ小娘。


 でも、ま……いいだろう。

 それで素直に協力してくれるなら、賭けとしては安いもんだ。


 俺はシター(ソイツ)のマネをしたわけじゃないが、『ワカッタ』と頷き返してやった。


 ……そうして話がまとまったあと、俺たちはフィールドを縦断し、ぜんぶで4つの落とし穴を作り上げた。


 『もっとたくさん掘ったほうがいいんじゃ……』とサイラは言ったが、そうはしなかった。


 俺の読みが当たっていれば、ひとつの穴に一機、確実に落ちる……!


 そう確信していたからだ。

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