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ゲーマーおっさん、ゴーレムに引きこもる  作者: 佐藤謙羊
女子高対抗メルカバトル編
31/78

31 ボーンデッド、例のアレをやる

 岩石乙女高校の合宿所は、緑に囲まれた小高い丘の上にあった。


 俺が見てきた限りではあるが、この世界ってのは本当にどこも牧歌的だ。

 ファンタジーRPGで例えるなら『森・草原地方』といった風情。

 このディス・ベスタの国はゼムリエとかいう地の神が主神らしいから、そのせいで緑が多いのかもしれねぇな。


 それと魔送モニターのニュースで知ったんだが、この世界にはモンスターとかも存在しているらしい。

 魔法があるうえに、そんなのまでいるとなるとマジでファンタジーRPGみたいだよな。


 だが、俺はまだモンスターには会ったことがない。

 でもこの夢が覚める前に、一度くらいは見ておきたいと思っている。


 話を元に戻そう。

 岩石乙女の合宿所では、おそらく一年生らしい少女たちが大きな鍋でちゃんこを作っていた。


 まだ華奢な女の子たちが力をあわせ、(ボーンデッド)が使うようなおたまを使って鍋をかき回している。

 キャプテンであるブソンが帰ってきたことに気づくと、シャキッと整列して頭を下げていた。


 そして気になって仕方がないといった様子で、俺をチラチラ窺い見ている。

 ブソンは自分の手柄を誇るかのようにバッと手を掲げ、俺を示した。



「今日は客人を連れてきたぞ! ボーンデッド殿だ! 未来の岩石乙女の監督となるお方だから、失礼のないようにな! 私の席の隣に、ボーンデッド殿用の席を用意するのだ!」



 「ご、ゴーレムの席ですか……?」と戸惑う一年生たち。

 まぁ、無理もない反応だろう。それにムチャ振りにも程がある。


 酔って深夜に帰宅した夫が、同僚ではなく動物園のゾウを連れてきたようなもんだからな。


 夫婦だったら離婚モノの案件だが、岩石乙女のメルカヴァ部は体育会系なのだろう。

 上級生の命令は絶対とばかりに、下級生たちは俺の席を確保するため右往左往する。


 岩石乙女の食事スペースは野外にあり、向かい合わせた長テーブルに椅子というスタイルなのだが、彼女たちは合宿所にある布団を持ち出して地面に敷くという荒技で、ゴーレム用ざぶとんを作り上げた。



「うぅむ、やや貧相な気もするが……まあいいだろう。ささっ、ボーンデッド殿、お当てになってください」



 うやうやしく上座を勧めてくるブソン。

 本来は彼女の席がある場所なのだが、今日は特別に横にずらしてある。


 ボーンデッドは立ったままでも別に疲れたりはしねぇんだが……まあせっかく作ってくれたんだから、座らせてもらうとするか。


 急造ざぶとんの上にあぐらをかくと、なぜか驚きの声があがった。



「ええっ……!? あ、あぐらをかいている……!?」



「あぐらをかけるメルカヴァなんて、まだないはずなのに……! なんでゴーレムが……!?」



「すごい……どういう骨格構造になってるの……!?」



 作業服の女の子たちがわらわらと集まってきて、ボーンデッドの股の中を覗き込みはじめる。


 ああ、メルカヴァはあぐらをかけないのか……まぁ、ゲームのほうでもできるヤツはほとんどいないけどな。

 ネタ動画を追求してる一部のヤツらが何回も挑戦して、奇跡の一回として成功する程度で、俺みたいに一発であぐらをかけるヤツはいない。


 整備員たちは白い股間を穴があくほど凝視していたのだが、ふと顔をあげてブソンに呼びかけた。



「……キャプテン! このゴーレム、分解してみていいですか!?」



「バカを言うなっ! どこの世界に客人をバラすやつがあるかっ!」



 どやしつけられ、名残惜しそうに去っていく岩石女子の整備員たち。


 ちなみにボーンデッドの機体は『モリオン』という極小のコンピューターの集合体だから、接合部やネジ止めなどは存在せず、工具などでは分解できない。

 コクピット内から操作しないかぎり、パーツは取り外せないようになっているんだ。


 その後、俺の隣にゲスト席が設けられ、そこに母大のメンバーが着いたところでようやく夕食とあいなった。


 キャプテンの合唱のあと、「いただきまーす!」と一斉に食べ始める少女たち。

 このへんは聖堂院とおんなじだな。


 今日のメニューは『岩石乙女スペシャルちゃんこ鍋』。

 付け合わせは、馬が食うのかって量の山盛りキャベツに、昔話とかによく出てくる山盛りごはん。


 せっかくだからと俺も食ってみたんだが、ちゃんこはちょっと微妙な味だった。

 具材が無造作にブチ込まれ、味噌だけで味付けされている。


 もうちょっと味付けに凝って、具材の切り方とかも工夫すれば、もっと美味しくなるのに……。

 まぁ、これだけの人数を賄うわけだから、そうも言ってられねぇのか……。


 しかし、量だけはやたらとある。

 正直、食い切れねぇほどに。


 これだけ食って、あの引き締まった身体つきなら……きっと練習も相当ハードなんだろうな。

 よく見ると、一年生はみんな普通の女の子らしい身体つきなんだが、学年があがるにつれガタイがよくなっている。


 俺はメシを食いながら彼女たちを見回していていたんだが、ふと気づいた。

 なぜかみんな食べる手を止め、コッチを見上げていることに。



「ご、ゴーレムがごはん、食べた……っていうか、丸呑みした……!?



「ええっ、ウソでしょ!? 口に入れただけでしょ!?」



「お供え物のつもりで出したのに、まさか食べちゃうなんて……!」



「す、すごい……! あぐらをかいて座るだけでなくて、食事までするゴーレムなんて……!」



「そんなの、世界じゅうさがしたってどこにもいませんっ……! ああっ、どんな構造になっているのか、ますます気になる……!」



 ゲスト席のヤツらはなぜか喜んでいる。



「あははははっ! すごーい! ボーンデッドさんもごはん食べるんだ!?」



「きっと俺たちが食ってるのを見て、自分も食べたくなったんだろうぜ! 人間のメシはうまいか!? ボーンデッド!?」



「メルカヴァって、水気に弱いはずですよね……? 汁物もありましたけど、大丈夫でしょうか……? ボーンデッドさん、お腹壊すんじゃ……?」



「ゴーレムはメルカヴァと同じ、『ミンツ』と呼ばれる魔法水晶によって動く。人間と同じく食べ物で稼働するゴーレムは存在しないので、口に入れただけと思われる。ただ、内部は間違いなく錆びる」



 俺のメシひとつでいろんな感想や憶測が飛び交っていたが、ブソンが全部まとめて豪快に笑い飛ばした。



「ハハハハハハ! 当然だろう、ボーンデッド殿ほどのゴーレムともなると、我々と同じく食事をエネルギーにすることができるのだ! さぁさぁ、どんどん召し上がってください! おかわりはまだまだいっぱいありますから! おい、ボーンデッド殿におかわりをお持ちしろ!」



 俺の前にもう一人前運ばれてきたが、正直もうたくさんだった。


 だって、味がイマイチ。

 母大のメンバーはみな喜んで食べているようだが、岩石乙女のメンバーの顔色はさえない。


 ブソンにどやされるのが怖くて、仕方なしに食べているといったカンジだ。

 テーブルの隅にいる一年生たちがひそひそ話をしていたので、『集音』スキルで聞き耳をたててみた。



「うぅ……ちゃんこ、もう飽きちゃった……」



「最初はよかったんだけど、こう毎日ともなると、ねぇ……」



「でも、残すとキャプテンに怒られるし……」



「そうだね、それに食べないと強くなれないから……がんばって食べようよ!」



 一年生たちはお互いを励まし合うようにして、ガツガツと食らいはじめる。


 ……あーあ、あれじゃ食ってても楽しくねぇだろうに……。


 アスリートは身体づくりのために、毎日けっこうな量のメシを食べなくちゃならなくて、それがトレーニングよりも辛いって話はよく聞くが……。


 でも話からするに、どうやら食べることが苦痛というよりも、食事メニューに変化がないことに対する不満のようだ。


 ……そういうことなら、なんとかしてやれるかもしれねぇな。


 よし、お呼ばれしたお礼だ。

 こっちからもとっておきの鍋を、お返しするとしようか……!

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