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ゲーマーおっさん、ゴーレムに引きこもる  作者: 佐藤謙羊
女子高対抗メルカバトル編
29/78

29 ボーンデッド、初めての魔法

 『母なる大地学園』対『岩石乙女』の4対4の練習試合。

 広い草原の中で一列に並び、向かい合ったあと互いに礼をしている。


 俺はそのかたわらで、『岩石乙女』のヤツら相手に組み手をしていた。


 ドドドドドと砂塵とともに突っ込んでくるどすこいメルカヴァを、俺は柔道の足払いのようにして軽く転がす。

 さすがに練習試合で破壊するのもアレだからな。


 それに岩石乙女は一軍のメンバーであっても倒せば起き上がれないから、戦闘不能にするにはこれでじゅうぶんなんだ。



『……いくぜぇぇぇぇーーーっ!』



 のっけからテンションを間違えたようなラビアの大声で、俺は向こうの試合が始まったことを知る。

 母大メルカヴァ部の部員たちが『おおーっ!』と元気に応じていた。



『ザールストレイク・ズラン・セイザー・ハル・ウェル・サーグトレイクス……! 我は(ふる)う、春嵐の砂塵っ! 舞い上がれっ、黄埃の大波イエローサンド・スプラッシュ……!』



 ラビアはわけのわからないことをのたまいながら、土俵入りで塩を撒くようにマニピュレーターを下から上に振り上げた。


 すると……信じられないことが起こったんだ……!



 ……ズバァァァッァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!



 ラビア機の足元から大量の砂が舞い上がり、大波のように高くうねる。



「……なんだっ!?」



 俺は自分の目が信じられなくて、思わずコクピットから立ちあがっちまった。



『よぉし、いくぞっ、カリーフっ!!』



『は、はいですぅ!』



 もうもうとあがる砂煙を突っ切って、敵陣に乗り込んでいくカリーフ機。

 おっかなびっくりだったのを、後ろからラビア機に押されて無理やり敵に向かわされていた。


 粉塵を突き破ったカリーフは、出会い頭の敵機体を無我夢中で抱きしめる。

 そして例のアレが、また始まった。



『ぐっ、グランファイル・グランソール・ラウラ・バール・グラインドス……! わわわ我は、堅靭(けんじん)なる(いわお)! ろっ、牢乎(ろうこ)としてすべてを繋ぎ止める者なりっ! 碧岩の万鈞ブルーストーン・グラビティ……!』



 ……ビキビキビキビキィッ……!



 震え声とともに、カリーフ機の装甲が岩肌のように変化。

 足は大地に根を張る大樹のように広がった。


 まるで埋まった石像のようになり、敵の動きを封じ込めたんだ……!



「す、すげえ……! いったい何がどうなってんだ!?」



 俺はシートがあることも忘れ、立ち尽くしていた。


 相手のどすこいメルカヴァはかなりパワーがあるはずなのに、それよりも非力そうな、いかにも量産型機っぽいメルカヴァで押さえ込むとは……!


 ラビアの砂の波もすごかったけど、これもすげぇじゃねぇか……!

 ゲームにはこんな兵装やスキル、なかったはずなのに……!


 そこまで思考して、俺はある結論に至った。


 もしかしてこれが、『魔法』ってヤツなのか……!?


 ブラックサンターのヤツらに『サンダーアーム』で電撃を食らわせたとき、ヤツらはたしかこう言っていた。



「そうだ、魔法なワケがねぇ! だって詠唱もなかったんだぞ!?」



 ってことは、この世界には『魔法』が存在していて……しかもそれは人間だけじゃなく、メルカヴァも使えるってことか……!


 今まではブラックサンターのナントカバンディット号しか知らなかったから、それが基準になっちまってたけど……もしかしてこの世界のメルカヴァって、相当すごいのか……!?


 『万年最下位』と呼ばれてたヤツらが、ここまでやるだなんて……!

 俺はこの世界に来てはじめて、カルチャーショックというものを感じていた。


 しかし……それもそこまでだった。



『おい、離せっ!』



『はっ、はひぃ! ごめんなさぁい!』



 カリーフは敵に怒鳴られただけで、あっさりと拘束していた手を離しちまったんだ。

 頼もしかった岩石の装甲もバラバラと剥がれ落ち、ラビア機と仲良く戦闘不能にさせられていた。


 母大の戦力は残り2体。

 迫り来る敵のメルカヴァたちを前に、彼女らがやっていたことといえば……。



『がんばれーっ! 立ってーっ! ラビアちゃん! カリーフちゃんっ!』



 リーダーであるはずのサイラは、地面を揺らす魔方陣の上で踊るばかり。

 シターに至ってはさらに意味不明で、魔法を使ってせっせと穴を掘っていた。


 そして当然のようにノックアウトされる。



「なにやってんだ、アイツら……」



 俺はやれやれとシートに腰を沈めた。



『ま、まいりましたぁーっ!!』



 そしてふたつの降参コールが同時にあがる。


 ひとつは我が部のサイラのもので、もうひとつは相手の部のブソンのもの。


 サイラたちの相手をしていたのは二軍だったんだが、俺の組み手の相手をしていたのはブソンら一軍。


 俺はサイラたちの戦いを観戦しながら組み手をやって、片手間に全滅させてやったってわけだ。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 ひととおりの合同練習が終わったあと、岩石乙女の部員たちがぞろぞろと俺の足元にやってきて、一斉にひれ伏した。

 そして先頭にいるブソンが、直訴するように叫ぶ。



「ボーンデッド殿、たのむ! 我が『岩石乙女高校』の監督になってはくれぬか!」



 隣で物珍しそうにしていたラビアが、さっそくチャチャを入れてきた。



「おいおい、ブソン、正気か? ボーンデッドはゴーレムなんだぞ?」



「ボーンデッド殿はたしかにゴーレムであるが、間違いなく最強のゴーレム……! 我ら一軍との組手で、誰も歯が立たぬどころか……赤子扱いだったのだからな!」



「ええっ!? ボーンデッドさんって、そんなに強かったの!?」



 素っ頓狂な声をあげるサイラ。



「しかも組手の最中、我々はボーンデッド殿の指導を受けたのだ。その的確さというのは、思わず膝を打つほどであった……!」



「ボーンデッドさんって、教えるのもお上手だったんですねぇ」



 おっとりした様子で俺を見上げるカリーフ。



「そう! 戦ってよし、指導してよし……! ああっ、私はいままで、誤解していた……! ゴーレムというのは、魂の入っていない人形だと思っていた……! 魂が入っていないからこそ、メルカヴァに劣るのだと……! しかし、間違いであった! ボーンデッド殿の熱血指導を受け、目が覚めた……! ボーンデッド殿は確かに無人のゴーレムである……! でも確かなる魂を私は感じたのだ……!」



 ブソンは額を地面にこすりつけ、祈願するように叫んだ。



「どうか、どうか、お願いします……! ボーンデッド殿……! 我らの監督になってくださいっ……!」



 後ろで伏していた部員たちが「おねがいしまーすっ!!」と後に続く。


 こうやって女子高生たちにお願いされるのは悪い気はしなかった。

 組み手をやって感じたんだが、どの子も一生懸命でいい子だったんだ。


 真面目だし、素直だし、やる気もあるし……正直、母大のヤツらよりもいいんじゃねぇか?


 なんてことを思っていたらシターがしずしずと歩み出てきて、俺とブソンの間に立った。

 土下座する相手チームのキャプテンを見下ろしながら、



「ボーンデッドはこちらの部の監督。ひとりの監督はひとつの学校しか受け持てない規定がある」



 なんか勝手なことをぬかしやがった。

 バッと飛び起きるブソン。



「ええっ!? ボーンデッド殿は選手ではなかったのか!? 選手であれば、我が部の監督を掛け持つのも問題はないだろう!?」



「ボーンデッドは選手兼監督。いわば『代打オレ』」



「そもそも監督は選手として出場できないだろう!」



「『女子高対抗メルカバトル』において、メルカヴァに乗って参加できるのは、出場校のメルカヴァ部に所属する部員のみという規定がある。顧問やOB、そして監督やコーチはメルカヴァには乗れないが、ゴーレムにはその規定は適用されない」



「うっ……! そ、そうかもしれぬが……!」



「いずれにせよ、ボーンデッドは『母なる大地学園』の監督兼選手のゴーレム。お引取りを」



「く……くぅぅぅ~っ! わ、わかった……い、今は引き下がろう……! そのかわり、約束してくれ……! 母大が途中敗退したら、ボーンデッド殿を監督としてこちらに譲ると……!」



「それは別にかまわない」



「よし、ならば、取引成立だな……!」



 がっしりと固い握手を交わすブソンとシター。


 ポカンとしているサイラやラビアやカリーフ、そして当人であるはずの俺をさしおいて、話はまとまってしまった。

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