27 ボーンデッド、観戦する
『ブラックサンター国立第三毒蜘蛛女子』の唯一のメルカヴァ、『ネフィラ・クラヴァータ』。
『ピック義賊』の猿のように素早いメルカヴァの追撃を受けようとしていた、その時……新たなるゴーレムが放たれたんだ……!
『スパイダー・ウェブ』と呼ばれるそのゴーレムは、ネフィラの本体からボトボトと産み落とされたあと、孵るように人の形をなす。
どいつもこいつも白いタイツを着ているかのように全身飾り気がなく、正面には蜘蛛の巣を模したボディアートが描かれている。
さっき『全弾発射』と宣言してかなりの数のウェブが出撃していったが、まさかまだ隠し持っていたとは……!
これにはさすがに相手の猿たちも、ずるい! を連発していた。
『ずるいずるいずるい! ずるいっぺよぉーっ! さっきおめぇ、「全弾発射」って言ったべぇーっ!?』
するとネフィラの上に浮かび上がっている、4つのフェイスのひとつが反応する。
女王のように真ん中に鎮座している少女が、カールさせた髪を優雅にかきあげながら言ったのだ。
『おめぇではありません……「ヴィスコリア」ですわ。このヴィスコリア、いつも全力でないと気が済みませんの。その気持を込めての「全弾発射」なのですわ』
『うぅ~っ! でもずるいっぺ! そんなにゴーレムを持ちこむだなんてぇ! 五十体……いや百体以上あるべよ!? そんなのずるいっぺ!』
『なにがずるいんですの? メルカヴァの参加は4体以内という制限がありますが、ゴーレムについての参加は無制限である……とルールにもキチンと記されておりますわよ?』
『でっ、でも……でもそれは常識の範囲でって意味だっぺ! 百体もゴーレムを持ち込むだなんて、非常識だべぇ!?』
『非常識、けっこうではありませんか。常識にとらわれぬ戦い方こそが、我らがブラ女……いいえ、ブラックサンターのやり方……。ブラ女の永世栄誉校長にして、我らが最高指導者のダッワーマ総帥もそうおっしゃられておりますわ』
……! ダッワーマ……!
やっぱり……ブラ女はブラックサンターの息がかかった学校だったのか……!
俺はコクピットの中でこの戦いを観戦していたが、いますぐ乱入してブッ潰してやりたい気持ちでいっぱいになった。
しかし、ぐっとこらえる。
モニターの向こうではすでに交戦が始まっていて、多勢に無勢。
ピック義賊のメルカヴァたちはブラ女のウェブに襲いかかられ、動きを封じられていた。
とうとう地面に押し倒され、大の字の形に固定されてしまう。
白いゴーレムから両手両足を押さえられ、もがいている様はまさに蜘蛛の糸に絡め取られた昆虫のようであった。
ネフィラはゆっくりと獲物に近くと、覆いかぶさるように見下ろす。
『勝負ありましたわね。降参するなら今のうちですわよ?』
まるでこうなるのが当たり前だったかのような口ぶりのヴィスコリア。
確かにもう勝負はついていたが、ピック義賊の少女たちは強気を崩さない。
『……まだ勝負はついてないっぺ! 逃げた一機が残っている以上、降参なんかするもんかぁ……! おめぇみたいな卑怯者には絶対負けないんだべぇ!』
『そのお仲間とやらも、いまごろはウェブに捕まっている頃でしょうね。でも、お気持ちはわかりましたわ。降参しないのであれば、こちらも容赦はいたしません……やっておしまいなさい』
ヴィスコリアは背後の仲間……いや部下のような少女たちに命令を下す。
「ははっ!」という返事とともに、ネフィラの脚が振り上げられた。
ネフィラ本体を支える8本の脚は、猫脚の家具のように優雅な見目。
それがバレエダンスのように、高く掲げられたのだ。
先端は毒牙のように、鋭く長い爪状となっていた。
それが斬首台の刃のごとく落下し、取り押さえられた猿の腕を貫く。
しかも、ウェブごと……!
長い脚が薙ぎ払われると、猿の腕と、その腕にしがみついていたウェブごと放り捨てられた。
主の手によってボディに大穴を開けられ、動かなくなったウェブ。
それでも腕をしっかりと抱えたまま、飽きて捨てられたとも知らない人形のように地面を転がった。
『な……なんてことをするだっ!? ゴーレムとはいえ、チームメンバーだっぺ……!?』
腕を奪われたメルカヴァのパイロットは、腕がなくなったことよりも相手がウェブをためらわず犠牲にしたことに怒りを感じているようだった。
しかし、お嬢様はあっさりと言ってのける。
『糸を大事にする蜘蛛が、どこにいまして?』
たて続けに二撃目が振り下ろされ、今度は残った腕と二体目のウェブがスクラップと化した。
『な、なにをしているだぁ!? いたぶるような真似してぇ……! やるならさっさとやっちまえばいいべぇーっ!』
『……なにって、手足をもいでいるんですわ。このヴィスコリア、幼い頃から昆虫の手足をもぐのが大好きでしたの』
サディスティックな笑みを浮かべながらの三撃目と四撃目。
両足をもぎ取られ、ピック義賊のリーダーのメルカヴァは胴体だけになってしまった。
『あらぁ、ダルマさんのようになってしまいましたわねぇ……昆虫であれば、このあとは胴体だけでもがく様を眺めるしか楽しみようがないのですが……。その点、メルカヴァはいいですわよねぇ……もうひと組、手足がありますもの』
ここからがメインディッシュだ、とばかりに恍惚とした表情を浮かべるヴィスコリア。
狂気を感じさせる視線と、ねっとりとした声が絡みつき……強気だったリーダーもさすがに怯えを隠せない。
『も、もうひとつの手足って、な……なんだべ……!?』
ヴィスコリアはぺろり、と唇を舐めた。
『そ・れ・は……パイロットの手足ですわぁ……!』
……ズドンッ!
胴体を、毒針が貫く。
『ぐううううっ……!?』
フェイスごしにリーダーは肩を押さえ、苦悶の表情を浮かべる。
『ぱ、パイロットへの、直接攻撃だなんてぇ……! る……ルール違反だべぇ!!』
『あらあらぁ、一撃で楽にしてさしあげたかったのに……誤ってパイロットを負傷させてしまいましたわぁ……! でも、まだ戦闘不能になっておりませんので、続けさせていただきますわねぇ……!』
わざとらしい声音とともに、二刺目が突き立てられる。
『ぎゃあっ!? う、腕がっ! 腕がぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!』
コクピット内でのたうちまわっているのか、フェイスが激しく揺れる。
何がおかしいのか、その様子を見てコロコロと笑うヴィスコリア。
『あらあらぁ、ごめんあそばせ……! またしても楽にしてさしあげられなかったようですわぁ……! 次こそは決めてさしあげますけど……あまり動かないほうがよろしいかもしれませんわよぉ? 誤って心臓を貫いてしまったら、いけませんもの……!』
リーダーの少女は、とうとう叫びだしてしまう。
『や……やめっ! もうやめるんだなやぁぁぁっ! こ、降参する……! 降参するからやめてくれだっぺぇぇぇぇぇぇっ……!』
しかしヴィスコリアは満面の笑みで、首をふるふると左右に振った。
『「女子高対抗野球」にコールド負けがないように……この大会にも、「降参」はルールとしてはありませんの……! 戦意を喪失すれば、ほぼ同じことが成立しますけれど……でもその場合、トドメの刺しかたは勝者の自由なのですわぁ……!』
『い……いやっいやっいやっ……いやあああっ! ひと思いに戦闘不能にさせてくれろぉ! お願いだから、お願いだから……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!』
『ああ……! まだ両脚が残っているのに、そんなに泣き叫んで……! もし両脚まで誤って貫いたとなると、あなたはどうなるのでしょうねぇ……!?』
……俺は、どアップになったお嬢様のサディスティックな笑顔めがけ、拳を突き立てていた。
許せねぇ、このアマ……! 絶対に許せねぇ……!
ブラックサンターとか、ランキング10位とか、もう、どうでもいい……!
コイツだけは俺の手で、絶対にブッ潰すっ……!
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