20 ボーンデッド、葛藤する
新連載、はじめました!
『…マジで消すよ? 俺の愧術がチートすぎて、クラスのヤツらを一方的に縛ったり消したりします!』
本作と同じ、スキルチートものです!
https://ncode.syosetu.com/n3047es/
※本作の最後に、小説へのリンクがあります。
……ドッ!
何の前触れもなく、空気が割れる。
それは傍目には異常気象、はたまた天変地異の前触れにしか見えなかっただろう。
なにせボーンデッドは棒立ちのまま。
一見なにもしていなかったからだ。
なにもない機体の胸から発生した、まさに神風のような突風。
それは鋭い渦を巻いて、数メートル先にいる人質の身体を激しく揺らす。
なにかのプロモーションビデオのように、長い髪とローブの裾をなびかせるルルニー。
次の瞬間、そのローブとお揃いの白い影が宙を舞った。
両手をはためかせるようにして大空を飛ぶ、その正体は……!?
鳥か、飛行機か……いやっ、聖堂院きっての切り込み隊長、ララニーだっ……!
その二つ名にふさわしい勢いで、ビューンと飛んでく爆弾娘。
ボスが「ああっ!?」と驚く頃には、ララニーの身体にガシッ! と抱きついていた。
マニュピレーターに挟まっているローブのフードをもぎ取ったあと、人質を救出したスーパーマンのように舞い上がるララニー。
ルルニーはいきなり氷のプールに突き落とされたかのような、心臓が止まりそうなほどの悲鳴をあげていた。
「はぁぁぁっ!? らっ……ララニーさんっ!?」
「へへーっ! ボーンデッドさんばかりにいい格好はさせられませんっ! チャッカリおこぼれをもらいに来ましたよっ! ルルニーさんっ!」
俺はコクピットの中で、大きくガッツポーズを取る。
よしっ! やった! ナイスだ! ララニーっ!
あとでご褒美にディープキスしてやっからな!
しかし、そうは問屋がおろさなかった。
「……にっ、逃がすかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
メルカヴァの巨体を翻し、追いすがるボス。
タッチの差で、ララニーの脚をわし掴みにする。
「し……しまった! ……み、みなさぁーん! 受け取ってくださぁーいっ!」
ララニーは尻尾を掴まれたトンボのようになりながら、最後の力を振り絞りようにしてルルニーの身体を放り投げた。
ちょうど下で待ち構えていた町のヤツらがルルニーの身体を受け止めると、救急隊員のような迅速さでその場を離れていく。
おそらくララニーが町のヤツらに事前に伝えていたんだろう。
もし自分が捕まった場合、ルルニーだけでも連れて逃げろと……!
俺がロケットパンチの構えを取ったのとほぼ同時に、ボスは逆さ吊りにしたララニーを突きつけてきた。
「……おおっと! 妙なマネすんじゃねぇって言っただろっ!? クソッ……テメェにやられた手下どもが言ってたことは、ウソじゃなかったんだな……! 風を起こして人間を飛ばしてくるだなんて、デタラメなことしやがって……!」
『フェイス』で浮かび上がっているボスは悔しそうに歯ぎしりをしていたが、すぐに元の余裕を取り戻す。
「しかし……残念だったなぁ! この俺様のほうが一枚上手だったようだ! しょせんはゴーレムの浅知恵……この俺様と、この『キング・バンディット号』の前にはなにをやっても無駄なんだよぉっ!」
錆びついた胸をドーンと張るボス。
「うおおおおーっ!」と歓声が沸き起こった。
「さすがお頭! さすが『キング・バンディット号』!」
「ジャイバンの数倍のパワーを持つ、キンバンの強さ、思い知ったかぁ!」
「俺たちゃどこまでもお頭についていきやすぜ!」
……俺は二重の意味で、頭を抱えていた。
まず、正々堂々戦ったならともかく、なんで人質救出を阻止しただけでここまで盛り上がれるのか……という不可解さ。
そして、最後の切り札がなくなっちまったことだ……!
『ウインドアーム』を警戒されたとなると、もう何もできねぇじゃねぇか……!
俺の苦悩を見透かすように、ボスは高笑いする。
「がぁーっはっはっはっはぁーっ! 勝負あったな! それとも俺様とやりあうか? こっちは一向にかまわんぞ! 俺は生身でもメルカヴァでも、殴り合いでは一度も負けたことはねぇからな! それに……いちど女をメリケンサックにしてみたかったところだ!」
……くそ……! 殴り合いであれば、テメーなんかワンパンに決まってんだろうが……!
それに、そんなに自信があるんだったら……ララニーをメリケンサックになんかするんじゃねぇよっ……!
しかし、ボスは正々堂々と戦う気は全くないようだった。
「さぁ、どうする、クソゴーレム!? このメスガキの命をかけて、俺様と殴り合うか……それとも、手を頭の後ろにやって、跪くか……! ふたつにひとつだ!」
俺は、怒りのあまり震えが止まらなかった。
ゲームでも、敗者のボーンデッドを捕らえて跪かせ、見せしめのように動画配信しながら処刑するヤツがいる。
俺は面倒くせぇからそんなことはしねぇし、やられたことも一度もねぇ……!
それどころか、負けて膝をついたことすらねぇんだ……!
世界チャンピオンの俺が、膝を折るのは……女の子を抱き上げるときだけ……!
それ以外は絶対にありえねぇ……! あっちゃならねぇんだ……!
……俺は、どうしても踏み切れずにいた。
ほんの数センチでいい。
生身の足に力を入れてペダルを踏み込むだけで、ボーンデッドはあっさりとしゃがみこむ。
ただ、それだけのこと。
しかし……それがどうしても、できなかった……!
「……ボーンデッドさん! あたしのことなら構いませんっ! ずばぁーんって、やっちゃってくださいっ!」
不意に、明るい声がする。
顔をあげてモニターを見ると、そこには……晴れやかな顔のララニーがいた。
「あたしのことなら心配いりません!
たとえメリケンサックになっても、たとえ身体がまっぷたつになっても、あたしなら大丈夫ですって!
ボーンデッドさんもそう思うでしょ?
たとえダメだったとしても、大丈夫ですって!
だって、ルルニーさんにはボーンデッドさんがいますし、ボーンデッドさんにはルルニーさんがいますからね!
ふたりはお似合いですよっ! ヒューヒュー!
あっ……あとこれだけは、言わせてください!
ルルニーさんって、ずるいんですよ!
ルルニーさんってば、引っ込み事案なクセに……いつもあたしが引っ張ってあげないと、人と話もできないクセに……でも、最後にはみんなルルニーさんのことが好きになるんですよ!?
聖堂院の子たちも、町の人たちも……そして、ボーンデッドさんもそう!
……だからたまに、意地悪なんかしちゃったりしてました!
あ、これはもうボーンデッドさんはご存知ですよね!?
それに……それにそれに……。
あたし、気づいちゃったんです!
ボーンデッドさんを好きなのと同じくらい、ルルニーさんのことが好きだったんだ、って!
意地悪しちゃったこともありますけど……やっぱりあたし、ルルニーさんが大好きみたいです!
おバカですねよね、あたし!
ルルニーさんが捕まるまで、こんな大事なことに気づかないだなんて……!
あたしは、心がきちゃない……! そして、おバカ……!
そしてあたしを含め、みんながルルニーさんのことが、大好き……!
もう、条件が揃っちゃってますよね!
ポーカーでいうなら、ロイヤルストレートフラッシュかってくらいに!
だからあたし、決めたんです!
ルルニーさんが幸せになるためなら、なんだってやるって!
ルルニーさんのことが大好きな、みなさんを助けるためだったら……笑って地獄でも行くって!
だから早く、やっちゃってください! ずばぁーんって!
さっきも言いましたけど、あたしなら大丈夫ですって! 気にすることはありませんっ!
さあっ……!
チャッカリと……決めちゃってくださぁーーーーーいっ!!」
いまの青空に負けないくらいの、澄んだ声がこだました。
……それは、初めてここで出会ったときのように、厳しかった。
……そしてそれは、あの時と同じように、俺を心ごと引っこ抜いた。
……コイツは……相変わらずだ。
人の気も知らずに、勝手に話をすすめやがる。
そしてどんなことがあっても、絶対に笑顔を絶やさねぇ……。
まるで太陽みてぇに、いつもみんなのために、さんさんと輝いてやがるんだ……!
自分の身を削っているのを悟らせねぇのも、太陽とおなじだ……!
それに……バカなのはお前じゃねぇ、俺のほうだったんだ……!
もう迷いはなかった。
俺はシートの足元にあるペダルをぐいと踏み込む。
同時に操縦桿で腕を操作して、手を後ろに組んだ。
ボーンデッドの頭が傾き、フロントカメラが捉えた立膝が見えた。
「ああっ!? いけませんっ、ボーンデッドさん! 悪者の要求に従うだなんて……! そんなことしちゃダメですっ!」
泣き叫ぶようなララニーの声を聞きながら、俺は思う。
……やれやれ、まさかこんなことで、自分の足を見るハメになるだなんてな……。
……。
足?
……そうか……俺にはまだ、足があったじゃねぇか……!
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