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10 ボーンデッド、再びあぜ道に立つ

 聖堂院の少女たちは、ボーンデッドの機体に泡踊り……じゃなかった全身を使って奉仕……じゃなかった、とにかく柔らかそうでツルツルしたところを使って洗ってくれたんだ。


 小さな手によってお湯がかけられ、泡が流される頃には、コクピット内にあるお湯は血の池地獄みたいになっていた。


 ちなみに今は機体を横倒しにしているが、コクピット内で溺れるということはない。


 これも『コクピット安定化』スキルのおかげ。

 機体が傾いても、コクピット内は水平に保たれるようになっているんだ。


 今の俺の状態……それは出前用バイクに載せられた激辛ラーメンの、スープに浸かっているネギのようなものだった。

 それも美少女の家に配達されているラーメン。ネギ嫌いとかいうオチはやめてくれよ。



「……はあい、ボーンデッドさん、チャッカリとキレイキレイになりましたぁーっ!!」



「わぁーいっ!! ボーンデッドさん、きれーいっ!!」



 バンザイして、子ウサギのようにピョンピョン跳ねて喜ぶ女の子たち。

 それは、ボーンデッドのまわりで天使たちがふわふわと浮かんでいるかのような光景だった。


 このままネロとパトラッシュのように、天に連れ去られたとしても文句はない。

 行き先が天国ではなく、途中で火山の火口に突き落とされたとしても……たぶん異存はない。


 だってそうだろう?


 彼女らは、さっき自分たちの身体をキレイにしたばかりだというのに、人間スポンジになったおかげで風呂に入る前より汚れちまってる。

 でもそんなことは気にもせず、(ボーンデッド)がキレイになったことを我が事のように喜んでくれてるんだぜ……!


 ああっ……なんていい子たちなんだろう……!

 外見だけじゃない、きっと心まで清らかなんだ……!


 俺は、例えようのないやさしさに包まれるのを感じていた。

 そして、



『ウレシイ アリガト』



 ここ何年も口に……いや、表していなかった感謝の意を表する。

 リアルでもゲームでも、感謝したことがなかったので……なんだかちょっと照れくさい。


 「ボーンデッドさんが喜んでくれたー! わーいわーい!」と場はさらに盛り上がる。


 俺は人知れず、後頭部をボリボリ掻いていた。



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 天使たちが二度目の洗いっこをしている間、俺はまたしても温泉から出て、獣道に立っていた。

 コクピット内にあるお湯を外に出すためだ。


 お湯が冷めたからじゃない.

 『バスユニット』はレベル2にすれば、追い焚き機能を付けられるからな。


 お湯が俺の鼻血で真っ赤になっちまって気持ち悪かったから、入れ替えたかったんだ。

 でもこんなお湯を排水したら、血を流す呪われた像みたいな見た目になっちまう。


 そんな刺激の強すぎるものを子供たちに見せるわけにはいかない。

 だからこうやって、人気のない所までやってきたんだ。


 ……ゴゴゴゴゴゴ。


 栓が抜けた風呂のように、水位がどんどん下がっていく。


 排水は、浄化されたあとボーンデッド内の給水タンクに貯められ、タンクがいっぱいになったあとは浄化されずにそのまま外へと捨てられる。


 普段は空気中の水分を自動的に取り入れ、ためているせいかタンクはいま満タンのようだ。

 足元に目を落とすと、ホカホカの血だまりが広がっていた。


 ちなみに、便器も兼用しているシートから出る俺の排泄物や、ダストシュートに入れられたゴミ……たとえば魚の骨などは、ボーンデッドを駆動させるためのエネルギーとして残らず転化する。


 だから、外に捨てる必要はない。


 ついでに説明しておくと、ボーンデッドはパイロットが生きている限りは無限に動き続けることができる。


 太陽、風力、水力、駆動時の回生充電のほかに、パイロットの生体電流、体温、汗、ブドウ糖、残飯、排泄物……ありとあらゆるものをエネルギーに変えるからだ。


 排水が終わるまでヒマだったので、ボーンデッドのひみつをボンヤリと思い返していると……ふと、目の前にある茂みが揺れた。

 そして草木をかきわける音とともに、ぬうっと毛むくじゃらの顔が現れる。


 ……熊だ……!


 俺の身体に緊張が走ったが、熊さんはボーンデッドを目の当たりにするなり全身の毛を逆立てて逃げていった。


 そりゃそうか。

 血を流す巨大な像がいきなり目の前に現れちゃ、ビックリもするだろう。


 そして俺は連鎖的に、自分の任務を思い出す。


 そうだ……すっかり忘れてた……!

 ここに来たのは、聖堂院の子供たちのボディガードをするためだったんだ……!


 めくるめく肌色の世界につい我を忘れ、目的まで忘れちまってた。


 俺は手早くモニターを操作して、スキルウインドウを開く。


 アプリケーションの『地図』にスキルポイントを追加し、レベル3にした。

 『地図』はレベル3になると、レーダー機能が使えるようになるんだ。


 レベル3だと探索範囲はそれほど広くはないが、敵地への潜入とかをやってるわけじゃないから大丈夫だろう。

 この世界に、音速で移動するような物体があれば話は別だが……。


 スキルウインドウを地図ウインドウに変え、さっそく周囲の状況を確認する。

 まわりは山のせいか、無数の反応があった。


 これじゃ何がなんだかわからねぇから、ソートして数を減らそう。


 『人間』または『人間に害をなす恐れのある動物』と、さらに『温泉に向かって移動している動体』……。


 よし、これでだいぶ数が減った。


 地図上には、個体を表すひとつの赤点がまばらに広がっている。

 そして少し離れた場所に……赤点がいくつも集まっているのを発見した。


 かなりの集団だ。しかもこちらに向かってきている。


 俺は、地図ウインドウを維持したまま隣にスキルウインドウを開く。

 マイクの『集音』スキルに、手持ちの3ポイントをすべて叩き込んだ。


 これは、遠距離の音を聞くことができるスキル。

 レベル2で音を拾う距離が指定でき、レベル3で雑音を自動的に消去して、指定した範囲内で発生した音だけをクリアに届けてくれるんだ。


 赤点の集団のまわりを指でなぞって範囲指定する。


 すると……間違ってボリューム最大にしちまったテレビのようなバカでかい音量で、悪夢の歌がコクピット内に轟いたんだ……!



 ♫ウィ ウォッシュ ユー ア メリ クリ○○ス!

 ♫ウィ ウォッシュ ユー ア メリ クリ○○ス!

 ♫ウィ ウォッシュ ユー ア メリ クリ○○ス!

 ♫ウィ ウォッシュ ユー ア メリ クリ○○ス アンハッピーニューヤー!



 こっ……この歌……!?

 たしか、『ブラックサンター』……!?


 俺はたまらず両手で耳を塞ぎ、足で計器の音量ダイヤルをつまんでボリュームを下げた。


 ふぅ……これでよし、っと……!

 舐めプのときに足で操作してたのが、こんな所で役に立とはな……!


 くそっ、まだ脳内で鳴ってやがる。

 インパクトだけは強いCMソングみてぇだ。


 『集音』スキルの設定で、歌を雑音として扱うよう指定する。

 再びボリュームを戻すと、しわがれた話し声が聞こえてきた。



「……本当に、聖堂院のガキどもが温泉にいんのかよ?」



「ああ、この前と同じで、町のヤツらが教えてくれたから間違いねぇ」



「ウソだったら、今後こそあの町をメチャクチャにしてやんねぇとなぁ」



「たぶんウソはつかねぇだろ。町を守るために、あのガキどもを差し出してきたんだからな」



「まどろっこしいなぁ、さっさと町を襲っちまえばいいじゃねぇか。メスガキなんて捕まえてどうすんだよ」



「ガキとはいえ女だ。それに女はガキであるほど価値が高い……なぜなら変態には金持ちが多いからな。売ればいい金になる」



「へへ、この前捕まえたガキどもは、乳臭かったけどべっぴんだったぜ! 数年たちゃ、むしゃぶりつきたくなるような女になるに違ぇねぇ!」



 その声に、俺は聞き覚えがあった。

 スピーカーごしでも、胸焼けがするほどのむさくるしい声……!


 間違いない、ルルニーをさらったキャラバンにいたヤツだ……!


 俺は耳を傾けたまま、オートパイロットを設定する。



「そりゃいいなぁ! そんなイイ女なんだったら、ちょっと味見したくなっちまうなぁ!」



「ああ、それに温泉ってこたぁ今ガキどもは素っ裸だ。多少チ○○が滑っちまったって、お頭も大目に見てくれるさ!」



 ボーンデッドにはデフォルトでストロングランゲージ……ようは放送禁止用語を自動的に消してくれる機能が備わっている。

 ゲームプレイ時にはまっさきに解除する、余計な機能だと思っていたのだが……まさか有り難く思う日が来るとは思わなかった。


 オッサンの淫語なんて、精神毒以外のなにものでもないからな。



「味見はいいけどよう、この前はしくじっちまったんだろ?」



「しくじったっつうか……ありゃ事故だな。ガキどもをさらうのは簡単だったんだが、連れ帰る途中で変なゴーレムに絡まれちまったんだ」



「ゴーレム? ゴーレムがこんなトコにいんのかよ? メルカヴァじゃなくてか?」



「ああ、ヌシのいねぇ野良ゴーレムだった。ソイツに襲いかかられちまったんだ」



「でも、ジャイアント・バンディット号も持ってってたんだろ? ブッ潰してやりゃよかったじゃねぇか」



「それがそのゴーレム、とんでもねぇ強さで……詠唱もナシで手から電撃魔法を出して、ジャイバンを一撃でバラバラにしやがったんだ。しかもその後、手まで飛ばしてきやがって……おかげで死にかけたぜ」



「ハハッ! 手を飛ばすなんて、おもしれぇゴーレムだな! でも、そういうワケか! 今日はジャイバンをこんなに持ち出してるのは!」



「ああ、そういうこった。こんだけジャイバンがありゃ、もしまたあのゴーレムが出ても大丈夫だろ」



「で、その手を飛ばすゴーレム、どんなナリしてやがんだ?」



「白くてキレイなんだが、なんか変わってんだよな。あんなのゴーレムどころか、メルカヴァでも見たことないぜ」



「なんだよそれ、どんなヤツが全然わかんねぇじゃねぇか」



『コンナ ダ』



 俺はそうメッセージを浮かび上がらせながら、茂みからゆっくりと歩み出る。

 馬車の列を遮るようにあぜ道に立ちふさがると、御者席でダベっていた蛮族どもが、



「で、出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」



 と腰を抜かしていた。



――――――――――――――――――――

●レベルアップしたスキル


 マイク

  Lv.00 ⇒ Lv.03 集音


 アプリケーション

  Lv.02 ⇒ Lv.03 地図

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