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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悠久の彫金師ー僕は君に恋をするー

作者: 未那

短編の為、いろいろ足りないし文章も酷いでしょうが楽しんで頂けたら幸いです。不快になった方はすまん。短編なので諦めてくれ。



ずらりと白銀色の騎士甲冑の兵士達が取り囲み一つの粗末な木製のテーブルと4脚の椅子に座る4人ーー取り分け僕に視線が注がれていた。黒い髪と瞳を持つ凡庸な・・・極めて普通と評する容姿ではある。僕の名前はレット。この森に囲まれて特に何もない街で木工細工で細々と生計を立てるまだまだ見習いの職人だ。



そんな僕であるのだが結婚を誓った二人の少女がいたのだ。 生計を立てられるならば貴族や騎士以外の平民でも重婚が認められるこの国であった為、幼い頃から「 大きくなったら結婚してね 」とか「大きくなったら兄さんのお嫁さんになる! 」と両手に花であったのだが三ヶ月程前に勇者がやって来て状況は変わっていった。



普通の布地のワンピースからどこか高級感漂う絹の裾が短い大胆なワンピースに変わると共に多くの装飾品に身を飾り始めた幼馴染と従兄妹は女の色気を振りまく様になっていった。



幼馴染の首筋に痣を付けて勇者に肩を抱かれて満更でもなさそうに歩いていたのを陰ながら見るしか出来なかったーーー。



我が家の自室から作業部屋に行けば作業部屋の中で濃厚なキスを交わす二人を見ているしか出来なかったーーー。



相手は勇者で、自身はしがない木工細工の職人だ。 寝取られる二人を、それでも信じて見守るしか出来なかった自身の落ち度だろう。



金髪に誰がどう見てもハンサムと評する勇者は真剣な表情ではあるが二人の腰に手を回し僕を睨むように見据えた。


「君のことは二人から聴いた。 将来を誓いあった事もーーー。でも、僕は彼女達を愛しているし、 彼女達も僕を愛してくれた。 だから二人と別れてくれないか? 」


「そんな! 何を勝手に言っているんですか! 僕は本気で二人を愛して・・・ずっと信じてー 」


「レット・・・、ごめんなさい。 でも、貴方との事は愛ではなかったの。 彼が勇者様が私に本当の愛を教えて下さったわ。 そして私も彼を愛しているの 」


「兄さん、 私も同じです。 兄さんとはきっと幼い頃のおままごと。 私も勇者様が大好きで離れる気はありません 」



「待ってよ、 二人とも! 僕は二人を本気でっ 」


思わず机を叩き立ち上がり身を乗り出すと頬に衝撃が走り僕は後ろの席を巻き込んで倒れた。勇者が拳を突き出したまま今にも殺さんばかりに睨み付けてきた。



「見苦しいよ、 君。 本当に二人の事を愛していたなら何故、キスをしていた時や街で見かけた時に声を掛けなかったんだ! 本当に愛しているのなら僕に殴り掛かるのが本当に二人を愛している証明になったじゃないか! それをしなかった時点で君は二人をーー愛してなどいなかったのだよ 」



そう言って自身の正当性を主張しー「まぁ、 邪魔してきたら殺すけど 」と小声で呟くのが辛うじて聞こえた。 そんな声を耳にしなかった二人は瞳を輝かせ勇者を見つめている。



とはいえ勇者の主張も最もだ。 どれだけ二人を愛していると言ったところで自身は逃げ腰になり二人を信じるという逃げに入ったのだ。 本当に愛しているのら命すら掛けるべきだったのだー例え勇者の凶刃に倒れたとしても。



勇者は皮の袋を取り出すとレットの胸に投げた。ちゃりんと音がし金色に輝く硬貨が床を転がり乾いた音を立てて倒れた。



「それは手切れ金だ。 二人の事は忘れたまえ、二人は勇者であるこの僕がどんな事があっても守ってみせる。 話しはそれだけだー、もう会う事もないだろうがもし二人に危害を加えるきならその時は本気で君を殺すからな。 じゃあな、間抜けなヘタレ 」



そう言って二人の尻に手をやりにやけながら兵士達を伴い酒場を後にして行った。




❇︎



酒ビンに直接口をつけ喉を焼く様な酒を嚥下する。別れ話しのあった酒場で一番強い酒を購入し我が家に戻って仕事道具を片手にレットは気が赴くままに街の近くにあった森の奥へ奥へと進んでいく。



魔物が出る事があるこの森に未だに魔物に出くわさないのは運がいいのか悪いのかわからないが・・・。



気が赴くままに森を歩き、時折木ノ実を食べたり泉で喉を潤し、夜は木に背中を預けて無防備な状態で眠った。



一体何日が経ったかは不明だがレットは鬱蒼とした森の中で目的の木を見つけた。



まるで悲鳴を上げるかの様に歪んだ黒に近い幹。のたうち回るかの様な枝の先には血の様な赤い葉がついていた。手にした鉈で枝を切りとばすと何処かからか悲鳴が聞こえた気がするが生憎とレットは酩酊状態だ。気にする事なく丁度良い太さを持つそれを20センチ程にし彫刻刀で刻んでいく。人知れず作業に没頭するレットの横顔は笑みの形に歪み邪悪そのもの時折「クッケケケ 」などと小声で笑っていた。



「術式付与ー呪い(大) 」



一つ彫る毎に自身の全てを注ぎこみ付与魔術を施していく。小気味よい木を削る音とレットの声が森に響く。 木工細工に付与魔術を施すことはなかったもののそれは幾重にも重なって最早周囲から獣やおろか魔物すら逃げだす呪具になっていた。 木を削り完成したそれは細部までこだわり作られた勇者の木人形だった。



カァーン コォォーン



月明かりの下で木の幹にレットは思うがままにハンマーを振り下ろす。木の幹には先程完成させた勇者人形に極太の釘が打ち込まれていく。

ハンマーを振り下ろすたびに周囲に不可視の波動が広がっているのだがレットには生憎と感じられない。狂気のままにハンマーを振り続けていると背後でガサリと音がした。




「御主か、森に呪いを振りまいているのはー。森も動物も怯えておる。 ーそれに、それ以上呪いを振り撒けば御主自身も死ぬ事になるぞ」



凛とした良く透る少女の声は耳から全身に広がりレットは漸く自身の狂気から正気に戻った。血にまみれたハンマーを落とし恐る恐る振り返った。



振り向けばそこには美しい少女がいた。



金色に輝くウェーブかかった長い髪にエメラルドの輝きを秘めた瞳。白い肌は艶やかで形の良い眉を寄せ怒っていますよという態だ。見た目だけで言えば13歳前後の未成熟な身体付きではあるが彼女の長く尖がった両耳は良く知る長命種の特徴である。



「ーーエルフ? 」


「如何にも。 とは言え儂はその上位たる存在。 エンシェントエルフじゃがな。 人の身には些末な事じゃな。余りにも其方が振り撒く呪いがあれでな、 エルフでは対応しかねるというエルフの長の命で儂が参った次第じゃ。 とりあえずその呪具始末してくれんかの? 儂にも結構キツイんじゃが 」



「えっ、あ! すみません。 今すぐ片付けます 」


自身の何気ない行動が周囲にかなり迷惑をかけていた様で慌ててレットは勇者人形と打ち付けた釘を抜こうして勇者人形の腕が取れた。



「あっ? 腕取れた。 えっと、どうしよ? 」


「ちょっ! 御主! 今変な気配が通り過ぎたぞ⁈ 頼むから落ち着いて作業してくれ」


「す、すみません! 」



少女の要請によりレットは甚だ心外だが勇者人形を丁重に処理する事になった。そわそわと落ち着かない様子の少女を伺いつつ何とか処理を終えたのは夜明けの空になった頃だった。



漸く人心地ついて少女から手渡された果実を頬張り腹を満たしていると少女は灰になった勇者人形を見た後レットの方を向いた。



「ところでじゃが、先程のあれは御主が作ったのかの? 随分と細工師としての技量といい付与魔術といいそこらの物とは一線を画す代物じゃった。呪具だったのがあれじゃが 」


「はい、僕が作りました・・・その節は迷惑をかけてしまってすみません 」


そう言って謝罪するレットに少女はふむと声を出しておとがいに手をやり暫く思案する。やらかした感が絶えないレットは恐縮したまま少女の沙汰を待っているとうんと一つ頷いて再びレットへ視線を戻す。



「御主の技量は勿体ないのー。一つ提案するが儂の下で彫金師として腕を磨いてみてはどうかの? 扱うのは主に金属じゃが御主であればすぐに身に付くじゃろうし付与魔術の腕も磨けより良いものを生み出すことができるじゃろう。住まいと生活に困らぬ給金は出すから儂の弟子にならぬか? 」



そう言ってニカリと笑う少女にレットは頷いて返すのが精一杯だった。



❇︎



エルフの里に入るに当たって一悶着あったもののレットはとりあえず里に入る事が出来た。 閉鎖的な集落だったので必要以外は外に出る事を禁止されて少女の下で彫金師として師事を受ける事になった。 その過程で漸く少女の名前を知る事が出来た。 彼女の名はアルシェラ。悠久の時を生きるエンシェントエルフの数少ない生き残りだそうで歳は笑顔で 「女の歳を聴くからにはそれなりの覚悟はあるのかの? 」というあの時の表情は今でも夢に見てはレットを悩ませている。



エルフの寿命が500年、ハイエルフが800年の歳月を生きる種族であるのは人間の街で暮らしていた時でも聞き及び特に気にも止めていなかったが時折見せるアルシェラの寂しげな表情に胸がチクリと痛む。



レットが集落にやって来て一年はアルシェラから教示される技術に必死で身に付けていき割と不安定だった付与魔術の習得に時間を費やした。一つ屋根の下に若い男女が暮らしている故に嬉し恥ずかしのイベントはあったものの恋仲に進展するには至らず師匠と弟子の立場でありその関係が自身には心地良かった。



二年目になれば彫金師としての技量を認められつつあり閉鎖的だった集落のエルフ達からも認められるようになり気のいい友人や客からも頻繁に声を掛けられるようになっていった。



レットが集落を訪れた二年目の冬。アルシェラはエルフの長の住む集落では一際目立つ木製の屋敷に招かれ囲炉裏の前に座って進められた茶を飲んでいた。彼女の前に座るのはエルフの長を務めるアンワンドだ。人からすれば40代から50代にしか見えない美形の男だ。最近、痩せているなと思うアルワンドの細い指が湯呑みを取り茶を飲むと深く息を吐いた。



「最近はあの少年も集落に馴染みつつあり、作られる装飾品もアルシェラ様に近付きつつありますな。アルシェラ様から見て彼はもう一端の職人ですかな? 」


「まだまだ見習いと言いたいところだが時折目を見張る物があるな。 あの子はいずれ儂にも及びもせね物を作るだろうさ。 最近では身につけた技能から時を測る道具作りも試行錯誤しながら始めているよ 」


「ほう、流石はアルシェラ様が認めた弟子ですな。いずれ私にも耳飾りを作って貰おうかな? 」


「うむ。 アルワンドの為に喜んでやつも作るだろうさ 」


ニカリと嬉しげに笑うアルシェラに満足そうに頷き返すアルワンド。 ハイエルフではあるが故にアルシェラを立てて振る舞う彼は湯呑みの中の茶に目を落とす。



「それは非常に楽しみです。 あぁ、完成が待ち遠ーグフッ 」


突如として咳込んだアルワンドは口元に手をやりそれを抑えようとした。血だった。赤い鮮血が指の間から滴り落ちグラリと彼の身体が揺らいだと思えば床にドサリと倒れ伏す。



「ッ⁉︎ おい! アルワンド? 大丈夫か、しっかりしろ! だ、誰か、誰かおらぬか! 」



ドタドタと廊下を走る足音と共にアルシェラは倒れ伏すアルワンドの身体を必死に揺すった。





突然の長老の訃報に集落が揺れた。雨の中の葬儀に集落に住むエルフ達が集い別れを惜しむ中にレットもいた。その隣にはずっと塞ぎこむアルシェラが顔を伏せ身体を震わせていた。家に戻ってからも碌に食事を摂らず声を掛けても返事すらないアルシェラに胸が痛みを覚えながらアルワンドの生前の希望だったミスリルの耳飾りを手にレットは参列の最後尾にいた。すすり泣く声は至るところからあがる中、順番が来た。二年という短い間だったが世話になった人だ。安らかに眠るようなその顔を見て今までの礼を言いつつ白い花とミスリルで作った耳飾りを棺に添える。隣を見れば震える手に花を持ったアルシェラが頬から大粒の涙を流しながら花を添えようとしてそれでも花を添えられず堪らなくなったのわき目も振らず走り出した。



「 アルシェラ⁈ 」



思わず声を掛けるも走り出したアルシェラは立ち止まる事なくその後を追うようにレットも思わず走り始めた。



追いかけた先はアルシェラの自宅だった。中からは軽い材質のものが割れるような音と鈍い破壊音が上がっていた。開きっぱなしのドアかり入れば割れたガラスや陶器の器と壊れた木製の机や椅子が辺りに散らばっていた。その只中に泣き腫らした目に大粒の涙を湛え肩を揺らしながら息をするアルシェラが立っていた。



「ずっとじゃ、ーもうずっと儂は見送る側じゃった。 愛しい人も、 愛しい我が子も、親しかった友も、儂に絡んではちょっかいを掛けてくる彼奴も、ー儂を置いて皆死んでしまった。 儂はいつまで、いつまで見送る側でいなければならないのじゃ! 」



アルシェラの口から愛した人と聞いてズキリと胸が痛んだ。彼女は悠久の時を過ごしてきたエンシェントエルフ。ずっと今まで一人という事は無かった筈だ。複雑な心境になるが今にも折れてしまいそうになっている彼女を支えたいと心の底から思った。



ーあぁ、僕はずっと君に出会ってから恋をしていたんだ



「僕が側にいる! 僕はずっとアルシェラの事がーー 」


「ハッ! 何を血迷っておるんじゃ! 御主は所詮短命な種族の人間じゃ! エルフやハイエルフですら出来ない事をぬかすな!まだ20にも満たぬ小童が! あと40もすれば御主は儂より先に逝く。 そして御主を見送れと? そんなのは御免じゃ! 御主の顔ももう見とうない‼︎ 出て行け、 ここから出て行くのじゃ! 」



自身の告白を遮りアルシェラは威嚇するかのようにまくし立てる。



そうだった。僕は人間で彼女はエルフ。 種族の違い故に生きられる時間も、 触れ合える時でさえも彼女にしてみれば僅かな時間。人間である自分達に出来る事は存在が噂される寿命を延ばす秘薬や魔道具だろう。 自身の寿命は何もしなければ後4〜50年でこの世を去ることになるだろう。 だからといってはいそうですかなどともう言いたくはない。



ー不老不死の秘薬も魔道具も無いのならば、自分の手で、自身の全てを掛けて成し遂げよう。



床に落ちた長く美しい金の髪を手の平に抑え決意を込めて彼女ーアルシェラを見つめた。



「確かに人間はエルフよりも生きられない。ーーーそれでも僕は諦めない! だから、 その時言うよ『君を愛してる』ってだから待ってて、 待たなくていいから待っててアルシェラ 」


真摯にそれだけを告げて愛しい人に背を向けた。



レットはアルシェラに背を向けると走った。そうしないといつまでも別れられそうになかったからだ。

ただ、アルシェラと話していてそれは天啓のように浮かび上がった。まだ朧気なちぐはぐな設計図。まずは馴染みの錬金術師のエルフの家にレットは掛け込んだ。 鬼気迫るレットに押されながらも馴染みの女主人は白い紙を引っ張り出して広げた。「 必要なものがあれば用意したげる 」とニヤニヤ笑いながら彼女は言ってくれたので甘える事にする。



「えっとまずは千年煌石、ミスリル、オリハルコン、神霊鉱石にエンシェントドラゴンの竜石、後はーー他にもまだ沢山」


と言いつつ必死に設計図を書いていく。必要な素材を上げるたびに朧気だったものが輪郭がくっきりと見えつつあった。


「ちょっ⁈ アンタ、それだけの素材を用意する何て幾ら掛かると思っているの! 一生かかっても無理よ! 」


「無理じゃないよ、 それに何年も掛けてアルシェラを待たせたくない。 僕はやるよ 」



完成した図面を見つめ決意を滾らせるレットに女店主は図面を見て唸る。見た目は懐中時計だ。緻密にして複雑なそれはところどころ省略しているが満足いく性能が得られるとは到底思えない物だ。とは言えただ紙に墨で描いただけの設計図にすらこもった魔力は有無を言わせぬ何かがあった。





「ーまさか、何気なく拾ったアルシェラの髪も必要だったとはね 」


手の平に収まった懐中時計を見つめレットは自嘲する。 素材集めに時間は掛かり幾度も思考錯誤をしながらも漸く完成の一歩手前にたどり着いた。



アルシェラと出会って5年。20になったレットは顎の髭を撫でた。自身の事に気をやれず身嗜みは最低限しか出来ていなかった為、髭を撫でるのが癖になってしまった。


ゆっくりと視線を上げれば空を突き破らんばかりの世界樹。エルフの里よりもっと深く森を辿った先にそれはあった。澄んだ神聖な空気が周囲を包み先程まであった疲労と傷も癒えた。最後の仕上げはここでしか出来ない。世界樹の下にある泉を見つけ喉の渇きを潤す。深く深く呼吸をして眼前に聳える大樹を見つめる。


「力を借りるぞ、ユグドラシル 」


泉に入り手の平に収めた懐中時計を水中に沈める。目を閉じて自身の魔力だけでなく泉と世界樹からも吸い上げ集中していく。厳かに世界の全てに告げるように呪文を呟く。



「術式付与ーーー不老不死(神化)」



どれだけ性能が良くてもそのままでは壊れてしまったり定期的なメンテナンスが必要な魔道具になるだろう。 そのままでは駄目だーー故に神器と呼ばれる領域に引っ張り上げる。誰かに奪われても駄目だ。自分自身の我儘を、願いをこの時の為に全てを費やそう。


「俺はアルシェラと生きたい! アルシェラとずっと側にいたい! 彼女と共に生きられる時間を! 俺の願いを叶えられる奇跡をここに! 」


ひとしきり叫ぶと両手を空に掲げた。意識が暗転しレットは泉に倒れる。最後に見えたのは黄金に輝く世界樹だった。



黄金に輝く世界樹はその枝葉が伸びる範囲を超えて膨大な魔力を空へと登る。どこか神聖な暖かいその波動はレットと別れてから何かと一人にしない様に気を配っていた錬金術師の女主人とその隣で顔を伏せていたアルシェラにも届き顔を上げて遠くからでも見えた黄金に輝く光の柱を見つけてしまった。


「ーーハッ、レットの坊や、本気でやりやがった。本当にトチ狂った奴だわ 」


「ちょっと待て! 今、レットと言ったか? 何故彼奴が出てー」


「あー、もう分かるだろ? アンタの為さ、まぁ、取り敢えず迎えに行ってこい。 出会った時みたいにさ。 アル婆様 」


してやったりという笑みを浮かべる彼女を睨みつつアルシェラは集落を駆け出した。





枝から枝へ飛び移るように駆けながら漸く世界樹の麓まで辿りついたアルシェラの目に飛び込んで来たのは泉に浮かぶレットだった。


「 レット‼︎ 」


まるでアルシェラの到着を待ち続けていたかの様に宙に浮いていた懐中時計は輝きを弱めレットの胸元に落ちる。どうやらレットが溺れない様にしていた様だ。濡れる事も構わず泉に入りレットの身体を水辺に引き上げる。漸く落ち付いたところで胸元にある不可思議な時計を見つめた。きっと彼が全てを賭けて作った自身と共に生きる為の魔道具だ。 もし、レットが失敗していたらまた出来るまで諦めずに作り続けるだろう。 そして成功していたならば人としての生命を放棄することになる。 誰もが不老不死を求めて刺客が襲って来るかもしれない。 不安に押し潰れそうになる中、覚悟を決めてそれを見つめ


「ーアイテム鑑定」



アイテム名:悠久時計

ランク:S S S(神器級装飾品)

所有者:レット

説明:少年レットが愛するアルシェラと同じ時を生きる為に作り上げた魔道具。

効果:不老不死、状態異常無効、子宝(子供もエンシェントエルフになる確率100%)

補足効果:破壊不可、装備解除不可、鑑定不可(ただしアルシェラは除く)、所有者権限


追記:これが完成したのはもうこれ以上無茶をして世界に悪影響を及ぼして欲しくないからです! 少しは自重して下さい!! アルシェラさんもちゃんと手綱握ってて下さいよ! お願いしますね!


「ブフッ」


破格の性能に吹いた。てか、どこかの誰かが自重しろと仰っていられる。


「何というものを作ったのじゃ、レットめ」


そう言って膝に乗せたレットの髪を梳くと呻き声を上げてレットは目を覚ます。


「ーー、アルシェラ? 」


「いつも御主は儂が見ておらんとやらかしおるな・・・少しは自重しろ、馬鹿 」


「ーーー人間、恋に落ちると大概の人はやらかすものだよ 」


「御主の場合は度合いが過ぎとるがな 」


「あぁ、反省はしてるーーでも、後悔はしてない。 僕はアルシェラ悠久に君を愛す事を誓う。君が辛い時でも嬉しい時でもどんな時もー僕が側にいるよ 」


涙を零すアルシェラの頬をなで僕は愛を告白する。


「儂は我儘じゃぞ 」


「知ってる 」


「料理は御主より下手じゃぞ 」


「じゃあ、一緒に作ろうか 」


「嫉妬深いぞ 」


「僕もさ 」


「浮気は許さんぞ 」


「する気は無いけどーアルシェラにもされたくないから夜は頑張らないとね 」


「レット 」


「なんだい? 」


「儂はレットを愛しているー。ずっと側にいてくれるか? 」


アルシェラの告白にレットは優しくその身体を抱きしめる。


「うん、ずっと愛してる。 この世界の悠久の果てまで愛し合おう。 アルシェラ。 ずっと一緒だ 」


そう言って唇を重ねる。二人の身体が重なりあうのを光輝く世界樹が包んだ。





❇︎




「 ありがとうございます。義父さん!これで魔王と戦えます! 皆さんも武器や防具の作成ありがとうございます! 」


真新しい装備に身を包んだ少年が深く頭を下げて礼を言った。


エルフの里から久しぶりに出張ったレットは笑顔を浮かべて目の前の少年に目を向け握手を交わす。 手を壊れよと力を入れて。


「何やら不穏な響きがあった気がするけども、 アルティナに何かあったら困るしね。ハハハ 」


「もうお父さん! それ以上ユートを困らせると私でも怒るからね! 」


娘の剣幕に押されしょげるレットに武器や防具を作る際に助けあった鍛治師、縫製職人、錬金術師達が笑いあう。



アルシェラと結婚し20年の時が過ぎた。比較的に妊娠しにくいエルフであるが3人の子供にも恵まれた。外見上は10代後半にしか見えないレットである。目の前の少年はそれを誰にも告げる事も無くレットにとって気の許せる限りなく少ない友人にすら思っていた。


この少年と娘が恋仲だと知るまではー。


笑顔で腹の黒いやり取りを繰り広げる彼氏と父親に娘の堪忍袋が切れたようだ。 このやり取りは彼が魔王を討伐した後に繰り広げる事になるだろう。今代の勇者パーティーは前回の女だらけのパーティーと違って男女比は半々である。前回はお姫様まで参加していた為に規模や投資額も多かったようだが前回失敗したせいで大分支援も縮小したようだ。 取り敢えず娘が所属する勇者パーティーなのだ限りなく黒に近い自重をした装飾品を作成した時にはアルシェラに白い目を向けられてしまったが後悔はしていない。 装備を一新し気持ち新たに旅に出る彼らを見送りレットは軽く職人仲間に挨拶を交わして別れた。



街の中央通りを進んでいると20メートル先にアルシェラが立っていた。


「レットー! 」


「アルシェラ! 待たせてごめん。 でも、アルシェラも折角だからティナを見送れば良かったのに 」


「勇者の装備品にさりげなく不能を付与した御主のせいじゃからな⁈ どの面下げて会えと! 気まずくて顔も合わせられんわ! 」


「あー、忘れてた。 まぁ、帰ってきたら外せばいいか 」


「ティナが本気でキレる前にそれだけは外してやってくれ 」


そう言って脱力するアルシェラに取り敢えず笑って誤魔化す。取り敢えず彼らが戻るまで誰かに剣を習ってお話しに備えるとしよう。


「ーーーレット? え、もしかしてあのレット? 」


突然声を掛けられ其方を見れば檻に入った男女が見受けられた。40代前半の白髪混じり女性だった。見覚えがなく首を傾げていればその隣の女がこちらを見て驚いた顔をして檻の柵を掴んで声を荒げる。


「兄さん、助けて! 私達を此処から出して 」


「止めてくれ。 俺はあんたみたいな妹は知らんぞ 」


「ちょ、お願いよレット。どうして昔のままなのかは知らないけれど! 私達愛しあったわよね! 」


「あのな、僕は今も昔もアルシェラ一筋だ。 君達の言うレットさんとは別人じゃないかな? 」


それでも言い募ろうとした彼女達を商人風の男が檻を叩き叫ぶ。


「 静かにしやがれ! 犯罪者共が! すみません旦那、コイツら少しでも良い立場に居ようとこうやって声を掛けるんでさ。 買わないで下さいよ、コイツらはキッチリ罰を与えなきゃならないんですよ 」


「ん? 何かしたのか? 犯罪者って言ってたし 」


「コイツら元勇者パーティーなんですがね。 魔王討伐の時にコテンパンにやられてそれでも助かりたくて魔王に姫様を差し出して契約交わして逃げ帰っただけで無く盗みを働いて今迄逃げてた腰抜け野郎共でさ。ほらあの隅で蹲ってる左手が無いのが元勇者ですぜ 」


「全く、 姫様を差し出すなんて男の風上にも置けないな。 なぁ、アルシェラ? ん、どうしたそんな目で俺を見て 」


心底不思議になり首を傾げるレットを呆れた目でアルシェラは見てくる。自分の知ってる勇者パーティーでは無いだろう。彼等は今も変わらず築いたハーレムでよろしくやっているだろう。しかし、自分の知らないうちに酷い勇者が現れたものだ。


それじゃあ失礼しますと言って奴隷商は去っていく。


微妙な空気が漂うがアルシェラが気分を変えようと腕に手を絡める。



「久しぶりの人里じゃ、 美味いものを食べて街を楽しもうぞー愛しい旦那様 」


「そうだね。 取り敢えず美味しい物を食べて精を付けないとね。 行こうか愛しい僕のお嫁さん 」


これからもずっといろんな苦しい事や嬉しい事もあるだろう。それでも僕は悠久の時を君と共に。抱いた思いを胸に手を取り人間とエルフは真上に上がった太陽の下、街に繰り出すのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 裏切りビッチざまぁ♪ 勇者(笑)への呪い効いてたのねw [気になる点] レットのご両親どうなった? [一言] ユート:新勇者。不能効果の装備があるのでハーレム作れない。てゆーか作らない。…
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